シナジー効果
結果的に、ジオの提案した分担作戦は大当たりだった。
「始めるわよ!」
両手に漆黒の剣を持つジオと、ナンテンに声をかけてから、私は地面いっぱいに広がる術式へと手を当てる。
「ホクシン、そっちお願い」
「はい、ママ」
隣に座るホクシンが、私と同じように前脚を術式にあてた。私たちは同時に魔力をこめて、魔法を発動する。産まれたばかりとはいえ、豊富な知識を持ち魔力にあふれるドラゴンは優秀な助手だった。魔力を得た術式が次々に光り始める。
すぐにマナが可視化され、辺りはオーロラのようにきらめく光で満たされた。
そのうち、コキュートスへと向かっていた光の束が、ぐらりとゆらぐ。
防壁に回す予定だった魔力も全て、マナ操作にあてているせいか変化が早い。光はゆっくりとほどけながら、こちらへと逆流してきた。
前回は卵のために自分の体でそのマナを受け止めていたけど、今回はその必要がない。そのまま大陸を巡る流れへと還していくだけの、簡単なお仕事だ。
さて、ここまではオッケー。
「……そろそろ、コキュートスが気づくころよ」
「そのようですね」
ジオが金の瞳で、ゆらぐレイラインの先を見据えた。
彼にはもう、こちらへ向かう悪意の存在が知覚できているんだろう。
「あいつは、俺たちにまかせてください」
「どうしても無理だったら、言ってね。防護壁の術式自体は残してあるから」
魔力さえ流せばすぐに展開できる仕組みだ。処理効率は落ちるけど、いつでも使える。
「ナンテンとパパだけでやれるもん!」
ぷう、とナンテンが頬を膨らませた。
しまった、言い方が悪かったか。
「ええと、ナンテンを信じてないわけじゃなくてね、これは念のためっていうか」
「俺たちを心配してくれているんでしょう? わかってますよ」
ジオがぽんとナンテンの頭を叩く。
「ナンテン、あいつを倒してママを安心させてあげよう」
「うんっ!」
待ちなさい、ジオ。
意図はわかるけど、あなたまで私をママ呼びするんじゃありません。
びっくりして手元が狂うでしょうが!
ごお、とコキュートスのほうから強い風がふいてきた。真っ黒な何かがこっちに向かってきている。
「いっくよー!」
ナンテンが元気よくブレスを吐く。さすがにスバルほどの威力はないけど、その輝く吐息はコキュートスの悪意を半減させた。
その横を漆黒の剣を持ったジオが走っていく。
悪意のすぐ目の前まで到達すると、地を蹴った。
「はあああっ!」
一撃、二撃。
両手の剣で交互に斬りつける。
形がないはずのソレは、ドラゴンの力で四つに切り裂かれた。
とどめとばかりに、ナンテンがもう一度ブレスを吐く。
あれほど恐ろし気だった悪意の塊は、あっさりと雲散霧消してしまった。
「ママ、こっちも!」
術式の制御をしていたナンテンが声をかけてくる。
コキュートスから逆流してきたマナは、そのほとんどが大地の流れに還っていた。あとは、再びあちらに流れないようにするだけ。
私は術式に魔力を込めると、マナの流れを整えた。
わずかなほころびすら残さず、新しいレイラインが完成する。
「術式……完了!」
私が宣言すると、その場にいた全員が大きく息を吐いた。
「やったー!」
ぼふ、とナンテンが私の胸に飛び込んでくる。
「ナンテンすごい? すごい?」
「うん、すごーくがんばったわね」
当然、頭をわしわしなでなでコースだ。その横に、ホクシンの黒い頭も突き出される。
「……僕は?」
「もちろん、ホクシンもがんばったわ。あなたのおかげでレイラインが変えられたんだから」
ふたりの頭を両手でいっぺんになでる。その手に、ジオの手が加わった。
「ふたりとも頑張ったな」
「パパもかっこよかったのー!」
ナンテンに促されて、一応ジオの頭もなでる。
こ、これは双子たちの教育のためだから!
他意はない! たぶん!
