残酷な描写あり
第五幕 10 『婚約者対決』
私とリュシアンさんの対戦が終わって、次はルシェーラとリュシアンさんが対戦する事になった。
婚約者対決(物理)だね。
「リュシアン様、連戦でも大丈夫ですの?」
「ええ、大丈夫ですよ。カティアさんとの対戦はそれほど時間が掛からずに引き分けになりましたので」
そうだね、内容は濃かったと思うけど時間はそれほどかかっていない。
私もまだまだ余力があるし、もう何戦かはできそうだ。
「ルシェーラ、あなたが腕を上げたのは分かりますが…どれほどのものか見せてもらいますよ」
「はいっ!」
…本当に嬉しそうだね。
ちょっと普通の婚約者同士とは違う感じだよね、この二人って。
そして、二人は対峙する。
先程の私の対戦と同じく、両者ともに長柄武器。
リュシアンさんは先程と同じ槍、ルシェーラもいつもと同じく槍戦斧だ。
針の穴をも通す正確さと、雷光の如き速さのリュシアンさんの槍。
何もかも薙ぎ払うパワーで振るわれるルシェーラの槍戦斧。
スピード対パワーの図式か。
「リュシアン様、また合図をしましょうか?」
「いいのですか?あなたも修練があるでしょう?」
「いえ、見取り稽古というやつですよ。高レベルの戦いを見れるのは、我らにとっても得難い経験です」
「そうですね…では、お願いできますか?」
「はい、お任せください」
ということで、先程に引き続いて審判(?)はラスティンさんが行うようだ。
ルシェーラの実力も疑ってないみたい。
実際、彼女はランクこそDだが、そのランク以上の実力を持っている。
リュシアンさんはそれほど差はないと言っていたが、私の見立てではまだリュシアンさんの方が数段上と見た。
だが、ルシェーラに全く勝ち目が無いわけではない。
相手の攻撃ごと飲み込みそうな槍戦斧の一撃はリュシアンさんにとっても脅威となるだろう。
「それでは…準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「大丈夫ですわ」
リュシアンさんは先程と同じく中段の構え、ルシェーラは…すぐに振りかぶれるようにか、八相の構えに近い感じだ。
「では……始め!」
開始の合図と同時にルシェーラが飛び出し、上段から斜めに切り下ろす!
リュシアンさんはそれを後方に引いてギリギリで避け、カウンターの突きを…と思いきや、ルシェーラは更に一歩踏み込んで先に突きを放つ!
それも身体を捻って躱しながら今度こそカウンターを放つ。
2連撃の直後で一瞬硬直しているところを狙われて一撃が入りそうになったが、ルシェーラもギリギリでこれを躱す。
ここで間合いを取ることはせずに、ルシェーラは更に畳み掛けるように前へ前へと踏み込んで攻撃を繰り出していく。
リュシアンさんは随所でカウンターを放つが、非常にやりにくそうだ。
「うわ〜…ルシェーラちゃん、超攻撃的だね〜。兄さんが防戦一方だよ?」
「間合いを制して一方的に攻撃するのが槍の理想形だろうからね。ああやって無理矢理前に来られるとやりにくいかも。でも、あの速さの槍を前にして躊躇いなく突っ込んでくとか…度胸があると言うか、無鉄砲と言うか…」
「カティアとの対戦を見ての判断だろうな。理にはかなってると思うぞ。持ち手も短くして間合いを詰める前提で動いてる。離されれば再び長めに持ち替えて遠心力を乗せた薙ぎ払いや突き…臨機応変で相当な戦闘センスだな」
「あ、解説ど〜もです。いや〜、でも、カティアの時も思ったけど…カッコいいね〜。私も何か習っておけばよかったなぁ…」
「今からでも遅くないんじゃない?護身術程度でもできた方がいいと思うし」
「う〜ん、そうだね……あ!そうだ!カティアが教えてよ!」
「え?私?」
「そうそう。私も王都行くし、暇なときでいいから。…なんならカティアも『学園』入ろ〜よ?」
ここでも『学園』かぁ…
でも、レティやルシェーラと一緒に学生生活ってのも楽しそうだ。
だけど、一座の仕事もしたいし、異界の魂や黒神教の事もあるから…そんな時間があるのだろうか?
