俺になびかない女はクビ
パーティー追放から始まる、魔女と傭兵の冒険譚。
恋愛とざまあと冒険を3:4:3くらいでブレンドした作品です。キレイにオチがついているので、安心してお楽しみください!
恋愛とざまあと冒険を3:4:3くらいでブレンドした作品です。キレイにオチがついているので、安心してお楽しみください!
「お前クビな」
宿の一室で、パーティーリーダーのヴィクトルが宣告した。
「……は? クビ?」
言われたことが信じられず、思わず聞き返してしまう。私をこのパーティーから除外する? タチの悪い冗談としか思えないんだけど。
しかし、ヴィクトルも、他のパーティーメンバーも表情を変えなかった。
「聞こえなかったのか、魔女エリス。お前は勇者ヴィクトルのパーティーに必要ない」
「……理由は?」
「だってお前ウゼえんだもん」
言うに事欠いて、ウゼえとはどういうことか。
即座に平手打ちしなかった自分を褒めたい。
私が怒りのあまり言葉を失っていると、ヴィクトルは嫌そうに顔を歪めた。
「事あるごとに、やれこの討伐スケジュールは無理があるだの、進行ルートに無駄が多いだの、グチグチグチグチ口出ししやがってよ。その上、今度はダンジョンを離れて隣国に向かえだぁ? そんなことしてる間に他の連中がダンジョン制覇したらどうすんだよ」
「ちゃんと理由があるって全部説明したでしょう」
「お前の話、小難しくてよくわかんねーんだもん」
脳みそ使うのが面倒なだけだろ!
「エリスは細かすぎるのよ」
ヴィクトルのすぐ右隣りに控えていた、呪術師ベリルが口をはさんだ。彼女は真っ赤な口紅を引いた唇をとがらせる。
「あれはダメこれはダメ、って、ろくに魔道具も買わせてくれないし」
「あなたの希望通りに購入してたら、攻略資金が一月でなくなるから」
「魔道具を買った分、パワーアップして魔物を倒しまくればいいだろ」
お前ら魔道具がいくらすると思ってる。
魔物百匹倒しても足りねえっつーの。
人が毎月経費処理にどれだけ頭を悩ませていると思ってんだ。人の気も知らずに、アホ勇者と浪費家呪術師は不満を訴える。
その横で、白いローブを着たプラチナブロンドの少女がため息をついた。治癒術師のサフィーアだ。
「しかも食生活にまで口を出してきますし……過干渉ですわ」
「だよなー。野菜食え、酒は控えろって、お前はオカンか」
「オカンレベルで注意したくなるくらい、偏食だからでしょうが!」
冒険者稼業を何だと思ってる!
スキルがどうとか、才能がどうとかも大事だけど、一番の資本は体だろ!
バランスのいい食事とって基礎体力つけておかないと、迷宮の底で息切れして死ぬだけだからな?
「野営のたびに変な草の入ったスープばっかり食べさせられるのは、もう嫌ですの」
「香味野菜を変な草呼ばわりしないで。立派な野菜で、立派な栄養素だからね?」
「エリス、口答えはやめろ」
燃えるような赤毛の少女が割って入った。パーティメンバー最後のひとり、女傭兵のルビィだ。
「そもそも、このパーティーのリーダーはヴィクトルだ。強い者に弱い者が従うのが、当然のルールだろう」
「それはあなただけ」
強い者が絶対なだけだったら、この世に頭脳労働者は存在しないからな?
