やさぐれオッサンドクター
渋いオッサン、好きですか?
おいしゃさま。
尋常じゃない面持ち。
それが示す理由はひとつ。
「グレース」
「うん!」
わたしは駆け出した。
自分が助けになれるかはわからないけど、このパーティーには頼れる僧侶が控えてる。
ドロちんは静観の姿勢。だからと言って冷たいわけじゃなく、たぶん彼女もわたしと同じ発想。自分が出る立場じゃないから動かないってだけだ。
(ンふふ~、さいしょは冷酷ツンツンロリっ子魔女だと思ってたけど、だんだんドロちんの優しさに気付いたグレースちゃんの選球眼にはくしゅ!)
「ブッちゃんはあっちにいるよ!」
「わかってますわ!」
ベストフレンドが僧侶をコーリングするなか、わたしは声をあげた女の人に直撃した。
「どうしたの?」
「お客様が――その、食事中に突然苦しみだして」
(まさか、毒?)
なら良かった。たいていの解毒薬ならよりどりみどりだ。
「おっけー案内して!」
船員のうしろについていく。やがて見えるは人だかり。それらに「失礼します!」と声かけ割って入っていくと、その中心には仰向けにぶっ倒れた男性と、それを取り囲む複数の人。
下着や細かい点は違えど、みんな同じ服を着てる。
「……意識が」
その中のひとりがぽつりと呟いた。
「ッ! どいて」
素早く確認する。
こんな時はどうすればいいと教わった?
ヒザをつき倒れた男性の胸に手を当て顔を近づける。
オジサンがやっていた人の命を観る方法だ。
(心臓は動いてる。けど息をしてない!)
「在庫」
わたしはスキルを発動し、亜空間に腕を伸ばした。周囲には伸ばした腕がちぎれたように見えたらしく、息を呑んだり、小さな悲鳴をあげる女性もいる。
取り出したのは麻痺に効く解毒剤だ。
飲み薬ではなく針で刺すタイプ。
わたしは、それを勢いよく男性のお腹にぶち込む。
「おごボぉ!!」
男性が声にならない声をあげた。
もしかして治った? そう思い様子を見ても呼吸が戻る気配がない。
「グレース!」
背後からそんなテノールボイスが聞こえる。
誰かは言わずもがなだ。
「ブッちゃん! ダメ、呼吸が戻らないの!」
「解毒剤が効かない神経毒だと?」
僧侶はわたしが手に持ったそれを目にして神妙な顔をする。そして使うべきスキルを導き出した。
「汝、内に宿す邪気を払わん。スキル、清浄」
ブッちゃんは男性の上着をはだけさせ、露出した腹部に大きくてまっ黒い手を乗せた。
それが光って、光が男性のほうに移る。
全身に伝播したそれがゆっくり男性の上部に離れていき、消失する。
その様をただ観察していたブッちゃんは、やがてぼそりと言った。
「だめか」
「うそぉ!」
詰みじゃね?
ちょっと待って、これから夢気分な良い旅が始まろうとしてたとこじゃん! それがいきなり殺人事件なわけ? 作品の趣旨ちがっちゃうじゃん!
「どけ」
「ぅぇえ?」
人混みからそんな声。
声質は男性。
うんと年上。それでいて少し疲れてたかんじ。
そして出てきたのは、イメージ通りのくたびれたおとこの人だった。
「はぁ……なんだぁこんなトコで」
疲れた顔。少し白髪まじり。たぶん、オジサンがあと十年経ったらこんな顔になるんじゃないかなぁって。お約束のような無精髭だけど、この人はどっちかって言うと口ひげのほうがボサッとしてる。
「おいそこの嬢ちゃん、目が失礼だぞ」
(ばれた?)
「ごめんなさい」
素直に謝る。それを横目に、その人は息なく倒れたままの人の近くへ膝を落とした。
白シャツにベージュのパンツっていうシンプルスタイル。ちょっちくたびれた風によれよれだけど、それだけならまあ一応? ファッショナブルと言えそうなもの。なのにどうして、彼は緑のコートなんてチョイスしてしまったのか? っていうか暑くない?
(ん?)
