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作者: 犬物語
旧友と戦うとき
あの頃のグレースちゃんと違って、今は数段レベルアップしてるのですよ
「いない」

 耳をぴくぴく動かす。
 鼻をくんくん鳴らす。
 グレースちゃんセンサー反応なし。

「んー」

 あちこち観て、やっぱり白い霧しかないことを確認。
 視界不良。
 なんもみえねー。

「あん?」

 いや、見えた。
 ひとりこっちくる。
 高身長、長髪、背中に弓。

「ビーちゃん?」
「……」

 どうしてこんなところに?
 そう聞こうとして、殺気に襲われた。

「ッ!」

 右へかわす。さっきまでわたしがいた空間を矢が通り過ぎていった。

(ちがう、ビーちゃんじゃない!)

 こいつは偽物だ。
 わたしはナイフを手に取った。

 次射をかわし、そのスキを狙い接近する。偽物のクセに本物みたいな動きをする。でも、つまりそれは、わたしがよく知ってる動きを模倣してくれるということ。

(矢を放つよりこっちのほうが疾い!)

 躊躇なんてなかった。だからわたしは、オジサンとたまにやってた、情け無用組み手スタイルでナイフを掲げる。万が一、彼女が本物のビーちゃんなら、この構えが命を刈り取るためのものだと知ってるから。

 止めるはず。
 けど、こいつは止めなかった。
 わかった。
 じゃあ、ヤるね。

「ごめんね」

 首筋へ一閃。

 手応えがない。まるで雲を切り裂いたかのような感覚のまま通り過ぎ、ビーちゃんの姿も霧となって消える。

「みんなー! どこー!」

 わたしは叫んだ。
 返事の代わりに剣が飛んできた。

「ッ! ……なんだ、スプリットくんか」

 よく知る少年が、身の丈いっぽん分の剣を前に構えている。んもう、そーやって攻撃のたびに休むから怒られるんじゃない。今の攻撃だったら、勢いに任せて連撃に繋げられたよね?

「だからオジサンに怒られちゃうんだよ。って、ニセモノに言ってもしかたないか」

 でも、真似事は得意なんだよね。
 っじゃ楽勝。

「はやく終わらせよっと」

 まずはまっすぐ進むでしょー。

(そらきた)

 向こうも突っ込んでくるでしょー。
 そんで一瞬右に動いてフェイントかけるでしょー。
 釣られたスプリットくんがヒザかっくんするでしょー。

「はいおしまい」

 よくあるパターンいただきました。

(下からの攻撃に弱いよね)

 下腹部に短剣を付きたてながら思う。ナイフじゃないのかって? いやぁね、もしこのスプリットくんが耐久性もおんなじだとしたら、ナイフごときじゃ弾かれちゃうのですよ。

 したがって、深々そ突き刺さった短剣により、スプリットくんの身体は霧に帰っていきました。

「……ちょっとやめてくれない?」

 いくら偽物といったって、オトモダチを何度もキルしたくないんだけど。

「これぜったい魔法だよねぇ……ビーちゃん、スプリットくんと続いてそしたら……まあ、そうだよね」

 目の前に筋肉がいた。

 純然たるパワー。
 自信たっぷりなポージング。
 その身体を鋼に変えて、サっちゃんもどきがこちらに突進してきた。

「うわっほい!」

 当たらなければどうということはない。
 つまり当たったら死ぬのよコレが。

「死ななきゃ安いってだれが作ったことば? 死ななくたって高いよ」

 左右に避ければ重戦車がついてきて、ジャンプしてみれば太く長い腕が伸びてくる。そんな難攻不落に見える彼女の弱点はんですか?

「フツーにおそいよね」

 以前ならいざ知らず。いまのわたしは記憶の中の仲間たちより数段グレードアップした完璧超人グレースちゃんなのだ!

「はい」

 隠し持つなかでもっとも鋭利な刃物を突き立てる。かなり抵抗があったけどそのまま心臓まで到達し、サっちゃんだったものもまた霧へと帰っていった。

「ドロちーん! ねえ聞こえる? どーろちんちーん!」

 もう一度、わたしは耳を傾けた。
 反応なし。
 そろそろ助けてくれないとやべーんだけど?
 なんでそう思うかって?

 だってそうじゃん。ビーちゃんスプリットくんサっちゃんときたら次誰がくるかって話よ。わたし、ソイツ攻略できる気がしねーんだけど?

「むむ!」

 鈴のような透き通った声。
 かすかだけど確かに聞こえた。ドロちんのものだ。

「どろちんちーん! はやくたすけてー!」
「ちんちん言うな!」

 ゲンキな返事。それに加えてよく知った声色が耳に入ってくる。

「グレース! いま助けますわよ」
「ウチがね。ったくもう。いったい何なのよこの魔術は」
「ドロシー、こちらの準備は整った。あとは呪文を唱えるだけだ」
「おっけー。もう少し耐えて。あと今分身と戦ってるでしょ? そいつはアンタが――」

 あれ。

「ドロちーん! ねえってば!」

 いやいやマジでおねがいしますよドロシー様。じゃねーとわたしの命に関わる大問題に発展しちゃいますのですよ?

「……あぁーあ」

 来ちゃったよ、ラスボスが。

 霧の中、重役出勤のごとくのっしり登場した中年男子がひとり。どうせなら出勤しなくても良かったのにこのオジサンは。

 別れの時の姿じゃない。無精髭をバッサリ剃り尽くし、軍人の雰囲気マシマシだったフラーでのオジサンと違って、ここにいるオジサンもどきはフラー到着までの旅装束だった。

 両手に剣。なるほど、わたしがよく苦しめられていた双剣スタイルですか。どーせなら猟銃オンリーでやってくれたほうが狩りやすかったのに。

「ごめんみんな……死ぬかも」

 オジサンのヒザが傾く。
 前傾になり、こちらへの距離を詰めようとする。
 わたしは震える足を奮起させ、憎たらしい師匠の首筋に狙いを定めた。
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