意味のあるバトン その11
「理由はわかったけどよ。俺が行く必要はあるのか」
「当たり前でしょ。一応、対抗戦の責任者なんだから。父さんだって翔くんが出場できなくなったら困るんでしょ」
聞いておきながらなんだが、もう手遅れな雰囲気になっている。それはそうで、もうまもなく望月家へたどり着く。
辺りは一軒家が立ち並ぶ住宅街だ。分譲住宅のそれらは新しい物が多く。記憶の中では殺風景な風景が広がっていた。それが随分と様変わりした。この光景が当たり前の人達もいるというのに、未だに馴染めないのは時代に取り残されてしまったから。そんな後ろ向きな考えを振り払うように歩みを進める。
ほとんどがファミリー層で今後の商店街にとって大事なお客さんも多いと思っている。ほんとはもっとこの周辺の家から来てもらうための商店街を目指さなくてはならないのだ。高級な車も多く、家も大きい。どんな会社に努めていて、どんな風に買い物をしているのか。その買い物候補に商店街は入っているのだろうか。そうなふうに、習慣を想像できないくらいには住んでいる世界が違うような気がしてしまう。
それじゃあ。だめなんだろうな。
頭では分かっている。学だってこのままじゃいけない。古臭いままの商店街じゃなくなってしまう。そう騒ぎ続けて今に至るのだ。そんな自分が親世代と同じ轍を踏みたくはない。
「ちょっと。通り過ぎたってば」
美波を引き離してしまった上に、家を通り過ぎるだなんて情けない。しかし、それを気にしている余裕はない。
「すまん。とりあえず。美波から行くんだろ」
そういう手はずだ。美波と望月くんの話で済むならいい。でもそうならないからこうしてここまできているのだ。よく分からないのだけれど、母に出場を許して貰えない。そういう話なのだから。
美波が緊張しているのか指を震わせながら玄関のチャイムを押す。アポは取ってある。望月くんに行くことを伝えてあった。だから歓迎されないなんて思いもしなかった。
「帰ってください」
玄関を開けてお互いに軽く会釈をして、お互いを認識し合った直後だ。夜だと言うのにちゃんとした格好をしている。身につけている服も高価そう、言葉の強さとも相まって飛び込んできた多すぎる情報で早速気圧されてしまう。
「なんでですか」
それに負けないで聞き返している美波を見て、おお。と声を上げそうになる。
「話すことはありませんから」
「おばさん。なんで翔くんはスケートやっちゃいけないんですか」
「あなたには関係ないでしょ」
取り付く島もないとはこのことだ。なんで怒っているのだ。フィギュアスケートがそんなに嫌いなのだろうか。
「そんなこと言わずに話だけでもさせてください。翔くんだって頑張ってたし、楽しそうでした。それがこんな理由も分わからず、ダメとだけ言われちゃ僕らは諦められるが子どもたちはそうもいかない。ずっと引きずる可能性だってある。子どもにそんな思いをさせたくはないでしょう」
すぐに返してこず、考えているあたり彼女もなにか思い当たるところがあるのだろう。
「あなたは?」
「ああ。失礼しました。海藤美波の父です。娘が息子さんとお付き合いさせていただいているみたいで、それと翔くんが参加しているフィギュアスケート対抗戦を仕切らせていただいています」
「そうですか。息子がお世話になっております。ですが、息子にスケートをやらせることは出来ないので。お帰りいただけますか」
態度は落ち着いたものの、話をする気はないみたいだ。
「母さん」
「出てこないでって言ったでしょ」
扉も向こうに望月くんの姿が見えた。我慢できなくて出てきたのだろうか、その表情は困惑に満ちている。プランはないらしい。出てきたはいいものの固まってしまっている。
「こちらといしては状況がわからないんですよ。順番にいいですかね。翔くん、君はスケートをやりたい。その気持は変わらないんだよな」
「は、はい」
「で、お母さんは。スケートをすることが反対だと。それとも運動自体がですか?」
望月さんは答えない。決まっているのだろうに渋っている。いいたくないのだろうか。
「スケートだよ。やらせたくないのは」
代わりに答えたのは望月くんだ。
「どうして?」
そう問いかけたのは学じゃない。美波だ。
「それは……」
「はあ。わかったわ。玄関で話し続けてもご近所さんに迷惑だし。中に入りませんか?」