一先ず、レティには考えておく、とだけ答えた。
「そろそろ状況が動きそうだぞ」
と、カイトの言葉で再び二人の対戦に注目する。
これまではルシェーラが一方的に攻撃する展開で、リュシアンさんは防戦一方に見え、実際やりにくそうにはしていたが…その実、まだまだ余裕はあると私は見ていた。
そして、その予想を証明するかのように、ついにリュシアンさんが攻撃に転じる。
ルシェーラが足元を狙って薙払ってきた槍戦斧の戦斧の部分を…なんと石突で地面に叩き落とした!?
そしてその流れのまま、まるで面を打つようにして上段から槍を振り下ろす!
ビュォッ!
「!?」
間一髪ルシェーラはそれを避けるが、リュシアンさんはここが好機とばかりに、鋭い風切り音をさせて大きく槍を振り回す!
まるで先程までのルシェーラの攻撃に倣うかのように…しかし、そのスピードは更に速い連撃がルシェーラを襲う!
「くっ…はっ!」
何とか躱し、防ぎ、反撃を試みるものの、怒涛の勢いに飲み込まれそうになる。
そして、嵐のような連撃を辛うじて防いでようやく慣れてきたと思った頃合い…
「シッ!!」
ヒュォッ!
これまでの荒々しい槍の乱れ打ちとは異なる、精緻で鋭い神速の突きが放たれ…
ピタッ、とルシェーラの喉元に突きつけられた。
「……ま、参りましたわ」
突きつけられた槍を悔しそうに見ながら、ルシェーラが降参する。
「驚きましたよ、ルシェーラ。ここまで腕を上げているとは思いませんでした」
「うう…でも悔しいですわ。もう少しやれると思いましたのに」
「何を言ってるのですか。あなたはまだ若いのです。今の時点でこれだけ出来るのなら、私などすぐ超えられますよ」
「…そうでしょうか?それに、カティアさんには本気だったのに、私のときはまだまだ余力がありそうでしたわ」
ぷく〜。
あ、ほっぺ突っつきたい。
まあ、攻撃の組み立てという点では、経験の差が出たのかな?
リュシアンさんの突きの一撃は、予備動作を極力廃し最短最速で繰り出される…剣で言えば無拍子といったところだ。
ただでさえ視認しづらく避けにくいのに、大振りの乱撃に目を慣らされたところでのあの一撃…避けるのは至難だろう。
あれをされたら私でも対処できたかどうか…
ともかく、婚約者同士の対戦はリュシアンさんに軍配が上がったのだった。
婚約者対決(物理)だね。
「リュシアン様、連戦でも大丈夫ですの?」
「ええ、大丈夫ですよ。カティアさんとの対戦はそれほど時間が掛からずに引き分けになりましたので」
そうだね、内容は濃かったと思うけど時間はそれほどかかっていない。
私もまだまだ余力があるし、もう何戦かはできそうだ。
「ルシェーラ、あなたが腕を上げたのは分かりますが…どれほどのものか見せてもらいますよ」
「はいっ!」
…本当に嬉しそうだね。
ちょっと普通の婚約者同士とは違う感じだよね、この二人って。
そして、二人は対峙する。
先程の私の対戦と同じく、両者ともに長柄武器。
リュシアンさんは先程と同じ槍、ルシェーラもいつもと同じく槍戦斧だ。
針の穴をも通す正確さと、雷光の如き速さのリュシアンさんの槍。
何もかも薙ぎ払うパワーで振るわれるルシェーラの槍戦斧。
スピード対パワーの図式か。
「リュシアン様、また合図をしましょうか?」
「いいのですか?あなたも修練があるでしょう?」
「いえ、見取り稽古というやつですよ。高レベルの戦いを見れるのは、我らにとっても得難い経験です」
「そうですね…では、お願いできますか?」
「はい、お任せください」
ということで、先程に引き続いて審判(?)はラスティンさんが行うようだ。
ルシェーラの実力も疑ってないみたい。
実際、彼女はランクこそDだが、そのランク以上の実力を持っている。
リュシアンさんはそれほど差はないと言っていたが、私の見立てではまだリュシアンさんの方が数段上と見た。
だが、ルシェーラに全く勝ち目が無いわけではない。
相手の攻撃ごと飲み込みそうな槍戦斧の一撃はリュシアンさんにとっても脅威となるだろう。
「それでは…準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「大丈夫ですわ」
リュシアンさんは先程と同じく中段の構え、ルシェーラは…すぐに振りかぶれるようにか、八相の構えに近い感じだ。
「では……始め!」
開始の合図と同時にルシェーラが飛び出し、上段から斜めに切り下ろす!
