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作者: 唯響-Ion
第二三話 諸問題
 巳代は墓地での出来事に違和感を覚える。そして弥勒と共に、稲葉らが大友修造に与する敵ではないかという疑いを強める。
「なぁ気づいたか弥勒。アイツらのあの、なにか心当たりがありそうな顔を」
 温泉旅行の帰り、学校付近で解散し各自家へ戻る途中、巳代と弥勒は墓地での出来事を振り返っていた。
「確かに……いわれてみればそうだった。でも皆は、墓地のことを知らなかったよね。となれば、それとは他に、周知の問題がこの九州にはあるということ?」
「俺はそう思う。稲葉は、九州全体の問題だといってたからな。あのアイツらの表情これは俺の勘だがな……アイツら、大友修造という存在がいることを知ってるんじゃないか。だからそれを思い出して、あんなに曇ったんじゃねぇのか」
「僕も稲葉さんの力強いあのいい方には、なにか意味がある様な気がしたんだ。大友修造の政府転覆計画の為に、発破を掛けたってことだったのかな……? 学園内に敵が混じっている可能性があるから舞楽の大会はなくなった訳だけど……日向分校の皆が敵に与みしてる可能性は無きにしも非ずで……」
「希望的観測をしない為にも、まず全員が敵であると疑って掛かるべきだな……! 今までより強く、疑りをかけて行くべきだ」
 九州という土地には、多くの問題がある。それは九州へ来るよりも前に、父の正仁が語っていたことから、弥勒も知っていた。
 墓地は強烈な衝撃を与える、強引な政治の歪みが与えた問題だった。それぞれが、同様の問題に心当たりがあるとすれば、それを合計した時、共通の黒幕に行きつくことも有り得ないことではない。もしそうであるならば、その答えは、大友修造であると考えるべきだろう。
 惟神庁の長官が、九州の諸問題の先導者だと断言する程、なにか確信があるのだ。しかしその根拠は、話してはくれなかった。しかしやはり、知っておくべきだと強く感じた。無論、父正仁を信用しているが、それとこれとは別だと、そう思ったのだ。

 弥勒はその後、すぐに父正仁へ連絡をとった。そしてその日の夜、父正仁から回答があった。弥勒からの二度目の強い要望に、遂に情報を開示することとしたのだ。内容をまとめれば、摘発した多くの犯罪組織を芋づる式に辿っていけば、その先に、神通力と思(おぼ)しき摩訶不思議な力を使う存在がいたことが分かっているらしい。神通力の使用者に汲みしたとみられるそれらの犯罪組織による犯罪行為は、日に日にエスカレートしていた。
 そして弥勒に九州行きを命じたその日は、それらの犯罪組織の検挙に力を入れた福岡県知事の、事故に見せかけた暗殺未遂が起きていた。犯行に及んだのは該当の犯罪組織の一つである指定暴力団山内組であり、県知事が別件で受けた訴訟に勝訴した件が、引き金になっていると見られている。つまりは訴訟を起こした民間の屋台経営企業でさえも、大友に汲みしている可能性が浮上しているということなのだ。
「県知事の件は公的には事故として処理されている。つまり暗殺未遂が起きたことを含め今話した情報は全て、父さんを含む政府高官のみが知る極秘情報らしい。だから巳代、僕たちは、易々とこれらの情報を誰かへ漏らすことは厳禁だ。息子にさえ、一度は共有を拒んだ情報だ。絶対的に信用を於ける人でなくちゃ、話してはいけない情報だ」
「分かっちゃいたが……重責だな。犯罪組織の背後にいる存在……つまり俺たちが大友修造だと仮定している人物は……人にいうことを聞かせられるだけ、強い神通力を操れるということだよな。かつて神童と呼ばれた男ならば、それも有り得るよな」
「それと、大友は数年前まで、星(ほし)の屑(くず)財団という組織を運営していたらしい。現在、会長の座は彼の右腕であり、同じく惟神学園出身者の高橋薫が務めているようだ。肝心なのはこの星の屑財団は……宗教団体としてとして発足した組織らしい」
「胡散臭い連中は皆お友達か。まるでマフィアだ。大友修造は今、なにをしているんだ。東洋のアル・カポネにでもなってるのなら、その名前は轟いていると思うが」
「戸籍上は、既に鬼籍に入っているんだ。だから、警察が彼を捕らえることもできなければ、捜査することすらない。そして惟神庁もそう考えていて、大友修造が黒幕だと考えるのは、父さんやその側近達だけらしい。神通力が用いられた証拠がないから、惟神庁は既に死んだ筈の大友が黒幕であるとは考えないんだ。神通力の存在を語った犯罪者は皆、ただ単に錯乱したと判断されている。つまり……」
「……現状は、政府や警察、惟神庁では大友修造を追うことは出来ない……。俺達が派遣された意味がようやく分かった。どうして学生の俺達だけがって、ずっと引っかかってたんだ。俺達は、九州の諸問題を直に学びながら、背後に潜む、誰も信じちゃいない大友修造まで辿り着き、光の元に引きづり出して裁くってことだ。大友が黒幕というのは、皇(すめらぎ)長官一派のみが信じることであり、まだ確定ですらない」
「父さんの考えを僕は信じたい。非合理的な判断かもしれないけど……」
「俺だってそうだ。だから俺達なんだ。遠回りはせず大友の居場所を突き止める為に動ける、神通力の使い手。それは俺たちしかいない。やり遂げよう」
「そうだね。ありがとう巳代……。それじゃあまずは、皆にさりげなく、心当たりについて聞いていこう。最も詳しそうなのは……緒方君だ」
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