近くで見て気づく。
コートがだぼだぼしてる。
身体のサイズと比べて大きい? ちがう。たぶん、コートの内側に色んなモノを隠してる。
わたしみたいに。
「……」
見る限り治療術師でも魔術師でもない。
その人は長くはないクセっ毛をわしゃわしゃして、そんで呆れたようにおーきくため息をついた。
「はぁ~ったく、どんな患者かと思えばくだらねぇ」
「ちょっと、くだらないとはなんですか!」
抗議の声はあんずちゃんのもの。先に口を出したから噤んだけれど、たぶんブッちゃんもひと言申したい気持ちだっただろう。
が、それを平然と受け止めるナゾナゾやさぐれマン。
「そこのでっかいの、手ぇ貸せ」
「何をすればいい?」
「とりあえず持ち上げてくれ」
指示されたでっかいのは渋々といった形で倒れた身体を持ち上げた。
そのままナゾのおとこの人にパス。バランスを崩さぬようそのまま支えている。で、くだらねぇと豪語したお方が何してんだというと?
「よぉーし、まあこんなんでいいだろ」
意識を失った人をの背後から手を回し、両手をむすんで腹部に付けております。
「そこの嬢ちゃん」
「へ?」
いろいろやってるうち、わたしはいつの間にか抱き合う男性の真正面にポジショニングしてた。
「汚れるからどいとけ。あと紙とゴミ袋用意しろ」
(なんじゃ?)
シツレーな! と思う前に「これから何すんだ?」という思いが浮かんで、その答えはすぐに降り掛かってきた。
「せーのッ、おらあ!」
「ぅうぇァア!!」
野郎が野郎の腹をグッて。
そしたらビチャアって。
「おい、おい大丈夫か?」
「……ぁ、こ、ここは?」
「急いで食うからそんな事になるんだ。次は気をつけろよ……だから言ったろ? どいとけって」
男性は吐瀉物を浴びた少女を憐れむような視線で見つめた。
いや、もっと言えよ。
きちんと教えろよ。
なんならどくまで待ってろよ。
なに勝手にやってんだよ。
よりによって顔面だよ。
「……………………そだね」
ここでヤっちゃってもいいですか?
わたしは懐に手を伸ばして、めったくそ悩んでそして、小粒ほどの理性を総動員させた。
「おじちゃん、名前なんて言うの?」
名前を知れば仲良くなれるかもしれない。
「ぁあ? 名乗る名前なんてねーよ」
SATHUIがエレクトリカルしちゃうZE☆
「でもまあ、別にいいか。俺はサンダーランド。めんどくせぇならサンダーで構わない」
くたびれた格好の中年は、くたびれた口調と態度で自身のクセッ毛を指で弄んでいた。
尋常じゃない面持ち。
それが示す理由はひとつ。
「グレース」
「うん!」
わたしは駆け出した。
自分が助けになれるかはわからないけど、このパーティーには頼れる僧侶が控えてる。
ドロちんは静観の姿勢。だからと言って冷たいわけじゃなく、たぶん彼女もわたしと同じ発想。自分が出る立場じゃないから動かないってだけだ。
(ンふふ~、さいしょは冷酷ツンツンロリっ子魔女だと思ってたけど、だんだんドロちんの優しさに気付いたグレースちゃんの選球眼にはくしゅ!)
「ブッちゃんはあっちにいるよ!」
「わかってますわ!」
ベストフレンドが僧侶をコーリングするなか、わたしは声をあげた女の人に直撃した。
「どうしたの?」
「お客様が――その、食事中に突然苦しみだして」
(まさか、毒?)
なら良かった。たいていの解毒薬ならよりどりみどりだ。
「おっけー案内して!」
船員のうしろについていく。やがて見えるは人だかり。それらに「失礼します!」と声かけ割って入っていくと、その中心には仰向けにぶっ倒れた男性と、それを取り囲む複数の人。
下着や細かい点は違えど、みんな同じ服を着てる。
「……意識が」
その中のひとりがぽつりと呟いた。
「ッ! どいて」
素早く確認する。
こんな時はどうすればいいと教わった?
ヒザをつき倒れた男性の胸に手を当て顔を近づける。
オジサンがやっていた人の命を観る方法だ。
(心臓は動いてる。けど息をしてない!)
「在庫」
わたしはスキルを発動し、亜空間に腕を伸ばした。周囲には伸ばした腕がちぎれたように見えたらしく、息を呑んだり、小さな悲鳴をあげる女性もいる。
取り出したのは麻痺に効く解毒剤だ。
飲み薬ではなく針で刺すタイプ。
わたしは、それを勢いよく男性のお腹にぶち込む。
「おごボぉ!!」
男性が声にならない声をあげた。
もしかして治った? そう思い様子を見ても呼吸が戻る気配がない。
「グレース!」
背後からそんなテノールボイスが聞こえる。
誰かは言わずもがなだ。
「ブッちゃん! ダメ、呼吸が戻らないの!」
「解毒剤が効かない神経毒だと?」
僧侶はわたしが手に持ったそれを目にして神妙な顔をする。そして使うべきスキルを導き出した。
「汝、内に宿す邪気を払わん。スキル、清浄」
ブッちゃんは男性の上着をはだけさせ、露出した腹部に大きくてまっ黒い手を乗せた。
それが光って、光が男性のほうに移る。
全身に伝播したそれがゆっくり男性の上部に離れていき、消失する。
その様をただ観察していたブッちゃんは、やがてぼそりと言った。
「だめか」
「うそぉ!」
詰みじゃね?
