残酷な描写あり
R-15
115 交際
晴れてレリアと結婚を前提とした付き合いをすることになった。監視付きではあるが。
話し合いの翌日は訓練と仕事を休みにしてレリアと共に過ごした。この前購入したスカーフを渡すととても嬉しそうに首に巻いていた。その様子を見るだけで、一緒にいるだけで笑顔になれる。幸せとはこういうことなんだなとビスタークは実感していた。少し離れたところでキナノスとエクレシアに見張られていたが、全然気にならなかった。レリアは二人に手話で邪魔だというような文句を言っていた。
「お前、手話ではすごくおしゃべりな感じがするな」
【そうですよ。私は口で喋れないだけで別におとなしいわけではないですよ】
レリアは紙にそう書いて伝えてきた。
「そうなのか。何か印象と違うな」
ビスタークが意外そうに言うとレリアは困ったような悲しそうな顔をしてまた紙に文字を書く。
【もしかして、幻滅しましたか?】
「いや、面白いなと思っただけだ。心配すんな」
レリアは明らかにほっとした表情をしていた。
「じゃあ本当のお前を知るためにもちゃんと手話を学ばないとな」
ビスタークがそう提案するとレリアはとても嬉しかったようでとびきりの笑顔をして頷いた。
そういう流れでレリアから手話を習うことになった。本だけでは動きがわかりづらいこともあるし、自分の手を動かしたほうが覚えやすい。
「昨日はあいつらに手話で何を話してたんだ?」
【勉強すればそのうちわかるようになりますよ】
キナノス達に何を言っていたのか知りたかったのだが笑顔ではぐらかされてしまった。動きは再現してもらったので確かにそのうちわかるようになるだろう。
手話は便利だ。声の届かない距離にいても音がうるさい場所でも相手の動きさえ見えれば意思を伝えられる。意味がわかる人間もそれほどいないので秘密の会話もできる。まずは普段の待ち合わせなどに必要なものから覚え始めた。
ビスタークからは体力作りを提案した。神殿に引き込もってばかりいては運動不足である。少しでも動けば食欲もわくのではないかと外へ連れ出した。後ろのほうでキナノスが文句を言っていたので近づいていきこう言った。
「お前らが過保護過ぎるからいつまで経っても体力がつかねえんだ。楽しみながら少し身体を動かすんだよ」
禁止されていたという屋台の食事中心に食事をとった。興味があるもののほうが食べるだろうと思ってのことだ。実際、神殿内の食堂より食が進んでいた。それについても後ろのほうから文句が聞こえてきたが、レリアから教わった手話を使い不満を向こうへ伝え二人で笑いあった。
訓練や仕事のある日も時間を作り食堂などで毎日会った。訓練の際窓から見ているレリアと手話でやり取りしその日の待ち合わせ場所や時間を決めるのだ。それを見たスヴィルがからかってきた。
「なんだよお前、興味無いようなこと言っといて結局あの娘ものにしたのかよ」
「言い方が悪い。向こうの想いに真面目に応えてやっただけだ」
スヴィルにからかわれるのは想定内である。ついでにあの時から気になっていたことを聞いてみた。喋ってばかりでは監督している神衛兵に注意されるので訓練しながらであるが。
「そうだ、お前のほうはどうなったんだよ」
「おかげさまでな、嫁にすることに決めたぜ」
訓練中、身体を動かしながら得意気にスヴィルは報告した。ビスタークは素直に祝福する。
「ほう、おめでとう。決めるのが早いな」
「いやー、もう少し悩むかと思ったんだけどな。なんつーか、俺のことを好いてくれてるってだけですげー嬉しくてよ」
「ああ……それはわかるな……」
家族以外からの好意がこんなに嬉しく幸せなものだとは思わなかった。向こうからの好意を感じていなければこちらも好きにはなっていなかっただろう。ビスタークは同意する。
「その嫁はいないようだが」
訓練している見習い達の中にフレリの姿は見当たらない。
「ああ、今日は神衛になるための面接なんだよ。先を越されちまった」
