残酷な描写あり
第四幕 2 『ドキドキ』
リッフェル領に入った私達は、最初の宿泊地である宿場町リゼールにやって来た。
人口は3千人くらいだそうだ。
既に日は傾いて町は夕日に染まり、もうすぐ夜の帳が降りるだろう。
小さな町だが中心地はそこそこ賑わっている…ように見えるのだが、住民の表情はやや暗い。
やはり、圧政が影響しているのだろうか。
私達の一座は大所帯だ。
ブレゼンタムくらい大きな街であれば問題ないが、このくらいの規模の町だと全員が宿に泊まることが出来ない場合がある。
だが、主要街道の宿場町だけあって町の規模の割には宿が多く、分散して全員が宿泊することができた。
もし、宿が取れない場合は、町の入口や広場で野営する事になる。
「いくら恋仲でも同衾は許さんぞ」
「わ、分かってるよ!!いちいちそんな事言わないでよ!!それにまだ恋仲じゃないよ!」
「…恋仲だろ」
もう!
本当にデリカシーが無いんだから!
「あら~お固いのね~。もう二人とも大人なんだし~本人たちの自主性に任せなきゃ~。でも、ちゃんと避妊はしなさいね~。あと[消音]もよ~」
こっちの方がひどい!?
「だ!か!ら!そんなことしないって!ミーティアがいるのに何言ってるの!」
「ママ~、ひにんってなに~?」
ほら!
責任持って姉さんが説明してよね!
なんでこんなに騒いでるかというと、部屋割で揉めたためだ。
と言うのも、ミーティアが久しぶりに我儘を言い出して、ママとパパが一緒じゃないとイヤッ!と駄々をこねたのだ。
どうも私達の仲が進展したのをこの子なりに理解したらしく、何かと私達を一緒にしようとする。
カイトがいなくなって私が落ち込んでるときに、大分心配をかけたからその反動かもしれない。
結局、根負けして3人とも同じ部屋ということになったのだ。
もちろん2人部屋でベッドは2つあるよ!
「ババァがうるせえんじゃねぇか?」
「大丈夫よ~、カイトくんのこと気に入ってるみたいだし~。ミーティアちゃん見てカティアちゃんの子供も楽しみだねぇ、なんて言ってたし~」
いや、ばあちゃん、それは気が早すぎでしょ。
まあ、認めてくれるのは嬉しいけどさ。
「カイト、ミーティア、もう行きましょう!」
「は~い!パパ、いこっ!」
「あ、ああ……で、では皆さん、また明日…」
「おやすみ~、カイトくん頑張ってね~」
「?パパねるんじゃないの?」
「姉さんっ!!」
「きゃ~こわいわ~」
全くもう!
気まずくなっちゃうじゃないか!
「何かごめんね、父さんたちが…いや、一番ひどいのは姉さんか…」
「…何だか、はしゃいでる感じだったな」
「ほんと、いい年して子供みたいなノリなんだから…そんなに私のことからかって楽しいのかしら」
「ふふ、そうじゃないだろう。純粋に嬉しいんだろうな、あれは」
「アネッサおねえちゃん、たのしそうだったの」
「ま、まあ、姉さんは私達のことずっと気にかけてたからね…」
私がはっきり気持ちを伝えたことを一番喜んでくれたのは、姉さんなのかもしれない。
ま、多少の事は目を瞑ってやりますか…
「じゃあ、お風呂でも入って寝ましょうか」
「わ~い、ママ、パパ、いっしょにはいろ!」
「い、いやパパは別だよ?」
「うにゅ?なんで?」
「ほ、ほら、宿のお風呂なんて狭いし、大人二人も入れないのよ」
「…そっか~、じゃあママといっしょにはいるー」
「ええ(ほっ)。じゃあ、カイト、先に入るね」
「あ、ああ」
「…の、覗かないでね?」
「も、もちろんだ」
…扉で隔ててるとはいえ、同じ部屋の中で裸になるのはすごく恥ずかしいぞ。
しかし、汗と埃にまみれたままでいるのはもっと抵抗がある。
覚悟を決めて服を脱いでお風呂に入った。
ちょっと気になって自分の身体を見下ろす。
体型は悪くないと思うんだけど、どうにも胸が…
…やっぱり男としては大きい方が良いのかな?
