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作者: O.T.I
残酷な描写あり
幕間1 『ダードレイ』
 アネッサのヤツが言うには、俺の娘は恋をしているらしい。

 あのお転婆娘がそんじょそこいらの男にそう安々と惚れるもんかねぇ?
 ましてや昨日今日会ったばかりの男になんて。

 まあ、俺には乙女心なんて複雑怪奇なものはサッパリ理解出来ねえんだが。

 ともかく、血が繋がっていないとは言え大事な一人娘には違い無え。
 あいつを悲しませる様なヤツには娘はやれん。
 父親としてしっかりと見定めなければならねえ。


 だが、そう意気込んではみたものの、その相手、カイトの野郎はなかなか大した奴だと思う。

 剣の腕もさる事ながら、あの若さであの胆力。
 リーダーとしての資質も十分だし、状況把握や情報分析の手際を見るに頭もキレる。
 パーティーの良好な雰囲気から、性格も悪くないことが伺える。
 ちょいと真面目すぎるような気もするがな。

 それに、あの剣の型、鳶というパーティー名。
 もしかしたら…

 まあ、結局のところ、俺はあまり口出ししない方がいいか、て結論に至っている。



 俺の娘、カティアは不思議なやつだ。

 教えれば教えただけ何でも吸収しちまう才能の塊。
 それに奢らず何時だって一生懸命だし、気さくで人当たりがよく誰からも好かれる。
 とんでもねぇ美貌なのに、本人にあまり自覚が無えから危なっかしいところでもあるんだがな。

 ともかく、カティアは自慢の娘ってやつだ。
 こう言うのを親馬鹿って言うのかねえ…

 そんな自慢の娘だが、ある日急に雰囲気、と言うか存在感が変わった。
 ティダの奴は神聖な雰囲気に感じたなんて言っていたが、まさにその通りだった。

 なんと、あの失われたはずのエメリール様のシギルを受け継いでいるってんだから驚きだ。
 シギル持ちって言やぁ大抵は王族の血筋に現れるもんだが、エメリール様のシギルを受け継ぐ王家の血筋は途絶えて久しい。
 アネッサが随分興奮していたが、正に歴史的発見ってやつだ。

 だが、失われた王家の血筋だろうが何だろうが、あいつが俺の娘である事に変わりは無え。

 あいつは騒がれることを嫌って秘密にして欲しいって言ってたが、もしその秘密のせいで厄介事に巻き込まれるのであれば、俺は父親としてあいつを守るだけだ。


 俺はあいつに感謝してるんだ。

 十五年前、俺は傭兵として戦乱の世を渡り歩き、戦いに明け暮れる人生にすっかり心が荒んでいた。

 そんなときに、まだ赤ん坊だったあいつに出会ったんだ。

 瀕死の母親から託された、まだ赤ん坊だったあいつをその手に抱いたとき、その小さな命の暖かさに俺の心は救われた。
 命を奪う事しかできなかった血塗られた手でも、救える命がある。
 優しさとか愛情とか、人として当たり前のものを取り戻したんだ。

 その時から、カティアを守り育て、幸せにすることが俺の使命となった。


 他の連中も似たようなもんだろう。

 俺がカティアを連れて、傭兵団を辞めるって言ったとき、殆どのやつが付いてきやがった。
 大の大人がまだ小さい赤ん坊に救いを求めるなんざ情けねえ限りじゃねえか。

 やれ乳だ、やれオムツだ右往左往する光景は滑稽そのものだったぜ。
 何人か女性団員も居たはずなんだが、男以上に男らしいヤツばかりで役に立たねえのは俺らと大して変わらなかった。
 ババアが居てくれたから良かったが、その時に力関係が出来上がっちまったのは誤算だった。
 おかげで未だに誰も頭が上がらねえ。

 傭兵を辞めた俺達はその後もどうにかして食い繋がなけりゃならなかった。
 多少の貯えはあるもののそれだって何も稼ぎが無けりゃああっと言う間に尽きちまう。

 誰かが劇はどうかなんて言ってきた。
 最初は何言ってんだ?なんて思ったが、ちょうど大戦も終結し、戦乱で荒んだ人たちを楽しませるのも悪くないとも思った。
 もちろん、ずぶの素人が最初からそう上手く出来るはずも無え。
 だが、傭兵仕込の殺陣なんかは結構ウケたし、だんだんと様になってきて少しづつ客も集まるようになってきた。
 ロウエンのジャグリングみてえに、一芸を持ってるやつは合間に披露したりなんかして、そんなふうに試行錯誤しながらも、途中シクスティンのやつも加わって軌道に乗ってくると、確かな手応えを感じるようになってきた。

 俺の、いや一座の大事な娘であるカティアもすくすくと成長していき、いつの頃からかあいつも舞台に立つようになった。
 そして、その神がかった歌声は観客を虜にし、あっと言う間に一座の看板スターになっちまった。
 演技はからっきしだったが。



 俺にはサッパリ分からねえが、アネッサが言うにはカイトとはいい雰囲気らしい。
 いずれ俺の手を離れて行く時が来るのも近いのかも知れねえな。

 だが、それまでは俺の娘として守らなければならねえ。

 いつかその役割を、あいつが選んだ男に託すその時まで。
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