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作者: 犬物語
今後の目的はどうしよう?
扉を開けてすぐおじちゃん。これ誰得?
「なんだお前ら、用事はもう済んだのか」

 疲れた声色を出しつつボサッとした髪の毛をわしゃわしゃ。なんだ、世の中のオッサンはこういうムーブが好きなのか? オジサンもやってよなぁ。

(サンダーさんはどちらかというとおじちゃんなんだけど)

 主に年齢的な意味で。いや、聞いたことも鑑定スキルを使ったこともないけど。

(やってみようかな?)

 旅のお役立ちスキルなので使えるっちゃ使える。けどこれに頼りすぎると野生のカン? 的なヤツが鈍るし鑑定されてる側も「なんか見られてるくね?」的な感触を覚えるからあまり使ってないんだよなぁ。

 ほら、こそこそ忍んで獲物をガッ! する職業的に使いにくいじゃん?

(未熟だとかんたんなステータスしか表示されないし)

 とりあえず、ものは試しだ。

「スキル、ぜんぶ見ちゃうぞ鑑定!」

 わたしは指でまるをつくりサンダーさんをのぞき込んだ。

「あ?」
「何も見えない!」

 そんなバカな!

「無礼なガキだ」

 ゲシッ。

「いだぁ!」
「バカね」

 ドロちんがいつものように呆れとる。

「鑑定スキルは相手の心が拒絶してたり、わたしみたいに魔法耐性が高かったりすると見られないなんて常識じゃない」
「わかりやすい解説ありがとうございます」

 頭頂部のたんこぶをさすりつつ感謝申し上げます。
 おじちゃんがめんどくさそうな態度で僧侶に尋ねた。

「収穫は?」
「尋ね人はいなかった。だが数日の辛抱だ」
「そうか、ちゃっちゃと用事を済ませておきたかったんだがな」
「それは、どういうことですの?」

 含みあり気なサンダーさん。あんずちゃんが尋ね、緑コートなおじちゃんが周囲に目配せしつつ語り始める。

「ガラの悪いヤツが多くてな……テトヴォで広まる話じゃ、どこぞの為政者が好き勝手やってるらしい」
「あ、それ知ってる。メイスアルだよね?」
「めい? ああ、まあそうだな」

 おじちゃんは頬をぽりぽり。

「メイスアルでもアルメイスでもどっちでもいい」
「メイスアル? 誰ですのそれは」
「メイスはある時期から議会に現れた謎の為政者。アルはテトヴォいちの武器商人だ」

 あんずちゃん、メイスはともかく後者は聞き覚えがあった様子。思い出すように考え込んですぐハッとした。

「アル……あぁ、シティーザの店主の名ですか」
「知っているのか?」
「ええ、防具屋で働いているとき店主さんから伺いました。確か、この町で右に出る者がないほどの腕前だったとか」
「それだけでなく、商売人としての腕も一流だったらしい」

 物知り顔でサンダーさんがことばを放つ。
 テトヴォには何かがある。これはみんなも薄々感じていたらしく、あんずちゃんをはじめブッちゃんもドロちんもシリアスめな顔で会話を見届けていた。

「自ら武器の切れ味を実践してみせたり、気さくな性格で仕事も優秀だったため、大通りに店を構えるまで成長したそうだ。遠方でもシティーザの武器を好んで使う戦士がいるらしいが……ある時、突然シティーザの看板を降ろしちまった」
「はいはいわたし知ってるよ! その政治家さんとタッグマッチなんだよね!」
「いちいちわからん例えをするなこの嬢ちゃんは。とにかく、テトヴォはそいつらの専横で景気が悪い。路銀を稼ぐにしても次の町にしたほうがいいと思ったんだが」

 なんて問いかけにブッちゃんは肩をすくめるばかり。

「……あのさ、その悪い政治家さんたちわたしたちでやっつけらんない?」

 みんなが「はぁ?」って顔でこっち見た。

「グレース、それはどういうことですの?」
「異世界人が捕まってて処刑されちゃうんだって。それ助けたい」
「まあ、連中が噂通りなら、たとえ女子どもでも異世界人でも平等・・に扱うだろうが」
「ウチが聞いた話だと、死刑囚は一箇所の監獄に集められるらしいわよ」

 どこかは知らないけど。ドロちんはそう続けた。
 それならみんなで助けにいこーよ!
 そう熱弁しようとして、割り込む青い壁がいた。

「我々にできることは何もない」
「ブッちゃん」

 意外だった。
 彼なら賛同してくれると思ったから。

「でも、でも同じ異世界人だし、オトモダチになれるかもだし」
「やめておきなさい。こっちまで捕まったらどうすんのよ」
「でも」

 助けたい。そう言おうとして、みんなの否定的な表情が目に入って声が小さくなってしまう。そんなわたしに、ドロちんは同情的な視線になった。

「こんな横暴役所が見逃すわけないでしょ。裏でちゃんとやってるだろうし、新王だって、代替わりして民衆から持て囃されたいはず」

 新王。
 あのいけ好かない金髪王子のことか。

(あーそっか、ドロちんはレシル王子のこと知らないんだっけ)

 今は王様らしいけどね。

(あれが王さまかぁ……なんかヤダな)

「支持率を上げるまたとない機会でしょ」
「でも……」

 あのポンコツじゃムリだよ。

「グレース、心配する気持ちはわかりますが、今はこれからのことを話し合いましょう」

 しゅんとうなだれる親友の肩に手を添える。わたしにはそんなかけがえのない存在がいます。

「あんずちゃん――ごめん、ちょっと栄養補給させて」
「はい? え、ちょっ、グレース!?」

 わたしはベストフレンドのボディに飛び込んだ。
 吸った。
 気力体力が限界まで回復した。
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