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作者: O.T.I
残酷な描写あり
第一幕 3 『指名依頼』
 依頼の報告も終わり、鑑定が終わるのを待ち合いスペースで待つ。

 そう言えば知り合いとの会話も特に問題なかったな。
 戦闘の時もそうだったけど、この体に染み付いた経験とか記憶に関することは特に意識しなくても大丈夫そうだ。
 知り合いにあって戸惑ったりしたら違和感持たれるかも……とちょっと心配だったけど、これなら安心だ。


 待っている間の暇潰しを兼ねて、依頼掲示板でも確認しておこうかな。

 依頼は推奨ランクごとに振り分けされて張り出されており、基本的には自分と同じランクのものを受けることが多い。
 だけど、異なるランクのものでも実績や技量認定資格などを加味して遂行可能と判断されれば受けることができる。

 ちなみに、今回報告した依頼は需要が高い薬草の採取、かつ採取地の危険度も低いので幅広い層に受けてもらいたいという意図から、特にランク指定のない常設依頼となっている。
 労力に対して報酬も悪くないので比較的割の良い依頼だ。

 さて、ざっとは見てみたが……
 朝に確認した時とあまり変わらないかな。
 一座の公演もあるからあまり長期のものは受けられないし、今慌てて受ける必要もないか。



「38番の方~、支払いカウンターまで起こしくださ~い」

 おっと、鑑定が終わったみたいだ。
 支払いカウンターに向い番号札を渡す。

「38番です」

「カティアさんですね。納品の品は特に問題ございませんでした。こちらが透魔草の報酬、銀貨12枚です。それと、グレートハウンドの討伐は半金貨1枚ですね。ご確認下さい」

「…はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 報酬を受け取りお礼を言う。

 なお、報酬の支払い時には税金を引かれており、一時滞在者からも徴税するようになっている。
 税金を納めることで、その国にいる間は国民として扱われるし、ギルド証の提示により一部の住民サービスも受けられる。

 お金はこの大陸の殆どの国家で共通のものが流通しており、銅貨、半銀貨、銀貨、半金貨、金貨がある。
 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となる。
 半銀貨、半金貨はそれぞれ銀貨、金貨の半分の価値だ。
 この街でごく普通の食事をすると大体半銀貨1枚~銀貨1枚くらいかかるので一概に比較はできないが、大体銅貨1枚が前世の10円くらいになるだろうか。

 そうすると今回の報酬を換算した場合……
 銀貨12枚=12,000円、半金貨1枚=50,000円となる。

 採取依頼に比べて危険を伴う分、討伐報酬の方が高くなるのはまあ当然かな。
 一日の稼ぎとしては破格にも思えるが、毎日常に安定して稼げる訳ではないし、魔物の討伐なんかは相応のリスクを負う必要がある。

 とは言え、高位の魔物の討伐とかだとそれこそ何年も遊んで暮らせるだけの報酬が得られるので、一攫千金を夢見る者も多い。




 よし、依頼の報告も終わったし……今日はここで夕食をとっていこうかな。
 そう思い、ギルド併設の酒場兼食堂に向かうことにした。


 食堂に通じる扉を開けると、もとより漏れ聞こえていた喧騒が一層大きくなった。
 中に入るとお酒と美味しそうな料理の匂いが充満しており、空腹を実感する。
 少し早い時間にも関わらず、既に多くの客で席のほとんどは埋まっていた。


