残酷な描写あり
R-15
第四話 ひとりぼっち道場
木材と汗の匂い。道場全体に響き渡る木剣のぶつかり合う音。
そして、その中で一際小柄な体格でありながら、他者と鎬を削りあって………
いない俺ッッ!!!
道場の隅っこに座り込み、門下生達の実戦稽古を見つめるだけの俺ッッッ!!!
そう、俺はラルドが師を務める道場で、ぼっちをかましているのだ。
そして、その中で一際小柄な体格でありながら、他者と鎬を削りあって………
いない俺ッッ!!!
道場の隅っこに座り込み、門下生達の実戦稽古を見つめるだけの俺ッッッ!!!
そう、俺はラルドが師を務める道場で、ぼっちをかましているのだ。
ラルドが俺の陰湿なストーカー紛いの説得に折れ、道場へと連れて来てくれたまでは良かった。
だが問題はここからだ。
ラルドが持っているこの道場、俺の住む村と隣町の境目ほどに位置しているこの道場は、主に子供が門下生だ。午後は他所の騎士団にも指導を行っているらしいが、まあそこはどうでもいい。
子供が門下生であることになんの問題があるのか、誰もが疑問に思うだろう。正確に言うなれば『子供であること』というより、『俺より歳上の子供』だということが問題なのだ。
この世界は前世と比べると、年齢が体格に見合っていない。肉体年齢の方が明らかに二歳ほど高いのだ。 『暦が正確ではないから』や、『この世界の人間は肉体の成長が速い』などと、原因は色々あるかもしれない。まあ、そこは現時点での俺にはわからないので考えない。
重要なのは、俺が前世で言う小学二年生レベルの身体であるのに対し、周りの門下生は最低でも小学四年生レベルの身体を持っている奴しかいないということだ。
ただでさえ歳の差があるのに、相手はもう二次成長期に入り出している。
俺が師範の息子なのも加わって余計に近寄り難いのか、みんな全く相手にしてくれないのだ。
「暇だなぁ……」
ラルドは最低限、剣の型などは教えてくれるが、俺に付きっきりで見てくれるわけじゃない。この空間にも居づらくて、結局道場の庭で一人で素振りをするぐらいしかない。
こんな……こんなの俺の想像していたモノと違う。
もっとこう……『突如現れたチビが無双する!』とか、『この歳でその奥義を習得だと!?』とかさ、『魔術も剣もイケるのか!!』みたいなさ? 展開にしたかったわけよ。
しかし現実はどうだ。木刀はこの小さな体にはとても重く感じるし、切磋琢磨する仲間もいない。
どうやら、異界に転生なんて言っても、中学の頃に読んだラノベみたいに、都合よく物事が運ぶことはないようだ。
「……帰ろっかな、家に」
ーーー
照りつける朝日、そこかしこから聞こえる虫の声、道場の方から聞こえる足音、そして程よく涼しい日陰!
「127、128、129……ヒャク……サン、ジュウッッッ!!」
掛け声と共に木刀を力一杯振り下ろし、その衝撃で飛んだ俺の汗が、ボタボタと地面を濡らす。
「ふぅ……ひとまず休憩〜」
うん。やはり朝の運動は心地の良いモノだ。頭の中がさっぱりする。コレをするとしないとでは、魔術の練習の捗り方が段違いだ。
道場に通うようになってから早一ヶ月、相変わらず俺は浮いた存在だが。剣の修行は続けている。
最近は道場の裏の日陰で剣を振るうのがマイブームだ。ここなら人も来ないから、変な居辛さも感じないしな。
「ギャハハハハッ」
「おい、なんかやり返してみろよ!!」
——っと、こんな場所で子供の笑い声か、どうやら俺の聖域に侵入者が現れたようだ。まずは紅茶でも淹れようか。
いやいや、そんなこと言ってる場合じゃねぇな。足音がどんどん近づいてきてるじゃないか。
ともかく物陰に隠れよう。
現れたのは3人の子供だった。
「へへ、コレがなきゃ何もできないんだろ〜?」
「へいへいパス!」
ヘラヘラと笑いながら、木刀を交互に投げ合う性格の悪そうな男子二人と……
「返してくれ!!」
そう声を上げながら、剣を追う様にして男子二人の間をピョンピョンと行き来する小柄な青髪の男子、か。
うむ、これは、あれだ。イジメってやつだな。
面倒だ。俺の聖域がいじめの現場と化してしまった。
「悔しかったら力ずくで取り返せよ、俺らより強いんだろ?」
イジメ側の男子の片方がそう口にする。
卑怯者め。二人は木刀を腰に差してるくせに、青髪の方は見ての通り丸腰じゃないか。
「反撃なんかしないぞ! それじゃ君達と同じだ!!」
おーっと!? 青髪選手、ここで強烈な煽りをぶち込んできました! いじめっ子二人も眉を顰めます!
