黒歴史再び
「ジオ、なんだってこんなゴミ持ち歩いてるの!」
突然出て来た黒歴史レシピに、私は思わず悲鳴をあげてしまった。
「これはゴミではありません。れっきとしたエリスの業績です」
「流通しないレシピなんて、何の足しにもならないわよ」
「そうでもないかもしれませんよ?」
ジオは、にやりと笑った。そして思わせぶりな視線を、レオンに向ける。
「このレシピを、傭兵ギルドで認可できませんか」
「え……あー、『ギルド認可』の件か! お前は変なことばっかり覚えてるな」
「……?」
事態が見えない。
私はふたりの間に入っていけず、ただ困惑するばかりだ。
「何十年か前の話ですけどね、ダンジョン内のモンスター毒だとか、新しい流行り病だとか、緊急性の高い薬をいちいち魔術協会にお伺いたててたら間に合わないからって、傭兵ギルドで薬を開発・認可してた時期があったんですよ」
「ええ……」
そんな無茶な制度あったんだ。
まあ、あのお役所仕事な協会の認可を待ってたら、助かる命も助からないってのは、わかるけど。
「魔術協会所属の魔法使いがダンジョンに派遣されるようになって、傭兵ギルド側も新たな病や毒の可能性がある時は彼らを連れていくようになったので、使われなくなったんですが」
レオンもにやりと笑う。
「重要なのは、まだ制度が『生きてる』ってことです」
「つまり、このレシピを傭兵ギルドで認可できるん……ですか?」
私はぎゅっと両手を握り締めた。
まさか、そんなうまい話が転がってるわけが。
「できますね」
転がってるのか。本当に。
「俺自身は専門家じゃないから、間に商人と薬師をはさむことになりますが、逆に言えば彼らの協力さえ取り付ければ、問題はなくなります。やりましょう」
「い、いいんですか?」
ジオの家族とはいえ、ギルドマスターが太っ腹すぎる。
スキンヘッドのギルドマスターは、つるつるの頭をさすりながら、にやっと笑う。
「実は俺がギルマスになったのは、強さを認められてのことじゃないんですよ。メンバーのいざこざを仲裁していたら、いつのまにかマスターって呼ばれてたってクチでして。交渉事は俺が最も得意とする戦場ですから、任せてください」
マジか。
見た目から想像がつかなさすぎる。
それに、とレオンは笑う。
「ちらっと見ただけですが、この薬マルア草を使ってないでしょう? あの草、どこかの貴族が独占栽培してて、ちょくちょく価格高騰の原因になってたんです。いい機会ですから排除しましょう」
傭兵にとって、薬は命綱ですからねえ。と語るレオンの目は今までと打って変わって暗い色に染まっていた。何かよっぽど腹に据えかねることがあったらしい。
魔術協会長の義父、なにやった。
「ね、無駄じゃなかったでしょう?」
にこりとジオが私に微笑みかけた。
優しい色違いの瞳に見つめられて、私は言葉を失ってしまう。
私の努力が認められる。
私が作った薬が誰かの助けになる。
私自身、とっくの昔に諦めて、無駄なものだと決めつけていたのに。
この優しい青年は、知らない間に拾って大事にしてくれていた。
薬を作れば目障りだと言われ、パーティーを指導すればうっとおしいと言われて。誰かに大切にされることなんて、ないと思ってたのに。
評価される。
ただそれだけが嬉しくて、胸がいっぱいになる。
「……ありがとう」
感謝の気持ちは溢れるほどあるのに、結局私はその一言を口にするので精いっぱいだった。
突然出て来た黒歴史レシピに、私は思わず悲鳴をあげてしまった。
「これはゴミではありません。れっきとしたエリスの業績です」
「流通しないレシピなんて、何の足しにもならないわよ」
「そうでもないかもしれませんよ?」
ジオは、にやりと笑った。そして思わせぶりな視線を、レオンに向ける。
「このレシピを、傭兵ギルドで認可できませんか」
「え……あー、『ギルド認可』の件か! お前は変なことばっかり覚えてるな」
「……?」
事態が見えない。
私はふたりの間に入っていけず、ただ困惑するばかりだ。
「何十年か前の話ですけどね、ダンジョン内のモンスター毒だとか、新しい流行り病だとか、緊急性の高い薬をいちいち魔術協会にお伺いたててたら間に合わないからって、傭兵ギルドで薬を開発・認可してた時期があったんですよ」
「ええ……」
そんな無茶な制度あったんだ。
まあ、あのお役所仕事な協会の認可を待ってたら、助かる命も助からないってのは、わかるけど。
「魔術協会所属の魔法使いがダンジョンに派遣されるようになって、傭兵ギルド側も新たな病や毒の可能性がある時は彼らを連れていくようになったので、使われなくなったんですが」
レオンもにやりと笑う。
「重要なのは、まだ制度が『生きてる』ってことです」
「つまり、このレシピを傭兵ギルドで認可できるん……ですか?」
私はぎゅっと両手を握り締めた。
まさか、そんなうまい話が転がってるわけが。
「できますね」
転がってるのか。本当に。
「俺自身は専門家じゃないから、間に商人と薬師をはさむことになりますが、逆に言えば彼らの協力さえ取り付ければ、問題はなくなります。やりましょう」
「い、いいんですか?」
ジオの家族とはいえ、ギルドマスターが太っ腹すぎる。
スキンヘッドのギルドマスターは、つるつるの頭をさすりながら、にやっと笑う。
「実は俺がギルマスになったのは、強さを認められてのことじゃないんですよ。メンバーのいざこざを仲裁していたら、いつのまにかマスターって呼ばれてたってクチでして。交渉事は俺が最も得意とする戦場ですから、任せてください」
マジか。
見た目から想像がつかなさすぎる。
それに、とレオンは笑う。
「ちらっと見ただけですが、この薬マルア草を使ってないでしょう? あの草、どこかの貴族が独占栽培してて、ちょくちょく価格高騰の原因になってたんです。いい機会ですから排除しましょう」
傭兵にとって、薬は命綱ですからねえ。と語るレオンの目は今までと打って変わって暗い色に染まっていた。何かよっぽど腹に据えかねることがあったらしい。
魔術協会長の義父、なにやった。
「ね、無駄じゃなかったでしょう?」
にこりとジオが私に微笑みかけた。
優しい色違いの瞳に見つめられて、私は言葉を失ってしまう。
私の努力が認められる。
私が作った薬が誰かの助けになる。
私自身、とっくの昔に諦めて、無駄なものだと決めつけていたのに。
この優しい青年は、知らない間に拾って大事にしてくれていた。
薬を作れば目障りだと言われ、パーティーを指導すればうっとおしいと言われて。誰かに大切にされることなんて、ないと思ってたのに。
評価される。
ただそれだけが嬉しくて、胸がいっぱいになる。
「……ありがとう」
感謝の気持ちは溢れるほどあるのに、結局私はその一言を口にするので精いっぱいだった。