第11話:革命軍への勧誘
革命軍結成のきっかけは、数十年前。
当時の帝国は腐敗に塗れ、地域という地域は貧困に喘ぎ、毎年数多くの者達が飢えによって死んで行った。それに対して帝都は地域から重税によって巻き上げた大金と、腐敗によって積み上げた大金によって繁栄を極めていた。それによる不満と我慢は、長い時を経て限界を超えていた。
武器を取らねば、戦わなければ生き残る事が出来ない。生き残るには、帝国と戦わなければならない。
革命軍結成のきっかけとなったのは、「そうするしかない」という切実な理由からだった。常人ならば誰だって、最初から人を殺したり国を倒そうだなんて思いはしない。
結成後は地下組織の一つとして長い長い潜伏期となる。革命の思想を説き、「民の為の理想国家建設」というビジョンを見せ、協力者を集め、情報網と軍隊を形成。
更にスポンサー確保によって資金繰りや物資調達も順調に進み、帝国と戦うに十分な自力を整えつつあった段階に入った頃、帝国に1人の男が現れた。
その男は帝国の表では清廉潔白と法を遵守して内部改革を目指す少数派「良識派」に所属。しかし裏では腐敗派と繋がる『悪徳貴族』であった。しかし類稀なる政治力と行動力、判断力で急速に良識派の勢力の拡大に成功させ、帝国を事実上支配していた腐敗派に対して強烈な打撃を与え始めて、良識派を対等な位置に押し上げていた。
当然彼の存在は帝国政治に強烈な存在感を放ち、そして情報網を形成していた革命軍の耳にも入った。
「彼にも我々の協力を頼んでみよう」、そういった意見が出てくるのはすぐの事だった。この時の革命軍の協力者には既に政治家も取り込み始めており、そこから彼の目的の憶測を可能としていた。
革命軍の志と民の為に精力的に活動している彼が革命軍に協力してくれるならば、革命軍の大きな力になる上、帝国に対しても大きな打撃になり得る。
立場は違えど、志は同じ。ならば我々の事も理解してくれる可能性はかなり高い。そんな期待を持って挑んだ交渉は──
「話にならないな」
「……え?」
そんな一言で、アッサリと両断された。
帝都内に存在する人気飲食店。その一席に座るラスティと革命軍の使者。「彼」は注文した大盛りのステーキ料理を堪能しており、使者の方は「彼」の一言にポカンとしていた。
「話は以上かな? だったらご退席願おうか」
「いや、待って下さい。我々と貴方の目的は同じく民の為、ならば立場が違えど協力する事はけして不可能では無い筈です」
「理屈で言えばそのとおりだ。しかし」
切り分けたステーキの一切れを食す。
「貴方達の言ってる事は楽観論と理想論の極みといっても差し支えない。そんなモノに私の人生のみならず、帝国と民の運命と未来を賭けるなど、論外だ」
「何ですって?」
使者の目が細まり、雰囲気が変わる。しかし「彼」はそんな事を微塵も気にする事なく食事と会話を続ける。
「千年帝国を打倒して民の為の理想国家建設をする事で、諸問題の解決を行う。成る程、確かに文面だけ見れば理想的な考えです。その過程に問題しかないのを考慮しなければ、ですが」
「それはどういう」
再度ステーキの一切れを食す。
「革命軍は複数の異民族にも繋がっている。むしろ寧ろ強力な支援を受け取っているのてしょう。個人間の信用や信頼は確固でしょうが、それが組織間、国家間の信用と信頼には一切繋がらない。自分たちがどれだけ利益を得られるか、そして相手に譲歩させられるかが政治家です。では、異民族が求める利益は何だろうか? 異民族等が革命軍に求める最大限の利益。それは領土。それは利権。それは属国」
「……我々は、革命軍は、異民族の駒にされている、と?」
「異民族の目的は国土奪還、革命軍が建国する新国家の属国化、そして分割。さらに言えば一つでも多くの魔導兵装の確保だろう」
「……確かに」
「私なら千年もの間存続した強国の後継国を、8割以上の領土を残したまま独立させる訳がない。ボロボロになった隙を突いて必ず国家を分割させ、二度と統合出来ないように仕向ける。そして異民族国家達の代理戦争の場にする。そうなれば異民族からしたら、自分達の血は流さずに異民族国家間の問題解決を図れる上、帝国民の『数減らし』が出来て一石二鳥というわけだ」
ラスティの言葉に革命軍の使者は顔をしかめる。
「革命軍は異民族との融和を目指している。しかし異民族は絶対に彼等の手を跳ね除けるだろう。国が変わろうとも、世代が変わろうとも、千年もの間帝国への敵意と殺意が途絶える事はなかった。そんな連中が、今から帝国側からの融和の手を取る? 絶対にあり得ない」
ラスティは強く言う。
「革命軍は現状を甘く見ている。帝国と異民族との確執は千年の時間と戦乱によって昇華しきっている。これは最早唯の国家間紛争に収まっていない。そう見えているのは、双方共に長い間小競り合いを続けているからに過ぎない。何処か一度でも今の均衡が崩れれば大戦争が始まる。」
