残酷な描写あり
第五幕 8 『鍛錬場にて』
昨夜はレティとお喋りして夜ふかししてしまったが、思いのほか朝はスッキリと起きることができた。
なんと言ってもベッドが極上だったよ。
まるで雲の上で眠っているかのようだった、とは言いすぎだろうか。
それくらい寝心地が良かったのだ。
「ふわぁ~…うにゅ……ママ、おはよう!」
ミーティアもぐっすり眠れたらしく元気に朝の挨拶をする。
まあ、この子はいつもバッチリ快眠なのだが。
「おはよ~、ミーティア。今日もよく眠れたみたいだね」
「うん!大きなベッドできもちよかったよ!」
と、私達が起きた気配を察したのであろうか、扉がノックされる。
「おはようございます、カティアさま。朝のお支度をお手伝いさせて頂きたいのですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、いいですよ」
私が返事をすると、数人のメイドさんたちが入ってきた。
流石に昨日の晩餐前の時ほどの人数はいない。
今日は神殿を訪問して、それからそのまま出発の予定だ。
なので、昨日洗濯してもらうために預けていた旅装に着替えるのだが…流石にこれは自分で着替えるよ。
メイドさんには髪を整えてもらったり、ミーティアの面倒を見てもらったりした。
身支度を整えたら朝食のため食堂に向かう。
「おはようございます」
「おはようございます、カティア様。昨日はよく眠れましたか?」
「はい!お部屋も凄く快適でした」
既に食堂にいらっしゃった公爵様ご夫妻と朝の挨拶を交わす。
他の皆もそう間をおかず集まってきた。
「あふ…おはよう…ございます…」
最後にレティがやってきたが、もの凄く眠そうだ。
これはやはり…あのあと徹夜したな?
「レティシア、行儀が悪いですよ」
「ごめん…なさい…ふぁ…」
奥様に嗜められても欠伸はどうにも止められないようだ。
「レティ、あなたあのあと徹夜したんでしょう?」
「あ…カティア…おはよー…2時間くらいは…眠れたよ…」
「殆ど徹夜じゃない…もう」
「カティアのおかげで…何とか計画…できそうだよ…ありが…Zzz」
「あ!こら!こんなとこで寝ちゃダメだって!」
「はっ!?」
まったく…
私が苦笑いしていると、ルシェーラが不思議そうに聞いてきた。
「カティアさん?随分レティシアさんと仲良くなったのですわね?」
「うん、昨日の夜にね、私の部屋でお話してたんだけど…かなり気が合ったんだよね」
「ふ~ん、そうなんですの…私も呼んで欲しかったですわ」
あ、ちょっと拗ねてる。
ルシェーラも結構打ち解けてきたから、かなり素を出すようになったね。
「あ~、ごめんねルシェーラちゃん。もう、かなり夜遅かったからね~。…それに、ルシェーラちゃんは、兄さんとよろしくやってたんでしょ?」
「…何だかいかがわしい感じに聞こえますが。サロンでお話してただけですわよ」
「レティ、誤解を与えるような言い方はやめなさい」
レティのからかい気味の言葉にも冷静に返す二人。
ふむ…見習いたいね。
まあ、リュシアンさんは良識ある人だと思うし、未成年に手を出したりはしないでしょ…多分。
「で、カティア、今日は神殿に行くんだっけか?」
と、皆で朝食をとっているとき、父さんが聞いてきた。
「うん。でも、まだちょっと時間が早いね」
「カティアさん、手合わせは?」
ああ、そういえばリュシアンさんと約束してたね。
神殿はまだ早いし、丁度いいかな?