「ッ……なんだと!?」
そして案の定、いじめっ子は顔を真っ赤にしている。
「僕は喧嘩するために剣を教わってるんじゃない!」
真っ直ぐな目でいじめっ子二人を見つめたまま、青髪の少年はそう言い放った。ナヨナヨしたいじめられっ子かと思っていたら、意外にも芯のある奴だ。これが黄金の精神というや——
バヂンッッッッという破裂音が、道場裏に響き渡った。
音の出所は言うまでもない。
「生意気なんだよッッッ!! 後から入ってきたくせに一番気取りで!!!」
いじめっ子の片方……そう、思い出した。こいつは確かラルドにジルと呼ばれていた。まあまあ強いんだよな。
まあとにかく、そのジルが青髪の少年を力一杯ぶったのだ。
「……」
よろついた青髪の少年は、何も言わずにぶたれた頬を抑えながら下を向く。
「いつもいつも馬鹿真面目に剣振ってぇ! 自分だけ違うと思ってるのか!? 良いところの商人の子だからって、調子に乗ってんだろ!!!」
ジルに続いてもう一人のいじめっ子も、青髪の少年を罵った。
「……」
少年は何も言わない。拳をギュッと握ったまま下を向き続けている。
喧嘩には乗らないと言っていたが、まさか抵抗すらしないつもりか……?
俺が仲裁に入るべき……いや、こんなガキが出たところで、歳上達にボコられて終わりだな。
「ッ……なんとか言ったらどうなんだ!」
なんの反応も見せない少年の態度が、ジルの怒りにさらに油を注ぎ、彼は再び手を振り上げた。
「ちょ、ちょっとストップぅぅぅぅ!」
「は? 誰だ!!!」
思わず物陰から飛び出して声を上げてしまった。
最悪だ。もう後戻りできない。ボコられて終わりだ〜……
「おいジル、こいつ師範の……」
「あ、そうかあいつか……で、何の用だよ」
ズイズイと迫って俺を囲む二人。流石にこれだけ体格差があると、こっちも萎縮してしまう。
「いやっ、あの……そういうことは良くなぃ……ゃなぃ、かなって……」
「あ!? 声が小せぇんだけど」
「もっとハキハキ喋れよ!」
「こ、こんなことしてたらダメです! 二人とも強くてカッコいいのに!
……だから早く稽古に戻った方が——」
「余計なお世話だよ! なに、それとも俺らの邪魔すんの?」
あー、くそ。ヨイショしてなんとか帰ってもらう作戦失敗か。
困った。他に策はない。とにかく止めねば。
「やめましょうよ、こんなこと!」
だが、肝心の説得の言葉は見つからない。人を罵倒する語彙は無限に浮かんでくるが、穏便に済ませるとなると、俺の脳みその回転速度は著しく落ちる。
「しつけぇんだよ! いい加減にしろ!」
声を荒らげたジルが、俺の胸ぐらを掴んで体を持ち上げる。
仕方ない。一か八かこちらも反撃しよう。ただで殴られるよりはマシだ。
「うわっ!? 目が! 目がぁぁぁぁぁ!」
俺を掴み上げたジルの顔目掛けて、素早く土魔術で作った大量の砂をぶっかけ、目眩し。
反射的に俺を掴んでいたジルの手は緩み、簡単にふり解けるようになった。
「んあ!? 今度は何だよ!!」
すかざすよろけたジルの腕を掴み、そのまま彼に背を向けて前のめりになる。
いくら隙をついたとはいえ、これだけの体格差の相手を助走なしに投げ飛ばすには、俺の腕力は足りていない。しかし、今の俺にはそれを補う魔術がある!!!
