マジメな話ほどメシ食いながら
進路相談は信頼できる人にしましょう
この世でいちばんだいすきなことばがあります。
それとこれとは話が別。
人生いろんなことがあるじゃないですか。そのなかでいろいろなすれ違いとかケンカしちゃったりとかあるじゃないですか。それでもみんなでおいしいもの食べる時間があって、そのときはみんな笑顔でたのしく食べましょうっていうね。
ちょっとギクシャクしちゃった関係も、いっしょに同じ釜のメシをイートインすればモウマンタイなのだ。あ、ついつい中国語でちゃった。
しかたないよね。だって今はみんなでレッツイート中国料理なんだもん。
「んーおいし!」
めっちゃ辛いけど! なにこの赤色のスープめちゃくちゃ辛い。でもなんだかクセになる。やだもうレンゲが止まらない。
「そーいればレンゲってなんでレンゲなんだろう?」
「なに言ってんだおまえ」
となりのスプリットくんがヘンなものを見る目をしてる。しつれーな、こっちは食事中だよ?
「連日ここでごめんね。ほんとならもっといろんな場所につれてってあげたかったんだけど」
「そんな! ごちそうさせていただけるだけでもありがたいです」
バツが悪そうに笑顔を見せるスパイクと、そんな彼に行儀よい口調で感謝の弁を述べるグウェンちゃん。そうこうしてる間にも料理はどんどんみんなの胃袋におさまっていく。
今回は他のお客さんとおなじエリアにて卓を囲んでる。毎回VIP席はさすがに申し訳ないというオジサンの進言によるものだけど、わたしは食べられるならどこでも構わない。
だっていつも野宿だったし。草っぱの上でぐるぐる焼いたおにく食べてたし。こういう人の喧騒の中で食べるのはまた違った感覚があって、それはそれで別のおいしさを感じるよね。
「ところで、チャールズ殿の屋敷は大丈夫なのだろうか?」
向かい側でビーちゃんが心配そうにしてる。いったいどういうことだろうか? って気になったので聞いてみた。
「どして?」
いや。そんな前置きを添えて、うちの用心な弓兵が心の内を漏らした。
「はじめてあの場所を訪れたときに不埒者と出会っただろう。あの時は撃退したが、それがキッカケで良からぬことを企むのではないかと思ってな」
我らがリーダーの邸宅を気遣う女性に、スパイクは安心させるように高い声色で強調した。
「ヘーキだよ。実はって言うほどでもないけど、屋敷の近くにゃけっこー仲間がいてね。何かあればすぐ連絡してくれるように伝えてあるんだ。ついでに防衛もね」
腕っぷしには自信があるんだよ。彼は自分の細腕をパシンとたたいた。
「あの時の連中程度なら問題ない。カールはおいら専門の用心棒なんだ」
「……」
渦中の用心棒さんは黙々と手と口だけを動かしている。あ、それわたしが食べたかったヤツじゃん! なくなってるし!
