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作者: 犬物語
ストッケード城
堅牢な砦
 フラーがある場所は、もともと小高い山があったらしい。

 そこにいい感じの砦が作られた。いつしか戦いの時代が過ぎ、そこに人が住み始め町になった。時の流れとともに規模が大きくなり都市化していき、今はアイン・マラハの首都機能が置かれている。

「ゆえにこの城はストッケード城と呼ばれている。はぁ、はぁ――元来砦としての機能を果たす存在だったから、あーこのように来るまでに手間がかかるお城になったってことだ」

 削り取った土や岩でさらなる壁を築き城郭都市を成した立地上、お城へ赴くには山道を登るような苦労を強いられなければならないわけで、まあ異世界人チームとその引率者はこんなの慣れっこなんですが、長いことインドア派だった親友さんにとっては体力仕事らしく、大道芸人風味のかっこのクセしていちばんだらしない姿勢で坂をのぼっております。

 それでもおしゃべり続けられるのすごいわー。別ベクトルで根性あるわー。

「キミたち、よくこんなペースでっ、歩けるね」

「どうした、以前のお前ならこの程度運動のうちにも入らなかっただろうに」

「はは、ここ最近は頭脳労働でやってきたからね。うぷ、さっきたべたものが戻ってきそうだ」

「チャールズさま、もう少しゆっくり歩いたほうが」

 いっしょに旅をしはじめたころは口ではぁはぁ吐息を漏らしてたグウェンちゃんもこのとおり。気遣うやさしい少女を女神のようにあがめる大道芸人。その主張は無慈悲なひと言によって封殺された。

「いい運動だ」

「親友とは、どんなときでも相手を思う気持ちがないとダメだとおもうんだ」

「なまける相手のケツを叩いてこそ真の親友と呼べる」

「はぁ、こういうときだけ口がうまい……なあきんにくのレディ。どうかおいらを担いでいってくれないかな? そのたくましい身体をさらに鍛える一助になりたいんだ」

「そいつぁありがたい提案だが、どっちかってとアンタ自身の筋肉を鍛えたほうがいいんじゃないかい」

「四の五の言わず自分の足で歩け」

「そんなぁ」

 そんなやりとりがあとニ回続いて、スパイクにとってはやっとのことで目的地を前にすることができました。

「うわー」

 たかーい。

「なぁに呆けた面してる」

 スプリットくんが両手を頭のうしろに組んで小ばかにするような声を出す。それはあとで粛清するとして、ひとまず城を見上げてまぶたの裏に焼き付けておきたい。

 坂の上にそびえ立つお城。そこは城郭都市のなかさらなる壁で囲われていて、坂唯一ある侵入口は開けし閉めする扉こそないけど石造りの門が構えている。

 その入口から見える通路には、ここが山頂にあることを忘れてしまうような水辺があり、その上に小橋が掛けられ大きな扉までつながっている。そこがお城への玄関口になるようだ。

 城は高く奥行きがあった。てっぺんがツンツンしてる三角屋根が幾重にも重なり、先端には平和の象徴っぽいトリがぽっぽーと鳴いてる。

 ぱっと見ザ・中世ヨーロッパに見えなくもないけどどこか違うようなぁ、ファンタジーの世界に登場するお城っぽく見えるような――いや、でもこの世界はそもそも剣と魔法のファンタジーだしそれでもおかしくない?

「では参ろうか」

「おお! さっきまでへばってたのに」

「真なる紳士は、決めるところはビシッと決めるものさ」

 と言いつつ鼻呼吸が粗々しい。こういう人がエレベーターとか電車の中にいるとイヤだって言ってたよ?

(だれが? ってかエレベーターってなんだっけ?)

 そうこうしてるうちにピシッとした大道芸人がおすまし顔で進んでいく。こちらの様子に気付いたらしい門番の兵士たちが怪訝そうな顔で見つめ、一瞬だけ警戒の色を強め、パッツリ下半身になんちゃって貴族風の衣装を身にまとった男性が歩み寄っていく姿を確認したとたんに頬がゆるむ。

「こんどは物見遊山ですか?」

「ここへ訪れるときはいつも重要な用があるのだよ」

 儀礼的に例のコインを提示して見せて、衛兵は対して確認もせず笑顔のまま槍の柄を地面に置いた。

「ヴィクトリアはいるか?」

「この時間なら貴婦人方と優雅にティータイムですよ。どのようなご要件でしょう?」

「王への謁見を賜りたいがそれはムリそうなのでね」

 そのワードを口にしたとき、兵士さんたちはわかりやすく曇った顔をする。それに構わず彼はしゃべり続けた。

「ならせめてということで、お貴族さまに近い侍女であるヴィクトリアの耳に入れておきたいことがあるんだ」

「そうでしたか」

 それからいくつかのやりとりを通して、スパイクだけでなくわたしたちに関しても質問が飛んでくる。

「彼らは?」

「おいらの従者さ」

「おい」

 複数人の抗議の視線を受けたスパイクが慌てて訂正した。

「しつれい。彼は何を隠そう二十年前の戦争をただひとりで止めた英雄、チャールズその人だ」

 驚愕から好奇心。門番は瞳孔を開いて英雄の姿を凝視した。

「本当ですか!?」

「まあ、な」

「今回の要件にも関わってる……もしかしたら、歴戦の勇士の剣技を間近で見られるかもしれないよ?」

 そんなリップサービスに聞き耳をたてていた詰め所の兵士たちまでも立ち上がり様子をうかがっている。オジサンはなんとなく居心地がわるそうに頭を掻いた。

「それではまた」

 相手への興味を煽るだけあおって先へ進んでいく。彼らに全員が背中を見せるくらい進んだところで、ふとスパイクが振り返って言葉を重ねた。

「最近はここらでもマモノが出るようになったよね。物騒な世の中だけど、そういう時こそキミたちにはがんばってもらいたいよ」

「ご安心を。軽口上手な浮浪者に傷がつかないよう必死こいて戦いますよ」

「それはありがたい」

 そして、彼はうしろ向きに手を振って別れのあいさつを交わした。
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