友情の証
人はだれだってキッカケをもっている
「もう、オジサンもうちょっと言い方あると思わないのかな?」
少女の背中を追いかけつつ、わたしはそんなことを考えていた。
っていうかデリカシーなさすぎじゃない? グウェンちゃんはグウェンちゃんなりに考えてやってるのにオジサンは親離れがどうとか目標がどうとか。
グウェンちゃんにはそんなのかんけーないのに、なんでそんなこと押し付けるのかな。
(うーん、追いかけたはいいんだけどぉ)
この先どうする?
追いつくのはかんたんです。だって相手は子どもだし、こちとら運動得意だしオジサンに鍛えられてるし。今だって、もう目と鼻の先にいる少女を、おなじようなペースでかるーくランニングモード。
(うーんこの感覚まえにもあったような)
たしか、いつもいっしょに走ってくれる人がいて、わたしはその人のペースにあわせてあげて、たまに見上げてその人の喜んでる顔を見てわたしもたのしくなって――うーん。
(っと、今はグウェンちゃんのことを考えないと)
とりあえずあの子がどこかに落ち着くまで追いかけよう。
ちょっと走っただけで、グウェンちゃんが運動ニガテなことがわかった。だって走り方がかわいいんだもん。こう、アニメだったらとてとてぇ~みたいな音ありそうな感じ。
わかんない? うん、わたしもわかんない。
村を抜けて畑を抜けて、教会の前も通り過ぎて、少女は村はずれに流れるちっちゃな川のほとりについた。
グウェンちゃんでも向こう側までジャンプできそうなほどちっちゃい川だ。
少女はその手前でとまり、荒れた息をととのえてしゃがみこんで、そのままさんかく座りになった。
(グウェンちゃん)
ヒザにひたいを押し当てる。目を閉じてじっとしている姿は、わたしには今はなにも見たくないような、他人からつきつけられたことばを拒否したいような、でも頭のなかで何度も繰り返してしまう辛さに耐えてるように見える。
この世界で目覚めて、いろいろなことを経験して、そしてアニスという人と出会った。
「あなたはずっとさみしかったんだね」
だれも助けてくれなくて、そういう世界を否定したくて。
「……なぜそう思うのですか」
思わず口に出てしまったことば。少女はうつむいたまま問いかけてくる。
わたしは、目の前の少女のこころに手を伸ばすことができるのかな?
「アニスさんといっしょに人々と交流してるときのグウェンちゃんは、どこか馴染んでなくて、アニスさんについてるおまけみたいな感じだった」
「ぅ、それは人をバカにしてるのですか」
「でも、アニスさんに感謝してる人を見たときだけちがった」
グウェンちゃんの頭がもっそり動いた。
「どこかホッとしたような、心から安心したように頬をゆるめて――それは、治療がうまくいったことを喜んでるんだと思ってた」
「それは、そうでしょう? 協会の役割をまっとうできたのなら当然です」
「そういう喜びとは、ちょっとちがったんじゃないかな?」
また、グウェンちゃんが口を閉じる。
「わたし、わかったんだけどね? あ、わかったっていうかそう感じたんだけど、その喜びは相手じゃなくじぶんに向いてたというか……グウェンちゃんがみんなの"ありがとう"に感じてたうれしさは、なんていうか――」
じぶんがやってる活動そのもの。
救いの手を差し伸べる人がいることに安心を覚えてる。
「グウェンちゃんは、この世界がみーんな仲良しさんだったらいいって思ってるんだよね?」
みんなで支え合って、助け合って、そうやって暮らしてほしい。そしたらみんなオトモダチだから。
「っふふ、それはグレースさまの思いではないですか?」
少女がゆっくりと顔をのぞかせてくれた。
漆黒の髪に隠された純白の肌。まだ子どもっぽいところがあるおんなの子の顔は、とてもおだやかだった。
「えへへ、わかる?」
「そう顔に書いてますよ……でも、ええ、そうかもしれません」
華奢なほそい足で立ち上がる。サっちゃんと比べられないほど小さな子。だけどそのハートはだれよりも大きそうだ。
「わたしはこの世界におねがいしてるんです」
「おねがい?」
「どうかこの世界が、人助けをして当たり前の世界であってほしいと」
「なぁにそれ、そんなの当たり前じゃん」
「そうですね。でも、あたしはあの時とてもつらかったんです。まっくら闇に包まれて、右も左もわからない場所で、知ってる人がいなくて、だれに助けを求めればいいのかわからなくて」
「グウェンちゃん……」
「前にも言いましたが、あたしはアニスさまに救われていなかったら身も心も邪悪に染まっていたでしょう。だれかから平気でものを奪うような人間になっていたかもしれません」
「でも、グウェンちゃんはそうはならなかった」
「はい。それもこれもぜんぶアニスさまのおかげです。だからわたしもそちら側になろうと決めたのです。だれかを助けるために手を使う。この世界が"誰かに手を差し伸べる人がいる世界"であるように」
(……すごいなぁ)
子どもなのに、もうこんなに大人だ。
「いまのことばは忘れてください」
「なんで?」
すっごくいーこと言ったじゃん?