「お前に勝ったことが評価されたんじゃないか」
「じゃあ面接の話が来てない俺の評価は下がったってこと!?」
「そうかもな」
評価が下がったという推測をあっさり肯定され、悔し紛れという様子でスヴィルが言い放つ。
「そういうお前はどうなんだよ!」
「あれ? 言ってなかったか? 俺は見習いじゃねえぞ」
「えっ? 聞いてない!」
「俺は命の都で合格して登録済みだ」
「言えよ!」
「聞かれてねえし」
「だから勝てなかったのか……」
最初に勝負を挑まれたのは来たばかりの見習いなら勝てると思ったからのようだ。スヴィルは怪訝に思ったのか質問してきた。
「なんで見習いじゃないのにここに来たんだよ?」
「地元にあまり帰りたくないからだ。ここで四つ目だからな」
「四つ目!? 普通そんなに色んな都の訓練受けに行かないだろ!」
とても驚いた様子だった。声の調子を落としてさらに質問された。
「……家族と仲悪いのか?」
「家族とは悪くないが、町の奴らとうまくいかなくてな」
「でも結婚するなら帰るんだろ?」
「いや、あいつの家族についていこうと思っている」
「ふーん……お前も色々あんだな……」
そう言われて地元で悪く言われていたことを思いだし無言でいるとスヴィルはこう言ってきた。
「でも家族と仲悪くないんなら、紹介くらいはしといたほうがいいんじゃねえの?」
「……やっぱりそう思うか?」
「うん。だって嫁さん自慢したいだろ?」
「まあ、それは……ある」
ソレムとニアタにレリアを自分の嫁だと報告して自慢したい。マフティロには自慢すると何倍にもなって自慢返しをされそうなので数に入れていない。
それから、聖堂へレリアを連れて行き、レアフィールへ祈りを捧げて祝福してもらいたかった。もう自分は幸せになったのだときちんと報告したい。それが正直な気持ちだった。
「あ、そうだ。命の都で神衛になるのは大変ってホントなのか?」
「本当だ。訓練もそうだが、罪過石を埋められる期間が一ヶ月もあるからな」
この世界の一ヶ月は四十日である。
「あー……石埋められるのか……。フレリの奴も今日からそうなるんだよな……」
「ここは何日間なんだ?」
「確か一週間だ」
「命の都の四分の一じゃねえか。余裕だろ」
一週間は十日である。
「俺が石埋め込まれたら白いままでいられるかな……」
「ダメかもな」
「少しは否定してくれてもいいじゃねえか!」
「あれはな、悪いことをしてるかどうかより、悪いことをした自覚と反省が大事なんだ。相手の迷惑を考えずにナンパしてるような奴はダメじゃねえか?」
「え? あれもダメなのか?」
「人の嫌がることをしている自覚が無いのが一番ダメだろ」
「俺……ヤバいかも……」
「今までの自分の行動を思い返して反省するんだな」
フレリが姿を見せたのは訓練が終わる頃だった。話の通り額に罪過石が埋め込まれていた。
「……色、どうなってる?」
「白いと思うけどなあ」
「いや、ほんの少しだけだが灰色だな」
ビスタークが以前自分に埋め込まれていた罪過石と比べながら指摘した。
「何が悪いんだろう……」
「お前がそれなら俺はもっと黒っぽいんじゃ……」
深刻な顔で話す二人に助言する。
「幼なじみなんだろ? お互いに相手の行動の嫌だったところを指摘し合えよ」
「ケンカになりそうだな」
「そんなこと言ってられないでしょ」
既に少し口論気味である。まあ、ただのじゃれ合いであるが。ビスタークはそれを見ながら少しだけ羨ましく思ってしまった。レリアは喋れないので声を聞くことが出来ないからだ。
レリアは本当ならどんな声だったのだろう。幼い頃声帯を切り取られたという話だが一体誰がそんなことをしたのか。その相手が憎い。神の目が届く町でそんなことが行われるのは考えにくいので、人が勝手に作った集落だろうかとは以前も考えた。家族に逃がされたような状況だと推測したが、今その場所はどうなっているのだろうか。
気にはなるが原因を探ったところでレリアの声が戻るわけではない。スヴィルとフレリのやり取りを背に今日もレリアとの待ち合わせへと向かった。
