異世界チートはほどほどに
無双ハーレムがトレンドのなか女性主人公の奮闘をご覧ください
テントの中には懐中電灯がない。たき火の光が外からうっすらだけ伝わってきて、乾いた風の音だけが空気を揺らしていた。
お日さまが隠れ、あたりはすっかり朱から闇に染まっている。それでもテントの中が光に包まれているのは、親切な魔法使いさんがピカピカの魔法を使ってくれたから。
しかもこの魔法すっごいんだよ? なんかテントのまんなかに吊り下げられてるガラス? みたいなのにぽんと入れただけでずぅーっと光つづけてくれてるの。
魔法使いさんがいなくなった後もピカピカしてる。それをボーッと眺めてた時だった
「さて、まずいことになった」
オジサンのため息、そして心底疲れたかのような声色が響きわたった。
「集落を突如襲ったマモノの群れ。神聖なエルフの森近くまで侵入され、国内のあちこちでも同様の事件が発生してるらしい」
さっきまでオトモダチと永遠話してたっぽい。で、それまでゲンキだったのにビフォーアフターでこの様子である。
「王都へ向かうことになった。私だけでなくおまえたちもだ」
自信なさ気なオジサンの視線。まさか、わたしがイヤイヤ言うなんて思ってたりするの? っていうか逆にドキワクなんですが。
だってオジサンこのままあの場所に戻っちゃうんじゃないかと思ったんだもの。でもちがうんだよね? いっしょにあっちこっちおさんぽしてくれるってことだよね?
「もちろん行くよ? 王都ってどんなとこだろね? 楽しみだね!」
「おいバカ、そうじゃねえって」
スプリットくんがわたしにワルグチを言って、ビーちゃんが凛とした声で続けた。
「拒否権はない、ということか?」
「いや、ある。あるが、できれば飲んでほしい」
「そうか。まあこちらとしては問題ないが」
「え、なになんのはなし?」
はなしのテーマが見えないんですけど? だけどみんな以心伝心してるんですけど? っていうかわたしだけ置いてけぼり?
「はぁ……まーたメンドクセーことになっちまったな。これがおっちゃんが言ってた"異世界人に関する王国法"ってヤツか」
「おうこくほう?」
「そうか、まだ説明してなかったな」
オジサンがこちらに向き直った。そのせいで光の加減がかわり、幾分オジサンの顔が見えにくくなる。
「この国にはな、異世界人は国の所有物になるって法律があるんだ」
「しょゆーぶつ!」
わたしモノじゃないんですけど!?
「はるか昔の法律、よそモノだった勇者が国内で自由にするためあえてそのような言い回しとなったらしいが詳しいことはわからん。例によって国の専門家に聞くことだ」
「さっきの話だけどさ、いちおー拒否権はあるんだろ?」
「ある。が、あるとも言い切れん」
「ンだよハッキリしねーな」
スプリットくんが不満を態度に示す。っていうかふつーにぶつけた。
「元来拒否権はないらしい。が、幾分古すぎる法だからな……まあ、法律ってよりしきたりみたいなもんだと思えばいい」
「そんな古い法律ならさっさとなくせばいーじゃん。あったまワリーでやんの」
ふてくされる少年にをおねーさんがなだめる。
「そういうなスプリット。私たちのようなどこの馬の骨ともわからぬ存在を野放しにはできない国の事情も理解できる」
「はいはい。で、どうする? 明日すぐ出発するのか?」
「できればそうしたい。明日早くなるが平気か?」
「だいじょーぶ! わたし朝のが得意だよ!」
「それはよかった何にしても明日話そう。今日はさっさと寝てくれ……はぁ……現役引退を撤回するやもしれんなぁ」
疲れ切った表情を見せ、オジサンはテントの外へと消えていった。
お宿はケガ人の看病に使ってる。だから寝るところはお宿のニ階にある物置小屋になったのです。
「なにしてんだおまえ」
でね、はしごに手をかけたところ、人を小バカにしたようなヤロウにそう言われたんですよ。
「グレース、足が痛いのか?」
「ビーちゃんまでそんな顔する!?」
泣くよ?
「ふつーに跳べばいいじゃん」
「いやだってニ階だよ?」
「はぁ?」
あ! まーたそうやって人を小バカにしたような顔する! もうは? って感じなんだからね!
「じゃあスプリットくんはどうすんのさ!」
「どうするって、ふつーにこうするだろ」
で、すこし屈んだ。
「えっ」
ジャンプした。
ふつーに届いた。
「いやだって五メートルはあるよ?」
「そうだな」
続けてビーちゃんが屈伸からのジャンプ。
「えっ」
「え、じゃなくておまえもさっさとしろよ」
「でもどーやって」
「いやいや、おまえもオッサンとの訓練とかマモノとの戦いでふつーにやってただろうが」
「……そうだったっけ?」
覚えてないや。んーでもでもスプリットくんもビーちゃんもひとっ飛びだったしわたしだってできる、のかな?
「……よし」
かくご、かんりょう。
「んーぐぐぐ、とう!」
「あ、バカ」
一瞬スプリットくんの罵声が聞こえた。言い返そうと思ったんだけど、次の瞬間には建物の屋根を見下ろしていた。
(……なるほど)
これはアレだわ。変身ヒロインが初っ端体験するヤツ。自分のチカラを制御できなくてついついヤりすぎちゃうわらば!
「…………着地しろよ、ちゃんと」
「はい」
じめんってイタイんだね。
「うぅぅ。っていうか人間にこんな動きできたっけ?」
それとも異世界ボーナス? 転生者は基本ステータスおたかめですよ的な?
