モンスターハウス
いわゆるひとつのベータテスト
「ひろすぎね?」
みっつめの部屋にたどり着いた時、さすがにコレはおかしいってことでご提案させていただきました。
「初期位置から北西に向かっていた。既にレブリエーロ外だな」
「どうして方角がわかるんですの? ここにはそれを示す標識もありませんわよ?」
「北を感じろ」
「意味不明ですわ」
右に同じく。あ、でもオジサンに遭難対策でちょっち教わったような気がする。
(森で遭難したとき沢を下るのは危険。それより高いところに登って自分の居場所を再確認しろだっけ)
なおここは迷宮の模様。
オジサンのアドバイスぜんぜん役に立たねー。
(んもう、ダンジョン攻略法も教えてよ)
わかんないじゃん。
なんてここに居ない人にぶつくさ文句垂れつつ、周囲を視線探索してたら緑のなにかを見つけました。
「あ、これ見て」
駆け寄りつつみんなに報告。果てさてその正体は?
「はっぱ!」
見るからに雑草である。いや、でも世の中に雑草という名前の草はないからなんかお役立ちアイテムだったりする?
「これは」
「薬草ね」
ブッちゃんが戸惑い、ドロちんが不思議そうな顔して言う。
つまりふたりとも「?」ってかんじ。
「薬草? 見たことない草だよ」
「これはレブリエーロ以北にしか自生してないと聞いたが」
「そのはずよ。少なくともレブリエーロみたいな温暖な地域にあるものじゃない」
その話を耳にしたあんずちゃんが考察しました。
「地下の涼しい環境がそうさせているのでしょうか」
「あり得ないわ。そもそもこの草はレブリエーロに存在しないし、じゃあなんでここにあるの? って事になるじゃない」
「以前の主が持ち込んだか……だとしても、このような環境で生き残れるとは思えん」
なんといっても石の壁ですから。
なんて見渡したらまたありましたよ謎のアイテム。
「って、え?」
剣。
ソード。
武器でござる。
「落とし物?」
なんの気なくそれを手にとってみる。
ふつーの剣だ。どこの武器屋にもありそうなありふれた剣。片手持ちでわたしにはちょっぴり重く、刃の切れ味はまあまあといったところ。
「調査団の忘れ物でしょうか?」
「あれ、でも入口をちょっと調べただけじゃなかったっけ?」
ここみっつめの部屋だよ?
しかもながーい廊下を進んで曲がって来たとこ。
同じ景色もそろそろ飽きが来てる。なんかいーことないかなー。
(んー……ん?)
わたしはしゃがみ込んで床を見た。
浮いてる。
石畳にわずかな、でも不自然な段差。
まるでスイッチ的ななにか。
なんだろう、めっちゃあやしい。
踏みたい衝動にかられ、でもヘタなことしたマズイとこれまでの経験が警鐘を鳴らしていましてね。どーしても踏ん切りつかんコンフリクトを抱えてる。そんなムズムズを解決してくれたのはドロちんでした。
「はぁ、結局なんのための部屋なのよ。無駄に広いったらありゃしないわね……グレース、また何か見つけた?」
こつこつとこっちに寄ってくる。
距離が近づく。
わたしとドロちんの間には例の床。
「あっ」
「え?」
そこ気を付けてって言おうとしてね、遅かったです。
カチッっていったの。
「ん?」 ――あんずちゃんが耳に入った奇妙な音に首を傾げ、
「は?」 ――ブッちゃんがその音の出どころに気付く。
「ちょっと、なにこれ」 ――ドロちんが自身の周囲に光が生まれたことに違和感を覚え、
「あちゃー」 ――わたしは他のみんなにも同じエフェクトがかかったことで確信に至った。
これアカンやつや。
「ちょ、なにこれ!」
「ドロシーさん!?」
「違うわよ! うちなにもしてないから!」
「たわけが! 自ら罠を作動させておいて何が違うだ!」
「罠と決まったワケじゃないでしょこのクロンボ!」
「ちょっとみんな落ち着いて!」
と言ってみたけどどうしようもねー。
「ちょ、これどうなってんの!」
スイッチを押した張本人が両手を見つめワナワナ震わせた。
なぜって? 透けてるんですよ。
手だけじゃなく身体も。
やばい? んにゃ、痛み感じないので命に関わる系じゃなさそう。
わたしは自分の身体を確認した。
妙な光に包まれ透明度が上がってく。意識はハッキリしてて、それと同時に身体が宙に浮く感覚を覚えた。
「これ、まさか転移魔法!?」
「ドロシーさんご存知ですの!」
「古い書物で読んだことがある。でもこれは既に廃れたはずの禁呪で使えるヤツなんかいないって」
「ならこれをどう説明するつもりだ? ああ? 手前で罠を作動させておいて、これで窮地に陥ったらどうしてくれる!」
「うちが知ることか!」
なるほど。わかった。
「スイッチを押すとワープする仕組みだったんだね!」
「グレース! なんでアナタは平然としていられるのですか!」
だって楽しそーじゃん?
