魔女のお仕事
「エリス、食事の時間ですよ」
コツコツとドアをノックされて私は顔をあげた。
「ええ……もうこんな時間?」
慌ててドアを開けると、用心棒のお仕着せを着たジオがお行儀よく立っていた。その手には今日の夕食らしい食事のバスケットがある。
「今日のメニューはひき肉の煮込みだそうです。そちらのテーブルに広げていいですか?」
「お願い! ……って」
作業に集中していたせいで、テーブルの上は書類でいっぱいだ。夕食どころか、カップひとつ置くスペースすらない。
「ごめんなさい! すぐに片付けるから!」
「作業ばかりで疲れているでしょう。片付けも俺がやるので、休んでいてください」
「いやでも」
疲れているのは、肉体労働をしているジオのほうなのでは。
「ミカエラさんから、差し入れを預かってますよ」
私も片付けに参加しようとしたら、かわいいお菓子の包みを渡されてソファに座らされてしまった。気遣いのできるイケメン最高か。
諦めて包みの中を確認すると、大好物のフルーツ入り焼き菓子だった。好みをわかってくれる女友達も最高か。
セクハラ勇者ヴィクトルご一行様は、誰一人として掃除なんかしてくれなかったからね! 差し入れなんてもってのほかだし!
「幸せ……」
「……」
喜びをかみしめているうちに、夕食の準備ができあがったらしい。ジオに声をかけられて、テーブルを見るとおいしそうな料理が並んでいた。歓楽街は観光施設だから、女性とアレコレする以外の娯楽も充実してるんだよね。当然美食も提供している。
だから、娼館内で作られる料理もおいしい。
「はあ……料理のにおいをかいだらお腹すいてきた」
「どうぞ、召し上がってください」
ジオは私が食べ始めないとなかなか食事に手をつけてくれない。遠慮しててもしょうがないので、さくさく食べることにした。うーん、ひき肉シチューおいしい。
「今日作った薬はあれですか?」
食べながら、ジオが部屋の奥に目をやった。
工房の作業台の隣には、木箱がいくつも置いてある。中身は全部薬だ。
「ええ。箱ごとに届け先のメモをつけておいたから、明日にでも配達してもらっていい?」
「かしこまりました。力仕事はお任せください」
ジオがにこりとほほ笑む。
私が作っているのは、ほとんどが魔法薬だ。特別な魔法がかけてある分繊細で、雑な扱いをされると薬効が低下してしまう。しかしジオがどの荷物も丁寧に扱ってくれるおかげで、薬品の破損はほとんどない。こういう作業を任せられる仲間がいるのって、幸せだわー。
セクハラ勇者ヴィクトルに渡したら、そのへんに投げ捨てられて終わりである。治癒術師や呪術師は多少扱いを理解してたけど、『苦くてまずい』とか言って勝手に砂糖を混ぜたりとか、余計な手を加えてくるからなあ。
「しかし、今日は三箱ですか。ずいぶん作りましたね」
「あ、もしかして運ぶのが大変だったりする?」
「いえ、物量に問題はありません。俺はエリスが心配で……こんなに大量の薬を作るなんて、大変だったでしょう。無理をしていませんか?」
「そうでもないわよ。製薬を効率化する魔道具が完成したから!」
私は作業台の横を指した。そこには私が自作した魔道具がいくつか置かれている。
実は、今までの作業は大半が魔道具作りだったんだよね。面倒でも作業効率のいい道具を作ったほうが、最終的にたくさんの薬ができる。
「何に使うものなんですか? どういう効果があるのか、俺にはさっぱり……」
「ジオは戦うのが専門だもんね。右から、ろ過装置、蒸留器、遠心分離機。それから、これが一番の力作! 純水製造機!」
「じゅんすい……? 水を作るんですか?」
「そうよ!」
コツコツとドアをノックされて私は顔をあげた。
「ええ……もうこんな時間?」
慌ててドアを開けると、用心棒のお仕着せを着たジオがお行儀よく立っていた。その手には今日の夕食らしい食事のバスケットがある。
「今日のメニューはひき肉の煮込みだそうです。そちらのテーブルに広げていいですか?」
「お願い! ……って」
作業に集中していたせいで、テーブルの上は書類でいっぱいだ。夕食どころか、カップひとつ置くスペースすらない。
「ごめんなさい! すぐに片付けるから!」
「作業ばかりで疲れているでしょう。片付けも俺がやるので、休んでいてください」
「いやでも」
疲れているのは、肉体労働をしているジオのほうなのでは。
「ミカエラさんから、差し入れを預かってますよ」
私も片付けに参加しようとしたら、かわいいお菓子の包みを渡されてソファに座らされてしまった。気遣いのできるイケメン最高か。
諦めて包みの中を確認すると、大好物のフルーツ入り焼き菓子だった。好みをわかってくれる女友達も最高か。
セクハラ勇者ヴィクトルご一行様は、誰一人として掃除なんかしてくれなかったからね! 差し入れなんてもってのほかだし!
「幸せ……」
「……」
喜びをかみしめているうちに、夕食の準備ができあがったらしい。ジオに声をかけられて、テーブルを見るとおいしそうな料理が並んでいた。歓楽街は観光施設だから、女性とアレコレする以外の娯楽も充実してるんだよね。当然美食も提供している。
だから、娼館内で作られる料理もおいしい。
「はあ……料理のにおいをかいだらお腹すいてきた」
「どうぞ、召し上がってください」
ジオは私が食べ始めないとなかなか食事に手をつけてくれない。遠慮しててもしょうがないので、さくさく食べることにした。うーん、ひき肉シチューおいしい。
「今日作った薬はあれですか?」
食べながら、ジオが部屋の奥に目をやった。
工房の作業台の隣には、木箱がいくつも置いてある。中身は全部薬だ。
「ええ。箱ごとに届け先のメモをつけておいたから、明日にでも配達してもらっていい?」
「かしこまりました。力仕事はお任せください」
ジオがにこりとほほ笑む。
私が作っているのは、ほとんどが魔法薬だ。特別な魔法がかけてある分繊細で、雑な扱いをされると薬効が低下してしまう。しかしジオがどの荷物も丁寧に扱ってくれるおかげで、薬品の破損はほとんどない。こういう作業を任せられる仲間がいるのって、幸せだわー。
セクハラ勇者ヴィクトルに渡したら、そのへんに投げ捨てられて終わりである。治癒術師や呪術師は多少扱いを理解してたけど、『苦くてまずい』とか言って勝手に砂糖を混ぜたりとか、余計な手を加えてくるからなあ。
「しかし、今日は三箱ですか。ずいぶん作りましたね」
「あ、もしかして運ぶのが大変だったりする?」
「いえ、物量に問題はありません。俺はエリスが心配で……こんなに大量の薬を作るなんて、大変だったでしょう。無理をしていませんか?」
「そうでもないわよ。製薬を効率化する魔道具が完成したから!」
私は作業台の横を指した。そこには私が自作した魔道具がいくつか置かれている。
実は、今までの作業は大半が魔道具作りだったんだよね。面倒でも作業効率のいい道具を作ったほうが、最終的にたくさんの薬ができる。
「何に使うものなんですか? どういう効果があるのか、俺にはさっぱり……」
「ジオは戦うのが専門だもんね。右から、ろ過装置、蒸留器、遠心分離機。それから、これが一番の力作! 純水製造機!」
「じゅんすい……? 水を作るんですか?」
「そうよ!」