いや!【俺】は大きさに拘りは無かったはずだ!
きっとカイトだって…
「ママ~?どうしたの?」
「え?い、いや、何でもないよ!さ、さあ、身体を洗いましょ」
そして、ミーティアの身体を洗って、自分もいつもより念入りに洗ってお風呂を上がる。
…べ、別に何かを期待してるわけじゃないよ?
寝間着に着替えて、[熱風]で髪を乾かしてから部屋に戻る。
こ、この格好を見せるのも恥ずかしいよ…
「お、お待たせ…」
「おまたせ~」
「いや、そんなに待ってないよ。じゃあ俺も入ってくる」
「う、うん」
あ~、もう。
ずっとドキドキしっぱなしだよ。
好きな人と一緒の部屋にいるだけで、こんなに緊張するなんて…
でも、嫌な感じじゃない。
幸せなドキドキだ。
やがて、カイトもお風呂から上がってきた。
髪の毛が濡れて、なんだか色気があるなぁ…
「あ、髪の毛乾かしてあげる。[熱風]」
程よい熱を持った乾燥した風が、濡れた髪を乾かしていく。
私よりも髪が短いからあっという間に乾いてしまった
「ありがとう。便利なものだな」
「普段はどうしてるの?」
「短いから直ぐに乾くからな。特に何もしてないさ」
「ふ~ん。私はちょっと長すぎる気がするんだけど、短くしようとすると姉さんたちに止められるんだよね…」
「ああ、その気持ちは分かるかな」
「…カイトも長いほうがいいと思う?」
「そうだな…短いのも似合いそうだが、カティアの髪は綺麗だから。切るのは勿体ないと思う」
「そ、そお?そっか~、えへへ…」
いつもサラッと自然に褒めてくれるよね。
嬉しくて顔がにやけてしまう。
「パパ、ミーティアは~?」
「ああ、ミーティアもな。ママと同じくらい綺麗な髪だ」
「えへへ~」
「さぁ、ミーティア、もうねましょうね」
「うん!」
そうして、私とミーティアは一緒のベッドで、カイトはもう一つのベッドで就寝する。
…パパも一緒に、と言われなくて良かった。
…眠れない。
すぐ側でカイトが寝ていると思うとドキドキして…
すぴー、すぴー、と隣からミーティアの寝息が聞こえる。
この子、寝付きも寝覚めも物凄く良いんだよね…
毎日を一生懸命楽しく生きているって感じ。
この子にも、いつか好きな人ができて私に紹介してくれたりするのかな?
素敵な人と出会って、幸せになってほしいな。
わ、私みたいに…
「…眠れないのか?」
!
どうやら私がモゾモゾしてる気配を察したらしい。
「う、うん…何だかドキドキしちゃって…」
「そうか…俺もだ」
そっか。
カイトも同じなんだね。
嬉しいな…
どうせ眠れないなら…
「ねえ…そっちに行って良い?もう少しお話したいな」
「…あ、ああ」
了承の言葉を聞いて、私はカイトのベッドの端に腰掛けた。
彼も身体を起こして、私と同じように隣に座る。
「あ、あのさ…何だか変な感じだね?私達、まだハッキリと恋人になった訳じゃないのに…」
「そ、そうだな…」
「…」
「…」
い、いかん!?
私が話をしたいとか言ったのに、緊張して続かない!
