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作者: タカば
俺に服従しない部下はクビ
 魔術師協会に戻った私を迎えたのは、魔術協会長の冷ややかな視線だった。
 会長執務室の重厚なデスクに座る派手な紫髪の魔法使いは、さも面倒くさそうに対応する。

「一級魔術師エリス、ただいま帰還しました」
「……君の話は聞いているよ。ずいぶんと勇者パーティーに迷惑をかけたとか」

 協会長は、横に立つ秘書官らしい女性魔術師に視線を向けた。ピンク髪の彼女はデスクの上に手紙の束を置く。
 淡い色の封筒に書かれた署名には見覚えがあった。あれが治癒術師サフィーアが協会長に送った『お手紙』なのだろう。

「それで、彼女たちの一方的な意見だけ聞いて解任したんですか?」
「彼は、わが国で唯一ダンジョン踏破の可能性がある勇者だ。デュランダル神聖国や、マハトマキア帝国の勇者が実績を伸ばしている今、彼には余計なことを考えず、攻略に集中してもらいたい。いざこざは困るのだよ」
「……いざこざは誤解です。あれは私が彼のオンナにならないのが気に障っただけですよ」
「じゃあ、寝ればよかったじゃないか」
「はあ?」

 こともなげに言われて、私は思わず声をあげてしまった。
 何言ってんだ、このジジイ。

「君の取柄は胸についてる大きなソレだろ? 勇者が欲しいと言ってるんだから、喜んで差し出すところじゃないのか」
「人の体を何だと思ってるんです」

 簡単にとったりやったりできるものじゃないんですけど? お前勇者が枯れ専で、抱かせろって言われたら抱かせるのかよ。

「先輩は頭がカタいんですよ。私なら、うまぁく勇者様をお仕事に集中させてみせますわ」

 ずっと協会長の隣に立っていたピンク髪の魔術師が口をはさんだ。胸のボリュームこそ私には劣るものの、上も下も肉感的な曲線を描く彼女は、色っぽくほほ笑む。
 なるほど? 後釜はもういるわけだ。

「後任がいるのなら、勇者パーティーのことはそちらにお任せしたほうがよさそうですね。では、失礼して研究室に戻らせていただきます」
「ああ、そのことなんだが」

 部屋を出て行こうとする私を協会長が呼び止めた。嫌な予感がして私は振り返る。

「君の研究室は閉鎖だ」
「なぜです? 勇者パーティーに派遣されている間も、研究室は保持するという契約だったじゃないですか!」
「だが、君は遂行途中でパーティーから追放された。つまり、任務失敗だ。2階級降格処分とし、研究室も閉鎖する」
「……………………は?」

 あまりの事態に、目の前が真っ白になった。
 二年の苦労が水の泡になったことはもういい。よくないけど、もうどうしようもないことだ。
 でも、その上降格処分で研究の場まで取り上げられる?

「なに、そんなに悲観することはない、君はとても優秀だ。私の下で基礎研究の手伝いをしていれば、昇格する可能性がある」

 悲観しかねえよ。
 研究の手伝いってことは、この協会長の下で飼い殺しにされるってことだろ?

「まずは明日実験に使う精製水の製作から……」
「お断りします」

 私は協会長の命令をきっぱり拒否した。

「なに? 命令違反は、更なる降格に……」
「降格も昇格も、どうでもいいです。今日限りで魔術協会を辞めますから」

 私は胸につけていたブローチを引きちぎると、協会長がふんぞり返っているデスクにたたきつけた。

「お前は、協会を辞めるということが、どういうことかわかっているのか? いくら研究しても、論文発表の場はない! 薬品のレシピを考案しても、承認されないし流通もしない! お前のやることが全て無駄になるんだぞ!」
「どうせこのまま留まったところで、私の論文を発表させる気も、レシピを承認するつもりもないんでしょう! だったら、せめて自由に生きたほうがマシです!」

 こんなセクハラ横暴協会、こっちから辞めてやる!
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