六篇1頁
◆ぱ◆ら◆っ◆
神族。それは、この世界の頂点に立つ一族。母なる世界樹に近しい存在。善なる者達。
しかし、そんな彼等の中に歪な存在が一ついたのです。名をロキ。邪神を冠する者。
彼は神族に嫌われている巨人族の者でしたが、最高神オーディンに力を認められたため神族の仲間入りをすることとなりました。
崇拝する最高神が認めたとしても、気に食わない神族。多くの力自慢の神族が彼に戦いを挑んだものの、ことごとく返り討ちにされてしまいました。彼の炎の力によって。
それからというもの。ほとんどの神族はロキを恐れるようになり、彼を邪神と呼ぶようになったのです。そう、ほんの一部の神族以外は。
最高神オーディン。彼はロキがいれば面白いだろうとしか思っていないので他神族の言葉を聞こうとしません。
雷神トール。彼もロキに一度は敗れましたが、楽しかったからとしつこく試合を申し込むにつれてロキが折れたのです。
光の神バルドル。のちに彼の親友は、初めは他神族と同様にロキの事をよく思っていなかったのですが、彼と話すうちに惹かれていったのです。彼の自由さに。自分を、ただのバルドルとして見る彼に。
と、そんな三神が傍に居ながらも、ロキは悪運が強いのかただ性格が悪いのか、多くの揉め事を起こしていくのです。そんな彼に神族や親友のバルドルさえも頭を抱え、オーディンやトールは笑いながら共に解決し――退屈はしない、それでも少し物足りない日々を彼は過ごしていました。
そんな彼に、ある出会いが訪れます。銀色の髪と瞳を持つ不思議な女性。ロキは彼女に一目惚れしてしまったのです。
女はロキの熱烈な求愛を拒み続けていましたが。
『なぁ。そろそろ名前教えてくれよ』
『……エット、です』
『エット? それって数字の一番目だろ? それが名前?』
女は無言でした。ロキは彼女の影を背負う言葉を感じとったのでしょうか。
『……じゃあさ。シギュン。そう呼んでいい?』
『? なぜ?』
『なんでもいいじゃん。なっ、シギュン。ボクとどっか遊びに行こう!』
シギュン――戒めを緩める者。
ロキからその名前を貰ったその日から、シギュンとロキの世界は変わっていきました。
そうして二人は愛を誓い合い、二つの命を授かりました。兄をナリ妹をナルと名付けられました。
兄妹は邪神の子供だと他神族に疎まれながらも、最高神のはからいにより神族の一員になりました。喧嘩を売ってきた豊穣の兄妹と【ラタトスク捕獲勝負】で友になったり、いない存在のホズと親しくなったり、精霊と氷狼と仲良くなったり……兄妹はロキの子供ですが彼等はよく揉め事に巻き込まれる側のようです。それでも、可笑しく楽しく幸せな日常を友や家族と過ごしていました。
えぇ、ロキもそうです。彼も、愛する妻と愛する子。親愛なる友と過ごすこの幸せな日常を、穏やかに過ごしてきました。
彼が運命の名を知るその日まで。
◆カ◆タ◆ロ◆ウ◆
「あぁ、語ろう。世界の母として」
巨大な大木の、深い深い幹の底。数多の本が地面に散らばっている空間に、銀色の髪を持つ女がいた。
「これから語る神話なるものは。……あの子が、変えようとした運命は」
彼女は持っていたボロボロの本の頁を、振るえる手でゆっくりとめくっていく。
「彼等の、ひと匙の幸せな日常の断片。そして。神々の黄昏という終焉が編纂されるまでの物語だ」
神族。それは、この世界の頂点に立つ一族。母なる世界樹に近しい存在。善なる者達。
しかし、そんな彼等の中に歪な存在が一ついたのです。名をロキ。邪神を冠する者。
彼は神族に嫌われている巨人族の者でしたが、最高神オーディンに力を認められたため神族の仲間入りをすることとなりました。
崇拝する最高神が認めたとしても、気に食わない神族。多くの力自慢の神族が彼に戦いを挑んだものの、ことごとく返り討ちにされてしまいました。彼の炎の力によって。
それからというもの。ほとんどの神族はロキを恐れるようになり、彼を邪神と呼ぶようになったのです。そう、ほんの一部の神族以外は。
最高神オーディン。彼はロキがいれば面白いだろうとしか思っていないので他神族の言葉を聞こうとしません。
雷神トール。彼もロキに一度は敗れましたが、楽しかったからとしつこく試合を申し込むにつれてロキが折れたのです。
光の神バルドル。のちに彼の親友は、初めは他神族と同様にロキの事をよく思っていなかったのですが、彼と話すうちに惹かれていったのです。彼の自由さに。自分を、ただのバルドルとして見る彼に。
と、そんな三神が傍に居ながらも、ロキは悪運が強いのかただ性格が悪いのか、多くの揉め事を起こしていくのです。そんな彼に神族や親友のバルドルさえも頭を抱え、オーディンやトールは笑いながら共に解決し――退屈はしない、それでも少し物足りない日々を彼は過ごしていました。
そんな彼に、ある出会いが訪れます。銀色の髪と瞳を持つ不思議な女性。ロキは彼女に一目惚れしてしまったのです。
女はロキの熱烈な求愛を拒み続けていましたが。
『なぁ。そろそろ名前教えてくれよ』
『……エット、です』
『エット? それって数字の一番目だろ? それが名前?』
女は無言でした。ロキは彼女の影を背負う言葉を感じとったのでしょうか。
『……じゃあさ。シギュン。そう呼んでいい?』
『? なぜ?』
『なんでもいいじゃん。なっ、シギュン。ボクとどっか遊びに行こう!』
シギュン――戒めを緩める者。
ロキからその名前を貰ったその日から、シギュンとロキの世界は変わっていきました。
そうして二人は愛を誓い合い、二つの命を授かりました。兄をナリ妹をナルと名付けられました。
兄妹は邪神の子供だと他神族に疎まれながらも、最高神のはからいにより神族の一員になりました。喧嘩を売ってきた豊穣の兄妹と【ラタトスク捕獲勝負】で友になったり、いない存在のホズと親しくなったり、精霊と氷狼と仲良くなったり……兄妹はロキの子供ですが彼等はよく揉め事に巻き込まれる側のようです。それでも、可笑しく楽しく幸せな日常を友や家族と過ごしていました。
えぇ、ロキもそうです。彼も、愛する妻と愛する子。親愛なる友と過ごすこの幸せな日常を、穏やかに過ごしてきました。
彼が運命の名を知るその日まで。
◆カ◆タ◆ロ◆ウ◆
「あぁ、語ろう。世界の母として」
巨大な大木の、深い深い幹の底。数多の本が地面に散らばっている空間に、銀色の髪を持つ女がいた。
「これから語る神話なるものは。……あの子が、変えようとした運命は」
彼女は持っていたボロボロの本の頁を、振るえる手でゆっくりとめくっていく。
「彼等の、ひと匙の幸せな日常の断片。そして。神々の黄昏という終焉が編纂されるまでの物語だ」