「そうだったね。リュシアンさん、お時間は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。では、朝食が済みましたら鍛錬場に行きましょうか」
「はい、お願いします!」
朝食を終えて早速鍛錬場に向かう。
鍛錬場は公爵邸の敷地の外れの方にあるが、領軍の兵や公爵家の私兵が訓練を行う場でもあるらしい。
鍛錬場に向かってるのは私、カイト、ミーティア、ルシェーラ、リュシアンさん、そして何故かレティだ。
父さんは一座の皆と合流するって。
「レティ、大丈夫なの?寝てたほうが良かったんじゃあ…?」
小声でレティに確認する。
「アハハハ…大丈夫大丈夫。ご飯食べたら目が覚めたよ。徹夜は慣れてるし」
「もう…体を壊すよ?…レティも訓練するの?手合わせする?」
「あ~、私は魔法は得意だけど剣とかはちょっとね…単純にカティアの腕前に興味があっただけ。ふふ、転生チートが見られるかな?」
「ん~、多少は転生の特典みたいなものはあったけど、殆ど素の私の能力だよ」
かなり恩恵はあるけど、チートって言うほどじゃないと思うよ…多分。
「レティは魔法が得意なんだね」
「うん。こう見えて、宮廷魔導師並みって言われてるよ。鉄道の開発にも結構魔法の知識が役に立つし」
「宮廷魔導師並み…あなたこそチートじゃない」
「何言ってるの。あなたも魔法得意でしょ。星光の歌姫の名は私も聞いてるよ?」
「だ~!?その名前は呼ばないで!」
「あれ?気に入ってないの?…ははぁ、厨ニっぽくて嫌だってこと?」
「う、うん」
「いいじゃないの。冒険者もやってるなら名前売ってなんぼでしょ。大体、魔法の詠唱だって結構それっぽいじゃない」
「魔法は魔法語だから気にならないんだよ」
「はぁ…そういうものなの?」
「そういうものだよ」
そうして鍛錬場にやってきたが、朝早いにも関わらず既に結構な人数が訓練を行っていた。
「リュシアン様!おはようございます!」
私達が姿を見せると…と言うか、リュシアンさんに気が付いた何人かがこちらにやって来て挨拶してくる。
その声で他の人たちも気がついたらしく、皆手を止めてこちらに来ようとするが、リュシアンさんがそれを手で制して言う。
「ああ、皆邪魔してすまないね。そのまま続けてくれて構わないよ」
リュシアンさんにそう言われたため、こちらには来ないものの敬礼や黙礼して皆敬意を払うのは忘れない。
かなり慕われているみたいだ。
「リュシアン様、もしかしてこちらで訓練をされるのですか?」
近くまで来ていた兵士の人…兵装が立派で階級が高そうに見える…が、そう聞いてくる。
「ええ。こちらの方々と手合わせを、と思いまして」
「なるほど。…まさか、そちらのお嬢様方もですか?」
「はい、今回リュシアンさんにはお付き合い頂きまして…」
そう私が答えると、彼は何だか不機嫌そうな感じに眉をひそめる。
「…失礼ですが。ここは貴族のお嬢様が来るようなところではありません。お遊び気分で怪我でもされたら我々が迷惑です」
…ピキッ。
笑顔がひきつるのを感じた。
「ラスティン!!無礼ですよ!彼女に謝りなさい!!」
「リュシアン様。私は間違ったことは申しておりません」
「いえ、彼女は…」
「いいですよ、リュシアンさん。要するに、私の実力をその人に見せれば良いのでしょう?…しかし、リュシアンさんには申し訳ないのですが、見た目で侮って相手の実力も見抜けないなんて…練度が心配になりますね?」
「なんだと!?」
「図星を指されて怒るくらいなら最初から言わなければいいんですよ。ほら、相手してあげますからかかってきなさい」
「はあ……仕方ありません。ラスティン、彼女の実力はその目で確認しなさい」
「あちゃあ…ブチ切れだねぇ…煽る煽る」
「カティアさんって、意外と沸点が低いんですのね…」
「…ギルドでも売られた喧嘩は買っていたからな(…俺の代わりに)」
「止めなくていいのですか?」
「まぁ、大丈夫だろう。ああ見えてもやり過ぎることは無いだろうし…それに俺も腹が立ったからな。あいつは一度痛い目を見たほうがいいだろう」
「…あら。冷静なようでいてこっちもキレてましたか」
「ルシェーラちゃんは怒らないんだ」
「まあ、彼の気持ちもわかりますからね。今回は相手が悪かったですけど、それは自己責任ですわ」
「…ママ、そんなに怒ってないと思うよ?」
と言うことで急遽対戦することになったが、別に言動ほどキレてるわけじゃない。
何か外野が色々言ってるけど…
いや、もちろん腹は立ったけど彼の立場的には忠告せずにはいられなかったのだろうとも思ってる。
でも、それでこっちが引く必要はないからね。
冒険者稼業なんてやってると舐められないように実力を示さなければならない時もあるし、今回もそう言うことだろう。
鍛錬場の備品の木剣を借りて開始の合図を待つ。
ああ、そう言えば…せっかくディザール様に稽古をつけてもらったので長刀…は無いからグレイブにしようとも思ったんだけど、相手が剣だったので合わせている。
同じ条件にしないと、後でゴチャゴチャ言われても面倒だからね。
「…怪我をしても知りませんよ?」
幾分冷静になったらしく念押ししてくる。
う~ん、本気になってもらわないと煽った意味がないなぁ…
手っ取り早く周りの人たちにも私の実力を知らしめるために、そうしたのだから。
…ちょっと私、調子にのってるのかなぁ?