「どうしてもです。じゃなければ心の底に隠し持ってください――オトモダチからの約束ですよ」
「ッ!」
おどろくわたしに、グウェンちゃんはイタズラっぽく笑ってみせた。
「聞きましたよ? この世界でたくさんのオトモダチをつくりたいのでしょう? あたしはなれませんか?」
「ううん、オグウェンちゃんはわたしの大切なトモダチだよ! そうと決まれば」
よっしゃもうたまらん!
「ちょ、やめてください!」
「やだ。もっとむにむにさせてぇ」
あーグウェンちゃんやわらかーいお肌すべすべーほっぺぷにぷにー。
「ほ、ほんとうにやめてください! 人を呼びますよ!」
「んんもうすこしぃ、あと五分だけ」
「五分もやるのですかッ!?」
一分だけだった。
でもまあいっか。
っていうかオトモダチだよ! グウェンちゃんからフレンド登録きたよ!
「これからもよろしくね!」
「改めて言われても……王都までの間、よろしくおねがいします」
わたしはビシッっと手を差し出した。んでグウェンちゃんはそれをしぶしぶキャッチんぐ。ゆーじょーの証はなんといっても互いのハンドをしぇいくシェイク、なんだからね!
少女の背中を追いかけつつ、わたしはそんなことを考えていた。
っていうかデリカシーなさすぎじゃない? グウェンちゃんはグウェンちゃんなりに考えてやってるのにオジサンは親離れがどうとか目標がどうとか。
グウェンちゃんにはそんなのかんけーないのに、なんでそんなこと押し付けるのかな。
(うーん、追いかけたはいいんだけどぉ)
この先どうする?
追いつくのはかんたんです。だって相手は子どもだし、こちとら運動得意だしオジサンに鍛えられてるし。今だって、もう目と鼻の先にいる少女を、おなじようなペースでかるーくランニングモード。
(うーんこの感覚まえにもあったような)
たしか、いつもいっしょに走ってくれる人がいて、わたしはその人のペースにあわせてあげて、たまに見上げてその人の喜んでる顔を見てわたしもたのしくなって――うーん。
(っと、今はグウェンちゃんのことを考えないと)
とりあえずあの子がどこかに落ち着くまで追いかけよう。
ちょっと走っただけで、グウェンちゃんが運動ニガテなことがわかった。だって走り方がかわいいんだもん。こう、アニメだったらとてとてぇ~みたいな音ありそうな感じ。
わかんない? うん、わたしもわかんない。
村を抜けて畑を抜けて、教会の前も通り過ぎて、少女は村はずれに流れるちっちゃな川のほとりについた。
グウェンちゃんでも向こう側までジャンプできそうなほどちっちゃい川だ。
少女はその手前でとまり、荒れた息をととのえてしゃがみこんで、そのままさんかく座りになった。
(グウェンちゃん)
ヒザにひたいを押し当てる。目を閉じてじっとしている姿は、わたしには今はなにも見たくないような、他人からつきつけられたことばを拒否したいような、でも頭のなかで何度も繰り返してしまう辛さに耐えてるように見える。
この世界で目覚めて、いろいろなことを経験して、そしてアニスという人と出会った。
「あなたはずっとさみしかったんだね」
だれも助けてくれなくて、そういう世界を否定したくて。
「……なぜそう思うのですか」
思わず口に出てしまったことば。少女はうつむいたまま問いかけてくる。
わたしは、目の前の少女のこころに手を伸ばすことができるのかな?
