勇者(笑)
「んだぁ……お前、エリスかよ」
半年ぶりに再会した勇者ヴィクトルは、出会いがしらに悪態をついてきた。私は言い返すことも忘れて、彼を食い入るように見つめてしまう。
だって。
だってヴィクトルは。
かつて私が育て上げた勇者は……!
「太った……?」
勇者は体に余計なものを、たっぷりと蓄えていた。
顔も体もむっちむちのぱいんぱいんである。
端正だった顔のパーツはすっかり肉に埋もれ、かつて筋肉で形作られていたシャープな体のラインは、ゆるんで丸くなっていた。
私の指摘に、勇者は顔を真っ赤にさせた。
「ふ、太ってねーし! ちょっと体が重いだけだし」
「重いとかそういうレベルじゃないでしょ。あーあーもう、無理矢理アーマーを着込んでるから、体に食い込んでるじゃない」
「これは、こういう着こなしなんですぅー!」
「じゃあ、ウェストの上に乗っかってる、この肉は何なのよ。ベルトの穴だって最大まで緩めてあるし! こんな装備の仕方してたら、かえって防御力が落ちるわよ」
「落ちてねえし!」
「どうせ肉と酒だけ食べて、ごろごろしてたんでしょ。一週間に一度は休肝日を作って、お肉と一緒に野菜もちゃんととらなきゃ……」
「うっせえええええ! お前はオカンかよ!」
「オカンレベルで口出ししたくなるくらい、不摂生なんでしょうが!」
こいつ本当に相変わらずだな!
「エリスは何を言ってるんだ?」
ずい、女傭兵ルビィが前に出た。
「ヴィクトルに変わったところなんて、ないだろう」
「まあちょっと体が重そうかなーとは思うけどねえ」
「言いがかりはやめなさいよね」
愛人三人は、不思議そうにい言い返してくる。
いやいやいや、あのむちむち具合は十キロ増えたとかそういうレベルじゃないから。どう見ても異常でしょ。
私が意見を求めてジオに顔を向けると、彼は私の意見を肯定するようにこくこくと頷いた。双子ドラゴンも一緒になってこくこく頷いている。かわいいな君たち。
半年ぶりに会った私が気づくのに、毎日一緒にいるあんたたちが……あー……毎日見てるからかなあ。
体重の増加は、一日二日で起きることじゃない。
ちょっとずつ太るヴィクトルを毎日見ていたからこそ、変化に気づけなかったのかも。
自分たちの生活を支えてる恋人兼リーダーが劣化してるなんて、認めたくないだろうし。
ここは一度、現実を見せたほうがいいかもしれない。
こんなデブ勇者と一緒にダンジョン攻略してたら、野垂れ死にしちゃいそうだし。
「ジオ、仮面を取って」
「エリス? しかしこれは」
「こんな大通りで、勇者パーティーに絡まれた時点で、私の正体は街中に知られちゃってるから、今更よ。どうせダンジョンに入ったら巫女姫とも正面対決しなくちゃだし」
「……エリスが、そう言うなら」
私の命令に従って、ジオが仮面に手をかける。
「ちょっと、不気味な男が仮面取ったからって何が……」
「え……」
「ウソ……!」
愛人たちは、ジオの顔に釘付けになった。
そこにあったのは、絶世の美貌だ。眼帯で左目を隠してはいるけど、長い睫毛に縁どられた大きな右目は綺麗なサファイアブルー。すっと通った形のいい鼻筋に、柔らかな唇。
そして何より、血色のいい顔に無駄な贅肉は1グラムも存在しない。
なにしろ毎日私が作った栄養バランス完璧のご飯を食べて、ドラゴンたちと運動してるからね!
イケメンは一日にしてならず!
生活習慣が美貌を維持するのだ!!!
「私の護衛、かっこいいでしょ」
「ま……まあ、悪くは、ないわね」
「さて、もう一度ヴィクトルを見てみようか」
私が促すと、愛人三人の視線が彼女たちの側に立つ勇者の顔に集まった。
「な……なんだよ……」
「えええええ……?!」
本物の美青年を見て、ヴィクトルを客観視できたせいだろう。彼女たちは改めて見た勇者の姿に、顔を歪めた。
特に反応が激しかったのが、ルビィだ。
「うわっ……私の勇者、太りすぎ……?」
口に手をあて、真っ青な顔で震えている。目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。
「ふ、太ってねえし!」
「……太った……めちゃくちゃ太った……」
ついにずしゃっと音を立てて、その場に膝をついてしまった。
そんなにショックだったんかい。
ルビィは、初めて自分を女扱いしてくれたヴィクトルに夢を見てるところがあったからなあ……でもかっこよくいてほしかったら、日々の不摂生は止めなきゃダメだと思うよ。
「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! 太ったとかなんだとか、どうでもいいんだよ!」
ヴィクトルが叫んだ。
そして、腰に下げていた剣に手をかける。
「俺は勇者だ! 強けりゃそれでいいんだよっ!」
半年ぶりに再会した勇者ヴィクトルは、出会いがしらに悪態をついてきた。私は言い返すことも忘れて、彼を食い入るように見つめてしまう。
だって。
だってヴィクトルは。
かつて私が育て上げた勇者は……!
