残酷な描写あり
R-15
プロローグ
『え、つまりどういうことだ?』
真っ白な部屋の中で俺がそう尋ねると、そいつは笑って口を開いた。
『つまりね』
つまり……なんだ?
『君は転生なんかしていないんだよ☆』
「村上君さぁ〜……あれはよくないよぉ……」
薄暗いスタッフルーム。
みんなも見たことがあるだろう。コンビニの棚からドリンクを手に取った時、その隙間から見える段ボールばかりが積み上げられた空間が。
俺は今、そんな狭い空間の中で店長と2人、小さな机を挟んで座っている。
「ぇ……あ……すみまっ……せん」
「はぁ〜……」
何故俺が、ため息混じりにこんなオッサンに怒られているのだろうか。
大体さ、悪いのは昼間のあの客だろう。
偉そうに『お客様は神様だろ』なんて言うから、お賽銭として小銭投げつけてやっただけなのに。
「君も大人なんだから我慢しなきゃ。そんなんだから、大学も中退しちゃったんじゃないの?」
出たよ、こういう古い根性論。
旧時代的、老害や体育会系の思考だ。やだやだ、学歴の低さが滲み出てるぜ。純高卒が口出してんなよな。
「……ぁした、から気をつけます」
とりあえず頭を下げる。
それさえしておけば、なんだかんだこいつは許してくれる。ここまでがテンプレってやつだ。
「いや、明日とかないから」
ほら、言った通りだ——
「ん? え……!?」
あれ、なんかテンプレと違う。
隠しイベ始まった?
店長ルート入っちゃった?
「だ、か、ら、君はクビってことだよ。君、ちょっとトラブル起こしすぎかな。周りのことちゃんと見てる? 他の子からも苦情来るって相当だからね?」
「いや、ちょっ——」
頬に雫が伝う。
ああ、これが俗に言う『冷や汗』ってやつか。
「まあそんなわけで、今月分のお金は振り込んどくから」
「ぇ……」
ーーー
くそ、何なんだよあの店長。
ふざけんな、どうせ新しいJ K雇いたかっただけだろうが。
毎日毎日気色悪い目でバイトのJ Kジロジロ眺めてやがったもんな。俺でもチラ見する程度なのによ。
あんなコンビニこっちから願い下げだ。
道端に転がる空き缶を蹴りながら、トボトボと帰路に着く。
無職、また無職だ。
俺はどちらかといえば、出来のいい人間だったと思う。
勉強も出来たし、運動もそこそこ出来たし、ピアノとかも出来て、いわゆる優等生だったと思う。
それが二十四歳にして、どうしてこうなった。
そう、きっと中3の時だ。
天狗になってた俺は勉強を疎かにして、志望校に落ちた。
滑り止めの高校があったので、路頭に迷うことはなかったが、どうも肌に合わない高校で、俺は孤立した。
ぼっちだった高校三年間、ここまでは良い。なぜなら、持て余した時間で勉強をして、俺はそこそこの大学に入れたからだ。
問題はここからだ。
人との繋がりを完全に絶っていた三年間。それの弊害のせいで、俺は大学に馴染めなかった。
そう、みんなが飲み会やら合コンでウェイウェイやってる中、俺は一人でレポートを書いていたのだ。
それがだんだんバカらしくなってきて、そして三年生に上がる前に、俺は大学を辞めた。
完全に青春コンプレックスを拗らせていた。
実家暮らしだった俺は、大学を辞めてしばらく自堕落な生活を送っていた。
両親とは不仲だったので、あまり不満を漏らされる様なこともなかったが、流石にこのままではまずいと思い、就活を始めた。
いわゆる有名大学に合格した俺なら、良い企業に入れると思っていた。
けれど、現実は違う。
どの企業も書類の段階で俺を落とすし、行けたとしても面接止まり。
おかしいだろ。
俺の方が優秀なのに、たかだか凡庸な大学した奴の方が給料高いんだぞ? 雇われやすいんだぞ?
正月家のポストに、中学の頃の同級生の結婚報告を交えた年賀状が入ってた俺の気持ちを考えろ。
「はぁ……」
街灯が薄らと光る住宅街の小道を、トボトボと歩く。
ああ、今日は一日、立ちっぱなしだったし、重い荷物も搬入したせいで、脚が棒の様だ。早く布団にダイブしたい……
そんな事を考えながら歩いていると、ふと自分の数メートル先にも歩行者がいることに気づいた。
後ろ姿からして女だ。珍しいな、ここら辺の小道は人通りなんかほぼ無いのに。
やけに下向いてるなと思えば、歩きスマホか……?