私は大きくため息をついた。
「あなたたちの不満はわかった。だからって、私をパーティーから追い出すなんて本当にできるの? 私は王国から派遣されてきた支援魔法使いなんだけど」
「……それは」
ルビィは言葉を詰まらせた。
この国において、『勇者』の称号は、ただの尊称ではない。大陸の中央に突如として出現した巨大ダンジョンに挑むことができる、優秀な冒険者を示す言葉だ。正規軍騎士でも歯が立たない危険な魔物を討伐する『勇者パーティー』に対して、各国は資金や宿の提供といった様々な支援を行っている。
私もその支援のひとつ。
力はあるものの、計画性のない討伐を繰り返す彼らのために、国から魔術協会を通して派遣された頭脳役だ。上部組織から命令されている私を、勇者が独断でクビにできないはず。
しかし、ヴィクトルはにやりと顔を歪めて笑った。
「いいや、できるね」
そう言って、一枚の紙を私の前に置く。
それは私への異動辞令だった。勇者パーティーから離脱し、魔術協会へ帰還するよう指示している。しかも魔術協会長の正式な承認印つきだ。
「な……」
目の前に置かれた書面の内容が信じられなくて、私は再び言葉をなくす。
治癒術師サフィーアがクスクスと笑った。
「あなたの横暴なふるまいに迷惑してる、ってヴィクトルがこぼしていたから、協会長様にお手紙を書きましたの。ふふ……どちらが悪いか、よぉくご理解して頂けましたわ」
「……そう」
きっと手紙には、彼女たちの都合のいいことばかり書いてあったんだろう。そんな手紙を書くサフィーアにも、手紙を信じて辞令を発行する協会長にも、得意満面で書面を出すヴィクトルにも、怒りがこみ上げすぎて怒鳴る気にもならない。
「わかった、正式な辞令が出ているのなら受け入れる。すぐに荷物をまとめて出ていくわ」
「あ、待って」
部屋から出て行こうとした私を、呪術師ベリルが呼び止めた。
「行く前に、装備品をまとめて出してちょうだい。ダンジョン攻略のために購入した装備は、パーティー全体の財産なんだから」
「私の装備は持ち込みの私物。加入中に増やした装備も、報酬で購入した素材から自作したものだから、備品リストに入ってないわよ」
「えー、立派そうに見えるのに、オバサンハンドメイドなわけ? 期待して損したぁ」
うるせぇ。
こちとら、第一級魔道具製造免許持ちだぞ。お手製と言っても、最高位の工房でオーダーメイドしたのと同じクオリティだっつーの。
ばらしたら面倒くさいことになるから、言わないけど!
「じゃ、今度こそ失礼するわ。がんばってダンジョン攻略してね」
私は乱暴にドアを開けると、部屋を後にした。ズカズカと宿の廊下をつっきると、自分の寝泊りしていた部屋に戻って、大急ぎで荷物をまとめる。
腹立つ、腹立つ、腹立つ!
確かに私も人付き合いが得意なほうじゃないけどさ!
人の努力をまとめて否定した挙句にクビはないでしょ!
私だって、好きでこんなことしてたわけじゃない! 国からの、魔術協会からの命令がなければ、勇者パーティーになんか入ってない!
……いや、今はこの状況を前向きに考えよう。
パーティーからは解放されたんだ。
もう、隙あらば胸を触ろうとしてくるヴィクトルの手に警戒する必要もないし、夜這い対策で毎晩結界を張る必要もない。協会に戻れば、止まったままの魔術研究だって進めることができる。
荷物をまとめ終わって、息をついたところでドアがノックされた。
「え……」
「邪魔するぜ」
返事をする前に、無遠慮にヴィクトルが入ってくる。
「何の用よ」
「いや~出ていくお前に、最後の挨拶ってヤツさ」
ヴィクトルは、ずいっと一歩近づいた。キラキラと光る金髪と、端正な顔を見せつけるようにして、私に顔を寄せる。
「俺だって残念なんだぜ? 魔術師の中でも、こんなに綺麗な青髪の美人はなかなかいねえからな」
この勇者、性格はともかく無駄に顔はいいんだよなあ。
しかも17歳で破格の強さを示して、最年少勇者パーティー認定された国内最有力勇者だ。彼のところに派遣された二年前は、『私が彼を最強の勇者にしてあげよう』と気合を入れてたっけ。28歳になった今、確かに武力だけなら最強と言っていいかもしれないけど。
「しかも、ボリュームたっぷりのマシュマロおっぱいだし」
ああ、過去の愚かな自分に言いたい。
そんな努力無駄だからやめとけと。
「なあ……俺からあいつらに話して、パーティーに残してやってもいいんだぜ」
「今更何を」
「アンタだって、途中で放り出されるような真似は嫌だろ? その綺麗な髪とおっぱいでサービスしてくれたら……あいつらをとりなしてやっても、いい」
ねっとり、とでも擬音がつきそうな目つきで見つめられ、私は理解した。
ああ、つまりそういうこと。
私の接し方が悪かったのか、とかもうちょっと説明のしようがあったんじゃないのか、とかいろいろと今までの行動を反省していた思考が吹っ飛んだ。
私の追放の理由は、能力不足なんかじゃなかった。
この男のオンナにならなかったから追い出されるのだ。
実を言うと私以外の3人のパーティーメンバーは全員ヴィクトルの愛人だった。彼女たちがヴィクトルにメロメロになっている中、私だけが頑なになびかなかったのが気に入らなかったのだろう。
ただそれだけのこと。
「近寄らないで」
私はぐい、とヴィクトルの体を押しのけて出口へと向かった。
「私の体は私のものよ。使いどころは自分で決める」
お前なんかにおっぱい触らせてやらねぇから!