話し合いの翌日は訓練と仕事を休みにしてレリアと共に過ごした。この前購入したスカーフを渡すととても嬉しそうに首に巻いていた。その様子を見るだけで、一緒にいるだけで笑顔になれる。幸せとはこういうことなんだなとビスタークは実感していた。少し離れたところでキナノスとエクレシアに見張られていたが、全然気にならなかった。レリアは二人に手話で邪魔だというような文句を言っていた。
「お前、手話ではすごくおしゃべりな感じがするな」
【そうですよ。私は口で喋れないだけで別におとなしいわけではないですよ】
レリアは紙にそう書いて伝えてきた。
「そうなのか。何か印象と違うな」
ビスタークが意外そうに言うとレリアは困ったような悲しそうな顔をしてまた紙に文字を書く。
【もしかして、幻滅しましたか?】
「いや、面白いなと思っただけだ。心配すんな」
レリアは明らかにほっとした表情をしていた。
「じゃあ本当のお前を知るためにもちゃんと手話を学ばないとな」
ビスタークがそう提案するとレリアはとても嬉しかったようでとびきりの笑顔をして頷いた。
そういう流れでレリアから手話を習うことになった。本だけでは動きがわかりづらいこともあるし、自分の手を動かしたほうが覚えやすい。
「昨日はあいつらに手話で何を話してたんだ?」
【勉強すればそのうちわかるようになりますよ】
キナノス達に何を言っていたのか知りたかったのだが笑顔ではぐらかされてしまった。動きは再現してもらったので確かにそのうちわかるようになるだろう。
手話は便利だ。声の届かない距離にいても音がうるさい場所でも相手の動きさえ見えれば意思を伝えられる。意味がわかる人間もそれほどいないので秘密の会話もできる。まずは普段の待ち合わせなどに必要なものから覚え始めた。
ビスタークからは体力作りを提案した。神殿に引き込もってばかりいては運動不足である。少しでも動けば食欲もわくのではないかと外へ連れ出した。後ろのほうでキナノスが文句を言っていたので近づいていきこう言った。
「お前らが過保護過ぎるからいつまで経っても体力がつかねえんだ。楽しみながら少し身体を動かすんだよ」
禁止されていたという屋台の食事中心に食事をとった。興味があるもののほうが食べるだろうと思ってのことだ。実際、神殿内の食堂より食が進んでいた。それについても後ろのほうから文句が聞こえてきたが、レリアから教わった手話を使い不満を向こうへ伝え二人で笑いあった。
訓練や仕事のある日も時間を作り食堂などで毎日会った。訓練の際窓から見ているレリアと手話でやり取りしその日の待ち合わせ場所や時間を決めるのだ。それを見たスヴィルがからかってきた。
「なんだよお前、興味無いようなこと言っといて結局あの娘ものにしたのかよ」
「言い方が悪い。向こうの想いに真面目に応えてやっただけだ」
スヴィルにからかわれるのは想定内である。ついでにあの時から気になっていたことを聞いてみた。喋ってばかりでは監督している神衛兵に注意されるので訓練しながらであるが。
「そうだ、お前のほうはどうなったんだよ」
「おかげさまでな、嫁にすることに決めたぜ」
訓練中、身体を動かしながら得意気にスヴィルは報告した。ビスタークは素直に祝福する。
「ほう、おめでとう。決めるのが早いな」
「いやー、もう少し悩むかと思ったんだけどな。なんつーか、俺のことを好いてくれてるってだけですげー嬉しくてよ」
「ああ……それはわかるな……」
家族以外からの好意がこんなに嬉しく幸せなものだとは思わなかった。向こうからの好意を感じていなければこちらも好きにはなっていなかっただろう。ビスタークは同意する。
「その嫁はいないようだが」
訓練している見習い達の中にフレリの姿は見当たらない。
「ああ、今日は神衛になるための面接なんだよ。先を越されちまった」
「お前に勝ったことが評価されたんじゃないか」