「喰らえ我が奥義ッッッ!!!」
そう叫ぶと共に、土魔術で相手の足元を勢いよく隆起させ、それによって出来た高低差を利用して、ジルの体を背負い込む。あとは地面に叩きつけるくらいの勢いで引っ張り、俺に覆い被さるような体勢になったこいつを、もう一人のいじめっ子に向けて風魔術で吹き飛ばす!
これこそが我が必殺の背負い投げ!!!
「月牙店長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」
だが問題はここからだ。
ラルドが持っているこの道場、俺の住む村と隣町の境目ほどに位置しているこの道場は、主に子供が門下生だ。午後は他所の騎士団にも指導を行っているらしいが、まあそこはどうでもいい。
子供が門下生であることになんの問題があるのか、誰もが疑問に思うだろう。正確に言うなれば『子供であること』というより、『俺より歳上の子供』だということが問題なのだ。
この世界は前世と比べると、年齢が体格に見合っていない。肉体年齢の方が明らかに二歳ほど高いのだ。 『暦が正確ではないから』や、『この世界の人間は肉体の成長が速い』などと、原因は色々あるかもしれない。まあ、そこは現時点での俺にはわからないので考えない。
重要なのは、俺が前世で言う小学二年生レベルの身体であるのに対し、周りの門下生は最低でも小学四年生レベルの身体を持っている奴しかいないということだ。
ただでさえ歳の差があるのに、相手はもう二次成長期に入り出している。
俺が師範の息子なのも加わって余計に近寄り難いのか、みんな全く相手にしてくれないのだ。
「暇だなぁ……」
ラルドは最低限、剣の型などは教えてくれるが、俺に付きっきりで見てくれるわけじゃない。この空間にも居づらくて、結局道場の庭で一人で素振りをするぐらいしかない。
こんな……こんなの俺の想像していたモノと違う。
もっとこう……『突如現れたチビが無双する!』とか、『この歳でその奥義を習得だと!?』とかさ、『魔術も剣もイケるのか!!』みたいなさ? 展開にしたかったわけよ。
しかし現実はどうだ。木刀はこの小さな体にはとても重く感じるし、切磋琢磨する仲間もいない。
どうやら、異界に転生なんて言っても、中学の頃に読んだラノベみたいに、都合よく物事が運ぶことはないようだ。
「……帰ろっかな、家に」
ーーー
照りつける朝日、そこかしこから聞こえる虫の声、道場の方から聞こえる足音、そして程よく涼しい日陰!
「127、128、129……ヒャク……サン、ジュウッッッ!!」
掛け声と共に木刀を力一杯振り下ろし、その衝撃で飛んだ俺の汗が、ボタボタと地面を濡らす。
「ふぅ……ひとまず休憩〜」
うん。やはり朝の運動は心地の良いモノだ。頭の中がさっぱりする。コレをするとしないとでは、魔術の練習の捗り方が段違いだ。
道場に通うようになってから早一ヶ月、相変わらず俺は浮いた存在だが。剣の修行は続けている。
最近は道場の裏の日陰で剣を振るうのがマイブームだ。ここなら人も来ないから、変な居辛さも感じないしな。
「ギャハハハハッ」
「おい、なんかやり返してみろよ!!」
——っと、こんな場所で子供の笑い声か、どうやら俺の聖域に侵入者が現れたようだ。まずは紅茶でも淹れようか。
いやいや、そんなこと言ってる場合じゃねぇな。足音がどんどん近づいてきてるじゃないか。
ともかく物陰に隠れよう。
現れたのは3人の子供だった。
「へへ、コレがなきゃ何もできないんだろ〜?」
「へいへいパス!」
ヘラヘラと笑いながら、木刀を交互に投げ合う性格の悪そうな男子二人と……
「返してくれ!!」
そう声を上げながら、剣を追う様にして男子二人の間をピョンピョンと行き来する小柄な青髪の男子、か。
うむ、これは、あれだ。イジメってやつだな。
面倒だ。俺の聖域がいじめの現場と化してしまった。
「悔しかったら力ずくで取り返せよ、俺らより強いんだろ?」
イジメ側の男子の片方がそう口にする。
卑怯者め。二人は木刀を腰に差してるくせに、青髪の方は見ての通り丸腰じゃないか。
「反撃なんかしないぞ! それじゃ君達と同じだ!!」
おーっと!? 青髪選手、ここで強烈な煽りをぶち込んできました! いじめっ子二人も眉を顰めます!
