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作者: 鈴奈
Exspetioa2.12.5 (2)
 今日のことを綴るのはここまでにします。
 就寝の鐘が鳴るまでの時間で、「神の花嫁」になりたいのか、ニゲラ様とエスになりたいのか、そして、私にとっての幸せとは何かを書きながら考えたいと思います。
 別れ際、シスター・トレニアに、「もし『神の花嫁』になったら、もしニゲラさんとエスになれたらを具体的に考えて、それぞれでどんな気持ちになるかを確かめてみるといいわ」とご助言をいただきました。その通りにやってみたいと思います。

 まず、「神の花嫁」になったらを考えてみます。
 手紙のやりとり、名前の呼び合い、贈り物の渡し合い、おそろいのものや指輪をつけること、手をつないで歩くこと。
 ……うぅん。考えてはみたのですが、マザーとエスごっこをしているところしか思い浮かびません。神様のお姿を知らないからでしょうか。
 一緒にいたい、他の子とは違う特別な存在、特別なことをしたい、相手にもそう思ってほしい、お互いにそう思っていたい。そういう感情も、お会いしたことがないからか、まだよくわかりません。
 ですが、マザーが、神様は私を望んでくださるとおっしゃってくださっています。神様が幸せになってくださったら、私はきっと、幸せな気持ちになれると思うのです。

 次に、ニゲラ様とエスになったらを考えてみます。
 手紙のやりとり……は、ニゲラ様が手紙を書くのが苦手でいらっしゃるとのことだから、できません。名前の呼び合いは……私が呼び捨てでお呼びできないのでできません。
 できるとしたら、贈り物の渡し合いと、おそろいのものや指輪をつけることでしょうか。
 贈り物は、以前お花をいただいて、贈り返したことがあります。とても温かな気持ちになりました。おそろいのものは、身につけたことがありません。ですが、もし、ニゲラ様とおそろいの指輪をつけることができたら……胸が、ドキドキしてきました。そしてもし、その手で、ニゲラ様と手をつないで歩けたら……。
 ああ! とても恥ずかしくて、しっかり考えられません!
 このドキドキは、楽しい気持ち、嬉しい気持ちに近い恥じらいなのかもしれません……。
 ですが、ニゲラ様はどうでしょう。
「私の楽園は、あなた」「あなたが幸せでいてくれれば私も幸せ」、それに、「愛してる」……。ニゲラ様は、たくさんの素敵なお言葉を私にくださいました。
 ニゲラ様は私と、エスになりたいと思ってくださっているのでしょうか。いつかおっしゃってくださったお言葉は、そういう、「愛してる」なのでしょうか……。

 もしそうだったら、私は、とても、とても嬉しく思います。

 でも、私が「神の花嫁」になるとお伝えしても、「あなたが決めたのなら、いいと思うわ」とおっしゃいます……。それはひとえに、私の考えを尊重してくださっているからだとは思うのですが、もしかしたらそうではなくて、私のことを、エスとして好きなのではないから、という可能性もあります。どうしてか少し、心がしぼんでしまったような気持ちになりました……。
 よく考えたら、ニゲラ様は、エス自体に興味がないのかもしれません。エスは一緒にいる、愛し合うことを約束した関係。運命的で、とても幸せな関係ではあるけれど、見方を変えると、そうした約束事に縛られる、鎖で縛られた関係ともいえます。ニゲラ様は「あなたのものにはならない」「私は誰のものにもならない」ともおっしゃっていましたし、そうした、縛られる関係がお嫌いなように思えます。「神の花嫁」であることをつらく思っていらっしゃった過去があるとお聞きしましたし、もしエスになったら、こうした決めごとに従うこと、縛られることを、おつらくお思いになるかもしれません。
 どれもこれも、私の憶測にすぎないのですが……。
 でも、たくさん考えて、私の気持ちはまとまってきました。

 私は、ニゲラ様とエスにならなくていいのです。
 私は、ニゲラ様と楽しく日々を過ごしたいのです。おつらい思いをしてほしくはないのです。一緒にいられたら、それでいいのです。
 だから、「神の花嫁」になる道を歩もうと思います。気付けてよかったです。なんだかほっとしました。
  
 もうひとつ、たくさん考えたおかげで、気付けたことがあります。
 神様を想う幸せと、ニゲラ様を想う幸せ。それぞれ、私の気持ちの昂りが、大きく違うことです。

 同時に、二つの幸せは、違う種類のものであることにも気が付きました。
 ひとつは、誰かが幸せになったことを喜ぶ幸せ。もうひとつは、私から求める幸せ。
 どちらも私にとっては幸せなのですが、前者は「よかった」と思うような、ふんわりと体を包み込むようなやさしい幸せ。後者は、私自身の心がより激しく、大きく動いて、体中にじんわりと染み渡るような幸せなのです。
 この世界には、たくさんの幸せのかたちがあるのだと改めて思いました。けれどどちらも、私の大切な幸せなのです。

 就寝の鐘が鳴ってしまいました。
 今日は眠り、また明日、じっくり考えたいと思います。
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