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作者: 犬物語
斬るとふえます。焼くとおいしいです。
ネトネトはまっしろです
「っへへ」

 精神に大きなショックを受けた修道女を後ろにさがらせ、スプリットくんとオジサン、そしてわたしががよこ一列にならんだ。

 対峙するのは、いままで見たことがないようなウネウネした塊。暗い室内から飛び出そうなくらい巨大化したそれを見て、少年はうすら笑いをうかべて言った。

「おいオッサンどうすんだよ? こういうの・・・・・との戦い方なんておそわってねーぜ」

「知るか、私もこんなバケモノはじめてだ」

「どうする? 片っ端からぶった斬ってくか?」

「この数を相手に疲れるだけだが、どれ試してみるかッ!」

 眼前に迫る触手をかわし、カウンターで伸び切った触手をまっぷたつに叩いた。

 ビタッ。そんな音をたてて、落ちた触手はすぐにしなびて動かなくなる。じゃあつながってた方はというと、

「……こりゃあダメだな」

 断面から幾本もの細い触手が伸びた。うげぇ、白い粘液も吹き出してめっちゃグロテスクな見た目になってるぅ。

「切り落とした先は死ぬようだが、これじゃ攻撃すればするほど相手の手数が増える計算になるな」

「それって詰みじゃない?」

「おいグレースぼーっとするな! 次が来るぞ!」

「わっ!」

 増えて伸びた触手がブンブン回転して迫ってきた!

(わーヤダヤダ! なんかネットリしたのがふりかかってくるよお!)

「先端を潰しても埒が明かん! 本体を攻撃するぞ!」

「それはわかってるけどよ! このキメーのがジャマして近寄れねえ!」

「グレース! パワーアップした力でどうにかできないか!」

(いや急にそんなこと言われても!)

「むりー!」

 ウネウネがジャマして近寄れないよ!

 司教さんだったもの・・・・・はどんどんおっきくなって、なんだろう、なんていうの? あの、山とかで採れるまつたけみたいな形になってた。

 したからぽっちゃりしたような形で、あたまはカサみたいなもので覆われてる。

 その途中から何本もねちっこい液体が出てて、足元からイカとかタコとかクラゲみたいな触手が伸びている。

「スプリットくん! そんなに斬ったらまた増えちゃうよ!」

「しゃーねーだろ迫ってくるんだからよ! あーくそしつこい!」

「どうにか打開策は――む?」

 オジサンがあらぬ方向を向いた。その背中に数本の指が伸びていったけど、オジサンはそれに捕まることなく飛び退く。

 その先には壁があって、オジサンの頭の高さよりちょっと上に、赤々ときらめく光があった。

「部屋全体を覆っているにもかかわらず松明の近くは避けるか。なるほど、弱点はこれだな」

 言って、彼は先端に炎を灯した木を手に取った。

「グレース!」

「はい? って、わっ!」

 振り向いたときにはソレをぽーんって。

 驚きつつそれをキャッチする。危うく燃えてる部分に触れそうになっちゃったけどセーフ。

「そいつを使え!」

「つかえってどうやって!?」

「とにかく本体に松明の火をすりつけてやれ。スプリット! おまえは私とともにグレースの援護だ!」

「ちょぉ! なんでわたしがソンな役回りしなきゃいけないの!?」

「パワーアップしてんだから文句言うなよ!」

 オジサンと合流し、そしてふたりは走り出した。

「多少切りすぎても仕方ない。とにかく突破口を開くことに集中しろ!」

「おっけー!」

 本体に向け走り出す。そのうしろに続き、ふたりは剣を振り上げ触手の群れに突っ込んだ。

「止まるな走れ!」

 地面から忍び寄る一本をジャンプして避ける。そのまま右からの触手を斬りとばし、真正面から打ち込まれるものは剣の面で受け流していく。

 突破した先に網目状になったウネウネが待ち構えていたけど、それはオジサンがなんか見えない動きで細切れにしてた。

「いまだ、跳べグレース!」

「とう!」

 みじん切りになった触手が修復される前に、わたしはその壁を突破した。

(見えた!)

 やたら宝飾で彩られた赤い服。その切れ端にのっかるようにどでかい図体が構えてる。その中心の一箇所が、焼いたおもちのようにぷくぅと膨らんでた。

 まるで「ココが弱点ですよ」と言ってるみたいだ。

(んじゃソコで)

 並みいる触手たちをかいくぐり、わたしはその部分に松明の炎をつっこんだ。

 瞬間、悲鳴とも怒声ともいえない音が響く。それがきっかけだったように、あれだけあちこちに伸びまくってた触手たちがカタツムリのツノに触れたときみたいににゅぅっと縮んでいく。

 と思ったら、爆発した。

「って、うわあ!」

 触手がぜんぶぶっとんだ。

 粘液もとんだ。

 わたしはその中心にいた。

「ひいいいイ!」

(うわああああああ!)

 全身ベトベトだよぉ!

(うぇぇなんかイヤなニオイするぅ。すぐカピカピになっちゃったしきもちわるいぃ~)

「グレース!」

 触手がばくはつした後、オジサンがすぐ駆けつけてくれた。それはうれしーんだけど、だれかタオルもってません?

「うへぇ、なんか青くせぇな」

 あとから駆けつけた少年は、わたしと目を合わせてそんなことを言いやがりました。

 しかたないじゃん現場の中心にいたんだし。ってゆーかあおくさい言うな!

「ん? くんくん……なんかうまそうなニオイもするぞ?」

「わたしは食べ物じゃないもん! ――あれ」

 ほんとだ。

(なんかおいしそーな匂いが)

 なんだろう、これ。

 イカやき? たこやき? やきそばやさん!

(うーんそれともちがうような、なんかお祭りの屋台でよくありそーな香りがするぅ)

「おめーは青くせぇけどな」

「それにど言う!?」

 めっちゃシツレーなんですけど!

「司教様!」

 背後からそんな声が響いた。その方向へ振り向くと、部屋の中心でアニスさんがひざまずいて、そこに仰向けになった男のひとの肩に手をまわしていた。

 グウェンちゃんはその傍らに立って、だまってふたりの様子を見下ろす。司教としての服装を捨て去って、倒れた男の人は、貧相で慎ましやかな布の服を身にまとっていた。

「……ぁ」

「司教様、わたくしですアニスです! 目を覚ましてください!」

「ぁ………………に、す」

「司教様!」

 男の人が目を開いた。でもそこには光がなくて、覇気がなくて、そしてなにより、腹部に深々と刃が差し込まれていたそのきずあとがある。

「わたしは、なにを、して……いたのだ」

「お気を確かに。心を蝕む邪な気は消え失せました。ですから――」

 涙ながらに彼を抱き起こす。その姿を見て、そして自分の腹部の穴を見て、小麦粉や財宝が眠るこの部屋を見渡して。

「そうか」

 自らの死期を悟るように、ただしずかに目を閉じた。

「あにす、すま、な――」

 それきり、彼は動かなくなった。

「ッ ――神よ、この者に死後の安息を」

 彼女も目を閉じ、ただただ祈りを捧げる。そこに佇む黒髪の少女も、彼女にならって静かに祈りを捧げた。

「どうして、命を弄ぶような所業ができるでしょう?」

 彼女の掌に光が灯る。

「こたえなさい!」

 それは一迅の矢となり放たれる。その先には猫背の男が立っていた。

「チィッ!」

「まちなさい!!」

 彼女のことばは部屋に反響して、彼と同じように闇へと消えた。
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