死なないって分かればこっちのもんよ。
「ねえねえドコ行くのかな? 山? 谷? それとも海?」
できれば海希望。行ったことないからひと目見てみたかったんだよね。
なんて考えてるうちに、とうとう視界さえモヤがかって見えなくなった。
次に目を開いたとき、そこにはさっきと同じ石の壁があった。
「なんだ、つまんないの」
「ほう? この状況をしてつまらんと申すか」
めっちゃ不機嫌なまっくろ僧侶の声がする。
お供が罠にかかった上容姿をバカにされ、たいへんご立腹のようです。
「まあまあいーじゃん減るもんじゃないし」
罠のひとつやふたつ踏んでみるもんですよ。
とはいえ、まあブッちゃんが困るのも無理はなし。
ドコに転移させられたかわからん以上、どうやって帰ればいいのかもわからんわけで。
見た目が同じだからといって同じフロアとは限らない。
もしかするとより深い階層へ連れてかれたかもだし。
問題山積みですなぁ。
(でもまあ、そこは前向きに受け止めて)
新たなアドベンチャーが待ってるかもですぞ?
「グレース、グレース!」
「んーどったの?」
あんずちゃんも慌てておりますね。
ここはお忍びジョブとして普段から冷静沈着でいることの大切さをですね?
「なにぼーっとしてますの! ほら来ますわよ!」
「来るって、なにが?」
わたしは振り返った。
マモノと目が合った。
心臓がトゥンクした。
恋心じゃないです。
「えっ」
囲まれてんだけど?
壁際に追い込まれてんだけど?
袋の鼠ってやつですか?
(はは、ウケる。じゃなくて)
急げ。
わたしは懐の短剣に手を伸ばした。
みっつめの部屋にたどり着いた時、さすがにコレはおかしいってことでご提案させていただきました。
「初期位置から北西に向かっていた。既にレブリエーロ外だな」
「どうして方角がわかるんですの? ここにはそれを示す標識もありませんわよ?」
「北を感じろ」
「意味不明ですわ」
右に同じく。あ、でもオジサンに遭難対策でちょっち教わったような気がする。
(森で遭難したとき沢を下るのは危険。それより高いところに登って自分の居場所を再確認しろだっけ)
なおここは迷宮の模様。
オジサンのアドバイスぜんぜん役に立たねー。
(んもう、ダンジョン攻略法も教えてよ)
わかんないじゃん。
なんてここに居ない人にぶつくさ文句垂れつつ、周囲を視線探索してたら緑のなにかを見つけました。
「あ、これ見て」
駆け寄りつつみんなに報告。果てさてその正体は?
「はっぱ!」
見るからに雑草である。いや、でも世の中に雑草という名前の草はないからなんかお役立ちアイテムだったりする?
「これは」
「薬草ね」
ブッちゃんが戸惑い、ドロちんが不思議そうな顔して言う。
つまりふたりとも「?」ってかんじ。
「薬草? 見たことない草だよ」
「これはレブリエーロ以北にしか自生してないと聞いたが」
「そのはずよ。少なくともレブリエーロみたいな温暖な地域にあるものじゃない」
その話を耳にしたあんずちゃんが考察しました。
「地下の涼しい環境がそうさせているのでしょうか」
「あり得ないわ。そもそもこの草はレブリエーロに存在しないし、じゃあなんでここにあるの? って事になるじゃない」
「以前の主が持ち込んだか……だとしても、このような環境で生き残れるとは思えん」
なんといっても石の壁ですから。
なんて見渡したらまたありましたよ謎のアイテム。
「って、え?」
剣。
ソード。
武器でござる。
「落とし物?」
なんの気なくそれを手にとってみる。
ふつーの剣だ。どこの武器屋にもありそうなありふれた剣。片手持ちでわたしにはちょっぴり重く、刃の切れ味はまあまあといったところ。
「調査団の忘れ物でしょうか?」
「あれ、でも入口をちょっと調べただけじゃなかったっけ?」
ここみっつめの部屋だよ?