「オジサンそれおかわりちょーだい!」
「自分で頼め。ったくいつまでも私をアテにして」
なんて言いつつメニュー表を手に取るオジサンだいすき。
(けど、そうだよね)
いつまでもそんなんじゃ、いつまでも前に進めない。
これからは自分自身の足で歩いていかなきゃならない、ううん。自分の足で歩いていくって決めたんだからちゃんとしないと。
「えへへ、ごめんなさい」
「……すまなかった」
できるだけ和やかに、でも真剣な眼差しでオジサンがこちらに視線を送る。
「お前の言ったとおり、私はお前を――お前たちのことを利用するつもりで、これまで旅を続けてきた」
「そんなことないよ」
あの時の自分と真逆のことを言う。オジサンに裏切られたと感じたとき、わたしは思わずヒドいことばを使ってしまった。
でも、今までいっしょに過ごしてきたオジサンはいつもわたしたちを心配してくれて、何もわからない異世界人の力になってくれて、だから、他の町や村のあちこちで困ってる異世界人の情報を集めていたんだと思う。
ずっと酒場に入り浸っていたのはそういう情報を集めるためでもあったし、たぶん、戦える異世界人たちを味方に引き入れる目的もあったんだと思う。
(だけどそれは)
「オジサンはなにもわるくない。わるいのはオジサンにそうさせてきたほうで、だから」
だから、わたしはオジサンのことがすきだ。
「軍属を離れ隠居していた私のもとに、ある日突然、異世界人が現れた。広い広い世界のなかで、よりによって私の目の前にだ」
周囲の喧騒のなか、テーブルを囲むみんなの意識がひとりに集まっている。手の動きが止まり、空気が停滞した場にあたたかいスープの香りが立ち上がり、わたしはちょっとだけ鼻をぴくんと動かした。
「集落でユージーンと出会い、同時にマモノの襲撃を経験した――運命を感じざるを得なかったよ」
新しい料理がとどき、スパイクがそれを中央に並べる。ついでに小分けした皿を旧友の前に置き、肩に手を伸ばしながら言った。
「だから引退撤回なんてしたんだね。昔はもう戦いはこりごりなんてボヤいてたクセに、なんで今になってと思ったら」
そして見渡す。ふたり以外のすべての異世界人を。
「でも納得かな。よりによって二十年前の英雄の元にこれだけの異世界人が集まったんだ」
「自分は関係ない」
「そうとも言い切れないんじゃない? だって今ここにいるんだからさ」
縁を否定するカール。スパイクはそれをさらに否定した。
「そうだ! わたしってウラギリモノになっちゃうの?」
「はぁ?」
無精髭がさらに伸びてきた昔の英雄の口がぽかーんとした。
「だって、あの偏屈キンパツ王子がわたしをうらぎりものだーって」
「ああそれか。いや、その心配はない。王は我々が起こした騒動を不問にしてくれた」
「そうなんだ」
やっぱあの王さまいい人だった。
「レシル王子は納得いかない顔してたがな」
「ねえ、オジサンはあの人どう思ってるの?」
オジサンはすこし考えて、っていうか慎重にことばを選んでる感じだった。
「彼は王の血筋であり、必ずや立派に国民を率いてくれるだろう」
「そうじゃなくて、もっと感じたままに言ってよ」
「……すこし、性急すぎるところが見受けられるな。もう少し冷静さをもつか良き右腕があれば、いや、我々でレシル王子を支えていかなければ」
(んもう、もっとショージキにぶっちゃけちゃってもよくない?)
だれかに雇われるってこういうことなのかな?
(はぁー雇われるかぁ。スパイクさんどんなトコ紹介してくれるんだろ……あ、雇われるといえば)
「みんなはどうするの? 軍隊にはいるの?」
一瞬だけ時間が止まった。
だれから切り出すでもなく、目を合わせるでもなく、はじめに口火を切ったのは修道服の少女だった。
「わたしはヒガシミョーに帰り、アニスさまに事の次第を報告しなければなりません」
「そっか、グウェンちゃんは教会のひとだもんね」
「私も、いちど森へ帰ろうと思う」
続けてそうことばを放つのは、モデルのような長身の弓手。
「人間同士の争いが森に影響を与えるかもしれない。王族のなかでもなんとか手を打とうとしてる方はいるが――用心するに越したことはないだろう」
ビーちゃんのことばが響いたのか、オジサンは疲れた顔からさらにシワ深く渋い顔になった。
「それに、久しぶりにみんなとも会いたいからな」
「そっか、そうだよね」
ビーちゃんにとっては、あのエルフの森こそがこの世界でのふるさとなんだ。
「スプリットくんはどうせオジサンについていくでしょ」
「勝手に決めつけんなよ!」
「ちがうの?」
「まあ、そうだけどよぉ……オレの口からちゃんと言いたいじゃん」
あ、シュンとしちゃった。ごめんスプリットくん。
「情けないねぇ、それでもオトコかい?」
ひとりで席をふたつぶん確保してるおんなの子が呆れ返った。
サっちゃんはこのなかでいちばん戦士っぽいカッコをしてる。けどそれは自分自身の身体を鍛えぬいた結果であって、彼女は決して戦うためにその身体を鍛えてたワケじゃない。
彼女からそれを聞かされるまで、わたしはこの思いを微塵も疑っていなかった。
「アタイも軍隊に入ることにしたよ」
「――えっ?」
自分の耳を疑った。彼女の目はウソをついてなかった。
それとこれとは話が別。
人生いろんなことがあるじゃないですか。そのなかでいろいろなすれ違いとかケンカしちゃったりとかあるじゃないですか。それでもみんなでおいしいもの食べる時間があって、そのときはみんな笑顔でたのしく食べましょうっていうね。
ちょっとギクシャクしちゃった関係も、いっしょに同じ釜のメシをイートインすればモウマンタイなのだ。あ、ついつい中国語でちゃった。
しかたないよね。だって今はみんなでレッツイート中国料理なんだもん。
「んーおいし!」
めっちゃ辛いけど! なにこの赤色のスープめちゃくちゃ辛い。でもなんだかクセになる。やだもうレンゲが止まらない。
「そーいればレンゲってなんでレンゲなんだろう?」
「なに言ってんだおまえ」
となりのスプリットくんがヘンなものを見る目をしてる。しつれーな、こっちは食事中だよ?
