第二四話 心当たり
弥勒は緒方を尋問するべく、陰陽部を訪ねる。
弥勒は夏休みが開けた後、早速緒方に会うべく陰陽部の部室を尋ねた。
緒方は突然の弥勒の訪問に驚きながらも、「まさか転入かい?」と冗談をいった。
「転入じゃないよ。話がしたくて」
「君も物好きだね。また常夜に行きたくなったんだろう?」
「まぁそれもそうだけど、観光気分で行きたい訳じゃないんだ。知りたいことがあって」
「そうなんだ。黄昏時(マジックアワー)までまだ時間があるから、それまでここで話そう」
弥勒は黒い革のソファに腰を下ろした。実家のソファとは異なり、使い古されていないからか、やたらと硬くて座り心地が悪かった。
「実は、この前の墓地の件から、知りたいことがあって。あの墓地と同じくらいの大きな闇が、この九州には溢れていると、そう考えているんだ。僕はこの先、この九州で青春を送ることになる。もっとこの地について、知りたいんだ」
緒方は「そうか……」とだけ呟くと、弥勒の向かいにある、同様のソファに腰を下ろした。座り心地が悪そうなその顔は、ソファのせいなのか、分からなかった。
「この地には、多くの問題がある。それは政治や外国人のせいだ。でもそれは、九州だけのことじゃない。だがこの地に起こるそれらの問題には……繋がりがある。無論、全てではないだろうけどね」
「背後で操る人がいるということかい」
弥勒は、ゆすりを掛けた。しかしそれは当たらなかった。
「背後で操る人……? それは知らないな。僕がいおうとしているのは、怪異ら……そして神通力が関わっているということさ」
そうはいうものの、彼の目は泳いでいた。逡巡しているのが、見て取れる。だがそれ以上に、常に怪異を相手にすることで神通力のコントロールに秀でた彼であっても隠せない程の心の動揺が、波長として溢れ出ていた。それは「ここまで話してもいいのか」という、葛藤を含んでいた。
緒方はすっと顔を上げて、息を吸った。
「弥勒君。君がこの学校へ転校してきた理由がわかった気がするよ。舞楽の研鑽を重ねる為だなんて、嘘だね。君は、君がさっきいっていた背後の誰かを探る為に九州へ来た。そうだろう?」
「ご名答。その通りだよ。緒方君はこの前、僕の未来がなんとなく分かるっていっていたよね。直近の未来は、見えないのかな」
「ハッキリと分かる訳じゃないからね。前にもいった通り、流れ込んで来るだけで、恣意的に未来を覗ける訳ではないんだ。でも少し分かることがある。君はすぐにこの日向分校を発つ。そう思う。それは……冬よりは前だと思う。本当はこういう未来のことは口外禁止なんだけど、君には詫びたいと常々思っていたから……」
「詫びって?」
「秋月が心を開いた様に僕も、素直で八百万をよく学び、真剣に神通力の鍛錬に務める君の為に、できる限りのことをしてあげたいと思っているんだ。よく分からないことにヘイトを向けるなんて、理解と協調という日本人らしさとは正反対の愚行だった」
弥勒は、なんだそのことかと思った。とうにそんなことどうでもよかったのだ。それから弥勒は再度、「未来のことだけじゃなくて、知っていることを全て話して欲しい」と頼んだ。
緒方は、澄んだ顔で「背後で操る人に、本当は心当たりがあるんだ」といった。そして詳細を語り始めた。
緒方は突然の弥勒の訪問に驚きながらも、「まさか転入かい?」と冗談をいった。
「転入じゃないよ。話がしたくて」
「君も物好きだね。また常夜に行きたくなったんだろう?」
「まぁそれもそうだけど、観光気分で行きたい訳じゃないんだ。知りたいことがあって」
「そうなんだ。黄昏時(マジックアワー)までまだ時間があるから、それまでここで話そう」
弥勒は黒い革のソファに腰を下ろした。実家のソファとは異なり、使い古されていないからか、やたらと硬くて座り心地が悪かった。
「実は、この前の墓地の件から、知りたいことがあって。あの墓地と同じくらいの大きな闇が、この九州には溢れていると、そう考えているんだ。僕はこの先、この九州で青春を送ることになる。もっとこの地について、知りたいんだ」
緒方は「そうか……」とだけ呟くと、弥勒の向かいにある、同様のソファに腰を下ろした。座り心地が悪そうなその顔は、ソファのせいなのか、分からなかった。
「この地には、多くの問題がある。それは政治や外国人のせいだ。でもそれは、九州だけのことじゃない。だがこの地に起こるそれらの問題には……繋がりがある。無論、全てではないだろうけどね」
「背後で操る人がいるということかい」
弥勒は、ゆすりを掛けた。しかしそれは当たらなかった。
「背後で操る人……? それは知らないな。僕がいおうとしているのは、怪異ら……そして神通力が関わっているということさ」
そうはいうものの、彼の目は泳いでいた。逡巡しているのが、見て取れる。だがそれ以上に、常に怪異を相手にすることで神通力のコントロールに秀でた彼であっても隠せない程の心の動揺が、波長として溢れ出ていた。それは「ここまで話してもいいのか」という、葛藤を含んでいた。
緒方はすっと顔を上げて、息を吸った。
「弥勒君。君がこの学校へ転校してきた理由がわかった気がするよ。舞楽の研鑽を重ねる為だなんて、嘘だね。君は、君がさっきいっていた背後の誰かを探る為に九州へ来た。そうだろう?」
「ご名答。その通りだよ。緒方君はこの前、僕の未来がなんとなく分かるっていっていたよね。直近の未来は、見えないのかな」
「ハッキリと分かる訳じゃないからね。前にもいった通り、流れ込んで来るだけで、恣意的に未来を覗ける訳ではないんだ。でも少し分かることがある。君はすぐにこの日向分校を発つ。そう思う。それは……冬よりは前だと思う。本当はこういう未来のことは口外禁止なんだけど、君には詫びたいと常々思っていたから……」
「詫びって?」
「秋月が心を開いた様に僕も、素直で八百万をよく学び、真剣に神通力の鍛錬に務める君の為に、できる限りのことをしてあげたいと思っているんだ。よく分からないことにヘイトを向けるなんて、理解と協調という日本人らしさとは正反対の愚行だった」
弥勒は、なんだそのことかと思った。とうにそんなことどうでもよかったのだ。それから弥勒は再度、「未来のことだけじゃなくて、知っていることを全て話して欲しい」と頼んだ。
緒方は、澄んだ顔で「背後で操る人に、本当は心当たりがあるんだ」といった。そして詳細を語り始めた。
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