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作者: 犬物語
じゃじゃウマ娘は旅行気分
旅ってけっこー野生スキルが問われるのです
「狩猟なんて野蛮なことできません」

 うん、わかる。できることならどんな動物とも仲良しさんでいたいもんね。

「川で水浴びなんて、何を考えてるのですか!?」

 これもわかる。朝に冷たい水はちょっとキビしいよね。

「お、おとこの人はこっちに来ないでください!」

 すっごくわかる。おんなの子にはいろいろデリケートな問題があるわけですよ。

「ケモノくさい……あ、あたしは携帯食料でけっこうです」

 うん。はじめてのジビエってそうなるよね。野生のクサみっていうか、でも馴れたらおいしーんだよこれ。

「これはあたし以外使わないでください」

 おいまて。

「それはダメでしょ」

「なぜですか? これはアニスさまがあたしにくれたものですよ」

 そんな純粋な瞳で見返されても。

「まあ、確かにそれは彼女からいただいたものだが」

 ビーちゃんがためらいつつもグウェンちゃんのことばに肯定した。ただしくはアニスさんが、わざわざその日のうちに市場で購入した寝袋です。

 ひと目でめっちゃいい羽毛を使ってるとわかった。アニスさんは他にも旅用の品をまとめ買いしていたらしく、グウェンちゃんを心配して携帯食料に風よけのローブに登山グッズと、さよならの前にいろんなものを提供してくれた。

 なかにはお祈り? みたいなのに使う棒だったり調理に使うナベなんかも用意してくれたんだけど、旅の荷物がかさむからってオジサンがいろいろ選定してた。

 で、そのなかでもオジサンが高評価したのがこの寝袋である。もともと持ってるそれより倍は体力回復しそうなほどふっかふかであったかそう。まだ使ったことないけどわかる、これはすげー。

「ズルすんなよ、寝袋はみんなで使い回すのがルールだろ」

 スプリットくんが抗議の声をあげるけどおすまし顔のグウェンちゃん。

「土の上で寝るなんてイヤです」

「それはみんな同じだろ」

「アナタは野蛮だからへーきでしょ?」

「はぁ!? ふざけてんのかこのガキ」

「ひとを子ども扱いするほうが子どもなのです」

「このやろう」

「ケンカはよせまったく……こうしよう。古い寝袋は私とスプリットで使いまわそう。そっちはグウェンとグレースとビシェルで使ってくれ」

「チャールズさま、勝手に決めないでください!」

 最年少の少女が両手をふりあげ抗議した。

「そもそも、アナタたちはなぜオトコと同じ寝袋を使ってヘーキだったのですか?」

「え?」

 グウェンちゃんがわたしたち女性陣に訴える。だけどわたしにはちょっと言ってることが理解できなかった。

「へーきだったのかって言われても、なんのこと?」

「アタイはもともと寝袋を使えないからね」

「えぇぇ」

 いや信じられないって顔されても。その光景を見てビーちゃんが苦笑した。

「私はまあ、旅をする以上そういうことになるのは覚悟していたから」

「そういえば、ビシェルってたまーに寝袋で寝ないときあるよな。なんでだ?」

「それは……気にするな」

「スプリット。女性にはいろいろあるんだよ」

「いろいろってなんだよ、オッサンわかるのか?」

「知らん。だがいろいろあるのだけは知ってる」

「なんだそりゃ。まあいいけど」

「とにかく、旅をする以上、旅の苦楽は共有していかなければならない。そこだけはわかってくれ」

「……はい」

 渋々といった形でうなずく。ただ夜の番を任せるにはちっちゃすぎるってことで、そっち方面は主にオジサンとスプリットくんが対応しております。

 わたしとオジサン。あとになってスプリットくんといっしょになったけど、はじめは三人交代で夜の番をしてたからけっこー寝不足気味だったんだよね。ちなみにさいしょのほうはずっとオジサンにがんばってもらってました。

 でも今はビーちゃんもサっちゃんもいるし、みんなで協力できるから食料調達もらくちんだし、いまはグウェンちゃんもいるからケガしても安心だよね。

 なんて考えてた矢先のことである。

「その程度のことで回復魔法は使えません。自力でどうにかしてください」

「えぇぇ」

 オジサンが信じられないって顔をした。

 町を出て二日目のことである。木の実を採ろうとよじよじしたスプリットくんが、必要ぶんを採取して降りようとしてました。んで、あと数歩ってところで足をすべらせおしりからズドン。そのときに腕をケガしてしまったのです。

 で、グウェンちゃんに治療を頼んだところこの返答でございます。

「いや、その、頼めないか?」

 まさかそんなこと言われるとは思ってなかったでしょうね。うん、わたしもこれは予想外ですよ。まえからツンツンしてるなと思ったけどこれはツンツンどころかグリグリしてくるね。

「お断りします。擦り傷程度なら薬草で済ませてください」

「まあ、それはそうだが……しかたない」

 子どもの反抗におろおろするオジサンみたいな? そんな光景が繰り広げられています。結局はいつもどおりと言うか、以前からの旅で使ってた軟膏を塗って、近くにあったキズに効くらしいはっぱをはりつけて済ませる。

 そんななか、グウェンちゃんは魔法を使うときにも利用する本を広げている。教会で聖典と呼ばれてるらしいもののひとつで、むかーし活躍したエラい人の伝説をまとめたものなんだって。

 杖と本、どんなしくみで魔法を使ってるのかわからないけど、それで魔法が使えるならそれでいいのかな。

(まほうかぁ……なんでそんなものがあるんだろ)

 この世界ってなんなんだろ。

 っていうか、もとの世界ってなんだったっけ?

 まほうとかあったっけ? あまり思い出せないけど、少なくとも剣と魔法がファンタジーだと思うような感覚をわたしは持ってる。みんなもそのはずだ。

 かすかにある記憶のなかでは、わたしは楽しくあそびまわってて、だいすきな人といっしょにいて、おいしいものたべて、はしって、おなじばしょで寝てた

(――あの人たちが言ってたことと、何か関係があるのかな?)

 この世界はゲームだ。スナップ、そして彼にキャスと言われてた少女はこの世界をそう表現してた。

 そんなのありえない。こんなリアルなゲームが存在するはずがない。でも、あのふたりのことばはどこか重くて、わたしのナカにずっと残ったままだ。

「確かめないと」

 こんどあったら絶対に。

「あたしは木登りなんてしませんから」

「くそっ、このガキ旅行と勘違いしてねーか?」

 腕にはっぱを貼り付けた少年のつぶやきが耳に入ってくる。その姿をほほえむように、あったかくてやわらかい風がみんなの間をすりぬけていった。
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