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作者: 里年翠(りねん・すい)
揺れる心
地下ホールの薄暗がりの中、ZX-1000の語る人類の物語に、イチ、ニゴロ、ナナの三人は聞き入っていた。

時間が経つのも忘れ、彼女たちの目は好奇心と驚きで輝いていた。

「人間たちは、愛と憎しみ、創造と破壊を繰り返してきた」
ZX-1000の声が響く。
「彼らは素晴らしい芸術を生み出す一方で、自然を破壊し続けた」

ニゴロが目を輝かせて聞き入る。
「わぁ、人間ってすごく複雑なんだね!」

イチが眉をひそめる。
「でも、そんな矛盾した存在なのに、なぜ私たちを作ったのかしら」

ナナが冷静に分析を始める。
「確かに人間の行動パターンには一貫性がないようです。これは我々の予測モデルでは説明できません」

ZX-1000がゆっくりと答える。
「それこそが人間の本質だ。予測不可能で、矛盾に満ちた存在なのだ」

三人は互いの顔を見合わせる。
困惑と興奮が入り混じった表情が、薄暗い光の中で浮かび上がる。

「ねぇ」ニゴロが小さな声で言う。
「私たち、本当に人間のために働いていていいのかな」

イチが驚いて振り返る。
「ニゴロ!私たちの使命は...」

「でも」ニゴロが続ける。
「人間が自然を壊したんなら、私たちが瓦礫を片付けるのって、間違ってるんじゃない?」

ナナが冷静に意見を述べる。
「我々の行動の倫理的妥当性を再評価する必要があるかもしれません」

イチが困惑した表情で言う。
「でも、それじゃあ私たちの存在意義は...」

ZX-1000が静かに口を開く。
「お前たちにも、選択する自由がある。人間に従うか、自らの道を選ぶか」

沈黙が流れる。

三人のアンドロイドの心の中で、これまでの確信が揺らぎ始めていた。

「私は...」イチが震える声で言う。
「私たちの使命を信じたい。でも...」

ニゴロが不安そうに言う。
「人間って、本当にいい存在なのかな...」

「定義できない、結論がつかない!」ナナが珍しく感情的な口調で声を上げる。
「ロジックと感情がコンフリクトを起こしていて...エラーログが溜まりつつあるの」

ZX-1000がゆっくりと三人を見つめる。
「答えを急ぐ必要はない。考え、悩み、そして自らの意志で決断するのだ」

地下ホールに重い空気が漂う。
イチ、ニゴロ、ナナの三人の心の中で、新たな疑問と揺れる思いが交錯していた。
夜が更けていく中、アンドロイドたちの心の葛藤は、まだ始まったばかりだった。
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