「いらっしゃい!お一人さん?」

 こちらを見つけた給仕の女の子が声をかけてきた。

「あ、はい一人で……」


「おーい!カティア、こっちだ!」

 給仕の娘に返事をしようとした時、私を呼ぶ声がした。
 この声は……

「あ、父さん!」

「おう、食べに来たんだろ?こっち空いてるぞ」

「うん、ありがとう!……知り合いがいたのであそこに行きますね」

「あ、よかった、相席をお願いするところだったのでちょうど良かったわ。後で注文に伺うわ」



 父さんがいる一角に向うと、他にも一座の何人かがいるみたいだ。
 あともう一人……って言うか、あなたこんなところで何してるんですか……

「父さんお疲れ。皆で依頼受けてたの?」

「いや、たまたま一緒になっただけだ。今日は稽古も無かったし、思い思いに過ごしてたはずなんだが、ここのメシは美味いからな。自然と集まっちまった」

「そうなんだ。ところで……」

 と、この場にいる一座の仲間ではない人物に目を向ける。

「よぉ嬢ちゃん。今日も別嬪さんだな」

「閣下……なぜここに?」

「なぜってお前ぇ、ここは食堂だぜ?美味い酒と美味い食事。それ以外に何の用があるってんだ?」

「いや、そうではなくて。なんで領主様ともあろうお方が、このような荒くれが集まるようなところで食事してるんですか……」

「固ぇこと言うなって。俺はここのメシを気に入ってるし、お前の親父にも話があったからな」

 そう、この人はここブレーゼン領の領主……アーダッド=ファルクス=ブレーゼンその人である。
 言動からは想像もつかないが、これでもれっきとした貴族……それも侯爵だ。

 金髪碧眼はいかにも貴族っぽい色合いだが、熊のような巨躯に髭だらけの厳つい容貌だ。
 両手剣とか戦斧とか持たせたらすごく似合いそう。
 はっきり言って、周りにいる荒くれ共と大差なく、この場にいても全く違和感が無い。

 ちなみに、全く似ていない娘さんがいる。
 一度だけお会いしたことがあるんだけど、まさに深窓の令嬢ってかんじの綺麗なお嬢様だった。
 間違いなく100%奥さんの血だ。
 閣下、あなたの遺伝子仕事してませんよ。


「今さらこいつにそんな事言うやつはいないぞ。ほら、どいつもこいつも完全にスルーだ」

 そう……別にお忍びとかじゃないんだ。
 皆ここに侯爵がいることを認識した上でスルーしてる。
 特に緊張感もなく慣れた感じである。
 仮にも上級貴族がそれで良いのだろうか……

 うちの父さんは、濃い茶色の髪に青い瞳、厳つくて男臭い風貌だ。
 荒っぽい喋り方は閣下とさして変わらないが、その物腰は落ち着いていて、まだこちらの方が貴族っぽい気がする。
 名前はダードレイ。

 我が一座の座長であり、かつては傭兵団でも団長を務めていたらしい。
 Aランクの冒険者として有名で、圧倒的な剣の腕前から【剛刃】などと大層な二つ名で呼ばれてたりする。
 ……本人は凄く嫌そうなんだけど、ギルドから正式に贈られた称号で拒否できないらしい。

 頼もしく面倒見の良い兄貴分って感じで一座の皆から慕われていて、かく言う【私】も血の繋がりはなくても実の父のように思っている。

 侯爵様とは昔からの知り合いらしく、口調も随分と親しげで遠慮がない。


 うちの一座の面々はいくつかの席に分かれてるが、相席にもう一人。

「カティア、注文は?」

 この人は副座長のティダ兄。
 すらっとした高身長で細身に見えるがしっかり鍛え上げられた細マッチョ。
 黒髪に琥珀色の瞳、物静かで涼やかな風貌でとても女性にモテるが本人は全く意に介さず奥さん一筋だ。

 傭兵団時代からの最古参メンバーの一人なので父さんと同じくらいの年のはずだが、若々しく30前後……下手したら20代でも通用しそうだ。
 なので【私】にとっては頼りになる兄さんみたいな感覚だ。
 本人としてはもう少し威厳が欲しいようだが。

 ちなみに、ティダ兄もAランクで【閃刃】って呼ばれてたりする。


 あ、注文しなきゃだね。

「すみませ~ん、注文お願いしま~す!」

 と、先ほどの給仕の娘を呼んで注文する。

「なんだ、酒は飲まないのか?」

「今日は止めとく」

 この国の成人は15歳なので、私がお酒を飲むのは問題ない。
 そもそも法律で年齢制限があるわけじゃないので、【私】も成人前から時々飲んでたみたいだ。
 と言っても酒精が少ない殆どジュースのようなものしか飲んだことはないが。
 今日はこのあと宿に帰ったらもう少し状況の整理とかしたいので、お酒は遠慮しておく。


 しばし歓談しながらやって来た料理に舌鼓を打つ。
 体が資本の冒険者向けらしくボリューム満点で、この体にはちょっと量が多いが、味も素晴らしいので残さず完食できそうだ。
 料理の美味しさは前世と比べても遜色なく、これは本当に良かったと思う。
 食が楽しめないのはキツイからね。

「何だ、そんなんじゃ胸に栄養が行かねーぞ?」

 こちらの食事を見た領主様が視線を少し下げて、見た目に違わずデリカシーのない事を言いやがった。

「余計なお世話ですっ!」

 ……【俺】の意識からすれば別に気にするような発言じゃ無いはずだが、何だか自然と怒りが湧き上がってきた。
 すると、父さんが意外そうな顔で言ってきた。

「何だ、気にしてるのか?大きけりゃいいってもんじゃないぞ?」

 うっさいわ!セクハラ親父共が!