「ッ……なんだと!?」
そして案の定、いじめっ子は顔を真っ赤にしている。
「僕は喧嘩するために剣を教わってるんじゃない!」
真っ直ぐな目でいじめっ子二人を見つめたまま、青髪の少年はそう言い放った。ナヨナヨしたいじめられっ子かと思っていたら、意外にも芯のある奴だ。これが黄金の精神というや——
バヂンッッッッという破裂音が、道場裏に響き渡った。
音の出所は言うまでもない。
「生意気なんだよッッッ!! 後から入ってきたくせに一番気取りで!!!」
いじめっ子の片方……そう、思い出した。こいつは確かラルドにジルと呼ばれていた。まあまあ強いんだよな。
まあとにかく、そのジルが青髪の少年を力一杯ぶったのだ。
「……」
よろついた青髪の少年は、何も言わずにぶたれた頬を抑えながら下を向く。
「いつもいつも馬鹿真面目に剣振ってぇ! 自分だけ違うと思ってるのか!? 良いところの商人の子だからって、調子に乗ってんだろ!!!」
ジルに続いてもう一人のいじめっ子も、青髪の少年を罵った。
「……」
少年は何も言わない。拳をギュッと握ったまま下を向き続けている。
喧嘩には乗らないと言っていたが、まさか抵抗すらしないつもりか……?
俺が仲裁に入るべき……いや、こんなガキが出たところで、歳上達にボコられて終わりだな。
「ッ……なんとか言ったらどうなんだ!」
なんの反応も見せない少年の態度が、ジルの怒りにさらに油を注ぎ、彼は再び手を振り上げた。
「ちょ、ちょっとストップぅぅぅぅ!」
「は? 誰だ!!!」
思わず物陰から飛び出して声を上げてしまった。
最悪だ。もう後戻りできない。ボコられて終わりだ〜……
「おいジル、こいつ師範の……」
「あ、そうかあいつか……で、何の用だよ」
ズイズイと迫って俺を囲む二人。流石にこれだけ体格差があると、こっちも萎縮してしまう。
「いやっ、あの……そういうことは良くなぃ……ゃなぃ、かなって……」
「あ!? 声が小せぇんだけど」
「もっとハキハキ喋れよ!」
「こ、こんなことしてたらダメです! 二人とも強くてカッコいいのに!
……だから早く稽古に戻った方が——」
「余計なお世話だよ! なに、それとも俺らの邪魔すんの?」
あー、くそ。ヨイショしてなんとか帰ってもらう作戦失敗か。
困った。他に策はない。とにかく止めねば。
「やめましょうよ、こんなこと!」
だが、肝心の説得の言葉は見つからない。人を罵倒する語彙は無限に浮かんでくるが、穏便に済ませるとなると、俺の脳みその回転速度は著しく落ちる。
「しつけぇんだよ! いい加減にしろ!」
声を荒らげたジルが、俺の胸ぐらを掴んで体を持ち上げる。
仕方ない。一か八かこちらも反撃しよう。ただで殴られるよりはマシだ。
「うわっ!? 目が! 目がぁぁぁぁぁ!」
俺を掴み上げたジルの顔目掛けて、素早く土魔術で作った大量の砂をぶっかけ、目眩し。
反射的に俺を掴んでいたジルの手は緩み、簡単にふり解けるようになった。
「んあ!? 今度は何だよ!!」
すかざすよろけたジルの腕を掴み、そのまま彼に背を向けて前のめりになる。
いくら隙をついたとはいえ、これだけの体格差の相手を助走なしに投げ飛ばすには、俺の腕力は足りていない。しかし、今の俺にはそれを補う魔術がある!!!
「喰らえ我が奥義ッッッ!!!」
そう叫ぶと共に、土魔術で相手の足元を勢いよく隆起させ、それによって出来た高低差を利用して、ジルの体を背負い込む。あとは地面に叩きつけるくらいの勢いで引っ張り、俺に覆い被さるような体勢になったこいつを、もう一人のいじめっ子に向けて風魔術で吹き飛ばす!
これこそが我が必殺の背負い投げ!!!
「月牙店長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」