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作者: Siranui
残酷な描写あり
第二十二話「『裁き』其の七 〜魔女に落ちる反逆の鉄槌〜」
『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』――


 緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、マリエル、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、ディアンナ

 犠牲者:???


 空はもう言うまでも無い。沈む事を知らない月の下で、反逆者達は『裁き』の刃と戦っている。

「……来るぞっ!!」

 俺が全員に呼びかけた直後、無数の足を連想させるような剣が襲いかかる。

「魔法が通じねぇったら……ここは俺の出番だなああっ!!」
「正義、一人で突っ込むな!!」
「安心しろ黒坊! ここはしっかり食い止めてやらぁ!!」

 正義が大声でそう言い、無数の剣を我が身に引き寄せる。全ての剣の敵意が正義に集中したのを感じ、正義は右手を左腰に差してある刀の柄を掴んだ。

「はぁっ……」

 短く息を吐く。そして魚の群れのように襲いかかる無数の剣が正義の身体を穿つ、その直前に思い切り刀を引き抜く。

「『七剴抜刀しちがいばっとう疾風迅雷しっぷうじんらい』ィィ!!!」

 正義の刀身が青白い軌道を描きながら無数の剣に突進する。まるで巨人の腕をバラバラに斬り刻むかのように、青白い軌道が剣の群れを黒い塵にしていく。

「女の子に剣を向け、傷つけたてめぇの罪は重いぜ?」
「この人間風情ふぜいが!!!」

 しかし、ちりはまた剣に形を変えて正義に襲いかかる。

「くそっ、ドブタコから剣になりやがって! これじゃあたこ刺し出来ねぇだろが!」
「あははっ! 今度はお前がされる番なんだよ!!」

 その言葉通りに無数の剣が一本、また一本と正義の身体を貫く。冷たく、絶望に叩き落されたような恐怖による痛みに歯を食いしばりながら、左手で霊刀を召喚して黒剣の群れに突撃させた。

「ふんっ! たかがこれしきの剣なんて一瞬で塵だよ!!」

 霊刀は呆気なく黒剣の勢いに負け、再び言葉通りに塵となる。黒剣の群れは容赦なく正義の腹部を貫いた。

「がっ……!」

 鮮血がほとばしる。その血は海へと落ちていき、僅かに海の一部を赤く染めた。

「良いねぇ、やっぱ人間はその顔が一番似合うよ! さぁ、君達のも見せてくれないかなあ!?」

 無数の黒剣が群れから分離し、俺達の周囲を囲んだ。まるで王の財宝とも言える数の剣が一斉に大蛇達に襲いかかる。

「お前ら、エレイナ達を守れ!」
「言われなくてもやってやらあ!!」

 俺達が姉妹達の外側に回り込み、襲いかかる剣を弾き飛ばす。

「全員、神器解放エレクトを使え。それ以外に奴を討つ術は無い!」

 無限再生する無数の黒剣を前に、神器解放エレクト無しで全て避ける事など到底無理な話だ。それでもあった所でその可能性を僅かに上げる事しか出来ないが、可能性はあるに越した事は無い。

「「『神器解放エレクト』!!」」

 俺、亜玲澄、トリトン王が同時に唱える。まず俺の霊剣とトリトン王の槍の三叉部分から変化した三匹の竜が、無数の剣を黒い塵にしていく。その後、亜玲澄の神器で塵を夢無ゆめむ化させる。

「へっ、これで奴に集中出来るぜえっ!!」

 周囲に剣が無い今、俺達に貴重なチャンスが生まれた。それを逃さずひたすら叩き込む。

「ふっ……!!」
「ちっ……!」

 トリトン王の槍がアースラの剣を捕らえる。アースラの背後に亜玲澄が剣を頭上から振り降ろす。

「おらあっ!!」
「相変わらず邪魔くさい奴らだねぇ! しつこい男は嫌われるよっ!!」
「てめぇが言えた口かよバーカッ!!」

 いつもの亜玲澄からは想像も出来ない口調で反論し、剣を握る手に更に体重を乗せる。トリトン王の槍と亜玲澄の剣に阻まれ、アースラ本体と思われる剣が軋みだす。

「仕方無いねぇ……、これで終わりにしてあげるよっ!!」

 刹那、アースラの剣から衝撃波が放たれ、トリトン王と亜玲澄は大きく吹き飛ばされる。アースラは再び黒い塵を生成して本体の剣に集まる。塵は徐々に集まっていき、本体の剣も人型へと姿を変えた。

