残酷な描写あり
第四幕 20 『武神』
リュシアン様の聴取も終わって解散となった。
ダードレイ一座の出発は明日と言う事に。
聴取に参加していたメンバーは引き続き領主邸に宿泊させてもらえるとのこと。
という事で、思いがけず時間ができたのでカイトと一緒に街に繰り出すことにした。
ミーティアはまだ寝ている。
少し心配だが、強力な力を使った反動でもあるだろうし、起こすのも可愛そうなのでそのまま寝かせている。
食いしん坊のあの娘の事だから、きっとお腹が空いたら起きてくるだろう…
お嬢様はリュシアン様を手伝うと言ってたけど、久しぶりに会ったみたいだしもっと一緒にいたいんだろうね。
いつもは大人びたお嬢様だけど、婚約者の前だと年相応の少女のようで微笑ましかった。
街の中心にやって来ると、初めて来たときの印象とガラッと変わっていた。
人々には笑顔が溢れ、活気に満ちている…と言うか、お祭り騒ぎになっている。
今朝、マクガイア様が事態の収拾を図るために宣言をされたばかりではあるが、これまで抑えられていた反動が大きいのだろう。
利に敏い人はこの騒ぎに乗じて出店を開いてたりする。
逞しいものだと苦笑したが、それが少し嬉しくもあった。
「もう、リッフェル領は大丈夫だよね?」
「ああ、何れ以前の活気を取り戻すだろう。…お前のおかげだな」
「何言ってるの。今回は本当にピンチだったし、カイトとミーティアが助けに来てくれなかったら…」
あの時のことを思い出して、ぶるっ、と震える。
二人が来なかったら私は…いや、私だけじゃなくお嬢様やケイトリンさんも危なかったんだ。
「…ミーティアはどうして、カティア達に危機が迫ってることが分かったんだろうな?」
「う~ん…あの娘は不思議な力を持ってるみたいだしね…何せ『神の依代』なんだから」
そうカイトには言うが…何となく分かる気がする。
あの娘の魂の核となっているのは、私の魂だ。
謂わばもう一人の私とも言える存在。
故に、私の恐怖が極限に達した時にそれが伝わったのではないだろうか?
以前も思ったけど、あの娘、私の感情には凄く敏感だし…確証はないけど、多分そういう事なのではないかと思う。
「とにかく、ミーティアには感謝しないとね。何か美味しいものでもお土産に買っていこうかな」
「ふふ、そうしようか。ミーティアはお菓子が大好きだからな」
よく餌付けされてるからね…
「…それで?ディザール神殿に行くのか?」
「うん。この街にはエメリール様の神殿は無いけど、もしかしたら…」
この街は領都とはいえブレゼンタムほど大きな街ではない。
神殿も国の守護神たるディザール神殿はあるが、エメリール神殿は無かった。
ただ…私がディザール様の印を継ぐものならば、神殿で呼びかけたらお話が出来るかも知れないと思ったのだ。
「…ねえ、カイト」
「ん?なんだ?」
「カイトも印持ちだったんだね?」
「…ああ。詳しくは邸に戻ってから話そう」
「話してくれるの?」
「もともと、何れは話そうと思ってたんだ。俺が印を持つこと自体はダードさんたちも知ってるしな」
「あ、もしかして『軍団』の時?」
父さんが、[鬼神降臨]を使わなければならなかった程の相手に、カイトと共闘して倒したと聞いて少し違和感を覚えていたんだ。
「そうだ。今回お前も見た通り、潜在能力を限界まで開放する力がある」
「そっか。確かに凄い力だったね」
「だが、カティアの光の結界のお陰で多少物理攻撃も通ったが…俺もルシェーラのような神聖武器が欲しいところだな。お前に作ってもらったこのミスリルの剣だって相当な業物なんだが」
う~ん…スオージの森の時のオーガくらいだったら問題なかったのかも知れないけど、今回の相手は確かに厄介だったね。
あれで魔王には遠く及ばないと言うのだから…
「でも、神聖武器なんてそうそう手に入るものじゃないよ。大体が伝説の武具って言われるようなものばかりだし」
「…そうだな。有名どころは殆ど国の宝物庫の中だ」
…国の宝物庫か。
私が本当にイスパル王家の人間なら伝手で何とかなったりしないかな…
あんな怪しげなやつらが暗躍してるんだし、今後また戦う事になるかもしれない。
そうした時に、宝物庫で眠らせておくよりは有効活用した方が良いと思うんだけど。
「まあ無い物ねだりしてもしょうがない。少しでも地力を上げるために鍛錬あるのみだ」
「…やっぱり、また戦うことになるのかな?」
「積極的に関わりたくはないが…可能性はあるだろう」
そうだね。
リル姉さんの印を持つ身としては、今回みたいな場面に遭遇したら放っておけないし。
「…私が巻き込んじゃうんだよね。ごめんなさい…」
と、言うと頭をポムポムされた。
む、また子供扱い。
「お前だけが抱えるべき問題じゃない。この世界の人間が力を合わせてどうにかしなきゃならん相手だ。一人でどうにかなる相手じゃないのは分かってるだろ?」
「…うん」
「…それに、お前を護るのは俺の役目だ。他の誰かに譲りたくはないな」
「…う、うん。頼りにしてるね」
うひゃあ~!
