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作者: タカば
流れ着いた場所(ガラル視点)
「お客さん、つきましたよ」

 御者に声をかけられて、私は顔をあげた。コキュートスを中心に広がるダンジョン街が見える。整備された王都とは違い、ダンジョン攻略をするならず者のために発展した街はどこもかしこも乱雑で適当で、景観に美しさのかけらもなかった。
 空気も埃だらけで生臭く、息をしているだけで吐き気がこみあげてくる。

「あとの客がつかえてるんでね、さっさと降りてくれませんか」

 返事をする間もなく、座席から放り出される。文句のひとつも言ってやろうと振り向いた目の前に、荷物がどさりと投げ落された。あわてて拾っている間に、馬車はどこかへと走り去る。

「……ちっ」

 この私になんて態度だ。
 鞄の中に、どれほど価値ある魔道具が入っていると思っているのか。お前の稼ぎ程度で弁償できるようなものじゃないんだぞ。
 悪態をつこうにも、相手はもう去ったあとだ。
 拳の振り下ろす先を見失った私は、諦めて鞄を抱え直した。

「何故、私がこんな目に」

 ダンジョン街で勇者パーティーを立て直せなどと。
 そんなものは暇な魔女連中に任せていればいいんだ。魔術協会長である私には、高度な魔術研究を遂行するという崇高な使命があるというのに。
 王国騎士の無能どもめ、よってたかって私を執務室から追い出して、無理矢理辞令を持たせて馬車に乗せやがった。
 何が自分の責任は自分で取れだ。
 この事態の責任をとるのは失敗した魔女どもだろうが。
 何故私が、連中のケツを拭いてやらねばならん。
 こうなったら仕方がない。自らバカ勇者どもを指導して、コキュートスを完全攻略させてやろう。ただ頭が足りないだけの連中だ、ちょっとひねってやればおとなしく従うだろう。コキュートスほどのダンジョンを制覇したとなれば、騎士連中も逆らうまい。

「まずは、なまけている勇者連中を探し出して……」

 ダンジョン街の奥を目指そうとした時だった。
 街を歩いていた連中が、突然どこかに向かって走り出した。

「おい、喧嘩だってよ!」
「勇者ヴィクトルが暴れてるって!」

 なに?
 いきなり何をやってるんだ、あいつは。
 あわてて人の集まっている方へと急ぐ。人垣をかきわけて、騒ぎの中心へとたどりついた私が見たのは、黒髪の青年に頭突きをくらわされて白目をむく、太った大男の姿だった。

「ちょっと、ヴィクトルしっかりしなさいよ!」

 仲間らしい女たちが介抱するが、勇者は一向に目をさまさない。あんまりな姿に驚いているうちに、頭突きをした黒髪の男は姿を消していた。
 何をやってるんだ、このバカは。
 私が魔術協会に戻るには、お前の力が必要なんだぞ? こんなところで、流れものに負けて醜態をさらすようなアホにダンジョン攻略ができるとは思えない。

「なんてことだ……」

 絶望に、思わずその場に膝をついてしまった。
 コレを叩き直して迷宮に向かわせるなど、どれだけ時間がかかるかわからない。その間に他のパーティーが攻略してしまったら、もう私に先はない。
 座り込んでいる私の肩に、誰かが手を置いた。

「だ、誰だ!」
「失礼、元魔術協会長、ガラル様とお見受けします」

 そこに立っていたのは、真っ白なローブを身にまとう武装神官だった。

「元をつけるな! 私はそんな辞令認めてないっ!」
「これは重ねて失礼いたしました。どうやら、お困りのようですね」
「……まあ、そうだな」
「聞けば、ガラル様は大変な実力者と伺っております。どうです? 私の仕える巫女姫様のパーティーにお力添えしていただけませんか」

 巫女姫の噂は聞いていた。
 当代一の神聖力を持つという小娘が率いるパーティーだ。

「それは……」

 この私が小娘の下につくなど……いや。
 小娘ならば、私が大人の男の力でわからせてやればよいのだ。下手に主導権を握ろうとする男どもより都合がいい。

「ぜひ、私の力をお役立てください」

 私たちはにっこりとお互いに微笑みあった。


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