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作者: 犬物語
反省はしてる、後悔はしてない
勢いって大事だよね
 口で言うだけじゃない。意思を示すなら行動で。これ、オジサンが教えてくれたことだよ?

「まてグレース!」

 オジサンの声が遠くなっていく。そりゃそうだ、だってわたし歩いてるもん。

 階段の前から離れて、どんどん入ってきたところに戻っていく。そこには兵士がふたり佇んでるけど、彼らは彼らでどう動けばいいのかわからないみたい。おずおずした様子でこっちわたしあっちオジサンたちを交互に見てる。

「貴様……我が国を侮辱するつもりか?」

 いちいち反応するのも億劫だけどこの際ハッキリ言ってやろう。

「戦争するんでしょ? たくさん死ぬよ? どれだけ国の人が死んでもいいってさ、この国を侮辱してるのはどっちなんだろうね」

「なんだと?」

 嫌悪感。ずっと澄ましたままだった王子さまの顔にはじめてその感情が見えた。

「わたしはみんなとオトモダチになりたいからここまで来たの。でもケンカするならこれでおしまい」

 残念だけど。

 ほんとはもっとみんなといたかったけど。

 もぅマジで涙ちょちょぎれるくらい辛いけどぉ!

(でも、オジサンがそのつもりなら――そして)

 みんなもそのつもりなら。

「……」

 門の近くにいると、みんなの顔が見られないほど遠くなる。それでも、みんな心配した様子でこちらを向いてることくらいはわかる。

 スプリットくんは、たぶんオジサンについていくだろう。なんといっても一番弟子だもんね。

 グウェンちゃんは教会にもどるだろう。ここまで来たのだって、ヒガシミョーやその周辺で起こるマモノ騒ぎの報告だったんだ。フラーで適当な護衛を雇ってヒガシミョーまで戻り、そしてアニスさんの手伝いをする日々を送るのだろう。

 サっちゃんも迷いを見せてるようだけど、この先ひとり放り出されるくらいなら、彼女もオジサンといっしょに働くことになるかもしれない。そうでなきゃ、また森にこもって盗賊みたいなことやりはじめるのかな?

 ビーちゃんは正直わからない。仲の良いひとがいるみたいだし、エルフたちは基本よそ者を歓迎しないタイプだ。でもまあ、ビーちゃんだったらだいじょうぶかもなんかそんな感じするし。

「じゃあね」

 門扉に手をかけて、その手に力を入れかけたところで声が、こんどはより大きな声がこっちまで響いてきた。

「グレースここに残れ! そのほうがお前のためになるんだ」

(オジサン)

 それはほんとにわたしのためなの?

「自分のためじゃないの?」

「聞け。騙したような形になったのはすまないと思ってる」

 ような形ってなに?

「だがお前を鍛えたのはほんとうに才能があったからだ。戦いの道具になんて考えたことは一度もない」

「もういいよ、わたし好き勝手生きるから」

 今でもオジサンのことはだいすきだ。だからこそ、その口からうそをついてほしくない。

 手に力を込めた。扉が開いた。

 はじめて自分の手で、別の扉も開けたような気がした。





 さっきまでのわたしかっこよくない?

 だって「わたしはわたしの意思で生きていく」って扉をバーン! からの背中で語るだよ? これめちゃかっこいーじゃん。

 ここからはじまる孤独な旅。いくつもの悲しみを背負って少女はひとり野を駆けていくのだ! ――みたいな感じになればサイコーだったのに。

「はぁ……なんでここにいるんだろ?」

 赤い壁、そこになんの装飾かわからないおっきくてまるい穴が開いてる。いかにも中国って感じの調度品の数々。

 ここはチャールズ邸。つまりオジサンのおうちだ。

 一階。スパイクがつくったミュージアムとは別の部屋のテーブルに突っ伏して、さっきまで威勢良かった少女はひとりぐーたらしているのでした。

「だってしかたないじゃん? ここ出たら住む場所ないし、どうやって生活すればいいかわからないし?」

 どこかに住むって、たしかこせき? っていうのが必要なんだよね。

 あとギルドの登録とか装備品を揃えたりとか。そういえば、こういう生活のほとんどはオジサン任せだった。

 お裁縫はビーちゃんがやってたし力仕事はぜんぶサっちゃん。マモノや野生動物たちを狩るときはオジサンの指示に従って、基本はスプリットくんが尖兵として動いてた。

 わたしがお役立ちだったのってその時くらい? あ、でも一回くらいどこぞのお家に潜入するときカギ開けしたような気がゲフンゲフン。

「あぁ~思った以上にひとりでなにもできてないぃ~」

「あれ、謁見中じゃなかったかな?」

 部屋のドアがキィと開かれ、そこからよく知った顔が出てきた。このお家の管理を任されてる胡散臭いほうのオジサンだ。

「んー、ぬけだしてきた」

「抜け出、いや、え?」

 信じられないって顔。まあ、王さまと直接会う機会をぶっちぎったと考えればそうなんだろう。でも、今この状況を後悔してるとはいえ、あそこで自分がした行動自体を後悔してない。

「どういうこと?」

「戦争はいやだもん」

「ッ!?」

 スパイクは見た目は若い。シワひとつないし、ちょびヒゲを刈り取ればもっと若く見えるだろう。けど、あたしが口にしたことばに反応して眉間に深いシワをつくる。

 その時だけは、年齢相応の見た目になっていた。

「そうか……キミはやさしいんだね」

 それも一瞬、すぐ穏やかな顔にもどる。

「そんなんじゃないよ。だってあたりまえのことじゃん。あぁ~もうここにはいられないよぉ~どうしよぉ」

 わたしはまた机に突っ伏した。

「いったいなにがあったんだい?」

 それからカクカクシカジカタイムにはいった。謁見の間で起きた出来事。王さまはとてもいい人そうに見えたこと、戦争することしか考えてないヒドい王子さまのこと、オジサンとくちゲンカしちゃったこと、勝手に出ていっちゃったことぜんぶ。

 スパイクはそれを、ただ黙って最後まで聞いてくれた。それが不安でもあったり安心でもあったり、なんだか複雑な感じだったけど、とにかく自分で言えるとこまでぜんぶ言い終えた。

「なるほど、そんなことが」

「これからどうしよう、これからずっと野宿生活になるのかなぁ」

「なんでここを出てく前提になってるのさ。チャールズはそんなことでキミを追い出すような人じゃないよ」

「だってあんなこと言っちゃったし、それでここに居候ってなんか、ないじゃん」

「そこは気にするんだ……んー、ならキミにひとつ提案があるんだけど」

 人差し指をたてこちらに意味深な笑みを見せる。どういう意味ははかりかねてると、彼はそのままわたしを上から下までじろじろ見渡して、満足そうにうなずきことばを続けた。

「カラダを使って稼ぐ気はあるかい? 主に夜の仕事になると思うけど」
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