「アニスさんといっしょに人々と交流してるときのグウェンちゃんは、どこか馴染んでなくて、アニスさんについてるおまけみたいな感じだった」
「ぅ、それは人をバカにしてるのですか」
「でも、アニスさんに感謝してる人を見たときだけちがった」
グウェンちゃんの頭がもっそり動いた。
「どこかホッとしたような、心から安心したように頬をゆるめて――それは、治療がうまくいったことを喜んでるんだと思ってた」
「それは、そうでしょう? 協会の役割をまっとうできたのなら当然です」
「そういう喜びとは、ちょっとちがったんじゃないかな?」
また、グウェンちゃんが口を閉じる。
「わたし、わかったんだけどね? あ、わかったっていうかそう感じたんだけど、その喜びは相手じゃなくじぶんに向いてたというか……グウェンちゃんがみんなの"ありがとう"に感じてたうれしさは、なんていうか――」
じぶんがやってる活動そのもの。
救いの手を差し伸べる人がいることに安心を覚えてる。
「グウェンちゃんは、この世界がみーんな仲良しさんだったらいいって思ってるんだよね?」
みんなで支え合って、助け合って、そうやって暮らしてほしい。そしたらみんなオトモダチだから。
「っふふ、それはグレースさまの思いではないですか?」
少女がゆっくりと顔をのぞかせてくれた。
漆黒の髪に隠された純白の肌。まだ子どもっぽいところがあるおんなの子の顔は、とてもおだやかだった。
「えへへ、わかる?」
「そう顔に書いてますよ……でも、ええ、そうかもしれません」
華奢なほそい足で立ち上がる。サっちゃんと比べられないほど小さな子。だけどそのハートはだれよりも大きそうだ。
「わたしはこの世界におねがいしてるんです」
「おねがい?」
「どうかこの世界が、人助けをして当たり前の世界であってほしいと」
「なぁにそれ、そんなの当たり前じゃん」
「そうですね。でも、あたしはあの時とてもつらかったんです。まっくら闇に包まれて、右も左もわからない場所で、知ってる人がいなくて、だれに助けを求めればいいのかわからなくて」
「グウェンちゃん……」
「前にも言いましたが、あたしはアニスさまに救われていなかったら身も心も邪悪に染まっていたでしょう。だれかから平気でものを奪うような人間になっていたかもしれません」
「でも、グウェンちゃんはそうはならなかった」
「はい。それもこれもぜんぶアニスさまのおかげです。だからわたしもそちら側になろうと決めたのです。だれかを助けるために手を使う。この世界が"誰かに手を差し伸べる人がいる世界"であるように」
(……すごいなぁ)
子どもなのに、もうこんなに大人だ。
「いまのことばは忘れてください」
「なんで?」
すっごくいーこと言ったじゃん?
「どうしてもです。じゃなければ心の底に隠し持ってください――オトモダチからの約束ですよ」
「ッ!」
おどろくわたしに、グウェンちゃんはイタズラっぽく笑ってみせた。
「聞きましたよ? この世界でたくさんのオトモダチをつくりたいのでしょう? あたしはなれませんか?」
「ううん、オグウェンちゃんはわたしの大切なトモダチだよ! そうと決まれば」
よっしゃもうたまらん!
「ちょ、やめてください!」
「やだ。もっとむにむにさせてぇ」
あーグウェンちゃんやわらかーいお肌すべすべーほっぺぷにぷにー。
「ほ、ほんとうにやめてください! 人を呼びますよ!」
「んんもうすこしぃ、あと五分だけ」
「五分もやるのですかッ!?」
一分だけだった。
でもまあいっか。
っていうかオトモダチだよ! グウェンちゃんからフレンド登録きたよ!
「これからもよろしくね!」
「改めて言われても……王都までの間、よろしくおねがいします」
わたしはビシッっと手を差し出した。んでグウェンちゃんはそれをしぶしぶキャッチんぐ。ゆーじょーの証はなんといっても互いのハンドをしぇいくシェイク、なんだからね!