は〜……やだやだ。 困るね〜これだから低学歴は。俺なんて節約のために、スマホなんかほぼ見てないのによ。
——って、あれ……? この先は交差点だよな?
あいつ、このまま歩き続けたら、いくら夜で車通りが少ないとは言え危ないな。
「おーい、危ないですよー?」
声をかけるも、女は背を向けたまま止まらない。
距離は離れているが、聴こえないなんてことはないよな? イヤホンでもしてるのか?
……仕方ない、近くで声掛けるか。もし美人だったら、そのままロマンスコースも有り得たり……
暗闇の街、今にも消えてしまいそうな街灯の光、耳をすませばどこからか聞こえくる虫のせせらぎ、そんな中、彼女の手を掴み言うのだ。『お姉さん、貴方を照らすスポットライトは、そんなチンケな板の光ではどうにも力不足だ。さあどうぞ、僕と淡いネオンライトが照らすホテルで共演しましょう』
なーーーーんてねっ!? へふふふふ。
いや、ワンチャンあるよな? 俺、顔はそんな悪くないし。仕事は……まあどうにかするし。
疲労からくる深夜テンショに身を任せ、俺はそっと女の元まで駆け寄って、肩に手をかけた。
もはや目的は半分くらい忘れていた。
「あのぉ!」
「あっ、はいっ……! なんですか……?」
ビクリと身を震わした女が、イヤホンを外しながら、恐る恐るこちらに顔を向ける。
ビンゴ。めっちゃ可愛い子だ。あとはさっき考えた詩を——
「ぇ……あ、あの、えっっっと……」
あれ、なんか口が回らない。こんなに喋れなかったっけ。
緊張はしてないはずだ。悴んでるわけでもない。ていうかまだそんな季節じゃない。
「!」
ふと、俺を警戒する相手の視線が、今まで関わってきた奴らに向けられてきたそれと重なった。
腫れ物を見るような目。いつでも俺を嘲笑えるように、俺が何かやらかさないかと狙っている目だ。
そう思った時にはもう、俺は女を置いて逃げ出していた。
「あ、ちょっと!?」
女を置いて飛び出したそんな俺の姿を、二つのスポットライトが煌々と照らす。
まるでル○ン三世にでもなった気分だ。
——って、ん? 待てよ、なんで光があるんだ……?
あ、待ってここ交差て——
ーーー
続いてのニュースです。
昨日、△市▽町の深夜に轢き逃げ事故が発生し、32歳ドライバーの○○○が過失運転致死傷罪で、逮捕されました。
また、被害に遭った男性は、その場に居合わせた女性の通報により、すぐさま病院に搬送されましたが、1時間後に死亡が確認されました。
ーーー
ああ、真っ暗。
右を見ても、左を見ても、何も見えやしない。
ここがどこなのか分からない。さっきまで住宅街を歩いていた筈だ。そう、歩いていてその後……あ、車の前に飛び出したんだ。
くそ、ハイブリッド車め。全然気づかなかった。
となると、ここは病院か何か——
(☆¥¥%°>>!)
突然、誰かの声が暗闇に響いた。
知らない声。家族のではない。
医者か? でも、それにしては言葉が滅茶苦茶だ。頭でも打って失語したのか俺は?
早く目を開きたいのに、身体が言うことを聞かない、ていうか身体の感覚がない。
ひょっとして、俺は寝たきり状態なのか?
〔あーあー、聴こえるかな?〕
あ、普通の言葉だ。
……でもなんか変だ。聴こえるというよりは、頭に直接響いてる感じだ。
最新の医療機器ってすげーな。
〔い?はや、言葉が#@/&と難4//////
って、おっ+っと、時間が&1///
彼=見つかって4まった4。
細かい話///今度ゆ☆くり。だね〕
は? 何言ってんだ?
言葉が途切れ途切れじゃんか。
ていうか怪我の容態の話とかしてくれないの? このまましばらく放置ってこ——
〔私の名はヴィ£○ン。
じ*あ、ユグドラシルで待って€から〕
その声が流れた瞬間、俺の視界は真っ白に包まれた。
初めまして、単細胞です。
第一章、初回10話以降は毎日更新なので、よろしければ読んでってください。
コメントにも積極的に反応していきます
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