ちょっと待って、これから夢気分な良い旅が始まろうとしてたとこじゃん! それがいきなり殺人事件なわけ? 作品の趣旨ちがっちゃうじゃん!
「どけ」
「ぅぇえ?」
人混みからそんな声。
声質は男性。
うんと年上。それでいて少し疲れてたかんじ。
そして出てきたのは、イメージ通りのくたびれたおとこの人だった。
「はぁ……なんだぁこんなトコで」
疲れた顔。少し白髪まじり。たぶん、オジサンがあと十年経ったらこんな顔になるんじゃないかなぁって。お約束のような無精髭だけど、この人はどっちかって言うと口ひげのほうがボサッとしてる。
「おいそこの嬢ちゃん、目が失礼だぞ」
(ばれた?)
「ごめんなさい」
素直に謝る。それを横目に、その人は息なく倒れたままの人の近くへ膝を落とした。
白シャツにベージュのパンツっていうシンプルスタイル。ちょっちくたびれた風によれよれだけど、それだけならまあ一応? ファッショナブルと言えそうなもの。なのにどうして、彼は緑のコートなんてチョイスしてしまったのか? っていうか暑くない?
(ん?)
近くで見て気づく。
コートがだぼだぼしてる。
身体のサイズと比べて大きい? ちがう。たぶん、コートの内側に色んなモノを隠してる。
わたしみたいに。
「……」
見る限り治療術師でも魔術師でもない。
その人は長くはないクセっ毛をわしゃわしゃして、そんで呆れたようにおーきくため息をついた。
「はぁ~ったく、どんな患者かと思えばくだらねぇ」
「ちょっと、くだらないとはなんですか!」
抗議の声はあんずちゃんのもの。先に口を出したから噤んだけれど、たぶんブッちゃんもひと言申したい気持ちだっただろう。
が、それを平然と受け止めるナゾナゾやさぐれマン。
「そこのでっかいの、手ぇ貸せ」
「何をすればいい?」
「とりあえず持ち上げてくれ」
指示されたでっかいのは渋々といった形で倒れた身体を持ち上げた。
そのままナゾのおとこの人にパス。バランスを崩さぬようそのまま支えている。で、くだらねぇと豪語したお方が何してんだというと?
「よぉーし、まあこんなんでいいだろ」
意識を失った人をの背後から手を回し、両手をむすんで腹部に付けております。
「そこの嬢ちゃん」
「へ?」
いろいろやってるうち、わたしはいつの間にか抱き合う男性の真正面にポジショニングしてた。
「汚れるからどいとけ。あと紙とゴミ袋用意しろ」
(なんじゃ?)
シツレーな! と思う前に「これから何すんだ?」という思いが浮かんで、その答えはすぐに降り掛かってきた。
「せーのッ、おらあ!」
「ぅうぇァア!!」
野郎が野郎の腹をグッて。
そしたらビチャアって。
「おい、おい大丈夫か?」
「……ぁ、こ、ここは?」
「急いで食うからそんな事になるんだ。次は気をつけろよ……だから言ったろ? どいとけって」
男性は吐瀉物を浴びた少女を憐れむような視線で見つめた。
いや、もっと言えよ。
きちんと教えろよ。
なんならどくまで待ってろよ。
なに勝手にやってんだよ。
よりによって顔面だよ。
「……………………そだね」
ここでヤっちゃってもいいですか?
わたしは懐に手を伸ばして、めったくそ悩んでそして、小粒ほどの理性を総動員させた。
「おじちゃん、名前なんて言うの?」
名前を知れば仲良くなれるかもしれない。
「ぁあ? 名乗る名前なんてねーよ」
SATHUIがエレクトリカルしちゃうZE☆
「でもまあ、別にいいか。俺はサンダーランド。めんどくせぇならサンダーで構わない」
くたびれた格好の中年は、くたびれた口調と態度で自身のクセッ毛を指で弄んでいた。