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作者: 小説書き123456
あのシーンを詠唱呪文っぽく書いたら更新停止ですか?
 闘いは互いの声によって厳かに始まった。

 先手は男から来る。 

 彼女の準備が整う前に急激に距離を狭め、密着体勢へと移行する。

 完全な奇襲だった。 

 抵抗しようとする女の腕を刹那に交わし互いの顔と顔を触れさせた。

 そして間髪居れずに
 
「まずはここからだ! 我が口言よ、鋼鉄の如くこの者の固く閉じた門口を柔らかせしめ、そしてそのカギを破壊せよ!ゲートクラッシュドレイン!」

 彼女のきゅっと口角の締まったそこが和らいでいく。 それは攻撃というよりも相手の一ヶ所の防御力を落とさせる補助攻撃に近い。 

 だがこういった小さな積み重ねが最終的に大きく意味のあることを男は理解していた。

 そして女もまたその重要性をわかっている。 しかし奇襲により防御が一瞬送れてしまったことで彼女の『その場所』は僅かながら開いてしまう。

 いまさら防御したところでジリ貧。 ならば…!

「眷属よ。 わが一部の物達よ、 この者の体内を蹂躙せよ!ベーロ・イン・コネク・リマス」

 開きかけた門口からヌラヌラと濡れそぼった生き物がゲートクラッシュドレインンを放った男へと襲い掛かり、そしてまとわり付く。

 そして柔らかくも力強い動きによって暴れまわる。

 それはまさに暴れる猛獣のようであり、捕えた獲物をなぶるように、でも決して離さずに絡み続ける、その猛攻によって完全に虚を突いたはずの男ですら思わず一部を固くしてしまうほどだった。

 召還されたようなその生き物に男も抵抗を試みるが、それはやや粘性の高い水分を身にまとうがゆえに器用に、そして怪しく翻弄する。

「くっ…、これならどうだ。 指よ!かの者の理を説き弱点を曝け!そして突きたてよ! ウイークポイントフィンガージャベリン

「あっ!、ああっ!」
 
 まるでサーチをするかのように左手が彼女の表面を浮遊し、そして目的の場所を見つけたのかまるで槍のように突き出した人差し指が彼女の一点を突いた。
 
 たまらず男の内側を蹂躙していたモンスターが彼女と共に距離をとる。

 ……。 静寂。 まるで先程の激闘が幻のようにオレンジ色の室内は静まり返った。

「…やるわね」

「…お前もな」

 互いの意地と気持ちを込めたハイレベルはいまだ初戦。 小手調べの段階だった。

 それを互いに理解しながら二人は笑った。

 それは嬉しさでもあり、互いの全てを賭けて向き合える歓喜、そして自らが勝利を収めるという凶暴なまでの自負ゆえにだった。

 少しだけ強張った空気が緩まる。 だがそれは次の闘いへと踏み出すための溜めでしかなかった。

 例えるなら飛び上がるために膝を曲げて筋肉のバネを縮みこませるかのように。

 そして放たれたそれは高く、高く、飛び立つ!

 降り立つときこそどちらかが柔らかいベッドのシーツの上に倒れこむまでという誰もが予想できる。

「剥がせ!羽毛の如く、取り上げろ!強欲者の如く、パンテッド・ザ・ブラハント」
   
 男は慎重にいまだ補助魔法を唱え続ける。

 それは相手の胸部装甲を奪い取る奪取魔術。 蛇のように延びた手が彼女のピンク色の装甲を剥ぎ取って先程の攻撃によって隆起した彼女の弱点を曝け出す。

「いつまでもそんなセコイ手なんてかまっていられないのよ!」

 剥き出しの胸部など気にもかけずに彼女の手が怪しく動き出す。 それは幻術のようにユラユラと男を窓ませた。

 それが反応を一瞬遅らせてしまった。 

「震え、震えよ、揺れて揺れよ!崩壊する搭の如く蠢動し、崩れ去れ! ハンドシェィク・ザ・ハンドレット!」

 男の最大の武器、身体の中心にそそり立つ獲物を彼女が強化された手で掴みあげる。 そして同時に震撼するような振動が全身を襲う。

「グッ…グググっ…そ、そこ…は…ぐはぅ!」

 細かくポイントを取るような男の戦術をあざ笑うように女は全力の攻撃を叩き込む。

 それは男が稼いでいた僅かの利益など一発でひっくり返すような大きな一撃だった。

 獲物が超高速で振動する彼女の手によってあっという間に膨張していく。 

 無数の微振動によって男の武器を崩壊させ、その内部のエネルギーを放出させようとしているのだ。

 一度エネルギーを放出されてしまえば、それだけで体力を半分は失ってしまう。

 それがわかっているからこそ、男も歯を食いしばり、耐える。 だがしかしそれは彼女の思う壺だった。

「崩壊させし双手、汝の全力を持って天頂から磨り潰す慈愛の終りよ、ヒラ・テ・サキ・コスコス」

「あああああっtっあつたうたた」

 男の悲鳴が響き渡る。 下からは高速振動、上からは先端を磨り潰すかのように擦りあげる双攻手。

 上下から攻め立てられてはどんな屈強な人間ですら耐えられはしないだろう。  

 勝った! 勝利を確信した女がサディスティックに唇を上げ…かけたがすぐにそれは固まった。

 なぜ? なぜ笑っていられるの?