(じゃあさいしょからチート無双でいいじゃん!)
わたしは鼻血を抑えつつはしごに手をかけた。
お日さまが隠れ、あたりはすっかり朱から闇に染まっている。それでもテントの中が光に包まれているのは、親切な魔法使いさんがピカピカの魔法を使ってくれたから。
しかもこの魔法すっごいんだよ? なんかテントのまんなかに吊り下げられてるガラス? みたいなのにぽんと入れただけでずぅーっと光つづけてくれてるの。
魔法使いさんがいなくなった後もピカピカしてる。それをボーッと眺めてた時だった
「さて、まずいことになった」
オジサンのため息、そして心底疲れたかのような声色が響きわたった。
「集落を突如襲ったマモノの群れ。神聖なエルフの森近くまで侵入され、国内のあちこちでも同様の事件が発生してるらしい」
さっきまでオトモダチと永遠話してたっぽい。で、それまでゲンキだったのにビフォーアフターでこの様子である。
「王都へ向かうことになった。私だけでなくおまえたちもだ」
自信なさ気なオジサンの視線。まさか、わたしがイヤイヤ言うなんて思ってたりするの? っていうか逆にドキワクなんですが。
だってオジサンこのままあの場所に戻っちゃうんじゃないかと思ったんだもの。でもちがうんだよね? いっしょにあっちこっちおさんぽしてくれるってことだよね?
「もちろん行くよ? 王都ってどんなとこだろね? 楽しみだね!」
「おいバカ、そうじゃねえって」
スプリットくんがわたしにワルグチを言って、ビーちゃんが凛とした声で続けた。
「拒否権はない、ということか?」
「いや、ある。あるが、できれば飲んでほしい」
「そうか。まあこちらとしては問題ないが」
「え、なになんのはなし?」
はなしのテーマが見えないんですけど? だけどみんな以心伝心してるんですけど? っていうかわたしだけ置いてけぼり?
「はぁ……まーたメンドクセーことになっちまったな。これがおっちゃんが言ってた"異世界人に関する王国法"ってヤツか」
「おうこくほう?」
「そうか、まだ説明してなかったな」
オジサンがこちらに向き直った。そのせいで光の加減がかわり、幾分オジサンの顔が見えにくくなる。
「この国にはな、異世界人は国の所有物になるって法律があるんだ」
「しょゆーぶつ!」
わたしモノじゃないんですけど!?
「はるか昔の法律、よそモノだった勇者が国内で自由にするためあえてそのような言い回しとなったらしいが詳しいことはわからん。例によって国の専門家に聞くことだ」
「さっきの話だけどさ、いちおー拒否権はあるんだろ?」
「ある。が、あるとも言い切れん」
「ンだよハッキリしねーな」
スプリットくんが不満を態度に示す。っていうかふつーにぶつけた。
「元来拒否権はないらしい。が、幾分古すぎる法だからな……まあ、法律ってよりしきたりみたいなもんだと思えばいい」
「そんな古い法律ならさっさとなくせばいーじゃん。あったまワリーでやんの」
ふてくされる少年にをおねーさんがなだめる。
「そういうなスプリット。私たちのようなどこの馬の骨ともわからぬ存在を野放しにはできない国の事情も理解できる」
「はいはい。で、どうする? 明日すぐ出発するのか?」
「できればそうしたい。明日早くなるが平気か?」
「だいじょーぶ! わたし朝のが得意だよ!」
「それはよかった何にしても明日話そう。今日はさっさと寝てくれ……はぁ……現役引退を撤回するやもしれんなぁ」
疲れ切った表情を見せ、オジサンはテントの外へと消えていった。
お宿はケガ人の看病に使ってる。だから寝るところはお宿のニ階にある物置小屋になったのです。
「なにしてんだおまえ」
でね、はしごに手をかけたところ、人を小バカにしたようなヤロウにそう言われたんですよ。
「グレース、足が痛いのか?」
「ビーちゃんまでそんな顔する!?」
泣くよ?
「ふつーに跳べばいいじゃん」
「いやだってニ階だよ?」
「はぁ?」
あ! まーたそうやって人を小バカにしたような顔する! もうは? って感じなんだからね!
「じゃあスプリットくんはどうすんのさ!」
「どうするって、ふつーにこうするだろ」
で、すこし屈んだ。
「えっ」
ジャンプした。
ふつーに届いた。
「いやだって五メートルはあるよ?」
「そうだな」
続けてビーちゃんが屈伸からのジャンプ。
「えっ」
「え、じゃなくておまえもさっさとしろよ」
「でもどーやって」
「いやいや、おまえもオッサンとの訓練とかマモノとの戦いでふつーにやってただろうが」
「……そうだったっけ?」
覚えてないや。んーでもでもスプリットくんもビーちゃんもひとっ飛びだったしわたしだってできる、のかな?
「……よし」
かくご、かんりょう。
「んーぐぐぐ、とう!」
「あ、バカ」
一瞬スプリットくんの罵声が聞こえた。言い返そうと思ったんだけど、次の瞬間には建物の屋根を見下ろしていた。
(……なるほど)
これはアレだわ。変身ヒロインが初っ端体験するヤツ。自分のチカラを制御できなくてついついヤりすぎちゃうわらば!
「…………着地しろよ、ちゃんと」
「はい」
じめんってイタイんだね。
「うぅぅ。っていうか人間にこんな動きできたっけ?」
それとも異世界ボーナス? 転生者は基本ステータスおたかめですよ的な?
(じゃあさいしょからチート無双でいいじゃん!)
わたしは鼻血を抑えつつはしごに手をかけた。