ボス戦前後ってぜったいセーブとか回復ポイントあるよね
おなじ"レベルアップ"でもゲームによっていろいろ仕様かわるよね
猫背で骨がむき出しになったような男が跡形もなく消えていく。残されたわたしたちは、触手だったウネウネが残したネトネトやらベトベトに足をとられないようにしつつ、それぞれの無事を確認していた。
「うぅぅ……サイアク」
変身がとけたらそれもなくなるかなと思ったらさ、まだ体中に白いのがベトついてるし。
「グレース、ぼさっとしてないでこっちを手伝ってくれ」
司教さんの身体だけ残して、触手やその切れ端はすべて消滅していた。
まるでマモノたちのように。黒い影に姿を変えて、それが霧のように霧散していったのだ。
(それならこれも消えてくれてよくない? こんなのおかしーよ)
現在、アニスさん主導によりこの部屋に安置された荷物を確認中です。
積み上げられた木箱。その中にはふくろがいくつかあって、その中にナゾの白い粉があって、スプリットくんがひとナメして「うまっ、これ小麦粉じゃん」なんてバカなことしてた。
その他にもすっごいギラついた装飾品だったり高級そうな布だったり。さっきの戦闘でたいまつの炎がいくつか消えちゃって、アニスさんが光を放つ魔法を唱えてくれたおかげで調査がすごく楽になった。
「アニスさま。これを見てください」
アニスさんの傍らに少女が近寄る。背丈はだれよりも低いけど、その声色はハッキリと自信に満ち溢れていて、だれよりもオトナ気だった。
そうあろうとしてるようだった。
「食料、絹の衣、祭祀用具、それに金貨まであります。それに、この品は紛失したと報告が入ったものと数が一致しています」
「それは……半年ほど前に男爵さまへの献上品として用意されたもの。よろこんでおられたと司教様は申していたのですが」
「ここにあるということは、プレゼントせずに着服したということだろうな。さながらより位の高い貴族に目をつけたのか」
「ですが、司教様のごようすがおかしくなったのはここ最近のことです」
「平静を装っていたのだろう。それも例の薬を飲まされてるうちに隠しきれなくなった」
「あの男は何者なのですか! なんの理由があってこのような所業を」
傍らの少女が怒りをあらわにする。オジサンは神妙な顔で答えた。
「わからんが、いくつか手がかりになりそうなことを口にしていた」
その時の彼のことばがフラッシュバックする。猫背の男が歪な笑みを浮かべてこの世界をゲームだと言った。
そんなくだらない理由をつけて人の命を弄ぶのは許せない。きっと彼は、今後も同じような悪いことをするだろう。そんな人とは絶対にオトモダチになれないしなりたくない。
キライだ。
「少なくともあとふたり。姿を見せない魔術師と、あの男が"あいつ"と称した人物がいるようだ」
「彼が飲ませていた薬はいったい」
「龍脈の水だ」
「まさか! そんなことをすれば人間は――」
アニスさんが絶句する。この世界の住人にとって、龍脈の水を飲むことの意味はだれもが知ってるみたい。
とおくで会話を聞いてたらしいスプリットくんが戻ってきた。
「目的がなんかしらねーけど、それをすることであいつらに得があるってことだよな」
「いずれにしても、司祭様や教会のみなさんにことの顛末をうち明けなければなりません。それとグウェン、アナタにひとつおねがいがあります」
「え?」
グウェンちゃんは怪訝な表情で彼女を見上げた。
「首都フラーまでおもむき、これらの事実を本部に報告してほしいのですう」
グウェンちゃんにとっておどろくべきことばだったんだと思う。少女は目を見開いて尊敬する修道女を見返した。
「それは……なぜあたしなのですか? アニスさまは司祭さまのほうが」
「実際に現場を目の当たりにしたアナタにこそ頼みたいのです。そして、どうかその護衛をおねがいできませんか?」
彼女の目はオジサンに向けられていた。
「そういうことなら、わかった」
「いいですね? グウェン」
「……アニスさまがそう言うのなら」
純粋な瞳に射抜かれて、少女はくびを縦に動かすしかなかった。
ここにあるものは、後で教会の人たちで外に運び出すそうだ。まだ教会の人たちが知る前だからわからないけど、アニスさんの考えでは、ここにある食料品は町のみんなに配りたいんだって。
けっこうな量だからお手伝いを申し出たんだけど、アニスさんは「これは教会の問題ですから、ごめいわくをかけるわけにはいきません」の一点張り。もうここまでカンケーしちゃったんだから遠慮しなくていいのに。
夜遅くなったし、ビーちゃんとサっちゃんが待ってるから今日はおわりにしようってことで準備してたんだけど、オジサンがそのなかであるものを見つけたみたい。
「これは――まさか、これが伝説の」
「なになに?」
壁に向かってしゃべるオジサンをうしろから覗き込む。
だーれもいない。あるとすれば壁。あとそこから染み出した水だけ。
「アニスどの、これはウワサに聞く教会の地下にしか湧かないとされる聖水なのか!?」
「はい?」
敬虔な修道女はきょとんとした顔で質問を受け止めてる。で、オジサンのことばと壁を双方確認して吐息を漏らした。
「これは地下水が漏れでてるだけです」
「ちかすい?」
「わたくしもくわしくはわかりませんが、このあたりは土に還った水が好む土地なんだそうです」
「ふーん」
(なんか知らないけどけっこーな勢いで吹き出してるなぁ――はぇ?)