宿の一室で、パーティーリーダーのヴィクトルが宣告した。
「……は? クビ?」
言われたことが信じられず、思わず聞き返してしまう。私をこのパーティーから除外する? タチの悪い冗談としか思えないんだけど。
しかし、ヴィクトルも、他のパーティーメンバーも表情を変えなかった。
「聞こえなかったのか、魔女エリス。お前は勇者ヴィクトルのパーティーに必要ない」
「……理由は?」
「だってお前ウゼえんだもん」
言うに事欠いて、ウゼえとはどういうことか。
即座に平手打ちしなかった自分を褒めたい。
私が怒りのあまり言葉を失っていると、ヴィクトルは嫌そうに顔を歪めた。
「事あるごとに、やれこの討伐スケジュールは無理があるだの、進行ルートに無駄が多いだの、グチグチグチグチ口出ししやがってよ。その上、今度はダンジョンを離れて隣国に向かえだぁ? そんなことしてる間に他の連中がダンジョン制覇したらどうすんだよ」
「ちゃんと理由があるって全部説明したでしょう」
「お前の話、小難しくてよくわかんねーんだもん」
脳みそ使うのが面倒なだけだろ!
「エリスは細かすぎるのよ」
ヴィクトルのすぐ右隣りに控えていた、呪術師ベリルが口をはさんだ。彼女は真っ赤な口紅を引いた唇をとがらせる。
「あれはダメこれはダメ、って、ろくに魔道具も買わせてくれないし」
「あなたの希望通りに購入してたら、攻略資金が一月でなくなるから」
「魔道具を買った分、パワーアップして魔物を倒しまくればいいだろ」
お前ら魔道具がいくらすると思ってる。
魔物百匹倒しても足りねえっつーの。
人が毎月経費処理にどれだけ頭を悩ませていると思ってんだ。人の気も知らずに、アホ勇者と浪費家呪術師は不満を訴える。
その横で、白いローブを着たプラチナブロンドの少女がため息をついた。治癒術師のサフィーアだ。
「しかも食生活にまで口を出してきますし……過干渉ですわ」
「だよなー。野菜食え、酒は控えろって、お前はオカンか」
「オカンレベルで注意したくなるくらい、偏食だからでしょうが!」
冒険者稼業を何だと思ってる!
スキルがどうとか、才能がどうとかも大事だけど、一番の資本は体だろ!
バランスのいい食事とって基礎体力つけておかないと、迷宮の底で息切れして死ぬだけだからな?
「野営のたびに変な草の入ったスープばっかり食べさせられるのは、もう嫌ですの」
「香味野菜を変な草呼ばわりしないで。立派な野菜で、立派な栄養素だからね?」
「エリス、口答えはやめろ」
燃えるような赤毛の少女が割って入った。パーティメンバー最後のひとり、女傭兵のルビィだ。
「そもそも、このパーティーのリーダーはヴィクトルだ。強い者に弱い者が従うのが、当然のルールだろう」
「それはあなただけ」
強い者が絶対なだけだったら、この世に頭脳労働者は存在しないからな?