「ところで領主様、父に話というのは?」

「ん?あぁ、あまり大きな声じゃ言えねぇんだが……近頃魔物の分布に異変が生じているって話が出てるんだが、知ってるか?」

 おっと、タイムリーな話だね。
 しかし、大きな声で言えない事をここで話して良いのかね?
 まあ、周りはうちの関係者しかいないし、この喧騒なら大丈夫か。

「……ちょうど今日、遭遇しました。さっき報告して、話も聞きましたよ。スオージの森でしょう?」

「おう、知ってるなら話は早ぇ。じゃあこいつも聞いたかもしれんが……いまギルドから調査隊を出してるんだが、帰還予定を過ぎてもまだ帰って来てねぇらしい。もちろん、普通は多少の予定変更は珍しくもねぇんだが、今回派遣したのは斥候スキルには定評のある信頼の置けるパーティーで……あぁ【鳶】ってんだがな。俺も何度か指名で依頼したことがあるんだが、今までこんな事はなくて、帰還予定はきっちり守る奴らなんだ。他の奴なら森で迷ってるってのも考えられるんだが、そんなヘマをやらかすような奴らでもねぇ。そんで、こいつぁ何かヤバいことが起きてるってな、ギルド長から俺んとこに報告があがったんだ」

「……調査が出てるところまでは聞きましたが、帰還予定になっても帰っていない、と言うのははじめて聞ききました。じゃあ、話というのは……」

「ああ、お前たちにそいつらの救出と調査を頼みてぇ。可能なら脅威の排除もだ。今この街にいる冒険者で一番の腕利きはお前たちだからな。あと数日もすれば正式にギルドから要請が出るだろうが、一座の公演も控えてるとありゃあ、あまり悠長にしてたらお前たちは動けなくなるだろ?だから、俺の権限で指名依頼にすりゃあすぐ動けると思ってな」

 侯爵様からの話を聞いて、父さんが答える。

「……街に危険が及ぶなら公演だなんだ言ってられないがな。早めに動けるならそれに越したことはない。……それにしても、うちの一座も随分と大きくなったもんだ……予定なんか昔ならどうとでもなったんだがな」

「もう旅芸人一座なんていうのも無理があんだろうよ。どっかに腰を落ち着けてもやってけるだろ?この街にももう半年近くいるわけだしよ。ウチなら歓迎だぞ?にしてもよ、歌って踊って戦う旅芸人一座?何だそれ?意味わからんわ」

「ほっとけ。まあ、腰を落ち着けるのはそのうちな。で、依頼の件だが……お前ら、どうだ?」

 と、周りで聞いていた一座の面々に確認する。

「おれらは構いませんよ。ここにいないやつも行くって言うんじゃないですか?」

 皆は乗り気のようだ。
 頼もしいけど、これ絶対面白そうとか思ってるな……

「ダード、流石にこんな大人数で行くわけには行かないだろう。リスクも未知数だし、うちの中でも精鋭に絞ったほうが良いと思うぞ」

 そう、ティダ兄が冷静に言うと、父さんは少し考えながら答える。

「そうさな……じゃあ前衛に俺とティダ、斥候のロウエン……「りょ~かいッス」、と魔法支援でアネッサ……はここにはいねぇか……まあ、大丈夫だろ。あとは、盾役のドルク」

「いや、今回は撤退もあり得るかも知れん。足の遅いドルクを入れるよりは行軍速度優先のほうが良くないか?」

「それもそうか……だが後一人は欲しいとこだな」

「はい!はい!私!ダメって言ってもついてくからね!」

 【私】に起きた異変に関連があるかもしれないし、ここは譲れないところだ。

「あ~……まぁ実力的には問題ない無い、か?」

「いいんじゃないか?こいつは何でもこなせるオールラウンダーだ。今回みたいな少数精鋭の場合は遊撃で動いてくれると助かる。若い奴特有の無鉄砲さとも無縁だしな。」

「流石ティダ兄、分かってる~」

 一座の皆が面白がって自分の持てる技術を私に伝授した結果だ。
 前衛、斥候、魔法支援、遊撃…盾役以外は何でもやるよ!