「…なあ、カティア」
「は、はい!?」
「まだ、応える事はできない、なんて言ったがな…それはやはりお前に対して誠実じゃないと思う」
「そ、そんな事は…」
「いや、せめて、俺の想いだけでも伝えるべきだった」
「…う、うん」
「カティア…俺も、お前のことが好きだ。最初に出会ったその時から」
「!!」
ああ…
ずっと聞きたかった言葉を聞けて、嬉しさのあまり涙が溢れてくる…
「私も…最初からあなたに惹かれていた…自分でも不思議なくらいに。ずっとね、気付かないふりをしていた、自分を誤魔化していた。でも、あなたに会えなかったとき、すごく悲しくて…何で素直に気持ちを伝えなかったんだろう、って後悔したんだ」
そっと、カイトの手に自分の手を重ね、目を見つめる。
「カイト…」
「カティア…」
窓から差し込む月の光に浮かび上がった二人の影が、そっと寄り添い…そして重なった。
人口は3千人くらいだそうだ。
既に日は傾いて町は夕日に染まり、もうすぐ夜の帳が降りるだろう。
小さな町だが中心地はそこそこ賑わっている…ように見えるのだが、住民の表情はやや暗い。
やはり、圧政が影響しているのだろうか。
私達の一座は大所帯だ。
ブレゼンタムくらい大きな街であれば問題ないが、このくらいの規模の町だと全員が宿に泊まることが出来ない場合がある。
だが、主要街道の宿場町だけあって町の規模の割には宿が多く、分散して全員が宿泊することができた。
もし、宿が取れない場合は、町の入口や広場で野営する事になる。
「いくら恋仲でも同衾は許さんぞ」
「わ、分かってるよ!!いちいちそんな事言わないでよ!!それにまだ恋仲じゃないよ!」
「…恋仲だろ」
もう!
本当にデリカシーが無いんだから!
「あら~お固いのね~。もう二人とも大人なんだし~本人たちの自主性に任せなきゃ~。でも、ちゃんと避妊はしなさいね~。あと[消音]もよ~」
こっちの方がひどい!?
「だ!か!ら!そんなことしないって!ミーティアがいるのに何言ってるの!」
「ママ~、ひにんってなに~?」
ほら!
責任持って姉さんが説明してよね!
なんでこんなに騒いでるかというと、部屋割で揉めたためだ。
と言うのも、ミーティアが久しぶりに我儘を言い出して、ママとパパが一緒じゃないとイヤッ!と駄々をこねたのだ。
どうも私達の仲が進展したのをこの子なりに理解したらしく、何かと私達を一緒にしようとする。
カイトがいなくなって私が落ち込んでるときに、大分心配をかけたからその反動かもしれない。
結局、根負けして3人とも同じ部屋ということになったのだ。
もちろん2人部屋でベッドは2つあるよ!
「ババァがうるせえんじゃねぇか?」
「大丈夫よ~、カイトくんのこと気に入ってるみたいだし~。ミーティアちゃん見てカティアちゃんの子供も楽しみだねぇ、なんて言ってたし~」
いや、ばあちゃん、それは気が早すぎでしょ。
まあ、認めてくれるのは嬉しいけどさ。
「カイト、ミーティア、もう行きましょう!」
「は~い!パパ、いこっ!」
「あ、ああ……で、では皆さん、また明日…」
「おやすみ~、カイトくん頑張ってね~」
「?パパねるんじゃないの?」
「姉さんっ!!」
「きゃ~こわいわ~」
全くもう!
気まずくなっちゃうじゃないか!
「何かごめんね、父さんたちが…いや、一番ひどいのは姉さんか…」
「…何だか、はしゃいでる感じだったな」
「ほんと、いい年して子供みたいなノリなんだから…そんなに私のことからかって楽しいのかしら」
「ふふ、そうじゃないだろう。純粋に嬉しいんだろうな、あれは」
「アネッサおねえちゃん、たのしそうだったの」
「ま、まあ、姉さんは私達のことずっと気にかけてたからね…」
私がはっきり気持ちを伝えたことを一番喜んでくれたのは、姉さんなのかもしれない。
ま、多少の事は目を瞑ってやりますか…
「じゃあ、お風呂でも入って寝ましょうか」
「わ~い、ママ、パパ、いっしょにはいろ!」
「い、いやパパは別だよ?」
「うにゅ?なんで?」
「ほ、ほら、宿のお風呂なんて狭いし、大人二人も入れないのよ」
「…そっか~、じゃあママといっしょにはいるー」
「ええ(ほっ)。じゃあ、カイト、先に入るね」
「あ、ああ」
「…の、覗かないでね?」
「も、もちろんだ」
…扉で隔ててるとはいえ、同じ部屋の中で裸になるのはすごく恥ずかしいぞ。
しかし、汗と埃にまみれたままでいるのはもっと抵抗がある。
覚悟を決めて服を脱いでお風呂に入った。
ちょっと気になって自分の身体を見下ろす。
体型は悪くないと思うんだけど、どうにも胸が…
…やっぱり男としては大きい方が良いのかな?
いや!【俺】は大きさに拘りは無かったはずだ!