でも、この人たちも武人なんだから、きっと実力を示せば認めてくれるよね。
と言うことで、本気を出してもらうためにもう少し煽ります。
「気にしないで良いですよ。あなたの剣が触れることはないと思うので」
「!…分かりました。そこまで言われるなら手加減しませんよ(あとで吠え面かくなよ…!)」
「二人とも準備は良いですか?……良いみたいですね。では、始め!」
リュシアンさんの合図がかかるが、今回は直ぐに飛び出したりはしない。
父さんやカイトほど強者の雰囲気を感じないし、速攻を仕掛けたら直ぐに終わってしまうかもしれない。
それじゃあ意味がない。
「あら、突貫しないんですのね」
「本当だな。いつもは取り敢えず突っ込んでいくのに」
…いや、別にいつも突っ込んでるわけじゃないでしょ。
私をイノシシかなんかと思ってない?
と、私が待ち受けているとラスティンさん…だっけ?が攻撃をしかけてきた。
「はあっ!!」
気合と共に振り下ろす斬撃は結構鋭い。
やはりこの中では実力者であろうことが伺える。
カッ!
だが、私はまともにそれを受け止めることはせず、刀身を滑るようにして受け流す。
受け流された相手の剣は勢い余って地面に…と思った矢先に反転して切り返して来た!
「せぇいっ!!」
カンッ!
しかし、それも危なげなく弾き返した。
よし、反撃させてもらうよ!
「はっ!!ふっ!せいっ!!」
カッ!カッ!カン!
相手の攻撃直後を狙って細かく連撃を見舞っていく。
「くっ…!」
かろうじて防いでいるようだが、その表情に余裕は見られない。
「ツェイッ!!」
ビュン!!
おっと、私の連撃の間に無理矢理反撃してきた。
やるね。
しかし、私はそれを軽く身体をひねって躱す。
避けながらも攻撃の手は緩めず、軽く当てるだけだった攻撃を徐々に重くしていく。
「ぐっ…!お、重い!?」
「まだまだですよ」
ガッ!ガッ!ガンッ!!
「ぐっ!くっ!…くあっ!」
ガキィッ!!
ついに耐えきれなくなって剣を取り落としたところ、ピタッと首筋に剣を当てる。
「そこまで!勝者カティア!」
リュシアンさんの宣言を聞いて私は剣を引く。
うん、勝ったね。
これで彼らに私の実力は認めてもらえたかな?
なんと言ってもベッドが極上だったよ。
まるで雲の上で眠っているかのようだった、とは言いすぎだろうか。
それくらい寝心地が良かったのだ。
「ふわぁ~…うにゅ……ママ、おはよう!」
ミーティアもぐっすり眠れたらしく元気に朝の挨拶をする。
まあ、この子はいつもバッチリ快眠なのだが。
「おはよ~、ミーティア。今日もよく眠れたみたいだね」
「うん!大きなベッドできもちよかったよ!」
と、私達が起きた気配を察したのであろうか、扉がノックされる。
「おはようございます、カティアさま。朝のお支度をお手伝いさせて頂きたいのですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、いいですよ」
私が返事をすると、数人のメイドさんたちが入ってきた。
流石に昨日の晩餐前の時ほどの人数はいない。
今日は神殿を訪問して、それからそのまま出発の予定だ。
なので、昨日洗濯してもらうために預けていた旅装に着替えるのだが…流石にこれは自分で着替えるよ。
メイドさんには髪を整えてもらったり、ミーティアの面倒を見てもらったりした。
身支度を整えたら朝食のため食堂に向かう。
「おはようございます」
「おはようございます、カティア様。昨日はよく眠れましたか?」
「はい!お部屋も凄く快適でした」
既に食堂にいらっしゃった公爵様ご夫妻と朝の挨拶を交わす。
他の皆もそう間をおかず集まってきた。
「あふ…おはよう…ございます…」
最後にレティがやってきたが、もの凄く眠そうだ。
これはやはり…あのあと徹夜したな?