リュシアンさんはそれを後方に引いてギリギリで避け、カウンターの突きを…と思いきや、ルシェーラは更に一歩踏み込んで先に突きを放つ!
それも身体を捻って躱しながら今度こそカウンターを放つ。
2連撃の直後で一瞬硬直しているところを狙われて一撃が入りそうになったが、ルシェーラもギリギリでこれを躱す。
ここで間合いを取ることはせずに、ルシェーラは更に畳み掛けるように前へ前へと踏み込んで攻撃を繰り出していく。
リュシアンさんは随所でカウンターを放つが、非常にやりにくそうだ。
「うわ〜…ルシェーラちゃん、超攻撃的だね〜。兄さんが防戦一方だよ?」
「間合いを制して一方的に攻撃するのが槍の理想形だろうからね。ああやって無理矢理前に来られるとやりにくいかも。でも、あの速さの槍を前にして躊躇いなく突っ込んでくとか…度胸があると言うか、無鉄砲と言うか…」
「カティアとの対戦を見ての判断だろうな。理にはかなってると思うぞ。持ち手も短くして間合いを詰める前提で動いてる。離されれば再び長めに持ち替えて遠心力を乗せた薙ぎ払いや突き…臨機応変で相当な戦闘センスだな」
「あ、解説ど〜もです。いや〜、でも、カティアの時も思ったけど…カッコいいね〜。私も何か習っておけばよかったなぁ…」
「今からでも遅くないんじゃない?護身術程度でもできた方がいいと思うし」
「う〜ん、そうだね……あ!そうだ!カティアが教えてよ!」
「え?私?」
「そうそう。私も王都行くし、暇なときでいいから。…なんならカティアも『学園』入ろ〜よ?」
ここでも『学園』かぁ…
でも、レティやルシェーラと一緒に学生生活ってのも楽しそうだ。
だけど、一座の仕事もしたいし、異界の魂や黒神教の事もあるから…そんな時間があるのだろうか?
一先ず、レティには考えておく、とだけ答えた。
「そろそろ状況が動きそうだぞ」
と、カイトの言葉で再び二人の対戦に注目する。
これまではルシェーラが一方的に攻撃する展開で、リュシアンさんは防戦一方に見え、実際やりにくそうにはしていたが…その実、まだまだ余裕はあると私は見ていた。
そして、その予想を証明するかのように、ついにリュシアンさんが攻撃に転じる。
ルシェーラが足元を狙って薙払ってきた槍戦斧の戦斧の部分を…なんと石突で地面に叩き落とした!?
そしてその流れのまま、まるで面を打つようにして上段から槍を振り下ろす!
ビュォッ!
「!?」
間一髪ルシェーラはそれを避けるが、リュシアンさんはここが好機とばかりに、鋭い風切り音をさせて大きく槍を振り回す!
まるで先程までのルシェーラの攻撃に倣うかのように…しかし、そのスピードは更に速い連撃がルシェーラを襲う!
「くっ…はっ!」
何とか躱し、防ぎ、反撃を試みるものの、怒涛の勢いに飲み込まれそうになる。
そして、嵐のような連撃を辛うじて防いでようやく慣れてきたと思った頃合い…
「シッ!!」
ヒュォッ!
これまでの荒々しい槍の乱れ打ちとは異なる、精緻で鋭い神速の突きが放たれ…
ピタッ、とルシェーラの喉元に突きつけられた。
「……ま、参りましたわ」
突きつけられた槍を悔しそうに見ながら、ルシェーラが降参する。
「驚きましたよ、ルシェーラ。ここまで腕を上げているとは思いませんでした」
「うう…でも悔しいですわ。もう少しやれると思いましたのに」
「何を言ってるのですか。あなたはまだ若いのです。今の時点でこれだけ出来るのなら、私などすぐ超えられますよ」
「…そうでしょうか?それに、カティアさんには本気だったのに、私のときはまだまだ余力がありそうでしたわ」
ぷく〜。
あ、ほっぺ突っつきたい。
まあ、攻撃の組み立てという点では、経験の差が出たのかな?
リュシアンさんの突きの一撃は、予備動作を極力廃し最短最速で繰り出される…剣で言えば無拍子といったところだ。
ただでさえ視認しづらく避けにくいのに、大振りの乱撃に目を慣らされたところでのあの一撃…避けるのは至難だろう。
あれをされたら私でも対処できたかどうか…
ともかく、婚約者同士の対戦はリュシアンさんに軍配が上がったのだった。