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作者: Siranui
残酷な描写あり
第三十九話「少女の想い、そして共鳴(下)」
 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


 死を意味する冷たい風と微かな希望を意味する暖かい光が混ざり合って、真っ暗な視界で俺の全身を鋭く、そして優しく撫でた。


 ――あぁ、また死んだ。やり直しだ。……いや、もうチャンスはこの一度しか無い。三度も生まれ変わっただなんて流石の運命も見逃してくれ無いだろう。


『まだ死ぬのは早いよ、おっ君――』

 ――声が聞こえた。知っている。俺はこの声の主を知っている。

『私の残りの人生を奪ったんだから、ちゃんと責任取ってくれないと怒るよ?』

 ――二度目の運命で俺がこの手で殺した人……錦野智優美にしきのちゆみ

 あぁ、そういえば蒼乃さんの名字も錦野だったよな。つまり智優美さんが母親か。そう思うと俺は仲間の母親を殺した事になるのか。思わず自分の首を締めたくなる。

『私は知ってるよ、おっ君はこんな所で諦める人じゃないって事。それだけ辛い思いをして、どんどん積み重ねて、そして今のおっ君がいる』

 ――智優美さん、やめてくれ。何で自分を殺した人にそれ程生きろと言うのだ。恨んでないのか。復讐しようと思わないのか。恨みを晴らすなら今のうちだぞ。

『おっ君、そんなに自分を痛めつけないで。私を殺したのはおっ君の中にいたあの邪神なのは知ってるから。だからおっ君はあの時と変わらない可愛いおっ君だよ』

 ――あぁ、知ってたのか。そりゃそうだよな。目の前で暗黒神やつを見てたもんな。

『だからこれから多くの人を助けるおっ君はここで死んじゃダメだよ――』

 ――人殺しから、人を助ける人間になる……か。
 そうだ、俺は何度過ちを繰り返せば気が済むんだ。まだ始まったばかりなのに呆気なく死ぬなんて真っ平御免だ。

「……」

 指先から徐々に温度が感じられる。次に全身の感覚と痛み。そして目の前にあの男の姿がくっきりと見える。

『頑張ってね、おっ君――』
「……特別サービスだ。とくと味わえ」

 俺本来の力を解放する――!!

 右目から赤くて暖かい涙が出てくるのを感じる。あれほど斬られてボロボロになった身体が軽く感じる。

「Oui, ...... c'est ça, mec ! Je voulais voir ça, Black Hero ! Haha, je vais rater la fin de cette bataille !(そう……これだぜ! 俺はこれを見たかったんだ、黒き英雄!! ははっ、この戦いが終わるのが惜しくなって来るなあ!!)」

 すると男からも赤黒いオーラを全身から解き放ち、左手の金色の大剣が赤黒く染まった。
 俺の反命剣リベリオンも黒く染まり、刀身から陽炎の如く禍々しいオーラを解き放つ。

「『断罪之絶刃ディリジメント』オオオッ!!!」
「……『狂神之天殺ゼノジエイド』」

 両者共に魔力を解き放ち、公園中に強い衝撃波が地を走った。遊具が近くの木々を巻き込んで吹き飛ばされる。目の前に飛んできた遊具を凪沙さんは全身を捻って槍で真っ二つに斬り裂いた。

「何あれ……って、大蛇君っ……!?」

 姿が一瞬見えた直後、マシンガンが邪魔をする。

「もうっ! しつこい男は嫌われる……ぞっ!!」

 勢い余った回転斬りで不良達を両断する。

 そんな好調な凪沙さんを見た後すぐに男の方へ向く。男は待ちくたびれたと言わんばかりに笑みを浮かべていた。 

「……無謀な殺し合いはもう終わりだ」

 そう吐き捨て、閃光のような速さで地を蹴って一秒も経たずに男の首に刃を通す。

「Whoa. ...... Ce type est mauvais. ...... J'adore ça, les héros !(うおっ……こいつはやべぇ……! やっぱ最高だぜ、英雄ってやつはよぉっ!!)」