「レティシア、行儀が悪いですよ」
「ごめん…なさい…ふぁ…」
奥様に嗜められても欠伸はどうにも止められないようだ。
「レティ、あなたあのあと徹夜したんでしょう?」
「あ…カティア…おはよー…2時間くらいは…眠れたよ…」
「殆ど徹夜じゃない…もう」
「カティアのおかげで…何とか計画…できそうだよ…ありが…Zzz」
「あ!こら!こんなとこで寝ちゃダメだって!」
「はっ!?」
まったく…
私が苦笑いしていると、ルシェーラが不思議そうに聞いてきた。
「カティアさん?随分レティシアさんと仲良くなったのですわね?」
「うん、昨日の夜にね、私の部屋でお話してたんだけど…かなり気が合ったんだよね」
「ふ~ん、そうなんですの…私も呼んで欲しかったですわ」
あ、ちょっと拗ねてる。
ルシェーラも結構打ち解けてきたから、かなり素を出すようになったね。
「あ~、ごめんねルシェーラちゃん。もう、かなり夜遅かったからね~。…それに、ルシェーラちゃんは、兄さんとよろしくやってたんでしょ?」
「…何だかいかがわしい感じに聞こえますが。サロンでお話してただけですわよ」
「レティ、誤解を与えるような言い方はやめなさい」
レティのからかい気味の言葉にも冷静に返す二人。
ふむ…見習いたいね。
まあ、リュシアンさんは良識ある人だと思うし、未成年に手を出したりはしないでしょ…多分。
「で、カティア、今日は神殿に行くんだっけか?」
と、皆で朝食をとっているとき、父さんが聞いてきた。
「うん。でも、まだちょっと時間が早いね」
「カティアさん、手合わせは?」
ああ、そういえばリュシアンさんと約束してたね。
神殿はまだ早いし、丁度いいかな?
「そうだったね。リュシアンさん、お時間は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。では、朝食が済みましたら鍛錬場に行きましょうか」
「はい、お願いします!」
朝食を終えて早速鍛錬場に向かう。
鍛錬場は公爵邸の敷地の外れの方にあるが、領軍の兵や公爵家の私兵が訓練を行う場でもあるらしい。
鍛錬場に向かってるのは私、カイト、ミーティア、ルシェーラ、リュシアンさん、そして何故かレティだ。
父さんは一座の皆と合流するって。
「レティ、大丈夫なの?寝てたほうが良かったんじゃあ…?」
小声でレティに確認する。
「アハハハ…大丈夫大丈夫。ご飯食べたら目が覚めたよ。徹夜は慣れてるし」
「もう…体を壊すよ?…レティも訓練するの?手合わせする?」
「あ~、私は魔法は得意だけど剣とかはちょっとね…単純にカティアの腕前に興味があっただけ。ふふ、転生チートが見られるかな?」
「ん~、多少は転生の特典みたいなものはあったけど、殆ど素の私の能力だよ」
かなり恩恵はあるけど、チートって言うほどじゃないと思うよ…多分。
「レティは魔法が得意なんだね」
「うん。こう見えて、宮廷魔導師並みって言われてるよ。鉄道の開発にも結構魔法の知識が役に立つし」
「宮廷魔導師並み…あなたこそチートじゃない」
「何言ってるの。あなたも魔法得意でしょ。星光の歌姫の名は私も聞いてるよ?」
「だ~!?その名前は呼ばないで!」
「あれ?気に入ってないの?…ははぁ、厨ニっぽくて嫌だってこと?」
「う、うん」
「いいじゃないの。冒険者もやってるなら名前売ってなんぼでしょ。大体、魔法の詠唱だって結構それっぽいじゃない」
「魔法は魔法語だから気にならないんだよ」
「はぁ…そういうものなの?」
「そういうものだよ」
そうして鍛錬場にやってきたが、朝早いにも関わらず既に結構な人数が訓練を行っていた。
「リュシアン様!おはようございます!」
私達が姿を見せると…と言うか、リュシアンさんに気が付いた何人かがこちらにやって来て挨拶してくる。
その声で他の人たちも気がついたらしく、皆手を止めてこちらに来ようとするが、リュシアンさんがそれを手で制して言う。
「ああ、皆邪魔してすまないね。そのまま続けてくれて構わないよ」
リュシアンさんにそう言われたため、こちらには来ないものの敬礼や黙礼して皆敬意を払うのは忘れない。
かなり慕われているみたいだ。
「リュシアン様、もしかしてこちらで訓練をされるのですか?」
近くまで来ていた兵士の人…兵装が立派で階級が高そうに見える…が、そう聞いてくる。
「ええ。こちらの方々と手合わせを、と思いまして」
「なるほど。…まさか、そちらのお嬢様方もですか?」
「はい、今回リュシアンさんにはお付き合い頂きまして…」
そう私が答えると、彼は何だか不機嫌そうな感じに眉をひそめる。