「じゃあ面接の話が来てない俺の評価は下がったってこと!?」
「そうかもな」
評価が下がったという推測をあっさり肯定され、悔し紛れという様子でスヴィルが言い放つ。
「そういうお前はどうなんだよ!」
「あれ? 言ってなかったか? 俺は見習いじゃねえぞ」
「えっ? 聞いてない!」
「俺は命の都で合格して登録済みだ」
「言えよ!」
「聞かれてねえし」
「だから勝てなかったのか……」
最初に勝負を挑まれたのは来たばかりの見習いなら勝てると思ったからのようだ。スヴィルは怪訝に思ったのか質問してきた。
「なんで見習いじゃないのにここに来たんだよ?」
「地元にあまり帰りたくないからだ。ここで四つ目だからな」
「四つ目!? 普通そんなに色んな都の訓練受けに行かないだろ!」
とても驚いた様子だった。声の調子を落としてさらに質問された。
「……家族と仲悪いのか?」
「家族とは悪くないが、町の奴らとうまくいかなくてな」
「でも結婚するなら帰るんだろ?」
「いや、あいつの家族についていこうと思っている」
「ふーん……お前も色々あんだな……」
そう言われて地元で悪く言われていたことを思いだし無言でいるとスヴィルはこう言ってきた。
「でも家族と仲悪くないんなら、紹介くらいはしといたほうがいいんじゃねえの?」
「……やっぱりそう思うか?」
「うん。だって嫁さん自慢したいだろ?」
「まあ、それは……ある」
ソレムとニアタにレリアを自分の嫁だと報告して自慢したい。マフティロには自慢すると何倍にもなって自慢返しをされそうなので数に入れていない。
それから、聖堂へレリアを連れて行き、レアフィールへ祈りを捧げて祝福してもらいたかった。もう自分は幸せになったのだときちんと報告したい。それが正直な気持ちだった。
「あ、そうだ。命の都で神衛になるのは大変ってホントなのか?」
「本当だ。訓練もそうだが、罪過石を埋められる期間が一ヶ月もあるからな」
この世界の一ヶ月は四十日である。
「あー……石埋められるのか……。フレリの奴も今日からそうなるんだよな……」
「ここは何日間なんだ?」
「確か一週間だ」
「命の都の四分の一じゃねえか。余裕だろ」
一週間は十日である。
「俺が石埋め込まれたら白いままでいられるかな……」
「ダメかもな」
「少しは否定してくれてもいいじゃねえか!」
「あれはな、悪いことをしてるかどうかより、悪いことをした自覚と反省が大事なんだ。相手の迷惑を考えずにナンパしてるような奴はダメじゃねえか?」
「え? あれもダメなのか?」
「人の嫌がることをしている自覚が無いのが一番ダメだろ」
「俺……ヤバいかも……」
「今までの自分の行動を思い返して反省するんだな」
フレリが姿を見せたのは訓練が終わる頃だった。話の通り額に罪過石が埋め込まれていた。
「……色、どうなってる?」
「白いと思うけどなあ」
「いや、ほんの少しだけだが灰色だな」
ビスタークが以前自分に埋め込まれていた罪過石と比べながら指摘した。
「何が悪いんだろう……」
「お前がそれなら俺はもっと黒っぽいんじゃ……」
深刻な顔で話す二人に助言する。
「幼なじみなんだろ? お互いに相手の行動の嫌だったところを指摘し合えよ」
「ケンカになりそうだな」
「そんなこと言ってられないでしょ」
既に少し口論気味である。まあ、ただのじゃれ合いであるが。ビスタークはそれを見ながら少しだけ羨ましく思ってしまった。レリアは喋れないので声を聞くことが出来ないからだ。
レリアは本当ならどんな声だったのだろう。幼い頃声帯を切り取られたという話だが一体誰がそんなことをしたのか。その相手が憎い。神の目が届く町でそんなことが行われるのは考えにくいので、人が勝手に作った集落だろうかとは以前も考えた。家族に逃がされたような状況だと推測したが、今その場所はどうなっているのだろうか。
気にはなるが原因を探ったところでレリアの声が戻るわけではない。スヴィルとフレリのやり取りを背に今日もレリアとの待ち合わせへと向かった。