勇者の三人の愛人たち
私を呼び止めたのは、じゃらじゃらといくつも魔道具を身に着けた女だった。体にため込んだ魔力のせいだろう、緑がかった黒髪に濃い緑の瞳。真っ赤な口紅を引いた唇が目をひく。
「ベリル」
私は彼女の名前を呼んだ。
間違いない、勇者ヴィクトルパーティーの呪術師ベリルだ。
「どうした?」
彼女の声を聞きつけて、建物の影から仲間がふたりやってきた。燃えるような赤毛の女傭兵ルビィと、プラチナブロンドの治療術師サフィーアだ。
彼女たちも私の姿を見つけて足を止める。
「あんた、こんなところで何やってるの?」
ベリルが代表して尋ねてきた。じろりとこちらを睨みつける、嫌そうに唇を歪めるオマケつきだ。
「ダンジョン攻略よ」
「は、そんな不気味な仮面男と犬を連れて潜るつもり? 自殺志願の間違いじゃないの」
「見た目は怪しいけど、頼りになるのよ」
「どうだか」
ふん、とベリルは鼻を鳴らす。
私は改めてかつての冒険の仲間を見た。彼女たちは相変わらずで……そして、私がいたころと少し違っていた。
私は思わず疑問を口にする。
「ねえベリル、その魔道具って私がパーティーを出てから買ったの?」
「な、なによ、どんな装備を使おうが、アンタに関係ないじゃない」
「そうなんだけどね? 右手につけてるのってアクアマリンよね? あなたの魔力特性と相性悪くない? それに、左手のオパールの魔道具と、ピアスに使ってるローズクォーツもお互いの特性が反発し合っちゃうし。かえって総合的な出力が下がらない?」
「なっ……」
「ルビィはちょっと痩せた? 目の下にクマができてるけど、ちゃんと眠れてる? あんまり常用するとよくないけど、一旦睡眠薬を使ってたっぷり寝るのも時には必要だと思うわよ」
「ね、寝てるっ、寝てるってば!」
「それに、サフィーア。ファンデーションを厚塗りしすぎてない? そこまで塗ったら、さすがに肌が不自然に見えるっていうか……あ……! ニキビ隠しに厚塗りするのは、逆効果だって前言ったじゃない。一度化粧を全部落として、しっかりと治療したほうがいいわよ」
「ちょ」
「それに肌質が悪いし……体も全体的にむくんで……」
そこまで見てから、サフィーアの下腹が不自然に膨らんでいることに気が付いた。この膨らみの原因は、おそらく。
「私の調合した整腸薬飲みなさい! 朝晩二回飲めば、お腹がスッキリするから!」
「余計なおせっかいよ!」
そう言いながらも、サフィーアは私の手から薬をひったくった。
ちょっとむっとするけど、同じ女性として、お通じが滞ってるのはちょっと見過ごせないし。あのニキビも、ビタミン不足と脂質の取り過ぎが原因だろう。
炭水化物ばっかり取って、野菜を一口も食べてなかったんだろうなあ。
「栄養剤もいる?」
「そこまではいらない!」
「冒険者は体が資本なんだから、ちゃんと体調管理しないとだめよ?」
「うるさい! アンタのそういう所が嫌いなのよ!」
ベリルが叫んだ。
何故。
ぽかんとしていると、私の隣でジオが噴き出した。
だから何故。
「くっ……ははは……俺は、エリスのそういう所、いいと思いますよ」
「笑いながら言われても、説得力ないわよ」
私の何が悪かったというのか。
意味がわからないでいると、建物の影からさらにもうひとりぶん、人影が現れた。
「お前ら、うるせぇぞ……!」
低い声は男性のものだ。
彼女たちがいるってことはそう、リーダーも近くにいるのが自然だ。
のっそりと勇者ヴィクトルが姿を現す。
久しぶりに彼を見て……私は言葉を失った。
「ベリル」
私は彼女の名前を呼んだ。
間違いない、勇者ヴィクトルパーティーの呪術師ベリルだ。
「どうした?」
彼女の声を聞きつけて、建物の影から仲間がふたりやってきた。燃えるような赤毛の女傭兵ルビィと、プラチナブロンドの治療術師サフィーアだ。
彼女たちも私の姿を見つけて足を止める。
「あんた、こんなところで何やってるの?」
ベリルが代表して尋ねてきた。じろりとこちらを睨みつける、嫌そうに唇を歪めるオマケつきだ。
「ダンジョン攻略よ」
「は、そんな不気味な仮面男と犬を連れて潜るつもり? 自殺志願の間違いじゃないの」
「見た目は怪しいけど、頼りになるのよ」
「どうだか」
ふん、とベリルは鼻を鳴らす。
私は改めてかつての冒険の仲間を見た。彼女たちは相変わらずで……そして、私がいたころと少し違っていた。
私は思わず疑問を口にする。
「ねえベリル、その魔道具って私がパーティーを出てから買ったの?」
「な、なによ、どんな装備を使おうが、アンタに関係ないじゃない」
「そうなんだけどね? 右手につけてるのってアクアマリンよね? あなたの魔力特性と相性悪くない? それに、左手のオパールの魔道具と、ピアスに使ってるローズクォーツもお互いの特性が反発し合っちゃうし。かえって総合的な出力が下がらない?」
「なっ……」
「ルビィはちょっと痩せた? 目の下にクマができてるけど、ちゃんと眠れてる? あんまり常用するとよくないけど、一旦睡眠薬を使ってたっぷり寝るのも時には必要だと思うわよ」
「ね、寝てるっ、寝てるってば!」
「それに、サフィーア。ファンデーションを厚塗りしすぎてない? そこまで塗ったら、さすがに肌が不自然に見えるっていうか……あ……! ニキビ隠しに厚塗りするのは、逆効果だって前言ったじゃない。一度化粧を全部落として、しっかりと治療したほうがいいわよ」
「ちょ」
「それに肌質が悪いし……体も全体的にむくんで……」
そこまで見てから、サフィーアの下腹が不自然に膨らんでいることに気が付いた。この膨らみの原因は、おそらく。
「私の調合した整腸薬飲みなさい! 朝晩二回飲めば、お腹がスッキリするから!」
「余計なおせっかいよ!」
そう言いながらも、サフィーアは私の手から薬をひったくった。
ちょっとむっとするけど、同じ女性として、お通じが滞ってるのはちょっと見過ごせないし。あのニキビも、ビタミン不足と脂質の取り過ぎが原因だろう。
炭水化物ばっかり取って、野菜を一口も食べてなかったんだろうなあ。
「栄養剤もいる?」
「そこまではいらない!」
「冒険者は体が資本なんだから、ちゃんと体調管理しないとだめよ?」
「うるさい! アンタのそういう所が嫌いなのよ!」
ベリルが叫んだ。
何故。
ぽかんとしていると、私の隣でジオが噴き出した。
だから何故。
「くっ……ははは……俺は、エリスのそういう所、いいと思いますよ」
「笑いながら言われても、説得力ないわよ」
私の何が悪かったというのか。
意味がわからないでいると、建物の影からさらにもうひとりぶん、人影が現れた。
「お前ら、うるせぇぞ……!」
低い声は男性のものだ。
彼女たちがいるってことはそう、リーダーも近くにいるのが自然だ。
のっそりと勇者ヴィクトルが姿を現す。
久しぶりに彼を見て……私は言葉を失った。