「…失礼ですが。ここは貴族のお嬢様が来るようなところではありません。お遊び気分で怪我でもされたら我々が迷惑です」
…ピキッ。
笑顔がひきつるのを感じた。
「ラスティン!!無礼ですよ!彼女に謝りなさい!!」
「リュシアン様。私は間違ったことは申しておりません」
「いえ、彼女は…」
「いいですよ、リュシアンさん。要するに、私の実力をその人に見せれば良いのでしょう?…しかし、リュシアンさんには申し訳ないのですが、見た目で侮って相手の実力も見抜けないなんて…練度が心配になりますね?」
「なんだと!?」
「図星を指されて怒るくらいなら最初から言わなければいいんですよ。ほら、相手してあげますからかかってきなさい」
「はあ……仕方ありません。ラスティン、彼女の実力はその目で確認しなさい」
「あちゃあ…ブチ切れだねぇ…煽る煽る」
「カティアさんって、意外と沸点が低いんですのね…」
「…ギルドでも売られた喧嘩は買っていたからな(…俺の代わりに)」
「止めなくていいのですか?」
「まぁ、大丈夫だろう。ああ見えてもやり過ぎることは無いだろうし…それに俺も腹が立ったからな。あいつは一度痛い目を見たほうがいいだろう」
「…あら。冷静なようでいてこっちもキレてましたか」
「ルシェーラちゃんは怒らないんだ」
「まあ、彼の気持ちもわかりますからね。今回は相手が悪かったですけど、それは自己責任ですわ」
「…ママ、そんなに怒ってないと思うよ?」
と言うことで急遽対戦することになったが、別に言動ほどキレてるわけじゃない。
何か外野が色々言ってるけど…
いや、もちろん腹は立ったけど彼の立場的には忠告せずにはいられなかったのだろうとも思ってる。
でも、それでこっちが引く必要はないからね。
冒険者稼業なんてやってると舐められないように実力を示さなければならない時もあるし、今回もそう言うことだろう。
鍛錬場の備品の木剣を借りて開始の合図を待つ。
ああ、そう言えば…せっかくディザール様に稽古をつけてもらったので長刀…は無いからグレイブにしようとも思ったんだけど、相手が剣だったので合わせている。
同じ条件にしないと、後でゴチャゴチャ言われても面倒だからね。
「…怪我をしても知りませんよ?」
幾分冷静になったらしく念押ししてくる。
う~ん、本気になってもらわないと煽った意味がないなぁ…
手っ取り早く周りの人たちにも私の実力を知らしめるために、そうしたのだから。
…ちょっと私、調子にのってるのかなぁ?
でも、この人たちも武人なんだから、きっと実力を示せば認めてくれるよね。
と言うことで、本気を出してもらうためにもう少し煽ります。
「気にしないで良いですよ。あなたの剣が触れることはないと思うので」
「!…分かりました。そこまで言われるなら手加減しませんよ(あとで吠え面かくなよ…!)」
「二人とも準備は良いですか?……良いみたいですね。では、始め!」
リュシアンさんの合図がかかるが、今回は直ぐに飛び出したりはしない。
父さんやカイトほど強者の雰囲気を感じないし、速攻を仕掛けたら直ぐに終わってしまうかもしれない。
それじゃあ意味がない。
「あら、突貫しないんですのね」
「本当だな。いつもは取り敢えず突っ込んでいくのに」
…いや、別にいつも突っ込んでるわけじゃないでしょ。
私をイノシシかなんかと思ってない?
と、私が待ち受けているとラスティンさん…だっけ?が攻撃をしかけてきた。
「はあっ!!」
気合と共に振り下ろす斬撃は結構鋭い。
やはりこの中では実力者であろうことが伺える。
カッ!
だが、私はまともにそれを受け止めることはせず、刀身を滑るようにして受け流す。
受け流された相手の剣は勢い余って地面に…と思った矢先に反転して切り返して来た!
「せぇいっ!!」
カンッ!
しかし、それも危なげなく弾き返した。
よし、反撃させてもらうよ!
「はっ!!ふっ!せいっ!!」
カッ!カッ!カン!
相手の攻撃直後を狙って細かく連撃を見舞っていく。
「くっ…!」
かろうじて防いでいるようだが、その表情に余裕は見られない。
「ツェイッ!!」
ビュン!!
おっと、私の連撃の間に無理矢理反撃してきた。
やるね。
しかし、私はそれを軽く身体をひねって躱す。
避けながらも攻撃の手は緩めず、軽く当てるだけだった攻撃を徐々に重くしていく。
「ぐっ…!お、重い!?」
「まだまだですよ」
ガッ!ガッ!ガンッ!!
「ぐっ!くっ!…くあっ!」
ガキィッ!!
ついに耐えきれなくなって剣を取り落としたところ、ピタッと首筋に剣を当てる。
「そこまで!勝者カティア!」
リュシアンさんの宣言を聞いて私は剣を引く。
うん、勝ったね。
これで彼らに私の実力は認めてもらえたかな?