コップがある。
湧き出た水がそこに落ちてる。
中に水が入ってる。
ピコン。
ってアタマの中で音がした。
「ミズヲノミマスカ?」
「え?」
「ん? なんだグレース、どうかしたか?」
「いまオジサンしゃべった?」
「いや?」
(そーだよね、なんかおんなの人っぽい感じだったし。じゃあ)
「アニスさん?」
「いえ、わたくしはべつに」
えーおっかしいなあ。
ピコン。
また音がした。
「ミズヲノミマスカ?」
(マジでだれ!?)
質問からしてコップの中にある水をのめってことだよね?
壁から染み出してる水を?
(いやいやムリでしょー)
ぜったい汚いよー見るからにあやしーし。いやでもピコンっていってるからなーいやいやなんでピコンって鳴ったら水を飲まなきゃいけないのかわからんし。
「……」
どうするわたし?
ピコン。
またアタマの中で声がした。
「ミズヲノミマスカ?」
「…………………………うん」
わたしはコップを手に取った。
ちらりと覗き込む。
むしょくとーめー。においもとくになし。見た目はいたってふつーの水に見える。
「よし」
意を決してわたしはのんだ。
ピコン。
「HP、MPが全快しました」
「え」
なにそれ?
(えいちぴーとえむぴー? あははなにをそんなゲームじゃあるまいし――ん?)
なんだろう、なんかめっちゃ気分が良くなってきた!
(え、マジで?)
おめめパッチリ、気分上々。変身を使った後ってなんかぼや~っとするんだけどそれも全部スッキリしました。
「マジで?」
「グレース、どした?」
うしろからスプリットくんが声かけてきた。
「スプリットくんこれ飲んで」
「え?」
「いーからはやく」
わたしはみんなに飲ませた。
みんな気分がよくなったって言った。
「ほんとうにあったんだな」
オジサンはずっと壁を見てた。
「うぅぅ……サイアク」
変身がとけたらそれもなくなるかなと思ったらさ、まだ体中に白いのがベトついてるし。
「グレース、ぼさっとしてないでこっちを手伝ってくれ」
司教さんの身体だけ残して、触手やその切れ端はすべて消滅していた。
まるでマモノたちのように。黒い影に姿を変えて、それが霧のように霧散していったのだ。
(それならこれも消えてくれてよくない? こんなのおかしーよ)
現在、アニスさん主導によりこの部屋に安置された荷物を確認中です。
積み上げられた木箱。その中にはふくろがいくつかあって、その中にナゾの白い粉があって、スプリットくんがひとナメして「うまっ、これ小麦粉じゃん」なんてバカなことしてた。
その他にもすっごいギラついた装飾品だったり高級そうな布だったり。さっきの戦闘でたいまつの炎がいくつか消えちゃって、アニスさんが光を放つ魔法を唱えてくれたおかげで調査がすごく楽になった。
「アニスさま。これを見てください」
アニスさんの傍らに少女が近寄る。背丈はだれよりも低いけど、その声色はハッキリと自信に満ち溢れていて、だれよりもオトナ気だった。
そうあろうとしてるようだった。
「食料、絹の衣、祭祀用具、それに金貨まであります。それに、この品は紛失したと報告が入ったものと数が一致しています」
「それは……半年ほど前に男爵さまへの献上品として用意されたもの。よろこんでおられたと司教様は申していたのですが」
「ここにあるということは、プレゼントせずに着服したということだろうな。さながらより位の高い貴族に目をつけたのか」
「ですが、司教様のごようすがおかしくなったのはここ最近のことです」
「平静を装っていたのだろう。それも例の薬を飲まされてるうちに隠しきれなくなった」
「あの男は何者なのですか! なんの理由があってこのような所業を」
傍らの少女が怒りをあらわにする。オジサンは神妙な顔で答えた。
「わからんが、いくつか手がかりになりそうなことを口にしていた」
その時の彼のことばがフラッシュバックする。猫背の男が歪な笑みを浮かべてこの世界をゲームだと言った。
そんなくだらない理由をつけて人の命を弄ぶのは許せない。きっと彼は、今後も同じような悪いことをするだろう。そんな人とは絶対にオトモダチになれないしなりたくない。
キライだ。
「少なくともあとふたり。姿を見せない魔術師と、あの男が"あいつ"と称した人物がいるようだ」
「彼が飲ませていた薬はいったい」
「龍脈の水だ」
