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作者: タカば
手配書
「……俺は一旦、エリスから離れたほうがいいかもしれませんね」

 考え込むギルドマスターを見ていたジオがぽつりと言った。とんでもない提案に、私は思わず腰を浮かせてしまう。

「いきなり何言い出すの? 一生私に仕えるとか言ってたくせに?」
「エリスの安全のためです。あの時は嬉しさのあまりそう言ってしまいましたけど、冷静に考えれば俺はお尋ね者です。一緒にいたら、セラフィーナの悪意があなたに向かうかも」
「今更困るわよ! この旅はもうジオ込みで計画しちゃってるんだから」
「しかし、あなたを危険な目に合わせるわけには」
「……エリスさん、その黒髪は地毛ですか? 魔力を蓄えたら青になりませんか?」

 言い合う私たちの間に、レオンの唐突な言葉が割って入った。
 何故ここで髪色。

「よくわかりましたね。確かに、髪に魔力が十分たまると青になります」
「だとしたら……ああ、ここにあった」

 レオンは自分の執務机から紙を一枚ひっぱりだしてきた。手配書らしいその書類には、尋ね人の特徴が書かれている。

「黒髪隻眼の傭兵を連れた、青髪の魔女……? なにこれ」
「先月くらいから、王国中に回っている手配書です。犯罪者を連れて逃亡中の魔女だとか」
「はあ?!」
「コレを発行したのは、王国貴族ですが……こいつは、デュランダル神聖国と関係が深い。本当の依頼者は、あちら側の人間でしょう」
「もしかして……セラフィーナが?」

 そういえば、あの日の私は酒場で派手に愚痴をぶちまけていた。当然目立っていたはずだ。酒場に連れてこられたジオのことも、それを部屋に連れ込んだ私のことものちのち噂になったに違いない。
 ジオを追いかけてきたセラフィーナが、こんな話を見逃すわけがない。

「なんだ……とっくに巻き込まれてたんじゃない」
「も……申し訳ありません!」

 真っ青な顔でジオが頭をさげた。土下座せんばかりの勢いのジオを、慌てて止める。

「謝らなくていいわよ! 悪いのはセラフィーナじゃない!」

 レオンがまたため息をつく。

「エリスさんには不本意かもしれませんが、魔力が枯渇して幸いでしたね。今のあなたを見て、『青髪の』魔女と呼ぶ方はいませんから」
「その後しばらく娼館にいたのも、悪くなかったわね。私は工房にこもってたし、バイトしてたジオもずっと仮面をつけてたから。だとすると、『青髪の魔女』の足取りは、酒場を最後に完全に途切れている……」

 そこまで考えてから、私はジオの肩にぽんと手を置いた。

「よし、ジオ。私と一緒に旅を続けましょう」
「エリス? 話を聞いてましたか?!」
「ちゃんと聞いてたわよ。あいつは、青髪の魔女と隻眼の傭兵を探してる。私が黒髪のうちはそう簡単に見つからないわよ。黒髪魔女と隻眼傭兵の組み合わせなんて、掃いて捨てるほどいるんだから。下手に逃げ隠れするより建設的だと思わない?」
「……それは、そうですが」

 私はカメリアガーデンの仮面を取ると、ジオの顔にあてた。

「更に仮面の剣士、とくれば完全に別物よね。こっちで印象をつけておけば、この先私の髪が元に戻っても、見つかりづらいかも」
「いいですね、それ」
「レオンまで?!」

 のんびり同意する育ての親の台詞に、ジオが声をあげる。

「エリスさんの言うとおり、ひとつの場所に留まるより移動したほうが見つかりづらい」

 レオンは、家族の肩をぽんぽんと優しく叩いた。

「何もただ逃亡しろというわけじゃない。俺は俺で、お前の汚名をそそぐ方法がないか、手を探してみるから、少しの間行ってこい」
「レオン……」
「エリスさんとジオの契約関係は、こちらでうまく処理しておく。ランクを元に戻すことはできないが、各地の傭兵ギルドで今まで通り支援を受けられるよう、手配する」
「……ありがとうございます」

 頭をさげるジオを見ながら、レオンはにこにこ笑っている。彼らは下手な家族より家族らしかった。

「他に何か要望があったら今のうちに言っとけ。俺にできることなら何でもしてやるから」
「いえ……あ、ひとつありました」

 何を思い付いたのか、ジオは自分の荷物に手をつっこんだ。しばらくごそごそやっていたかと思うと、底のほうから紙束を引っ張り出す。

「これを見てもらえますか?」
「うん? 薬のレシピ?」

 それ、私が捨てとけって言ったやつよね?!

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