望月さんはなにかを諦めたみたいだった。
「当たり前でしょ。一応、対抗戦の責任者なんだから。父さんだって翔くんが出場できなくなったら困るんでしょ」
聞いておきながらなんだが、もう手遅れな雰囲気になっている。それはそうで、もうまもなく望月家へたどり着く。
辺りは一軒家が立ち並ぶ住宅街だ。分譲住宅のそれらは新しい物が多く。記憶の中では殺風景な風景が広がっていた。それが随分と様変わりした。この光景が当たり前の人達もいるというのに、未だに馴染めないのは時代に取り残されてしまったから。そんな後ろ向きな考えを振り払うように歩みを進める。
ほとんどがファミリー層で今後の商店街にとって大事なお客さんも多いと思っている。ほんとはもっとこの周辺の家から来てもらうための商店街を目指さなくてはならないのだ。高級な車も多く、家も大きい。どんな会社に努めていて、どんな風に買い物をしているのか。その買い物候補に商店街は入っているのだろうか。そうなふうに、習慣を想像できないくらいには住んでいる世界が違うような気がしてしまう。
それじゃあ。だめなんだろうな。
頭では分かっている。学だってこのままじゃいけない。古臭いままの商店街じゃなくなってしまう。そう騒ぎ続けて今に至るのだ。そんな自分が親世代と同じ轍を踏みたくはない。
「ちょっと。通り過ぎたってば」
美波を引き離してしまった上に、家を通り過ぎるだなんて情けない。しかし、それを気にしている余裕はない。
「すまん。とりあえず。美波から行くんだろ」
そういう手はずだ。美波と望月くんの話で済むならいい。でもそうならないからこうしてここまできているのだ。よく分からないのだけれど、母に出場を許して貰えない。そういう話なのだから。
美波が緊張しているのか指を震わせながら玄関のチャイムを押す。アポは取ってある。望月くんに行くことを伝えてあった。だから歓迎されないなんて思いもしなかった。
「帰ってください」
玄関を開けてお互いに軽く会釈をして、お互いを認識し合った直後だ。夜だと言うのにちゃんとした格好をしている。身につけている服も高価そう、言葉の強さとも相まって飛び込んできた多すぎる情報で早速気圧されてしまう。
「なんでですか」
それに負けないで聞き返している美波を見て、おお。と声を上げそうになる。
「話すことはありませんから」
「おばさん。なんで翔くんはスケートやっちゃいけないんですか」
「あなたには関係ないでしょ」
取り付く島もないとはこのことだ。なんで怒っているのだ。フィギュアスケートがそんなに嫌いなのだろうか。
「そんなこと言わずに話だけでもさせてください。翔くんだって頑張ってたし、楽しそうでした。それがこんな理由も分わからず、ダメとだけ言われちゃ僕らは諦められるが子どもたちはそうもいかない。ずっと引きずる可能性だってある。子どもにそんな思いをさせたくはないでしょう」
すぐに返してこず、考えているあたり彼女もなにか思い当たるところがあるのだろう。
「あなたは?」
「ああ。失礼しました。海藤美波の父です。娘が息子さんとお付き合いさせていただいているみたいで、それと翔くんが参加しているフィギュアスケート対抗戦を仕切らせていただいています」
「そうですか。息子がお世話になっております。ですが、息子にスケートをやらせることは出来ないので。お帰りいただけますか」
態度は落ち着いたものの、話をする気はないみたいだ。
「母さん」
「出てこないでって言ったでしょ」
扉も向こうに望月くんの姿が見えた。我慢できなくて出てきたのだろうか、その表情は困惑に満ちている。プランはないらしい。出てきたはいいものの固まってしまっている。
「こちらといしては状況がわからないんですよ。順番にいいですかね。翔くん、君はスケートをやりたい。その気持は変わらないんだよな」
「は、はい」
「で、お母さんは。スケートをすることが反対だと。それとも運動自体がですか?」
望月さんは答えない。決まっているのだろうに渋っている。いいたくないのだろうか。
「スケートだよ。やらせたくないのは」
代わりに答えたのは望月くんだ。
「どうして?」
そう問いかけたのは学じゃない。美波だ。
「それは……」
「はあ。わかったわ。玄関で話し続けてもご近所さんに迷惑だし。中に入りませんか?」
望月さんはなにかを諦めたみたいだった。