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作者: 犬物語
ウワサの少女
教会関係者といったら回復魔法だよね
 教会はわりとフツーだった。

 砂で舗装された地面が続き、街の中心部に近づくごとに落ち着いた町並みへと変化していった。和洋折衷というか、なんかいろんな様式の建物が並んでるなかでこの周辺だけはしっかり(?)ヨーロッパ風の建物が並んでて、その先にある広場みたいなところに教会がそびえ立っている。

 イメージ通りってやつ。まっしろな建物、まっしろな階段、豪華絢爛というよりは落ち着いた感じで、周辺の通行人も気持ちゆったりとした足取りで動いている。

「うーむ、なんど見てもヒガシミョーの教会は美しいな」

 最年長者が感慨深くつぶやいた。

「有名なのか?」

「いや、教会はどの町でもけっこう有名なんだ。ここのヒガシミョーは純潔と質素の融合がすばらしい」

(きゅーに語りだしたよこのオジサン)

「じゃあほかの教会はどうなの?」

「いろいろあるぞ? 石造りや土を丸く固めたような見た目のものだったり、魔族と合同で作り上げたようなどデカい教会もあるそうだ」

「へー」

 あんま興味ないけど。でも土をまるく固めたってどんな?

「外見だけじゃなく中身だってすごいんだぞ? ある教会じゃあお線香の香りと脳の奥まで浸透するポク、ポク、チーンって音色がやみつきになるってウサワだ」

「ちょっとまって」

 それ宗教まちがえてない?

「あとは特定の方向が目印でわかるようになってて、そこに跪いてお祈りできるスペースがあったりする」

「混ざりすぎだろ……」

 となりで少年の声がした。

「もう馴れた。それよりもチャールズ殿。スプリットのキズの手当を優先しよう」

「おっとそうだったな」

 小さな噴水をすりぬけ、わたしたちは階段をのぼり教会の入口へと近づいていく。扉が近づくごとに視界が白一色になってって、なんていうかすっごいまぶしい。

 人のニ倍はありそうな扉に手をかけ、オジサンはそれをゆっくり開いていった。

 風光明媚な外観と違って、中身は質素というか思ったより何もなかったというか。

「うわぁ~」

 ひとことで広い。

 思わず口に出たことばが反響するくらいには広い。ところどころに支柱がある以外はまっさらな空間で、イメージしてたながいイスもなにもなく、いちばん向こうにエラい人が立ちそうなステージだけが設けられていた。

「ようこそおいでくださいました」

 若い女性の声。振り向くと、そこには黒い布で前進を覆った人が立ってた。しゅーきょーとかよくわかんないけど、なんか修道服? みたいな感じのやつだ。

「神に祈りを捧げに来られたのですか?」

 髪の毛もすっぽり布で覆ったその女性は、けど笑顔がすっごいキレイで、一目で「いいひと」だってわかった。

「すまんが、神への祈りは二十年前にごまんと捧げている」

「そうですか……それではどのようなご要件でしょう?」

「治療と人さがしだ」

「ひとさがし、ですか?」

 怪訝な顔をした女性は、それでもすぐに笑顔にかわりことばを紡いだ。

「それはわかりませんが、傷を癒やすのであればこちらへ」

 女性が腕を動かし側面の部屋を示す。

(……ぐぬぬ)

 その一挙一動がとても上品かつ丁寧すぎて、わたしは心の中でクリティカルダメージを受けている。くそ、これが淑女という存在なのか?

「旅のお方ですか?」

「いかにも。ただ数日間は滞在する予定だ。なにぶん仲間集めに時間がかかりそうなのでね」

「そうですか。わたくしはこの町に来てまだひと月ほどしか経ってませんが、多くの人が集まるのですぐに見つかると思いますよ」

「実は、すでに目星をつけているのだが……説得して良い返事をもらえるかどうか」

「みなさまに良き未来が訪れることを」

 まっくろな女性のうしろ姿を追いかけていく。修道服も地味でまっくろならこの教会の中身もけっこー地味だった。

 壁は石っぽかったんだけど叩いてみたら軽い音がした。どれも白くてキレイ。床は歩くとコツコツ音を反射する。なんかのタイルかな?

「あまりキョロキョロするなよ、田舎者って思われるぞ」

「田舎じゃないもん!」

「ふたりとも静かに」

 案内された一室は、質素であってもそれがどこか心地よい空間だった。シンプルな調度品に花瓶がひとつ。そこにはキレイなお花がはな開いてる。

「傷をみせてください」

「アナタが治療してくれるのか」

「これでも心得がありますので――これは失礼しました。わたくしの名前はアニスと申します」

「チャールズだ。彼らはみんな私の連れだ」

 省略されちゃったけど、ここは治療が先決だってことで黙っておきましょう。

「これは……」

「治せるか?」

「応急処置をしてくれた方に感謝しなければなりませんね。もし適切でなければわたくしはおろか、司教や専門治療師ですら難しかったでしょう」

「へー、あのばーさん凄腕だったんだな」

「スプリットくん自分のウデなんだからさ、もっと危機感もたなきゃダメじゃない?」

「治療を開始します。すこし気を楽にしてください」

 言って、アニスさんはゆっくり瞳をとじた。

 光が彼女の周囲に生まれる。とくに手の周辺がよく光ってて、時間を追うごとに腕の傷口が塞がっていくのが見えた。

「これは感服した。かなりのスキルの持ち主だ」

 オジサンのことばに、彼女はすこしだけ笑顔を魅せた。やがて光が収まっていき、跪く少女の瞳が開かれる。

「おわりました」

「おぉぉ――すげえ、ぜんっぜん痛くねぇ」

 その場でブンブン振り回す少年。完全回復だってかんじ。

「お役に立てて光栄です」

 心の底から幸せそうに、アニスさんはスプリットくんの回復を喜んでいた。

「すげーこれが治療魔法かはじめて見たぜ!」

「アタイは魔法自体がはじめてだよ」

「わたしもー。やっぱここ異世界なんだなーって」

「いせかい? ああ、ではアナタ方は異世界からの旅人なのですか」

「私以外はな。事情あって彼らを連れ旅をしてる。ところで、さきほどひと月前にこの町へ来たと言っていたが、もしやアナタがウワサに聞く異世界人なのか?」

「いいえ」

 はっきりと首を横にふる。

「わたしは異世界人ではありません。ですが――」

「失礼します。お水をお持ちしました」

 扉の奉公から子どもの声がする。おんなの子の声だ。

「ああ、ちょうどよかったですね。彼女の名前はグウェン。アナタ方とおなじ異世界からやってきた者です」

 そう言って、アニスさんは扉を開け入ってきた少女を示した。その少女は芯に強さを感じられる瞳でわたしたちを射抜く。

 多くの人の注目を受けてもなお、その少女は臆することなく佇んでいた。
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