さらっと言うんだから、このイケメンめ!
嬉しいじゃないか…
そんな話をしていたら、いつの間にかディザール神殿の前まで来ていた。
開放された入り口から中に入る。
神殿の造りはブレゼンタムのものとそう変わりはない。
ディザール様の神像の前まで来ると、跪いて祈りを捧げる。
(…ディザール様、もしよろしければお話をさせては頂けないでしょうか?)
…あ、来た!
かつてと同じように意識が引き上げられるような感覚がして、私の意識は白く染まっていく。
そして、再び目を開けると…
家具などは一切見当たらない広々とした部屋。
板張りの床。
これって…
「…道場?」
「良くぞ来た、アルマの血を受け継ぎし、イスパルの子よ」
と、背後から声がかかったので振り向くと、そこには鍛え上げられた肉体を持つ男がいた。
金髪翠眼の美丈夫だ。
この方が…
「は、はじめまして、ディザール様でいらっしゃいますね?」
「その通りだ。ああ…そんなに畏まらくてもよい。エメリールとは随分親しくしてるのだろう?」
「は、はい!」
畏まるな、とは言うけど…身に纏う覇気というか、鍛え上げられた武道家のような気配を感じて、彼を前にすると自然と姿勢を正してしまう。
と、そこでもう一人から声がかかった。
「カティア、こんにちは」
「あれ?リル姉さんも?」
エメリール神殿が無かったので会えるのは暫く先かなと思っていたが、思いがけず会うことができた。
「ええ、ディザールに呼ばれてね」
「お前が私のところに訪れるであろう事は予想できたからな。事前に声をかけておいたのだ」
おお…うっかりさんとちがって、出来る男っぽいぞ。
「…カティア?何か失礼なことを考えてないかしら?」
「ううん、そんなこと無いよ?」
あぶないあぶない、うっかり屋さんだけど結構鋭い…
「まあ、立ち話も何だ、座ってくれ」
と言って、ディザール様は床に胡座をかいて座る。
いつの間にか座布団が用意されていた。
お盆に湯呑も…緑茶?
この場所といい、何で妙に和風なんだろ?
そう言えばディザール様の格好もどこか和装ぽく見える。
私とリル姉さんも座る。
流石に胡座ではなく横座りだ。
…もう別に違和感はないよ?
「さて、では話をしようじゃないか」
こうして、私は武神ディザール様との邂逅を果たしたのだった。
ダードレイ一座の出発は明日と言う事に。
聴取に参加していたメンバーは引き続き領主邸に宿泊させてもらえるとのこと。
という事で、思いがけず時間ができたのでカイトと一緒に街に繰り出すことにした。
ミーティアはまだ寝ている。
少し心配だが、強力な力を使った反動でもあるだろうし、起こすのも可愛そうなのでそのまま寝かせている。
食いしん坊のあの娘の事だから、きっとお腹が空いたら起きてくるだろう…
お嬢様はリュシアン様を手伝うと言ってたけど、久しぶりに会ったみたいだしもっと一緒にいたいんだろうね。
いつもは大人びたお嬢様だけど、婚約者の前だと年相応の少女のようで微笑ましかった。
街の中心にやって来ると、初めて来たときの印象とガラッと変わっていた。
人々には笑顔が溢れ、活気に満ちている…と言うか、お祭り騒ぎになっている。
今朝、マクガイア様が事態の収拾を図るために宣言をされたばかりではあるが、これまで抑えられていた反動が大きいのだろう。
利に敏い人はこの騒ぎに乗じて出店を開いてたりする。
逞しいものだと苦笑したが、それが少し嬉しくもあった。
「もう、リッフェル領は大丈夫だよね?」
「ああ、何れ以前の活気を取り戻すだろう。…お前のおかげだな」
「何言ってるの。今回は本当にピンチだったし、カイトとミーティアが助けに来てくれなかったら…」
あの時のことを思い出して、ぶるっ、と震える。
二人が来なかったら私は…いや、私だけじゃなくお嬢様やケイトリンさんも危なかったんだ。
「…ミーティアはどうして、カティア達に危機が迫ってることが分かったんだろうな?」
「う~ん…あの娘は不思議な力を持ってるみたいだしね…何せ『神の依代』なんだから」
そうカイトには言うが…何となく分かる気がする。
あの娘の魂の核となっているのは、私の魂だ。
謂わばもう一人の私とも言える存在。
故に、私の恐怖が極限に達した時にそれが伝わったのではないだろうか?