 俺の刃が通る寸前、男は大剣を逆手に持って首元を通ろうとした俺の剣筋を捕らえた。

「Allez, plus de plaisir, héros noirs !(さぁ、もっと楽しもうぜ黒き英雄!)」
「……黙れ」

 俺はもうこいつを殺す事に精一杯だ。邪念は一切無用。ただ戦闘狂のこいつを殺す事だけに集中する。

「Allez, riez un peu plus. Tout n'est pas complet si on ne s'amuse pas les uns avec les autres ! Quoi ?(おいおい、もっと笑えよ。お互い楽しくねぇと何事も詰まんねぇだろ!? えぇ!?)」
 
「……うるせぇ口だな。殺す前に使えなくしてやるよ」

 一旦刃をこちら側に滑らせる。その反動で軽く跳び、空中でバク転をしながら下から男の口めがけて横に斬る。だがそれも弾かれ、代わりに赤黒い魔力で刀身が延長された大剣が俺に襲いかかる。

「Oraaaaah !(オラアアアアッ!!!)」
「っ――!」

 腹を斬られる前に必死に身体を捻って剣に攻撃を当てた。先程よりも激しい閃光が公園中を駆け巡る。

「ちっ……くしょおおおお!!!」

 ――こんな所で終わってたまるか。死んでたまるか。宿命なんかに負けてやるものか。運命の固定概念などにひれ伏す訳にはいかない。
 何のために剣を握っている。何のために戦っている。俺は一体何のために……


 ――アカネに生きると誓ったんだ。

「せああああああ!!!!」

 刀身をまとった魔力が勢いを増し、男の大剣を受け流した。そのまま勢いに乗って右斜めに斬り上げる。

「Tu as des démangeaisons. ...... Ce n'est pas comme ça que tu dois être !(へっ、かゆいなぁ……そんなもんかよお前の本気はよおおお!!!!)」

 俺の攻撃にびくともせずに男は大剣を振り上げた。その剣閃に沿って赤黒い衝撃波が避けようとした俺の左頬を浅く斬った。直後、その傷は深く大きくなった。

「っ――!」

 これがあいつの技……断罪之絶刃ディリジメントなのか。対象に触れるだけで切断出来る衝撃波を放つ、あの神器の能力。ちっ、積極的に攻めて隙を無理矢理作るしか突破口は開けなさそうだな。

「おおあああああ!!!」

 頬が痺れるような痛みなんか気にせず、これ以上無いほどの雄叫びを上げながら男の左肩めがけて半円のアーチを描いた。今度はしっかり命中し、振り抜いた直後に大量の血が公園の地に落ちる。

「Ugh ...... Kuha haha ! C'est comme ça que ça devrait être ah !(うぐっ……くはははっ! そうこなくっちゃなああ!!)」

「うぅっ! ……あぁっ!! あらああ!!」

 一撃、また一撃と男の大剣に弾かれながらも必死に剣を振るい続ける。また男も同様だった。
 衝撃波に警戒しながら突進し、少しでも多くダメージを与える。それしかあいつに勝てる術は無い。

「はあああああああああ!!!!」

 俺の剣が残像を残すほどまで速くなった。流石にあの男もここまでの速さにはついていけてないようだ。決めるなら、ここしかない。

 ここに会心の一撃……狂神之天殺ゼノジエイドを叩き込む!!

「おおおああああああああ!!!!!!!」

「Je savais que tu étais mon idole. ......8ki Daheyi Iiiiiiii !!!!(やっぱりお前は俺の憧れだぜ……八岐大蛇イイイイ!!!!)」

 刹那、二つの黒い閃光が眩き、大爆発を起こした。
 この公園にはもう、彼ら以外の何もかもが消え失せていた――
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