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作者: Siranui
残酷な描写あり
第二十一話「『裁き』其の六 〜剣を穿つは剣のみ〜」
 『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』――

 緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、マリエル、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、ディアンナ

 犠牲者:???


 空は青く澄む気配が無い。むしろそれを拒んでいるようにも思える。同じように、魔女の『裁き』を拒む者達がそれぞれの思いを抱きながら、『海の魔女』に鉄槌てっついを落とす時なのだ。

「……『海の魔女』アースラ。お前を今、ここで殺す!」
「やれるものなら……やってみなっ!!」

 俺が勢いよく左手の糸を千切ったと同時にアースラは無数の足で襲う。

「皆さん、私の後ろへ!」

 ディアンナが全員に命じ、すぐに後ろにつく。数え切れない程の足に一人で対抗出来るのかという不安もあるが、その不安を吹き飛ばすかのようにディアンナは後ろに振り向いて余裕の笑みを浮かばせた。
 その後意識をアースラに集中させ、ディアンナは両手から風を生成して無数の足を切り刻む。

「『天刃竜風エアロブラスト』!」

 両手から風の刃が螺旋状らせんじょうに広がり、足を輪切りにしていく。すぐに再生されるもすぐに切断される。

「ちっ! 小娘がっ!!」
「皆さん、今のうちです!」

 今が攻め時だと判断し、ディアンナの合図に合わせて俺と亜玲澄、正義がアースラとの間合いを詰める。

「そういや、そこの赤いの! おめぇとは初対面だなぁ! 大蛇の知り合いってか?」
「おうよっ! これでも黒坊と互角に剣交わらせてるんでなっ!!」
「お前ら集中しろ! 攻撃来るぞっ!」

 途端、左からアースラのパンチが飛んでくる。俺は一旦後ろに下がって避けるが、亜玲澄と正義はアースラの左拳を正面から剣で受け止める。

 ガキィィンッという獣の咆哮ほうこうに似た音が二重になって響いた。

「へっ、俺ら随分ずいぶんと似た者同士じゃねぇか!」
「神様にそう言われるとは光栄だぞっとおおっ!!」

 正義の勢いに亜玲澄も合わせ、アースラの左拳を弾き飛ばした。双方が南方に吹き飛ばされる。
 だが先に体制を整えたのはアースラだった。整えてすぐに右手から黒い雷を発生させ、俺達の頭上に雷の雨を降らす。

「『破滅之雷ゲイルスパーク』ゥゥ!!」
「嘘だろっ……!?」

 俺と亜玲澄、更にはトリトン王と後ろにいるエレイナが息を呑んだ。あの技はトリトン王の神器『海穿槍リヴァイアサン』の技だ。つまり、あれは本来トリトン王専用の技なのだ。
 しかし、アースラは神器も無しに素手であの時のトリトン以上の雷を繰り出している。  
 これでも『海の魔女』の二つ名があるだけ当然と言えるが、それにしては同じ技を持つトリトン王よりも遥かに強いのはどういうことか。

 考えて解答を模索もさくしながら赤い空から降ってくる黒い雷を避ける。もちろん後ろにいるエレイナ達にも命中する可能性があるので、守りながらになる。

 その時、トリトン王は右手の海穿槍リヴァイアサンを掲げ、アースラに向けて振り下ろした。

「ここは私に任せろっ!『飛水沫消アトランティス』!!」

 ドドドドッと足元の遥か下の海面から勢いをつけながら津波がアースラの足に襲いかかる。

「ラミエル! 大蛇君達を守れ!!」
「はいっ! 皆さん、こちらに集まってくださいっ!!」

 トリトン王の後ろにいる姉妹達の中からラミエルが両手を広げ、魔法を唱える。その間にトリトン王を除く全員が姉妹達の周りに集まる。

「『反射板リフレクター』!!」

 唱えた瞬間、ラミエルの両手から六角形の物体が次々と俺達を囲むように組み上げられ、一つの大きな障壁を生成した。その直後、トリトン王が起こした津波が障壁を被せるように襲う。

「くっ……!!」
「姉様っ!」

 一人苦しそうに歯を食いしばるラミエルを見て、ウリエルも同じ魔法で障壁を張る。更にマリエル以外の四姉妹全員が障壁を張り、ラミエルの負担を少しでも抑えようとする。

 それでも津波の勢いは凄まじく、四人がかりで何とかなっている状況だ。

 一方でアースラは破滅之雷ゲイルスパークを水平に放ち、津波を止めようとするも、呆気なく津波に呑まれてしまう。

「ぐぅっ……、たかがこれしきっ!!『突脚風咲サイクローム』ッ!!」

 アースラはディアンナに切られた足をすぐに再生させ、津波を巻き取るかのように足をスクリューのように回転させる。津波は足の軌道に合わせ、螺旋状らせんじょうの渦を生み出した。

