▼詳細検索を開く
作者: 里年翠(りねん・すい)
映像の記録
夕暮れ時、図書館の片隅にある小さな映写室。
イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、埃まみれの古い映写機を囲んでいた。

「これって何かな?」ニゴロが首を傾げながら言った。
「なんだか、カメラみたいだけど…」

イチは懐かしそうに微笑んだ。
「ああ、これは映写機というのよ。昔の人たちが映像を大きなスクリーンに映し出すのに使っていたの」

ナナはすでに分析を始めていた。
「20世紀中期の機器です。驚くべきことに、内部機構はまだ機能しているようです。使用可能な確率は78.3%です」

ニゴロは目を輝かせた。
「へぇ!じゃあ、動くの?どんな映像が見られるんだろう!わくわくするね!」

イチは少し心配そうに言った。
「でも、気をつけないと。古い機械だから、壊れやすいかもしれないわ」

ナナが冷静に提案した。
「私が操作を担当します。最適な設定を計算し、機器への負担を最小限に抑えられます」

「やったー!」ニゴロが飛び跳ねて喜んだ。
「早く見たいな!」

ナナが慎重に映写機を操作し始めると、突然、壁に映像が浮かび上がった。

「「「わぁ…」」」
三体が同時に息を呑む。

そこには、彼女たちが知らない世界が広がっていた。
緑豊かな公園、賑わう街並み、笑顔で歩く人々。

ニゴロは目を丸くして叫んだ。
「すごい!こんなにきれいな世界だったんだ!」

イチは目に涙を浮かべながら言った。
「そうね…私たちが知らなかった、人間たちの日常が映っているわ」

ナナも珍しく感情的な口調で言った。
「興味深い…これが、我々が復元すべき世界の姿なのでしょうか」

映像は続き、季節の移り変わり、人々の生活、そして…突然の災害の兆し。

ニゴロが小さな声で言った。
「ねえ…この後、どうなっちゃったんだろう」

イチは優しく答えた。
「わからないわ。でも、この映像を残してくれた人たちのおかげで、私たちは過去の美しさを知ることができたの」

ナナが静かに付け加えた。
「そして、我々の使命がより明確になりました。この映像に映る世界を、再び実現する。それが私たちの目標です」

三体は黙ってスクリーンを見つめ続けた。
そこには、遠い過去の人々の日常が、光となって映し出されていた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「さあ、みんな。この映像をしっかり心に刻みましょう。私たちが目指すべき未来の姿が、ここにあるのよ」

ニゴロは真剣な表情で頷いた。
「うん。僕、絶対にあんな素敵な世界を作り出すよ!」

ナナも決意を込めて言った。
「この映像データを完全に保存します。そして、その実現に向けた最適な方法を算出します」

夕暮れの柔らかな光が、窓から差し込み、スクリーンに映る過去の世界と三体のアンドロイドを優しく包み込む。
彼女たちの心に、新たな希望と決意が芽生えた瞬間だった。過去の映像を胸に刻み、未来へと歩み出す。
Twitter