きっとカイトだって…
「ママ~?どうしたの?」
「え?い、いや、何でもないよ!さ、さあ、身体を洗いましょ」
そして、ミーティアの身体を洗って、自分もいつもより念入りに洗ってお風呂を上がる。
…べ、別に何かを期待してるわけじゃないよ?
寝間着に着替えて、[熱風]で髪を乾かしてから部屋に戻る。
こ、この格好を見せるのも恥ずかしいよ…
「お、お待たせ…」
「おまたせ~」
「いや、そんなに待ってないよ。じゃあ俺も入ってくる」
「う、うん」
あ~、もう。
ずっとドキドキしっぱなしだよ。
好きな人と一緒の部屋にいるだけで、こんなに緊張するなんて…
でも、嫌な感じじゃない。
幸せなドキドキだ。
やがて、カイトもお風呂から上がってきた。
髪の毛が濡れて、なんだか色気があるなぁ…
「あ、髪の毛乾かしてあげる。[熱風]」
程よい熱を持った乾燥した風が、濡れた髪を乾かしていく。
私よりも髪が短いからあっという間に乾いてしまった
「ありがとう。便利なものだな」
「普段はどうしてるの?」
「短いから直ぐに乾くからな。特に何もしてないさ」
「ふ~ん。私はちょっと長すぎる気がするんだけど、短くしようとすると姉さんたちに止められるんだよね…」
「ああ、その気持ちは分かるかな」
「…カイトも長いほうがいいと思う?」
「そうだな…短いのも似合いそうだが、カティアの髪は綺麗だから。切るのは勿体ないと思う」
「そ、そお?そっか~、えへへ…」
いつもサラッと自然に褒めてくれるよね。
嬉しくて顔がにやけてしまう。
「パパ、ミーティアは~?」
「ああ、ミーティアもな。ママと同じくらい綺麗な髪だ」
「えへへ~」
「さぁ、ミーティア、もうねましょうね」
「うん!」
そうして、私とミーティアは一緒のベッドで、カイトはもう一つのベッドで就寝する。
…パパも一緒に、と言われなくて良かった。
…眠れない。
すぐ側でカイトが寝ていると思うとドキドキして…
すぴー、すぴー、と隣からミーティアの寝息が聞こえる。
この子、寝付きも寝覚めも物凄く良いんだよね…
毎日を一生懸命楽しく生きているって感じ。
この子にも、いつか好きな人ができて私に紹介してくれたりするのかな?
素敵な人と出会って、幸せになってほしいな。
わ、私みたいに…
「…眠れないのか?」
!
どうやら私がモゾモゾしてる気配を察したらしい。
「う、うん…何だかドキドキしちゃって…」
「そうか…俺もだ」
そっか。
カイトも同じなんだね。
嬉しいな…
どうせ眠れないなら…
「ねえ…そっちに行って良い?もう少しお話したいな」
「…あ、ああ」
了承の言葉を聞いて、私はカイトのベッドの端に腰掛けた。
彼も身体を起こして、私と同じように隣に座る。
「あ、あのさ…何だか変な感じだね?私達、まだハッキリと恋人になった訳じゃないのに…」
「そ、そうだな…」
「…」
「…」
い、いかん!?
私が話をしたいとか言ったのに、緊張して続かない!
「…なあ、カティア」
「は、はい!?」
「まだ、応える事はできない、なんて言ったがな…それはやはりお前に対して誠実じゃないと思う」
「そ、そんな事は…」
「いや、せめて、俺の想いだけでも伝えるべきだった」
「…う、うん」
「カティア…俺も、お前のことが好きだ。最初に出会ったその時から」
「!!」
ああ…
ずっと聞きたかった言葉を聞けて、嬉しさのあまり涙が溢れてくる…
「私も…最初からあなたに惹かれていた…自分でも不思議なくらいに。ずっとね、気付かないふりをしていた、自分を誤魔化していた。でも、あなたに会えなかったとき、すごく悲しくて…何で素直に気持ちを伝えなかったんだろう、って後悔したんだ」
そっと、カイトの手に自分の手を重ね、目を見つめる。
「カイト…」
「カティア…」
窓から差し込む月の光に浮かび上がった二人の影が、そっと寄り添い…そして重なった。