なですぎないよう、ジオの頭から早々に手を離す。すると、さら、と逆にジオの手が私の頭をなでてきた。
「え」
なんでこんなことされてるの。
固まってしまった私に、ジオが苦笑する。
「一番、がんばったのはエリスですから」
待って。
確かに私も仕事はしてたけど、これをやりたいって言い出したのは私で。
言い出したからには全力を尽くすのは当然の話だ。
がんばるがんばらないの話じゃない。
「それをがんばってる、って言うんです。エリスも、ほめられていいんですよ」
「え……」
理屈自体はわからなくもないけど。
がんばったらなでなで、の法則は私にまで適用されるんですか。
それを見たナンテンとホクシンが私にとびついてきた。
「ママすごーい!」
「がんばったね、ママ」
ドラゴンのもふもふ前脚で頭をなでられる。
子供が好き勝手もみくちゃにするから、魔女の大事な髪が乱れてくしゃくしゃだ。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
私はつくづくいい仲間を持ったらしい。
「始めるわよ!」
両手に漆黒の剣を持つジオと、ナンテンに声をかけてから、私は地面いっぱいに広がる術式へと手を当てる。
「ホクシン、そっちお願い」
「はい、ママ」
隣に座るホクシンが、私と同じように前脚を術式にあてた。私たちは同時に魔力をこめて、魔法を発動する。産まれたばかりとはいえ、豊富な知識を持ち魔力にあふれるドラゴンは優秀な助手だった。魔力を得た術式が次々に光り始める。
すぐにマナが可視化され、辺りはオーロラのようにきらめく光で満たされた。
そのうち、コキュートスへと向かっていた光の束が、ぐらりとゆらぐ。
防壁に回す予定だった魔力も全て、マナ操作にあてているせいか変化が早い。光はゆっくりとほどけながら、こちらへと逆流してきた。
前回は卵のために自分の体でそのマナを受け止めていたけど、今回はその必要がない。そのまま大陸を巡る流れへと還していくだけの、簡単なお仕事だ。
さて、ここまではオッケー。
「……そろそろ、コキュートスが気づくころよ」
「そのようですね」
ジオが金の瞳で、ゆらぐレイラインの先を見据えた。
彼にはもう、こちらへ向かう悪意の存在が知覚できているんだろう。
「あいつは、俺たちにまかせてください」
「どうしても無理だったら、言ってね。防護壁の術式自体は残してあるから」
魔力さえ流せばすぐに展開できる仕組みだ。処理効率は落ちるけど、いつでも使える。
「ナンテンとパパだけでやれるもん!」
ぷう、とナンテンが頬を膨らませた。
しまった、言い方が悪かったか。
「ええと、ナンテンを信じてないわけじゃなくてね、これは念のためっていうか」
「俺たちを心配してくれているんでしょう? わかってますよ」
ジオがぽんとナンテンの頭を叩く。
「ナンテン、あいつを倒してママを安心させてあげよう」
「うんっ!」
待ちなさい、ジオ。
意図はわかるけど、あなたまで私をママ呼びするんじゃありません。
びっくりして手元が狂うでしょうが!
ごお、とコキュートスのほうから強い風がふいてきた。真っ黒な何かがこっちに向かってきている。
「いっくよー!」
ナンテンが元気よくブレスを吐く。さすがにスバルほどの威力はないけど、その輝く吐息はコキュートスの悪意を半減させた。
その横を漆黒の剣を持ったジオが走っていく。
悪意のすぐ目の前まで到達すると、地を蹴った。
「はあああっ!」
一撃、二撃。
両手の剣で交互に斬りつける。
形がないはずのソレは、ドラゴンの力で四つに切り裂かれた。
とどめとばかりに、ナンテンがもう一度ブレスを吐く。
あれほど恐ろし気だった悪意の塊は、あっさりと雲散霧消してしまった。
「ママ、こっちも!」
術式の制御をしていたナンテンが声をかけてくる。
コキュートスから逆流してきたマナは、そのほとんどが大地の流れに還っていた。あとは、再びあちらに流れないようにするだけ。
私は術式に魔力を込めると、マナの流れを整えた。
わずかなほころびすら残さず、新しいレイラインが完成する。
「術式……完了!」
私が宣言すると、その場にいた全員が大きく息を吐いた。
「やったー!」
ぼふ、とナンテンが私の胸に飛び込んでくる。
「ナンテンすごい? すごい?」
「うん、すごーくがんばったわね」
当然、頭をわしわしなでなでコースだ。その横に、ホクシンの黒い頭も突き出される。
「……僕は?」
「もちろん、ホクシンもがんばったわ。あなたのおかげでレイラインが変えられたんだから」
ふたりの頭を両手でいっぺんになでる。その手に、ジオの手が加わった。
「ふたりとも頑張ったな」
「パパもかっこよかったのー!」
ナンテンに促されて、一応ジオの頭もなでる。
こ、これは双子たちの教育のためだから!
他意はない! たぶん!
なですぎないよう、ジオの頭から早々に手を離す。すると、さら、と逆にジオの手が私の頭をなでてきた。
「え」
なんでこんなことされてるの。
固まってしまった私に、ジオが苦笑する。
「一番、がんばったのはエリスですから」
待って。
確かに私も仕事はしてたけど、これをやりたいって言い出したのは私で。
言い出したからには全力を尽くすのは当然の話だ。
がんばるがんばらないの話じゃない。
「それをがんばってる、って言うんです。エリスも、ほめられていいんですよ」
「え……」
理屈自体はわからなくもないけど。
がんばったらなでなで、の法則は私にまで適用されるんですか。
それを見たナンテンとホクシンが私にとびついてきた。
「ママすごーい!」
「がんばったね、ママ」
ドラゴンのもふもふ前脚で頭をなでられる。
子供が好き勝手もみくちゃにするから、魔女の大事な髪が乱れてくしゃくしゃだ。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
私はつくづくいい仲間を持ったらしい。