「まさか! そんなことをすれば人間は――」
アニスさんが絶句する。この世界の住人にとって、龍脈の水を飲むことの意味はだれもが知ってるみたい。
とおくで会話を聞いてたらしいスプリットくんが戻ってきた。
「目的がなんかしらねーけど、それをすることであいつらに得があるってことだよな」
「いずれにしても、司祭様や教会のみなさんにことの顛末をうち明けなければなりません。それとグウェン、アナタにひとつおねがいがあります」
「え?」
グウェンちゃんは怪訝な表情で彼女を見上げた。
「首都フラーまでおもむき、これらの事実を本部に報告してほしいのですう」
グウェンちゃんにとっておどろくべきことばだったんだと思う。少女は目を見開いて尊敬する修道女を見返した。
「それは……なぜあたしなのですか? アニスさまは司祭さまのほうが」
「実際に現場を目の当たりにしたアナタにこそ頼みたいのです。そして、どうかその護衛をおねがいできませんか?」
彼女の目はオジサンに向けられていた。
「そういうことなら、わかった」
「いいですね? グウェン」
「……アニスさまがそう言うのなら」
純粋な瞳に射抜かれて、少女はくびを縦に動かすしかなかった。
ここにあるものは、後で教会の人たちで外に運び出すそうだ。まだ教会の人たちが知る前だからわからないけど、アニスさんの考えでは、ここにある食料品は町のみんなに配りたいんだって。
けっこうな量だからお手伝いを申し出たんだけど、アニスさんは「これは教会の問題ですから、ごめいわくをかけるわけにはいきません」の一点張り。もうここまでカンケーしちゃったんだから遠慮しなくていいのに。
夜遅くなったし、ビーちゃんとサっちゃんが待ってるから今日はおわりにしようってことで準備してたんだけど、オジサンがそのなかであるものを見つけたみたい。
「これは――まさか、これが伝説の」
「なになに?」
壁に向かってしゃべるオジサンをうしろから覗き込む。
だーれもいない。あるとすれば壁。あとそこから染み出した水だけ。
「アニスどの、これはウワサに聞く教会の地下にしか湧かないとされる聖水なのか!?」
「はい?」
敬虔な修道女はきょとんとした顔で質問を受け止めてる。で、オジサンのことばと壁を双方確認して吐息を漏らした。
「これは地下水が漏れでてるだけです」
「ちかすい?」
「わたくしもくわしくはわかりませんが、このあたりは土に還った水が好む土地なんだそうです」
「ふーん」
(なんか知らないけどけっこーな勢いで吹き出してるなぁ――はぇ?)
コップがある。
湧き出た水がそこに落ちてる。
中に水が入ってる。
ピコン。
ってアタマの中で音がした。
「ミズヲノミマスカ?」
「え?」
「ん? なんだグレース、どうかしたか?」
「いまオジサンしゃべった?」
「いや?」
(そーだよね、なんかおんなの人っぽい感じだったし。じゃあ)
「アニスさん?」
「いえ、わたくしはべつに」
えーおっかしいなあ。
ピコン。
また音がした。
「ミズヲノミマスカ?」
(マジでだれ!?)
質問からしてコップの中にある水をのめってことだよね?
壁から染み出してる水を?
(いやいやムリでしょー)
ぜったい汚いよー見るからにあやしーし。いやでもピコンっていってるからなーいやいやなんでピコンって鳴ったら水を飲まなきゃいけないのかわからんし。
「……」
どうするわたし?
ピコン。
またアタマの中で声がした。
「ミズヲノミマスカ?」
「…………………………うん」
わたしはコップを手に取った。
ちらりと覗き込む。
むしょくとーめー。においもとくになし。見た目はいたってふつーの水に見える。
「よし」
意を決してわたしはのんだ。
ピコン。
「HP、MPが全快しました」
「え」
なにそれ?
(えいちぴーとえむぴー? あははなにをそんなゲームじゃあるまいし――ん?)
なんだろう、なんかめっちゃ気分が良くなってきた!
(え、マジで?)
おめめパッチリ、気分上々。変身を使った後ってなんかぼや~っとするんだけどそれも全部スッキリしました。
「マジで?」
「グレース、どした?」
うしろからスプリットくんが声かけてきた。
「スプリットくんこれ飲んで」
「え?」
「いーからはやく」
わたしはみんなに飲ませた。
みんな気分がよくなったって言った。
「ほんとうにあったんだな」
オジサンはずっと壁を見てた。