「トリトンッ! 己の魔力で一生苦しみなっ!!」

 しばらく渦の回転力を上げた後、足の回転力だけで渦を投げ飛ばした。渦は勢いを保ったままトリトン王及び俺達を守る障壁に襲いかかる。

「チッ! アースラめ、流石のずる賢さと言っておこうか!!」

 トリトン王は槍で下から足場の渦を生み出しては尾びれの力で飛び移る。そして障壁の後ろにつく。アースラが生み出した己の渦をこの障壁で押し通す狙いだ。

 しかし、それを打ち破ったのはディアンナであった。

「人魚さん達っ! 私をここから出してくださいっ! この渦は私が止めます!!」
「で、でも……この距離だと皆、巻き込まれちゃう……よ?」

 メディエルのその言葉にディアンナは余裕の笑みを浮かばせながら答えた。

「大丈夫ですっ! これでも私、風神ティアマトなので!!」
「では、時間も残されてないので今から解除しますねっ!! せーのっ!」

 ラミエルの合図の直後、同じタイミングで四枚分の障壁が解除され、中からディアンナが渦の目の前へと姿を現した。すぐに両手を翳し、ある魔法を唱える――


「『斬風烈絶ソニックレイ』ッ!!」

 刹那、渦どころかアースラを巨大な嵐に閉じ込めた。その直後螺旋状らせんじょうに吹き荒らす風の刃が渦をかき消し、アースラの身体を切り裂く。

「ちっ……! 随分ずいぶん厄介だね!!」
『アースラ。お前の制裁はただの傲慢ごうまんによる支配に過ぎない。それを制裁とは呼ばない。代わりに私がお前に下します。『裁き』の鉄槌てっついを!!』

「ふ……ふざけるんじゃないよっ! お前のような神如きがこの私に『裁き』を下せる訳がないんだよっ!!」

『たかが神……ですか。なら、たかが魔女にふんした虫けら如き、その気色の悪い足先から髪の先端までちりも残さず切り裂いてあげます!』

 風がより一層吹く力を増す。アースラの全身も少しずつ確実に切り裂かれていき、鮮血が宙を舞っては風にのって上っていく。

 風神ティアマトの怒り。神以下の存在に見下され、ただ存在を己の支配のために裁かれる。人であろうとも、神であろうとも。
 至極当然しごくとうぜん。神は許すはずが無い。傲慢ごうまんさ故に己以外の存在を見下し、裁き、地獄に叩き落としては世を支配する。神でさえもしない事を魔女如きがするのは到底許されるものではない。
 それがディアンナがアースラに下した『裁き』。絶対に逃さず、永遠にアースラの身体を切り裂く禁忌魔法。
 逃げ道など無い。待つのは今までアースラの傲慢さ故に命を落としたすべての存在からの怨念だけ。死後も容赦なく『海の魔女』は呪われる事だろう。

『本当は渦を掻き消せればそれで良かったのですけどね……運が良かったのか、ここで渦ごとお前の息の根を止められそうです』
「へぇ〜、ならやってみな!『物質豹変マトリフ』!!」

 唱えた刹那、アースラの全身が黒い塵となって分散し、刀状の黒い剣を無数に生み出した。真ん中の長い剣の周囲を無数の同じ長さの剣が囲む形を作り出す。

『なっ……!?』
「あっははは! 一気に形勢逆転だねえ!!」

 もはやアースラとしての原形を失った無数の剣は、嵐など微動びどうだにせずに嵐を斬り裂いた。

『がっ……あああ!!!』
「あっはははは!! あはははははははははははは!!!」

 そして、ディアンナの禁忌魔法は呆気なく黒い刃に斬り裂かれ、元の視界に戻った。ディアンナの全身から大量の血が噴き出す。その勢いのままディアンナは海に落ちる。

「さぁて、これで一人死んだねぇ。次は誰だい?」
「「……!!」」

 アースラが無数の黒い剣に変化している事に全員が息を呑んだ。まるであのタコ足を想像させるような同じ長さの剣に囲まれた一本の大剣。アースラ本体はあの大剣に変化している事が見て分かる。

「霊刀……とは訳が違ぇな。そもそも数が異常だぜ!」

 パッと見て周囲の剣だけで五十は遥かに超えている。とてもこの人数だけでは抑えきれない。

「恐らくあれでディアンナの禁忌を破りやがったなあのバケモン!」
「そんな事が出来るのか」
「俺様も一度同じ禁忌を破ったし、同時にあいつに禁忌を破られた事もある。だが、禁忌諸共もろとも所有者にダメージを与える技なんてものは見た事ねぇ!!」

「なっ……!!」

 たとえ魔法を超越した禁忌魔法にも、大きな抜け道がある。その一つとして『能力除去デスペル』といった対象の能力をリセットする魔法を使えば解除出来る。前に亜玲澄が暴走したディアンナの禁忌魔法を打ち破った『夢無ゆめむ』もその一つである。

 それでも大方の禁忌魔法は、相手の身動きを取れなくするので、余程のが無ければ魔法を唱える事すら出来ない。しかし、あのアースラは自らを剣にする事で禁忌魔法をのだ。

 そうなると、能力除去デスペルでただ禁忌魔法を無効化するのとは違い、禁忌魔法自体にダメージを与える訳になるのでその所有者にもダメージが通る事になる。
 つまり、今のアースラに禁忌魔法は通用するどころか自殺行為に成りかねないという事だ。

「さあ! ここから本当の『裁き』を始めるとしようじゃないか!!」

 アースラは邪悪な笑みを浮かばせるかのように己の切っ先を俺達に向けた。それに続くかのように、無数の剣が突撃を開始した。

「ディアンナをこんな目にさせた分、きっちり返させてもらうぜ、タコ野郎!!」
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