「太った……?」
勇者は体に余計なものを、たっぷりと蓄えていた。
顔も体もむっちむちのぱいんぱいんである。
端正だった顔のパーツはすっかり肉に埋もれ、かつて筋肉で形作られていたシャープな体のラインは、ゆるんで丸くなっていた。
私の指摘に、勇者は顔を真っ赤にさせた。
「ふ、太ってねーし! ちょっと体が重いだけだし」
「重いとかそういうレベルじゃないでしょ。あーあーもう、無理矢理アーマーを着込んでるから、体に食い込んでるじゃない」
「これは、こういう着こなしなんですぅー!」
「じゃあ、ウェストの上に乗っかってる、この肉は何なのよ。ベルトの穴だって最大まで緩めてあるし! こんな装備の仕方してたら、かえって防御力が落ちるわよ」
「落ちてねえし!」
「どうせ肉と酒だけ食べて、ごろごろしてたんでしょ。一週間に一度は休肝日を作って、お肉と一緒に野菜もちゃんととらなきゃ……」
「うっせえええええ! お前はオカンかよ!」
「オカンレベルで口出ししたくなるくらい、不摂生なんでしょうが!」
こいつ本当に相変わらずだな!
「エリスは何を言ってるんだ?」
ずい、女傭兵ルビィが前に出た。
「ヴィクトルに変わったところなんて、ないだろう」
「まあちょっと体が重そうかなーとは思うけどねえ」
「言いがかりはやめなさいよね」
愛人三人は、不思議そうにい言い返してくる。
いやいやいや、あのむちむち具合は十キロ増えたとかそういうレベルじゃないから。どう見ても異常でしょ。
私が意見を求めてジオに顔を向けると、彼は私の意見を肯定するようにこくこくと頷いた。双子ドラゴンも一緒になってこくこく頷いている。かわいいな君たち。
半年ぶりに会った私が気づくのに、毎日一緒にいるあんたたちが……あー……毎日見てるからかなあ。
体重の増加は、一日二日で起きることじゃない。
ちょっとずつ太るヴィクトルを毎日見ていたからこそ、変化に気づけなかったのかも。
自分たちの生活を支えてる恋人兼リーダーが劣化してるなんて、認めたくないだろうし。
ここは一度、現実を見せたほうがいいかもしれない。
こんなデブ勇者と一緒にダンジョン攻略してたら、野垂れ死にしちゃいそうだし。
「ジオ、仮面を取って」
「エリス? しかしこれは」
「こんな大通りで、勇者パーティーに絡まれた時点で、私の正体は街中に知られちゃってるから、今更よ。どうせダンジョンに入ったら巫女姫とも正面対決しなくちゃだし」
「……エリスが、そう言うなら」
私の命令に従って、ジオが仮面に手をかける。
「ちょっと、不気味な男が仮面取ったからって何が……」
「え……」
「ウソ……!」
愛人たちは、ジオの顔に釘付けになった。
そこにあったのは、絶世の美貌だ。眼帯で左目を隠してはいるけど、長い睫毛に縁どられた大きな右目は綺麗なサファイアブルー。すっと通った形のいい鼻筋に、柔らかな唇。
そして何より、血色のいい顔に無駄な贅肉は1グラムも存在しない。
なにしろ毎日私が作った栄養バランス完璧のご飯を食べて、ドラゴンたちと運動してるからね!
イケメンは一日にしてならず!
生活習慣が美貌を維持するのだ!!!
「私の護衛、かっこいいでしょ」
「ま……まあ、悪くは、ないわね」
「さて、もう一度ヴィクトルを見てみようか」
私が促すと、愛人三人の視線が彼女たちの側に立つ勇者の顔に集まった。
「な……なんだよ……」
「えええええ……?!」
本物の美青年を見て、ヴィクトルを客観視できたせいだろう。彼女たちは改めて見た勇者の姿に、顔を歪めた。
特に反応が激しかったのが、ルビィだ。
「うわっ……私の勇者、太りすぎ……?」
口に手をあて、真っ青な顔で震えている。目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。
「ふ、太ってねえし!」
「……太った……めちゃくちゃ太った……」
ついにずしゃっと音を立てて、その場に膝をついてしまった。
そんなにショックだったんかい。
ルビィは、初めて自分を女扱いしてくれたヴィクトルに夢を見てるところがあったからなあ……でもかっこよくいてほしかったら、日々の不摂生は止めなきゃダメだと思うよ。
「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! 太ったとかなんだとか、どうでもいいんだよ!」
ヴィクトルが叫んだ。
そして、腰に下げていた剣に手をかける。
「俺は勇者だ! 強けりゃそれでいいんだよっ!」