 絶体絶命。 誰もが不利、いや勝負が決したと確定するかのような激しい攻撃の前で男は確かに笑っていた。

「こ、これを…待っていた…んだ!」

 男がユラリと右手をあげる。 それは何かを証明するかのように。

 く、来る…こいつは…まだ諦めていない!

 女に焦りの顔が浮かぶ。 彼女の両手は攻撃によってふさがっている。 つまり男が何らかの攻撃をした場合にそれを防ぐ手が文字通り無いのだ。
 
 どちらかの攻撃を止めて…防御を…でも、もう少しで終わる…はず。

 その逡巡が命取りとなった。 そして男の罠に彼女は嵌ってしまったのだ。

 女が右手に視線を奪われたその隙を掻い潜ってノーマークの左手が彼女の中心部へと到達した。

「し、しまっ…ああああああっあああぅっ!」

「時空を越え、数多の次元を手繰り寄せ、多元世界の我よ、この者に万個の指突を叩きこめ、ミリオンテ・マン・アタック!」

 それは男が放てる最大魔法。 多元世界に同時に存在する百万の自身を召還せしめ彼女の一穴に同時に叩き込む。

 彼が最も尊敬してやまない伝説の賢者イーグル=カトウから学んだ、切り札であった。

 攻撃に耐え切れずに彼女から鮮血にも似た体液がボタボタと流れ落ちて下のシーツに大きな染みを作っていく。

 それでも彼女は攻撃を止めない。 男も同じように百万回の攻撃を叩き込んでいく。

 もはや声すらあげない。 互いに必死に耐え、そして歯を食いしばりながら、互いの魔術に耐え続けている。

 プシャプシャと勢い良く垂れ流される彼女の体液。 そしてすでに穂先からエネルギーがドクドクと漏れ始めている男。

 すでに闘いは壮絶な打ち合いとなっていた。

「こ、このくら…い…で…」

「ま、まだ…こ、ここから…だーーーーーー」

 男が大きく声をあげ、空いた左手を右手に重ねあわせる。 

 そして息切れしかけた声で、詠唱を始める。

「多元宇宙よ、世界の理よ、今一度その真理から解き放たれて目前の敵に震撼せし力をこの手に授けよ…」

 女が驚愕した。 それは有り得ない、有ってはいけない。 禁断の秘術。 使えばその力に耐え切れず腕の筋肉がねじ切れてしまうといわれてしまう禁断の秘術。

「バ・イブ神よ、ブラックターザンの黒炎の力をこの腕に授けよ…されば代償として我が腕を捧げ奉る…」

 だ、駄目、これをくらっては…逝ってしまう。 だからいけない!

 彼女が逃避行動をしようとしたと同時にそれは叩きこまれた。

 振動魔法の失われし究極の秘術。 

「バ・イブ・ゴッドブレーショーーーーーーン」

 雷にも似た衝撃が全身を貫く。 それはいまだ彼女の体液を垂れ流そうとも、すんでのところで防いでいたその深奥にすら直撃してしまった。

 全てを破壊する。 心も脳内も一つの衝撃で跡形も無く破壊してしまう神の領域の…それが。 

「あああああぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁああああぁ!」

 一際大きな嬌声が室内に、世界に、そして宇宙に響き渡るかのように響いた。

 彼女の、決して止まることの無いであろう双手が力無くシーツの上に倒れ、そして一泊遅れて彼女の全身がバタリと倒れふす。

 男の穂先からはすでにエネルギーが漏れ出ていて、そのまま暴発しそうなほどにビクビクとしている。
 
 それでも彼は耐えた。 文字通りの刹那。 紙一重で。

「ま、まだ…終り…じゃない…でしょ」

 全身に汗を滲ませて、息も苦しそうに彼女が問いかける。

 攻撃されたところはポッカリと穴が開いていて、その見えない暗い奥には彼女が守り通してきた。 

 誰にも到達させることのなかった真実が隠れている。

 男もまた荒い息でコクリと頷いた。

 すでに勝負は決している。 だがこの勝負はそれだけでは終わらないのだ。

 それがわかっているからこそ、女もまた最後の意地を振り絞って身構える。

 男もいまだビクビクと崩壊寸前の獲物の穂先にそっとシールドをかぶせた。

  そのシールド(膜)は武器の威力を阻害する戒めの袋となりうるか?

 否! 断じて否である。

 その膜(シールド)は戒めではない。

 穂先を、全てを包み込むが故に耐久性を向上させさらなる威力に耐えさせるための攻防一体の術だ。   

 そしてそうしなければ女の覚悟に耐え切ることなど両者とも理解していた。

 女はすーっと息を吸い、そして裂帛の気合で叫んだ。

「さあ、来なさい!」

「行きます!」

 男の槍が彼女の開いたそこを突き破る。

 最後の抵抗か? 女も開いていた穴の扉を閉じて、男の穂先を全身で包み込んで破壊しようとせしめる。

 しかしすでに勝負は決していた。 

 ぎゅっと締め付ける女の抵抗すら止められず、男の槍は誰も届くことの無かった女の深奥を貫いたのだ。

 一瞬だけ、誰かの声が響いた。 

 それは女が守り通してきた願いを叶えられたことへの喜びの声なのか?

 それとも苦しい戦いを通してついに勝利を掴んだ男の吼え声だろうか?

 それは誰にもわからない。

 ただあの激しい戦いが嘘のように世界には静寂と生々しい闘いの跡の香りが立ちこめていた。
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