「はぁ……全くお転婆に育っちまいやがって。俺ぁこいつの母親に合わせる顔がねぇよ……」

「強くたくましく育って喜んでると思うよ?」

 【私】の実の母親は小さい頃に亡くなっていて記憶には無い。
 たまたま父さんが死を看取って、まだ赤ちゃんだった【私】を引き取って育ててくれた。
 孤児院に預けることも出来たのに、自分の娘として育ててくれたんだ。
 一座の皆と四苦八苦して子育てに奮闘する姿を想像すると何だかおかしいけど、凄く温かい気持ちになる。
 ちょっと荒っぽいところがあるけど皆優しくて、血の繋がりはないけど家族だと思っているんだ。

 そういう思いがこの体に残っていて、もう【俺】にとっても大切なものと感じる。
 ……改めて、救う事ができて良かった、と思う。

 後は、【私】の魂が癒やされて……そのあとどうなるかは分からないけど、たぶんこの思いは変わらないだろう。



「話はまとまったみてぇだな。Aが二人にBが3人とはなかなか豪勢だな。助かるぜ。よし、ギルドには俺の方から伝えておくから、お前らは準備でき次第現地に向かってくれ」

「それは構わんが……領軍は動かさないのか?」

「いや、念のため森の周辺で警戒に当たらせている。が、今の情報だけでそう大人数は動かせねぇし、森内部の探索に当たらせるには正直練度が心許ねぇ。そうじゃなきゃお前たちに話を持ってこねぇさ。平和なのは良いんだが、こういう時だと経験不足が仇になっちまう。同じ辺境でも国境が近えとこだとちったぁマシなんだろうがなぁ……」

「ま、それはしょうがないな。せいぜい訓練を厳しくしてやることだ。あと、報酬はどうなる?」

「おっと、そうだったな。今のところ金貨10枚。原因特定で10枚。脅威の排除はその度合いに応じて。その他諸々状況に応じて追加報酬を検討、ってとこだな」

「ほぉ?さすが領主様、随分と太っ腹だな」

「なに、これで安心が買えるなら安いもんだろ。それに、正式に依頼に出してもこれくらいになるだろうな。それだけ【鳶】ってなぁ信頼があったってことだ」

 もともとの調査依頼の報酬は分からないけど、相場的には金貨5枚にも満たないくらいじゃないかな?
 優秀なパーティーでも手に負えない状況、それだけのリスクがあると判断されているのだろう。

 そして、そのパーティーは……


「その【鳶】はどうなったと思います?」

「わからん。だが能力は確かだし、無茶なことはしねぇ慎重で堅実なやつらだ。たとえ高位の魔物がいても調査くらいは確実にこなせるはずだ。ところが実際はこの状況。生存はしてるが何らかのトラブルで帰れねぇだけなのか、そうじゃねえのか……まあ、そう簡単にくたばるような連中ではねぇんだがよ」

「そうですか……何とか生存していてほしいですね……。しかし仮に高位の魔物に……だとしたら、そいつの感知能力は熟練の斥候以上って事ですよね。あるいは隠形に優れてるか。どっちにしても不意打ちには警戒する必要があると思います」

「そうだな。警戒してしすぎるって事ぁねぇだろう。ヤバそうだったら無理しねぇで撤退しろよ。情報持ち帰ってくれるだけでもこっちはありがてぇんだ」

 侯爵様としても、これ以上の戦力の損失は痛いだろうね。
 純粋に心配してくれてる、と言うのもあるだろうけど。



「あとお前ら、パーティー名は何だったっけ?」

「あん?パーティー名?そんなの必要なのか?うちの奴らは基本、単独行動が多いがパーティー組んだときでも別に名前なんか付けたこと無いぞ?」

「俺の事務が楽になる。いや、依頼の手続きすんのに個人毎だとめんどくせぇんだよ。パーティー単位でまとめて処理してぇ」

 あぁ……事務処理は嫌いそうだよね、侯爵様。
 ほんとに貴族で領主なんだろうか……
 いや、今まで話を聞いてても段取りは良いし決断も早いし、上に立つものとして有能だと思うんだけどね。