以前も思ったけど、あの娘、私の感情には凄く敏感だし…確証はないけど、多分そういう事なのではないかと思う。
「とにかく、ミーティアには感謝しないとね。何か美味しいものでもお土産に買っていこうかな」
「ふふ、そうしようか。ミーティアはお菓子が大好きだからな」
よく餌付けされてるからね…
「…それで?ディザール神殿に行くのか?」
「うん。この街にはエメリール様の神殿は無いけど、もしかしたら…」
この街は領都とはいえブレゼンタムほど大きな街ではない。
神殿も国の守護神たるディザール神殿はあるが、エメリール神殿は無かった。
ただ…私がディザール様の印を継ぐものならば、神殿で呼びかけたらお話が出来るかも知れないと思ったのだ。
「…ねえ、カイト」
「ん?なんだ?」
「カイトも印持ちだったんだね?」
「…ああ。詳しくは邸に戻ってから話そう」
「話してくれるの?」
「もともと、何れは話そうと思ってたんだ。俺が印を持つこと自体はダードさんたちも知ってるしな」
「あ、もしかして『軍団』の時?」
父さんが、[鬼神降臨]を使わなければならなかった程の相手に、カイトと共闘して倒したと聞いて少し違和感を覚えていたんだ。
「そうだ。今回お前も見た通り、潜在能力を限界まで開放する力がある」
「そっか。確かに凄い力だったね」
「だが、カティアの光の結界のお陰で多少物理攻撃も通ったが…俺もルシェーラのような神聖武器が欲しいところだな。お前に作ってもらったこのミスリルの剣だって相当な業物なんだが」
う~ん…スオージの森の時のオーガくらいだったら問題なかったのかも知れないけど、今回の相手は確かに厄介だったね。
あれで魔王には遠く及ばないと言うのだから…
「でも、神聖武器なんてそうそう手に入るものじゃないよ。大体が伝説の武具って言われるようなものばかりだし」
「…そうだな。有名どころは殆ど国の宝物庫の中だ」
…国の宝物庫か。
私が本当にイスパル王家の人間なら伝手で何とかなったりしないかな…
あんな怪しげなやつらが暗躍してるんだし、今後また戦う事になるかもしれない。
そうした時に、宝物庫で眠らせておくよりは有効活用した方が良いと思うんだけど。
「まあ無い物ねだりしてもしょうがない。少しでも地力を上げるために鍛錬あるのみだ」
「…やっぱり、また戦うことになるのかな?」
「積極的に関わりたくはないが…可能性はあるだろう」
そうだね。
リル姉さんの印を持つ身としては、今回みたいな場面に遭遇したら放っておけないし。
「…私が巻き込んじゃうんだよね。ごめんなさい…」
と、言うと頭をポムポムされた。
む、また子供扱い。
「お前だけが抱えるべき問題じゃない。この世界の人間が力を合わせてどうにかしなきゃならん相手だ。一人でどうにかなる相手じゃないのは分かってるだろ?」
「…うん」
「…それに、お前を護るのは俺の役目だ。他の誰かに譲りたくはないな」
「…う、うん。頼りにしてるね」
うひゃあ~!
さらっと言うんだから、このイケメンめ!
嬉しいじゃないか…
そんな話をしていたら、いつの間にかディザール神殿の前まで来ていた。
開放された入り口から中に入る。
神殿の造りはブレゼンタムのものとそう変わりはない。
ディザール様の神像の前まで来ると、跪いて祈りを捧げる。
(…ディザール様、もしよろしければお話をさせては頂けないでしょうか?)
…あ、来た!
かつてと同じように意識が引き上げられるような感覚がして、私の意識は白く染まっていく。
そして、再び目を開けると…
家具などは一切見当たらない広々とした部屋。
板張りの床。
これって…
「…道場?」
「良くぞ来た、アルマの血を受け継ぎし、イスパルの子よ」
と、背後から声がかかったので振り向くと、そこには鍛え上げられた肉体を持つ男がいた。
金髪翠眼の美丈夫だ。
この方が…
「は、はじめまして、ディザール様でいらっしゃいますね?」
「その通りだ。ああ…そんなに畏まらくてもよい。エメリールとは随分親しくしてるのだろう?」
「は、はい!」
畏まるな、とは言うけど…身に纏う覇気というか、鍛え上げられた武道家のような気配を感じて、彼を前にすると自然と姿勢を正してしまう。
と、そこでもう一人から声がかかった。
「カティア、こんにちは」
「あれ?リル姉さんも?」
エメリール神殿が無かったので会えるのは暫く先かなと思っていたが、思いがけず会うことができた。
「ええ、ディザールに呼ばれてね」
「お前が私のところに訪れるであろう事は予想できたからな。事前に声をかけておいたのだ」
おお…うっかりさんとちがって、出来る男っぽいぞ。
「…カティア?何か失礼なことを考えてないかしら?」
「ううん、そんなこと無いよ?」
あぶないあぶない、うっかり屋さんだけど結構鋭い…
「まあ、立ち話も何だ、座ってくれ」
と言って、ディザール様は床に胡座をかいて座る。
いつの間にか座布団が用意されていた。
お盆に湯呑も…緑茶?
この場所といい、何で妙に和風なんだろ?
そう言えばディザール様の格好もどこか和装ぽく見える。
私とリル姉さんも座る。
流石に胡座ではなく横座りだ。
…もう別に違和感はないよ?
「さて、では話をしようじゃないか」
こうして、私は武神ディザール様との邂逅を果たしたのだった。