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作者: タカば
誉れ高き勇者パーティー(ロゼリア視点)
「ここが、世界最大のダンジョン、『コキュートス』の入り口ですか……!」

 私は、巨大な門を見上げて声をあげた。たった二十年で最下層階不明の超高難易度迷宮へと成長したダンジョンは、入り口だけでも威圧感がある。
 資格のない者をダンジョン内に入れないためだろう、門の左右には一人ずつ、王国騎士が立っている。彼らはダンジョンの盗掘防止のためにいるのではない。無謀にもダンジョンに挑んで命を落とす愚か者を出さないためにいるのだ。
 私は胸から下げた許可証を握り締めた。
 自分の探索許可レベルは特級二位。
 特級一位のエリス先輩には及ばないものの、資格は充分ある。
 ダンジョン探索くらい、私にだってできるはず。

「探索は久しぶりですわね」

 私の隣で、治癒術師サフィーアがおっとりとほほ笑む。もうすでに何度もダンジョンに潜ったことがあるからだろう。彼女に特別気負う様子はなかった。
 それは他のメンバーも同じだ。
 女傭兵ルビィが大きく伸びをする。

「待機ばかりで、体がなまってたんだ」
「魔法使いが再派遣されるまで、危険だから中に入るなって……私たちだけで十分だっていうのにさ」

 呪術師ベリルが口をとがらせた。その手には真新しい魔道具が光っている。
 彼女は見かけるたびに別の魔道具を身に着けている。どこから調達しているんだろうか。
 よほどのお金持ちなのかもしれない。

「いいじゃねえか。待ったぶん『優秀な』魔法使いが来たんだからな。そうだろ、ロゼリア」

 勇者ヴィクトルがニヤリと不敵に笑いかけてくる。私は魔法使いの杖を握って微笑み返した。

「たまにはピンク頭の女も悪かねえ」

 勇者パーティー一行が拠点としている宿屋に到着した私は、早々に勇者に『味見』されていた。お味に満足していただけたらしく、彼は私を恋人のように優しく扱ってくれた。
 勇者の体力に付き合わされたおかげで、少し体がだるいけどこの程度は許容範囲だ。自作の体力回復薬を飲めばことたりる。
 馬鹿なエリス先輩。
 男なんて、ちょっとご褒美を与えたら簡単にコントロールできるのに。
 使える道具も使わずに、組織からはじき出されるなんて、愚の骨頂だ。

「二十階層まではポータル登録してるから、そこまで一気にジャンプするとして……今日は二十五層を目指そうぜ」
「いいわね!」

 勇者の提案に呪術師ベリルが顔を輝かせる。

「え……っ、いきなり五層も下に行くんですか?」

 そんな先に行けるほど、情報は集まっていただろうか。
 エリス先輩の残した資料には、二十一階層までしか記録がなかったけれど。

「いけるいける。今までだって、やろうと思えばできたんだ」
「それを、エリスがいちいち『階層を調査し終わるまでは下に行くな』って命令しちゃってさー」

 ヴィクトルとベリルはそろって顔をしかめる。

「あいつは細かすぎるんだ。魔物の出現傾向だの、罠解除だの、無駄な調べものばっかりやって寄り道しやがって」
「国からの命令は、誰よりも早く最下層のダンジョンコアに辿り着くこと、ですわ。階層ごとのマップを作ることではありませんの」
「いないやつのことを言っててもしょうがないだろ」

 女傭兵ルビィが肩をすくめた。それを見てヴィクトルが笑う。

「そうだな、うるさい女は追い出したんだ。好きにやらせてもらうぜ!」

 気合十分の勇者たちとともに、私はダンジョンに足を踏み入れた。
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