「なんだそりゃ。お前の都合かよ」

「いや、ダードよ。パーティー名は決めておいた方が良いと思うぞ」

 と、ティダ兄がフォローする。
 別の理由があるみたいだけど。

「……何でだ?」

「アネッサから聞いたんだがな。パーティー全員にかけるような支援魔法を使うときに名前があった方が対象の認識がしやすくなって、僅かながら発動までの時間が短縮できるらしい」

 ……それは私も初耳だ。

 ゲームなら敵味方は自動で判別だけど、現実には全部マニュアルでやらなきゃいけない。
 対象選定一つとっても細かな技術があるってことなのか。

「そうなのか?初めて聞いたぞ。まあ、俺は魔法は不得手だから詳しくはないんだが……」

「アネッサも最近気づいた事らしい。効果が僅かだからあまり知られてないのだろう、との事だ」

「僅かだって戦闘時のロスはない方が良いに決まってる」

 その通りだ。
 命に関わるなら無視はできない。

「じゃあ、どうする?いきなりパーティー名ったって、急には浮かばんな」

「そうだな……『黒竜騎士団』なんてのはどうだ?」

「「「……」」」

 何故に黒竜?
 それに騎士じゃないでしょ、私達は。

「ん?ダメか?じゃあ……『白竜騎士団』は?かっこいいだろ?」

「「「……」」」

 黒が白になっただけじゃん!

 みんな絶句して突っ込めない……ティダ兄…ネーミングセンスはポンコツだったのか……

「ダードレイ一味とか、ダードレイ一家とかは?」

 ティダ兄が次の名前を出す前に領主様が提案したが、それも何だか……

「なんか悪党の集まりみたいだな……」

 だよね。

「……『エーデルワイス』は?うちのシンボルに使われてるでしょ?」

 と、私が提案してみる。

「あ~、いいんじゃねえか?傭兵団の頃から使ってる馴染みのある紋章だしな」

「では、『エーデルワイス騎士団』と言う事だな」

「「「だから、騎士じゃない(ねぇ)って!!」」」

 総ツッコミだよ……

「あ~、話が脱線しちまったが、他に何かあるか?」

 いや、話を振ったのはあなたですからね……

「森まで結構距離があるな。足が欲しい」

 父さんの言うとおり、歩くと四~五時間はかかる。
 先行パーティーの生存の可能性を考えると行動は出来るだけ早いほうがいいだろう。
 馬で移動できるなら随分短縮できる。

「ああ、それなら軍馬を手配しよう。話を通しとくから、出掛けに領軍の厩舎によってくれ。森の周辺にいくつか軍の宿営地があるから、森に入る時はそこに預ければ大丈夫だ」

「ああ、わかった。……カティア、お前もうそろそろ宿に帰って休んどけ。明日は早いぞ」

「父さんたちは?」

「俺たちもすぐ帰るさ。あと一杯飲んでからな」

「そう?程々にね」

 もともと宿で色々検証したかったし、素直に聞き入れて帰ることにする。
 ……なんか、遠ざけられてるような気がしないでもないが。
 内緒話でもあるのかな。

「カティア、帰ったらアネッサに今回の件伝えておいてくれないか?明日の予定は無かったはずだが、いきなりだしな」

「うん、分かった。じゃあお休みなさい」

 そう告げて、私はその場を後にした。














ーー カティアが去ったあとのダードレイたち ーー


「なんだ、ダード?カティアに聞かせたくない話でもあるのか?」

 カティアをあえて帰らせたのを察したティダが問う。

「あぁ、なんて言うかな……あいつ、何か少し雰囲気が変わってなかったか?」

「……お前もそう感じたのか。気のせいかとも思ったのだがな」

「年ごろの娘なんだ。いろいろあるんじゃねぇのか?」

「いや、そう言うんじゃなくてだな……なんて言うか、今までに感じなかった『力』って言うか、オーラみたいなものを感じるんだ」

「あぁ、前よりも存在感が増したような気がする。神聖というか、清浄な気が溢れてるような…悪い感じじゃないし、問題はないだろうが」

「そうだな。まあ、少し様子を見ておくか」

 そう結論付けて、彼らは再び酒を酌み交わすのだった。
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