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作者: Siranui
残酷な描写あり
第百十六話「血の力」
 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス



 運命……悪魔の嘲笑う声が耳元で聞こえてくる。身体が凍りつくように動かない。それと連動して脈拍も少なくなっていくのを感じる。これは間違いない、俺は死を恐れているのだ。仲間のでは無く、己の死を。

「行くぞ、銀河。もう死神狩りは懲り懲りだ」
「了解です、会長」

 動け。動かないと死ぬ。

「大蛇さん、しっかり!」

 クロムは俺の前に入り込み、ベディヴィエルの剣撃を受け止める。頭上には銀河が氷の槍を精製する。

「貴方達は……ここで終わりです!」

 そして、氷の槍が降り注ぐ。恐怖で動けない俺の身体を貫き、大量の血がほとばしる。

「大蛇さん!」
「よそ見はいけないぞ、我がライバル」
「くっ……!」

 やがてクロムもベディヴィエルの剣撃に耐えきれずに一撃を貰う。漆黒の鎧に傷ができ、そこから鮮血を吹き出す。

「くっ……」
「運が無かったな、君達。どうやら女神は私達に微笑んだようだ……」

 ベディヴィエルは頭上に剣を突き上げ、魔力を籠める。刹那、刀身から巨大なビームのような白い光が天を裂いた。

「長き戦いだったが、楽しめたぞ諸君達よ……『約命之終光エクスカリバー』!!」

 正に長き戦いに終止符を打つに相応しい攻撃で俺達にとどめを刺す。地球を斬るかと思うほどの規模の聖剣が俺とクロムに襲いかかる。

「……」

 あぁ、終わる。全てが終わる。むしろその時を俺は待っていたのだろうか。
 ――そうだ、俺は。とどめを刺す、この時を。

「ふぅっ……」
「大蛇、さん……?」

 今ならいけるか? 床に散々ばら撒いた大量の鮮血でこの危機を変えられるか?
 ……いや、今しかない。結果がどうであれ賭けるならこのタイミングしか残されていない。

「うおおおおお!!!」

 雄叫びを上げながら全身に力を込め、両手に魔力を籠める。瞬間、地面に池を作っていた俺の血が真紅の光を帯びながら両手に集まっていく。

 ――喰らえ、一か八かの俺の奥義を!!

「『果てをも穿ちし逆鱗の花エドレイト』!!!!」

 横に広げた両腕を正面に向けて伸ばす。寸時に宙に浮いてた無数の血の雫が鋭利状の刃に形を変えてベディヴィエル達に向かって突進する。

「会長、ここは俺にっ……!?」

 魔法を唱えようとしても既に無数の血の刃の速さには追いつけなかった。銀河の両腕は鮮血を宙に舞い上がらせながら四散する。

「銀河っ! くっ……!!」

 ベディヴィエルは巨大な聖剣を俺に向かって振り下ろす。俺は左手で血の盾を精製してそれを受け止める。その時、ベディヴィエルは俺の右目から血が流れているのに気づき目を見開く。

「なっ……『八之竜眼わかつのりゅうがん』だと!?」
「ようやく気づいたか。全部この時のために耐えてきたんだ……影を纏った時も、爆裂魔法を喰らった時も、そして今もな……」

 血の盾が徐々に壊れていく。だが確実に聖剣も光が細くなっていく事から弱体化していくのが分かる。

「更に今はエリミネイトの魔力も宿ってるからな……おかげでこっちも神器を使えると言う事だ」
「ちっ……何としてでも君はここでっ……!!」
「時すでに遅しだ……来い、『反命剣リベリオン』」

 空いた右手を後ろに翳す。刹那、懐かしくも頼れる重みが右手に直に伝わる。青白い水晶の剣が実体化した瞬間、宙を舞う俺の血が青白く染まる。

 その瞬間、俺――黒神大蛇は己の血と魔剣を以て完全なる復活を遂げたのだ。

「すごい……これが本来の大蛇さんという事でしょうか……」
「会長、あれは……」
「……私達、そしてホウジョウさんが最も恐れていたものだ。この『常夏の血祭り』において何としてでも止めなければならなかった――」
 
 ――『黒き英雄』黒神大蛇の完全復活だ。
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