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作者: 鈴奈
Exspetioa2.6.20
 今日は、休息の時間に、どなたも遊びにいらっしゃいませんでした。私もひとりで考えたくて、中庭奥の長椅子に座り、ぼうっと過ごしていました。上を見ると、午前と同様、あのお方が私を心配そうに見つめていてくださいました。
 私は、あのお方に、私の心のうちをすべて打ち明けてしまいたい、と思いました。あのお方に、お話しできたらいいのに、と……。そうしたら、すべてが前向きに進むような気がしたのです。

 私は心の中で、あのお方に、「どうしたらいいのでしょう」と問いかけました。すると、不思議なことに、あのお方が、やさしくほほ笑まれたのです。まるで、「大丈夫よ」とか、「頑張って」とおっしゃるかのように。心がつながっているかのようでした。

 その時、私は、心が決まりました。

 シスター・ルゴサに、会いに行きます。
 私はやっぱり、すべての方に幸せになっていただきたいのです。

 シスター・ルゴサのことを傷つけないことは、きっと難しいけれど……それでも、傷つけてしまったらその分、私ができる別の方法で幸せにしてさしあげられるよう努力したいと思ったのです。相手の心と誠心誠意向き合って、できることをし尽くしたいのです。
 今の私ができることは、シスター・ルゴサの大切なお気持ちを、私ができる精一杯の方法で大切にしてさしあげること。私は、シスター・フリージアが以前仰っていた、「相手の大切なものを大切にする」という美しい在り方で咲いていたいのです。
 マザーには、私の気持ちをきちんと伝えることにしました。マザーならきっと、私の気持ちをわかってくださいます。
「神の学び」の時間、私はマザーに、シスター・ルゴサに会いに行く旨を伝えました。マザーははじめ、反対しました。ですが、私がどうしてもと懇願すると、ふうと小さなため息をつきました。

「セナって、結構頑ななんだね。そういうところは、イヴみたいだ……。それなら、行ってみるといい」

 よかった、許してくださいました。ほっと安心する私に、マザーは、

「気を付けてね。蟲に……」

 と、静かにおっしゃいました。私は、シスター・ルゴサとのお話が終わったらすぐに部屋に帰ることを約束しました。
  
 あとは、シスター・ルゴサにどのように伝えるかを考えなければなりません。

 まず、私の答えですが――。
 私は、シスター・ルゴサと、エスになることはできません。
 それは、私が「神の花嫁」になるからという理由だけではありません。
 シスター・ルゴサはずっと、私がここに来た時からお世話をしてくださり、記憶が戻った後もずっと、私の体を心配して手をつないで歩いてくださったり、やさしく明るく声を掛けてくださったり……。お世話係が終わった後も、毎日一番に私のところへ遊びに来てくださって、私の知らないたくさんのことを教えてくださり、日記や、手紙や、しおりなど、たくさんの手作りの贈り物をくださいました。
 ずっと親身にしてくださったシスター・ルゴサに、私はとても、ありがたい気持ちでいっぱいなのです。いっぱいで、大好き、なのです。
 ですが……シスター・ルゴサが私に向けてくださっている気持ちとは、同じではないのです……。
 シスター・ルゴサは、あれだけエスの手紙を喜んでいらっしゃったのです。エスになれない事実をお伝えしただけで傷つけてしまうのは確実です。その上、私の気持ちがシスター・ルゴサとは違うものだとお伝えしたら、どれだけ傷つけてしまうことでしょう。

 考えれば考えるほど、マザーが教えてくださったようにお答えするのが、一番傷つけないように思えました。悩みに悩み、そちらの道に片足を踏み出しそうになりました。
 ですが、私は踏みとどまりました。それでは、嘘をつくのと同じことです。まっすぐに気持ちを伝えてくださったシスター・ルゴサに失礼です。伝えていただいた気持ちに誠意をもって答えること――つまり、正直に答えることが、相手の気持ちを大切にするということだと、私は思うのです。

 私は、決めました。シスター・ルゴサに、私の気持ちを素直に伝えます。私がシスター・ルゴサのことを、幸せになってほしいと、大好きだと想っていることをお伝えしたいと思います。そして、エスというかたちでなくても、一緒に幸せになっていける方法を、一緒に考えていきたいと、伝えたいと思います。

 ひとまず、進む方向が定まり、ほっとしました。
 あのお方のおかげです。あのお方のお顔を見たら、不思議と、きっと大丈夫だと、したいと思っていることをしてみようという気持ちになることができました。

 あのお方に、感謝。あのお方と巡り会えた、この世界に感謝。
 この世界を創ってくださった神様に、感謝。
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