「連日ここでごめんね。ほんとならもっといろんな場所につれてってあげたかったんだけど」
「そんな! ごちそうさせていただけるだけでもありがたいです」
バツが悪そうに笑顔を見せるスパイクと、そんな彼に行儀よい口調で感謝の弁を述べるグウェンちゃん。そうこうしてる間にも料理はどんどんみんなの胃袋におさまっていく。
今回は他のお客さんとおなじエリアにて卓を囲んでる。毎回VIP席はさすがに申し訳ないというオジサンの進言によるものだけど、わたしは食べられるならどこでも構わない。
だっていつも野宿だったし。草っぱの上でぐるぐる焼いたおにく食べてたし。こういう人の喧騒の中で食べるのはまた違った感覚があって、それはそれで別のおいしさを感じるよね。
「ところで、チャールズ殿の屋敷は大丈夫なのだろうか?」
向かい側でビーちゃんが心配そうにしてる。いったいどういうことだろうか? って気になったので聞いてみた。
「どして?」
いや。そんな前置きを添えて、うちの用心な弓兵が心の内を漏らした。
「はじめてあの場所を訪れたときに不埒者と出会っただろう。あの時は撃退したが、それがキッカケで良からぬことを企むのではないかと思ってな」
我らがリーダーの邸宅を気遣う女性に、スパイクは安心させるように高い声色で強調した。
「ヘーキだよ。実はって言うほどでもないけど、屋敷の近くにゃけっこー仲間がいてね。何かあればすぐ連絡してくれるように伝えてあるんだ。ついでに防衛もね」
腕っぷしには自信があるんだよ。彼は自分の細腕をパシンとたたいた。
「あの時の連中程度なら問題ない。カールはおいら専門の用心棒なんだ」
「……」
渦中の用心棒さんは黙々と手と口だけを動かしている。あ、それわたしが食べたかったヤツじゃん! なくなってるし!
「オジサンそれおかわりちょーだい!」
「自分で頼め。ったくいつまでも私をアテにして」
なんて言いつつメニュー表を手に取るオジサンだいすき。
(けど、そうだよね)
いつまでもそんなんじゃ、いつまでも前に進めない。
これからは自分自身の足で歩いていかなきゃならない、ううん。自分の足で歩いていくって決めたんだからちゃんとしないと。
「えへへ、ごめんなさい」
「……すまなかった」
できるだけ和やかに、でも真剣な眼差しでオジサンがこちらに視線を送る。
「お前の言ったとおり、私はお前を――お前たちのことを利用するつもりで、これまで旅を続けてきた」
「そんなことないよ」
あの時の自分と真逆のことを言う。オジサンに裏切られたと感じたとき、わたしは思わずヒドいことばを使ってしまった。
でも、今までいっしょに過ごしてきたオジサンはいつもわたしたちを心配してくれて、何もわからない異世界人の力になってくれて、だから、他の町や村のあちこちで困ってる異世界人の情報を集めていたんだと思う。
ずっと酒場に入り浸っていたのはそういう情報を集めるためでもあったし、たぶん、戦える異世界人たちを味方に引き入れる目的もあったんだと思う。
(だけどそれは)
「オジサンはなにもわるくない。わるいのはオジサンにそうさせてきたほうで、だから」
だから、わたしはオジサンのことがすきだ。
「軍属を離れ隠居していた私のもとに、ある日突然、異世界人が現れた。広い広い世界のなかで、よりによって私の目の前にだ」
周囲の喧騒のなか、テーブルを囲むみんなの意識がひとりに集まっている。手の動きが止まり、空気が停滞した場にあたたかいスープの香りが立ち上がり、わたしはちょっとだけ鼻をぴくんと動かした。
