Exspetioa2.12.19
今日は、初雪が降りました。白い花びらがふわふわと踊っているように見えました。窓の外を覗くと、すでに地面が白く染まっていて、いつもとは違う美しい景色に見惚れました。
今日の礼拝では、昨晩三名ものお方が蟲となってしまったことを、黙祷で悼みました。マザーが、たった数か月で、今までの三分の一ほどの花の修道女しか残っていないとお話しされて、とても胸が痛みました。蟲となった方だけでなく、蟲への恐怖によって種に戻ってしまった方も多くいらっしゃったとのことでした。
礼拝が終わり、振り向くと、礼拝堂ががらんとして見えました。花の修道女たちがとても少なくなってしまったことを痛感し、さみしい気持ちになりました。
休息の時間、中庭に行くと、ニゲラ様が降りしきる雪の中、空を見上げていらっしゃいました。
どうなさったのだろうと思いながらニゲラ様に近づくと、ニゲラ様が私に気付き、私をまっすぐに見つめられました。
その瞬間、不思議なことが起こりました。ニゲラ様が、光沢感のある黒の短いスカートを履き、短い羽織を着て、鉄甲冑さんの大群を背後に引き連れ、私に向かって、短銃を構えているように見えたのです……。
ほんの一瞬の出来事でした。
ニゲラ様が、「どうしたの」とおっしゃった瞬間に、その映像は跡形もなく消え、いつものおやさしいお顔が目の前に見えました。
私は、自分に起こったことがよくわからず、ひとまず「いえ」と首を振りました。
「ニゲラ様こそ、どうされたのですか。髪に雪が積もっていらっしゃいます」
「あの日も、こんな雪だった……と思って」
ニゲラ様は、遠く――過去を見つめながら、そうつぶやかれました。
「あの日」とはきっと、神様を亡ぼされた日。マザーにも、雪の日のことだったとお伺いしたことがあったので、私はそう思いました。
神様を亡ぼされた時のことを、ニゲラ様から詳しくお伺いしたことはありません。ですが、ニゲラ様も、とても苦しく、悲しい思いをされたことだけは知っています。
きっとそのお気持ちを思い出されているのだろうと思うと、私の胸は、きゅっとなりました。
私に、何かできたらいいのに……。
そう願っていると、ニゲラ様が、私に、にこっとほほ笑まれました。
「心配、してくれてる?」
「どうしてわかったのですか?」
「セナのことならなんでもわかるわ。ずっと見てきたもの」
ニゲラ様が、私に手を伸ばされました。私がその手に触れると、ニゲラ様が指を絡め、ぎゅっと握りしめてくださいました。冷たくて、だけど、熱くて――……。二人の熱が混ざり合い、溶けていくかのように思えました。
ニゲラ様は再び、雪を見上げられました。
「ふふ。これでこれから雪をみたら、セナと手をつないで一緒に見たことだけを思い出せるわ」
私は、ドキドキしました。握られている手が湿っているように思えて、いいのかしら、どうしよう、なんだかとても恥ずかしい……とぐるぐるしました。ですが、ニゲラ様のやさしくほほ笑まれる笑顔を見つめたら、ニゲラ様を幸せにできていることが、とても嬉しく、幸せに思えました。
「幸せの上書き、ですね」
「いいわね、それ」
私もこの先、こうして雪を見上げるたびに、ニゲラ様と手をつないで雪を見上げた今日のことを、きっと思い出すだろうな、と思いました。
今日の礼拝では、昨晩三名ものお方が蟲となってしまったことを、黙祷で悼みました。マザーが、たった数か月で、今までの三分の一ほどの花の修道女しか残っていないとお話しされて、とても胸が痛みました。蟲となった方だけでなく、蟲への恐怖によって種に戻ってしまった方も多くいらっしゃったとのことでした。
礼拝が終わり、振り向くと、礼拝堂ががらんとして見えました。花の修道女たちがとても少なくなってしまったことを痛感し、さみしい気持ちになりました。
休息の時間、中庭に行くと、ニゲラ様が降りしきる雪の中、空を見上げていらっしゃいました。
どうなさったのだろうと思いながらニゲラ様に近づくと、ニゲラ様が私に気付き、私をまっすぐに見つめられました。
その瞬間、不思議なことが起こりました。ニゲラ様が、光沢感のある黒の短いスカートを履き、短い羽織を着て、鉄甲冑さんの大群を背後に引き連れ、私に向かって、短銃を構えているように見えたのです……。
ほんの一瞬の出来事でした。
ニゲラ様が、「どうしたの」とおっしゃった瞬間に、その映像は跡形もなく消え、いつものおやさしいお顔が目の前に見えました。
私は、自分に起こったことがよくわからず、ひとまず「いえ」と首を振りました。
「ニゲラ様こそ、どうされたのですか。髪に雪が積もっていらっしゃいます」
「あの日も、こんな雪だった……と思って」
ニゲラ様は、遠く――過去を見つめながら、そうつぶやかれました。
「あの日」とはきっと、神様を亡ぼされた日。マザーにも、雪の日のことだったとお伺いしたことがあったので、私はそう思いました。
神様を亡ぼされた時のことを、ニゲラ様から詳しくお伺いしたことはありません。ですが、ニゲラ様も、とても苦しく、悲しい思いをされたことだけは知っています。
きっとそのお気持ちを思い出されているのだろうと思うと、私の胸は、きゅっとなりました。
私に、何かできたらいいのに……。
そう願っていると、ニゲラ様が、私に、にこっとほほ笑まれました。
「心配、してくれてる?」
「どうしてわかったのですか?」
「セナのことならなんでもわかるわ。ずっと見てきたもの」
ニゲラ様が、私に手を伸ばされました。私がその手に触れると、ニゲラ様が指を絡め、ぎゅっと握りしめてくださいました。冷たくて、だけど、熱くて――……。二人の熱が混ざり合い、溶けていくかのように思えました。
ニゲラ様は再び、雪を見上げられました。
「ふふ。これでこれから雪をみたら、セナと手をつないで一緒に見たことだけを思い出せるわ」
私は、ドキドキしました。握られている手が湿っているように思えて、いいのかしら、どうしよう、なんだかとても恥ずかしい……とぐるぐるしました。ですが、ニゲラ様のやさしくほほ笑まれる笑顔を見つめたら、ニゲラ様を幸せにできていることが、とても嬉しく、幸せに思えました。
「幸せの上書き、ですね」
「いいわね、それ」
私もこの先、こうして雪を見上げるたびに、ニゲラ様と手をつないで雪を見上げた今日のことを、きっと思い出すだろうな、と思いました。