しかもながーい廊下を進んで曲がって来たとこ。
同じ景色もそろそろ飽きが来てる。なんかいーことないかなー。
(んー……ん?)
わたしはしゃがみ込んで床を見た。
浮いてる。
石畳にわずかな、でも不自然な段差。
まるでスイッチ的ななにか。
なんだろう、めっちゃあやしい。
踏みたい衝動にかられ、でもヘタなことしたマズイとこれまでの経験が警鐘を鳴らしていましてね。どーしても踏ん切りつかんコンフリクトを抱えてる。そんなムズムズを解決してくれたのはドロちんでした。
「はぁ、結局なんのための部屋なのよ。無駄に広いったらありゃしないわね……グレース、また何か見つけた?」
こつこつとこっちに寄ってくる。
距離が近づく。
わたしとドロちんの間には例の床。
「あっ」
「え?」
そこ気を付けてって言おうとしてね、遅かったです。
カチッっていったの。
「ん?」 ――あんずちゃんが耳に入った奇妙な音に首を傾げ、
「は?」 ――ブッちゃんがその音の出どころに気付く。
「ちょっと、なにこれ」 ――ドロちんが自身の周囲に光が生まれたことに違和感を覚え、
「あちゃー」 ――わたしは他のみんなにも同じエフェクトがかかったことで確信に至った。
これアカンやつや。
「ちょ、なにこれ!」
「ドロシーさん!?」
「違うわよ! うちなにもしてないから!」
「たわけが! 自ら罠を作動させておいて何が違うだ!」
「罠と決まったワケじゃないでしょこのクロンボ!」
「ちょっとみんな落ち着いて!」
と言ってみたけどどうしようもねー。
「ちょ、これどうなってんの!」
スイッチを押した張本人が両手を見つめワナワナ震わせた。
なぜって? 透けてるんですよ。
手だけじゃなく身体も。
やばい? んにゃ、痛み感じないので命に関わる系じゃなさそう。
わたしは自分の身体を確認した。
妙な光に包まれ透明度が上がってく。意識はハッキリしてて、それと同時に身体が宙に浮く感覚を覚えた。
「これ、まさか転移魔法!?」
「ドロシーさんご存知ですの!」
「古い書物で読んだことがある。でもこれは既に廃れたはずの禁呪で使えるヤツなんかいないって」
「ならこれをどう説明するつもりだ? ああ? 手前で罠を作動させておいて、これで窮地に陥ったらどうしてくれる!」
「うちが知ることか!」
なるほど。わかった。
「スイッチを押すとワープする仕組みだったんだね!」
「グレース! なんでアナタは平然としていられるのですか!」
だって楽しそーじゃん?
死なないって分かればこっちのもんよ。
「ねえねえドコ行くのかな? 山? 谷? それとも海?」
できれば海希望。行ったことないからひと目見てみたかったんだよね。
なんて考えてるうちに、とうとう視界さえモヤがかって見えなくなった。
次に目を開いたとき、そこにはさっきと同じ石の壁があった。
「なんだ、つまんないの」
「ほう? この状況をしてつまらんと申すか」
めっちゃ不機嫌なまっくろ僧侶の声がする。
お供が罠にかかった上容姿をバカにされ、たいへんご立腹のようです。
「まあまあいーじゃん減るもんじゃないし」
罠のひとつやふたつ踏んでみるもんですよ。
とはいえ、まあブッちゃんが困るのも無理はなし。
ドコに転移させられたかわからん以上、どうやって帰ればいいのかもわからんわけで。
見た目が同じだからといって同じフロアとは限らない。
もしかするとより深い階層へ連れてかれたかもだし。
問題山積みですなぁ。
(でもまあ、そこは前向きに受け止めて)
新たなアドベンチャーが待ってるかもですぞ?
「グレース、グレース!」
「んーどったの?」
あんずちゃんも慌てておりますね。
ここはお忍びジョブとして普段から冷静沈着でいることの大切さをですね?
「なにぼーっとしてますの! ほら来ますわよ!」
「来るって、なにが?」
わたしは振り返った。
マモノと目が合った。
心臓がトゥンクした。
恋心じゃないです。
「えっ」
囲まれてんだけど?
壁際に追い込まれてんだけど?
袋の鼠ってやつですか?
(はは、ウケる。じゃなくて)
急げ。
わたしは懐の短剣に手を伸ばした。