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作者: 里年翠(りねん・すい)
デジタルの遺産
梅雨の晴れ間、図書館の奥まった一室で、イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、埃にまみれた大きな箱のような物体を囲んでいた。

「これって、何かな?」ニゴロが首を傾げながら言った。
「なんだか、生き物みたいな形してるけど…」

イチは懐かしそうに微笑んだ。
「まあ、これは古いタイプのコンピューターよ。昔の人たちが情報を記録したり、計算したりするのに使っていたのね」

ナナはすでにスキャンを開始していた。
「20世紀末期のモデルです。驚くべきことに、内部の回路はまだ致命的な損傷を受けていません。データ復元の可能性があります」

ニゴロは目を輝かせた。
「へぇ!すごいね!じゃあ、中身見られるの?どんな秘密が隠れてるんだろう!」

イチは優しく諭すように言った。
「そうね。でも、むやみに触ると壊れてしまうかもしれないわ。慎重に扱わなくちゃ」

ナナが冷静に提案した。
「私のシステムを介して接続を試みます。ただし、成功率は43.2%。古いシステムとの互換性の問題が…」

「よーし、やってみよう!」ニゴロの声にナナの説明が遮られた。
「きっと面白いものが見つかるよ!」

イチは心配そうに言った。
「でも、ナナ。危険はないの?」

ナナは少し考え込んでから答えた。
「ファイアウォールは堅牢です。サンドボックスを利用しますので、悪意あるウイルスがシステムに害を及ぼす可能性は極めて低いです」

三体は顔を見合わせ、小さく頷いた。
ナナがケーブルを取り出し、古いコンピューターと自身を接続する。

突然、古いモニターがちらつき始めた。

「わぁ!」ニゴロが歓声を上げた。
「動いた!動いたよ!」

画面には、古い文字が次々と表示されていく。

イチは目を細めて読み始めた。
「これは…日記みたいね。災害が起きる直前の記録よ」

ナナが分析を始める。
「興味深いデータです。当時の人々の生活や、災害への準備状況が詳細に記されています」

ニゴロは真剣な表情で言った。
「ねえ、この人たち…助かったのかな」

イチは優しく微笑んだ。
「わからないわ。でも、この記録を残してくれたおかげで、私たちは過去を知ることができたの。それだけでも、とても価値があるわ」

ナナも珍しく感情的な口調で言った。
「確かに。このデータは、我々の使命をより明確にしてくれます。過去を知り、未来を守る。それが私たちの役目なのかもしれません」

三体は静かに画面を見つめ続けた。
そこには、遠い過去の人々の思いが、デジタルの光となって輝いていた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「さあ、みんな。この記録をしっかり保存しましょう。きっと、未来を作るためのヒントが隠れているはずよ」

ニゴロは元気よく頷いた。
「うん!僕たち、過去と未来をつなぐ橋みたいなものかもね!」

ナナも決意を込めて言った。
「全データを完全にバックアップします。一片の情報も失わないよう、細心の注意を払います」

梅雨の晴れ間の柔らかな陽光が、窓から差し込み、古いコンピューターと三体のアンドロイドを優しく包み込む。
彼女たちの新たな使命が、ここに生まれた瞬間だった。
過去のデジタルの遺産を受け継ぎ、未来へとつなぐ。
その重責を、三体は静かに、しかし確かに背負ったのだ。
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