「集落でユージーンと出会い、同時にマモノの襲撃を経験した――運命を感じざるを得なかったよ」
新しい料理がとどき、スパイクがそれを中央に並べる。ついでに小分けした皿を旧友の前に置き、肩に手を伸ばしながら言った。
「だから引退撤回なんてしたんだね。昔はもう戦いはこりごりなんてボヤいてたクセに、なんで今になってと思ったら」
そして見渡す。ふたり以外のすべての異世界人を。
「でも納得かな。よりによって二十年前の英雄の元にこれだけの異世界人が集まったんだ」
「自分は関係ない」
「そうとも言い切れないんじゃない? だって今ここにいるんだからさ」
縁を否定するカール。スパイクはそれをさらに否定した。
「そうだ! わたしってウラギリモノになっちゃうの?」
「はぁ?」
無精髭がさらに伸びてきた昔の英雄の口がぽかーんとした。
「だって、あの偏屈キンパツ王子がわたしをうらぎりものだーって」
「ああそれか。いや、その心配はない。王は我々が起こした騒動を不問にしてくれた」
「そうなんだ」
やっぱあの王さまいい人だった。
「レシル王子は納得いかない顔してたがな」
「ねえ、オジサンはあの人どう思ってるの?」
オジサンはすこし考えて、っていうか慎重にことばを選んでる感じだった。
「彼は王の血筋であり、必ずや立派に国民を率いてくれるだろう」
「そうじゃなくて、もっと感じたままに言ってよ」
「……すこし、性急すぎるところが見受けられるな。もう少し冷静さをもつか良き右腕があれば、いや、我々でレシル王子を支えていかなければ」
(んもう、もっとショージキにぶっちゃけちゃってもよくない?)
だれかに雇われるってこういうことなのかな?
(はぁー雇われるかぁ。スパイクさんどんなトコ紹介してくれるんだろ……あ、雇われるといえば)
「みんなはどうするの? 軍隊にはいるの?」
一瞬だけ時間が止まった。
だれから切り出すでもなく、目を合わせるでもなく、はじめに口火を切ったのは修道服の少女だった。
「わたしはヒガシミョーに帰り、アニスさまに事の次第を報告しなければなりません」
「そっか、グウェンちゃんは教会のひとだもんね」
「私も、いちど森へ帰ろうと思う」
続けてそうことばを放つのは、モデルのような長身の弓手。
「人間同士の争いが森に影響を与えるかもしれない。王族のなかでもなんとか手を打とうとしてる方はいるが――用心するに越したことはないだろう」
ビーちゃんのことばが響いたのか、オジサンは疲れた顔からさらにシワ深く渋い顔になった。
「それに、久しぶりにみんなとも会いたいからな」
「そっか、そうだよね」
ビーちゃんにとっては、あのエルフの森こそがこの世界でのふるさとなんだ。
「スプリットくんはどうせオジサンについていくでしょ」
「勝手に決めつけんなよ!」
「ちがうの?」
「まあ、そうだけどよぉ……オレの口からちゃんと言いたいじゃん」
あ、シュンとしちゃった。ごめんスプリットくん。
「情けないねぇ、それでもオトコかい?」
ひとりで席をふたつぶん確保してるおんなの子が呆れ返った。
サっちゃんはこのなかでいちばん戦士っぽいカッコをしてる。けどそれは自分自身の身体を鍛えぬいた結果であって、彼女は決して戦うためにその身体を鍛えてたワケじゃない。
彼女からそれを聞かされるまで、わたしはこの思いを微塵も疑っていなかった。
「アタイも軍隊に入ることにしたよ」
「――えっ?」
自分の耳を疑った。彼女の目はウソをついてなかった。