私は大きくため息をついた。
「あなたたちの不満はわかった。だからって、私をパーティーから追い出すなんて本当にできるの? 私は王国から派遣されてきた支援魔法使いなんだけど」
「……それは」
ルビィは言葉を詰まらせた。
この国において、『勇者』の称号は、ただの尊称ではない。大陸の中央に突如として出現した巨大ダンジョンに挑むことができる、優秀な冒険者を示す言葉だ。正規軍騎士でも歯が立たない危険な魔物を討伐する『勇者パーティー』に対して、各国は資金や宿の提供といった様々な支援を行っている。
私もその支援のひとつ。
力はあるものの、計画性のない討伐を繰り返す彼らのために、国から魔術協会を通して派遣された頭脳役だ。上部組織から命令されている私を、勇者が独断でクビにできないはず。
しかし、ヴィクトルはにやりと顔を歪めて笑った。
「いいや、できるね」
そう言って、一枚の紙を私の前に置く。
それは私への異動辞令だった。勇者パーティーから離脱し、魔術協会へ帰還するよう指示している。しかも魔術協会長の正式な承認印つきだ。
「な……」
目の前に置かれた書面の内容が信じられなくて、私は再び言葉をなくす。
治癒術師サフィーアがクスクスと笑った。
「あなたの横暴なふるまいに迷惑してる、ってヴィクトルがこぼしていたから、協会長様にお手紙を書きましたの。ふふ……どちらが悪いか、よぉくご理解して頂けましたわ」
「……そう」
きっと手紙には、彼女たちの都合のいいことばかり書いてあったんだろう。そんな手紙を書くサフィーアにも、手紙を信じて辞令を発行する協会長にも、得意満面で書面を出すヴィクトルにも、怒りがこみ上げすぎて怒鳴る気にもならない。
「わかった、正式な辞令が出ているのなら受け入れる。すぐに荷物をまとめて出ていくわ」
「あ、待って」
部屋から出て行こうとした私を、呪術師ベリルが呼び止めた。
「行く前に、装備品をまとめて出してちょうだい。ダンジョン攻略のために購入した装備は、パーティー全体の財産なんだから」
「私の装備は持ち込みの私物。加入中に増やした装備も、報酬で購入した素材から自作したものだから、備品リストに入ってないわよ」
「えー、立派そうに見えるのに、オバサンハンドメイドなわけ? 期待して損したぁ」
うるせぇ。
こちとら、第一級魔道具製造免許持ちだぞ。お手製と言っても、最高位の工房でオーダーメイドしたのと同じクオリティだっつーの。
ばらしたら面倒くさいことになるから、言わないけど!
「じゃ、今度こそ失礼するわ。がんばってダンジョン攻略してね」
私は乱暴にドアを開けると、部屋を後にした。ズカズカと宿の廊下をつっきると、自分の寝泊りしていた部屋に戻って、大急ぎで荷物をまとめる。
腹立つ、腹立つ、腹立つ!
確かに私も人付き合いが得意なほうじゃないけどさ!
人の努力をまとめて否定した挙句にクビはないでしょ!
私だって、好きでこんなことしてたわけじゃない! 国からの、魔術協会からの命令がなければ、勇者パーティーになんか入ってない!
……いや、今はこの状況を前向きに考えよう。
パーティーからは解放されたんだ。
もう、隙あらば胸を触ろうとしてくるヴィクトルの手に警戒する必要もないし、夜這い対策で毎晩結界を張る必要もない。協会に戻れば、止まったままの魔術研究だって進めることができる。
荷物をまとめ終わって、息をついたところでドアがノックされた。
「え……」
「邪魔するぜ」
返事をする前に、無遠慮にヴィクトルが入ってくる。
「何の用よ」
「いや~出ていくお前に、最後の挨拶ってヤツさ」
ヴィクトルは、ずいっと一歩近づいた。キラキラと光る金髪と、端正な顔を見せつけるようにして、私に顔を寄せる。
「俺だって残念なんだぜ? 魔術師の中でも、こんなに綺麗な青髪の美人はなかなかいねえからな」
この勇者、性格はともかく無駄に顔はいいんだよなあ。
しかも17歳で破格の強さを示して、最年少勇者パーティー認定された国内最有力勇者だ。彼のところに派遣された二年前は、『私が彼を最強の勇者にしてあげよう』と気合を入れてたっけ。28歳になった今、確かに武力だけなら最強と言っていいかもしれないけど。
「しかも、ボリュームたっぷりのマシュマロおっぱいだし」
ああ、過去の愚かな自分に言いたい。
そんな努力無駄だからやめとけと。
「なあ……俺からあいつらに話して、パーティーに残してやってもいいんだぜ」
「今更何を」
「アンタだって、途中で放り出されるような真似は嫌だろ? その綺麗な髪とおっぱいでサービスしてくれたら……あいつらをとりなしてやっても、いい」
ねっとり、とでも擬音がつきそうな目つきで見つめられ、私は理解した。
ああ、つまりそういうこと。
私の接し方が悪かったのか、とかもうちょっと説明のしようがあったんじゃないのか、とかいろいろと今までの行動を反省していた思考が吹っ飛んだ。
私の追放の理由は、能力不足なんかじゃなかった。
この男のオンナにならなかったから追い出されるのだ。
実を言うと私以外の3人のパーティーメンバーは全員ヴィクトルの愛人だった。彼女たちがヴィクトルにメロメロになっている中、私だけが頑なになびかなかったのが気に入らなかったのだろう。
ただそれだけのこと。
「近寄らないで」
私はぐい、とヴィクトルの体を押しのけて出口へと向かった。
「私の体は私のものよ。使いどころは自分で決める」
お前なんかにおっぱい触らせてやらねぇから!