 黒く染まった無数のタコ足と邪悪な笑みを浮かべた顔が再び現れ、漆黒のローブとスカートに身を包み、右手には魔法杖を持っている。正しく『魔女』と言えるその姿からは実に禍々しいオーラを放っていた。

「ついに本性を見せたか、アースラ!」
「これが、アースラの真の姿……」
「でもこれで『海の魔女』っつう二つ名にも納得だぜ! あの時のままじゃただの『色違いの喋るタコ』っつう二つ名に変更するべきだったぜ」

 本性解禁に気を取られている内に、アースラは右手の魔法杖を振り降ろす。途端、杖の先端から小さな火球が横一列に生成されたと同時に迫ってくる。

 姉妹達が障壁を作ろうとするが、火球と俺達との距離的に間に合わない。その距離が残りおよそ一メートルとなった時、俺は亜玲澄とトリトン王に言った。

「……お前ら、10秒あいつを止めろ」
「は……? お前何をする気だ!」
「決まってるだろ。ここで一気にかたをつける」

 そう言ってすぐに俺は海面へと飛び降りた。ふと顔を上げると目の前に横一列に並んだ火球が見え、反射で身体を反らし避ける。だが、それより前にトリトン王が再び波を起こして火球をすべて掻き消した。

「油断はいけないぞ、亜玲澄君!」
「すまねぇ、助かったぜおっさん!」
「誰がおっさんだああ!!」

 トリトン王は亜玲澄に殴りかかろうとするも姉妹達に止められる。

「お父様、そんな事してる場合では無いですよ!」
「そ、そうだったな……。すまぬ、ひとまず大蛇君が来るまでアースラを止めるぞ!!」

 残り九秒――

「させないよっ!!」

 アースラは下に飛ぶ俺に向かって杖の先から氷の刃を生成し、放った。氷は次第に迫ってくる。その前に現れたのはトリトン五姉妹の長女ラミエルだった。

「邪魔はさせませんっ! 『炎舞鳥フレアバード』!」

 ラミエルの両手から火の粉のように舞う小鳥が次第に流星のように迸り、そのまま氷の刃諸共散った。

「人魚風情も邪魔しやがって!!」


 残り六秒――

 ラミエルのサポートのお陰で無事海面に着いた俺は、真っ先に正義の元に向かう。血で海を赤く染める正義の右手の刀に左手を伸ばし、柄を掴んだ。

「……すまない、正義。少しだけ貸してくれ」

 正義からの反応は無いが、左手が少し暖かく感じた。それを今の反応と捉え、すぐに亜玲澄とトリトン王の元へ飛び立つ。

 残り四秒――

「ちっ! これ以上はさせないよっ!!」

 アースラは無数の足と共に魔法杖の先から巨大化させた同じものを生成し、俺に向かって放った。

「させるかよっ……!!」
「亜玲澄君、あの距離では無理があるぞ!」

 アースラとの間合いを徐々に詰めていく俺だが、その間を隔てる無数の足が上から出現し、動きを止める。

「ちっ……!」

 こればかりは受け止めるしかない……と左手の刀と右手の反命剣リベリオンを交差させて受け止めようとした、その時だった。


 突然、ズバズバズバッという音が聞こえ、無数の足はバラバラになった状態で海に沈んだ。

で直接会うのは初めてだな、黒神大蛇」
「なっ……!!」

 どういう意味だ。過去の俺を知っているとでも言うのか。少なくとも俺は目の前に立つこの黒髪の男を知らない。過去に見た記憶もない。

「今はいい。後に話すとしよう。それより『海の魔女』を倒すといこうか」
「……そうさせてもらう!」

 残り一秒――

 俺は白い騎士服に首にマフラーを巻いた青年と共に上空へと飛び立ち、アースラとの間合いを詰める。

「クソッ! こうなったら女だけでもっ……!!」

 アースラは魔法杖を時計回りに回す。するとトリトン王の後ろにいるラミエルを除く三姉妹とエレイナのまた後ろにブラックホールのような異空間ができ、そこから無数の足が姉妹達をまとめて締め付ける。足はそのまま異空間へと引き摺り込み、アースラの足へとワープする。

