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作者: 唯響-Ion
第七八話 イルカの群れ
 山崎校長補佐の引率で、一行は目的地の教会へ向け、天草分校を出発する。
 一行は目的地の教会めがけ、船に乗り込んだ。
 道中で弥勒は、腕を組みながら一人、考えていた。メディアやインフルエンサーが、日本下げをしている。そしてこの九州では、大友が操っているとされる暴力団や宗教団体が問題を起こし、九州中の市民からヘイトを集めている。そして同時に、大友に関わらず、大きな日本の政府与党やそれに準ずる巨大政党が悪政や失態、汚職で、九州を含めた日本中からヘイトを集めている。
「どうして……藤原氏や大友らは、憎むべき政党同様に、ヘイトをかき集めるのか」
 弥勒は自分の勘が鋭くなったと感じていた。そして、筑紫が大友一派の撹乱を目的としたスパイではないと、そう考えていた。だとすれば自らの問いの答えは、筑紫が語っていた通りだった。
「民衆が暴力団や巨大政党へとヘイトを向け、藤原氏が九州で新たな第一党を作り上げ、大友が暴力団や宗教団体を解体させ……九州を独立させる……そうやって新たな国を作るんだ」
 弥勒は心の中で、そんな筋書きを思い付いた。しかしまだそれが正しいかなど分からない。だからこそ調査しなくてはならないのだ。だからこそ、遥々、天草までやって来たのだ。
「遠かったねぇ皆。にしても博多とか百道浜の海より、バリ綺麗な海やん! それにほら!」
 五条は、澄んだ綺麗な海を眺めた。海ではイルカが群れを成して泳いでいた。
「みんな自由やねぇ。本能に従って、この天草まで、世代を隔ててなん度でも、ずっと泳いできてくれるんやね。尊かぁ。そう思わん? 弥勒君」
「世代を隔てて、なん度でもか。記録がないだけで、人と同じく、命を繋いできた誇れる存在だね。建国以来二千八十年の名家なんて……何万年変わらず、あるがままに生きてきた彼らに比べると小さい。自然(おのずからしかり)は……なによりも尊い」
「自ずから然りかぁ、イルカを見てそんなことを考えるなんて、弥勒君は本当に硬派だね。でも分かるよ、受け継いできた積み重ねのままに流されるか、自由に選択をしていくか。多様性の今の時代、前者の方が難しい選択になっている気がするもん。私はどっちも大切にしとーけん、唯一無二の五条衣世梨で居られるっちゃん」
 五条はそういうと、満面の笑みを見せた。
 オレンジ色の救命胴衣を身につけ、潮風に晒されながらというシチュエーションでも、相変わらず美人だなと弥勒は思った。
「弥勒君達がなんで太宰府に来て、そして長崎とか天草に来たんかわかった気がするよ。なんかを探しよっちゃろ。自分自身なのか誰かなのか、それは分からんけど」
「五条さんも勘が冴え渡る様になったの?」
「勘じゃないかな。弥勒君達が選ぶ旅行先もそうやし、今まで別府温泉に行ったことがあるって話とったんも、全部近くの墓地とか、諫早湾とか、カトリック教会とかが目的な様な気がしたっちゃん。最近の九州はきな臭かし」
 それなりに長く一緒にいるからか、五条に悟られてしまったらしい。
「弥勒君、あの時は私、マスターとか有馬君に助けられるだけやったけど、私も強くなるよ。守られるだけの女の子じゃ居られないから」
「そっか……僕も強くなる為に、マスターから剣を教わっているよ」
「らしいね。なんか珍しく杏奈が、褒めてたよ。ひょろひょろだったのに、ちゃんと漢(おとこ)になろうとしてるって。あとで話してみてよ。私より学園の外に関しては顔が広いし、仲良くしてて損はないよ」
 五条はそういうと、そういって、またイルカを眺めだした。
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