「「……!!?」」
「あっははは!! 最初からこうするべきだったよ! んじゃあ、ちょっと時間かかったけど……ここからは『裁き』の時間だよっ!!」

「「くっ……!!」」

 姉妹達の全身をアースラのタコ足が締め付ける。四人が密着している状態で締め付けられているからか、より全身が痛い。息が出来ない。そして絶望や恐怖が冷や汗という形で現れる。


 そして、時は満ちた――



 三つの閃光が姉妹達を締め付ける足を斬り裂いた。

「「きゃあああっ!!」」

 姉妹達は一斉に落ちる前にトリトン王が生み出した渦で何とか落下を阻止し、アースラから離した。姉妹達の前には両手に二刀を持った俺と、一本の大剣を片手に持つ黒髪の青年が並んでいた。

「「優羽汰さん……!」」
「桐谷君……!」

 自分の名を呼ぶ姉妹達とトリトン王に優羽汰は振り向いて頷いた。

「待たせたな、お前ら」

 一方で姉妹達まで奪われたアースラは突如現れた二人の青年に怒りを向ける。

「ちょこまかと余計な真似をしやがって……もう容赦しないからねっ!!」

 アースラは魔法杖を真上に思い切り振り上げ、頭上に巨大な魔法陣を生み出した。

「……俺が奴の隙きを作る。その間に叩き込め」
「……了解した」

 簡潔に話し合いを終え、真っ先に優羽汰がアースラとの間合いを詰める。

「チッ、桐谷……! お前の血筋は何処も私の邪魔をする!!」
「先祖達がお世話になってるようだな!」

 優羽汰は純白の大剣を構え、左斜めに斬り上げる。その軌道を読んだアースラは足で剣を掴み、優羽汰を南方の森の中へと投げ飛ばす。

「邪魔なんだよっ!」
「チッ……!」

 優羽汰が投げ飛ばされるのも知らず、右手の杖で魔法陣を描き続ける。

「さあ、終わりの時間だよ……!!」

 巨大な魔法陣から出てきたのは、月を覆い隠す程の光の球だった。アースラは勢い良く魔法杖を振り下ろした。

「星……いや、文明諸共消え去りなっ!!『死天業罪ヴァルフレア』!!!」
「……その前に殺すっ!!」

 巨大な光の球が動き出すより先に俺が両足で思い切り赤い空を蹴った。速度を保ったまま六本の霊剣を飛ばし、アースラの足を左手の刀で斬り飛ばしながら滑空する。

「なっ……!」
「残念だが、滅ぶのはお前が一足早いようだな!」

 また空を蹴っては右手の反命剣リベリオンで背中を左下から斬りあげる。同時に全方向から霊剣がアースラの身体を斬り裂く。

「でけぇ球はもう見飽きたぜ!『白時破象ホワイトレイズ』!!」

 叩き込んでいる間に亜玲澄は禁忌魔法でアースラ及び光の球の動きを止める。

 一秒でも長く、僅かな魔力で時を止める……!!

「……亜玲澄が作ったこの時間は無駄にしない!」

 亜玲澄が作ってくれた数少ない時間で俺はアースラを斬り裂いていく。

「うおおおおおお!!!」

 斬撃は速度を増し、残像が見える程にまで達していた。両手の二刀が描く青白い軌道と赤い紅炎が、禍々しい魔女の身体に容赦無く殺到する。

 四方八方から来る斬撃を全て喰らってもなお、時が止まっているお陰で反撃が出来ない。アースラを縦一直線に左手の刀で斬り上げながら頭上まで飛び、右手の剣を天高く振りかざす。霊剣が消え、刀身がより青白く輝いた。
 
 ――アースラ。これがお前への『復讐』だ――!!


「おおおおあああああ!!!!」

 己の全てをこの一振りに籠める。そして全身をこの剣に乗せる。

 この星を……エレイナを殺されてたまるかという、ただ一心で全身全霊の一撃をアースラに叩き込む。

 青白い光の刃が、軌道を描く度に空を青くした――
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