千年続く戦争だ。どれだけの憎しみがあるか想像できない。そしてそれは負けてきた側が勝ってしまえば、それは虐げてきた者達への報復と民族浄化や虐殺へと移行して多くの人間が死ぬ。
最後のステーキの一切れを食し、ナイフとフォークを置いてコップを手に取り、水を飲んで口内の油を胃へ流し込む。そしてナプキンで口元をきれいに整える。
「私は善良な貴族です。腐敗派の支援を受けて傀儡になりつつも法の整備と執行を担う『善良な貴族』ですが、前提として帝国国民だ。申し訳ないが、帝国そのものを否定する革命軍や異民族とは相容れない」
(今の帝国に3つの国家と同時に殴り合える力は無い。そして時間も大して残されていない。今から果たして間に合うのか? いいや、間に合うかどうかでは無い。間に合わせる。それが私の使命だ)
交渉は決裂した。
当時の帝国は腐敗に塗れ、地域という地域は貧困に喘ぎ、毎年数多くの者達が飢えによって死んで行った。それに対して帝都は地域から重税によって巻き上げた大金と、腐敗によって積み上げた大金によって繁栄を極めていた。それによる不満と我慢は、長い時を経て限界を超えていた。
武器を取らねば、戦わなければ生き残る事が出来ない。生き残るには、帝国と戦わなければならない。
革命軍結成のきっかけとなったのは、「そうするしかない」という切実な理由からだった。常人ならば誰だって、最初から人を殺したり国を倒そうだなんて思いはしない。
結成後は地下組織の一つとして長い長い潜伏期となる。革命の思想を説き、「民の為の理想国家建設」というビジョンを見せ、協力者を集め、情報網と軍隊を形成。
更にスポンサー確保によって資金繰りや物資調達も順調に進み、帝国と戦うに十分な自力を整えつつあった段階に入った頃、帝国に1人の男が現れた。
その男は帝国の表では清廉潔白と法を遵守して内部改革を目指す少数派「良識派」に所属。しかし裏では腐敗派と繋がる『悪徳貴族』であった。しかし類稀なる政治力と行動力、判断力で急速に良識派の勢力の拡大に成功させ、帝国を事実上支配していた腐敗派に対して強烈な打撃を与え始めて、良識派を対等な位置に押し上げていた。
当然彼の存在は帝国政治に強烈な存在感を放ち、そして情報網を形成していた革命軍の耳にも入った。
「彼にも我々の協力を頼んでみよう」、そういった意見が出てくるのはすぐの事だった。この時の革命軍の協力者には既に政治家も取り込み始めており、そこから彼の目的の憶測を可能としていた。
革命軍の志と民の為に精力的に活動している彼が革命軍に協力してくれるならば、革命軍の大きな力になる上、帝国に対しても大きな打撃になり得る。
立場は違えど、志は同じ。ならば我々の事も理解してくれる可能性はかなり高い。そんな期待を持って挑んだ交渉は──
「話にならないな」
「……え?」
そんな一言で、アッサリと両断された。
帝都内に存在する人気飲食店。その一席に座るラスティと革命軍の使者。「彼」は注文した大盛りのステーキ料理を堪能しており、使者の方は「彼」の一言にポカンとしていた。
「話は以上かな? だったらご退席願おうか」
「いや、待って下さい。我々と貴方の目的は同じく民の為、ならば立場が違えど協力する事はけして不可能では無い筈です」
「理屈で言えばそのとおりだ。しかし」
切り分けたステーキの一切れを食す。
「貴方達の言ってる事は楽観論と理想論の極みといっても差し支えない。そんなモノに私の人生のみならず、帝国と民の運命と未来を賭けるなど、論外だ」
「何ですって?」
使者の目が細まり、雰囲気が変わる。しかし「彼」はそんな事を微塵も気にする事なく食事と会話を続ける。
「千年帝国を打倒して民の為の理想国家建設をする事で、諸問題の解決を行う。成る程、確かに文面だけ見れば理想的な考えです。その過程に問題しかないのを考慮しなければ、ですが」
「それはどういう」
再度ステーキの一切れを食す。
「革命軍は複数の異民族にも繋がっている。むしろ寧ろ強力な支援を受け取っているのてしょう。個人間の信用や信頼は確固でしょうが、それが組織間、国家間の信用と信頼には一切繋がらない。自分たちがどれだけ利益を得られるか、そして相手に譲歩させられるかが政治家です。では、異民族が求める利益は何だろうか? 異民族等が革命軍に求める最大限の利益。それは領土。それは利権。それは属国」
「……我々は、革命軍は、異民族の駒にされている、と?」
「異民族の目的は国土奪還、革命軍が建国する新国家の属国化、そして分割。さらに言えば一つでも多くの魔導兵装の確保だろう」
「……確かに」
「私なら千年もの間存続した強国の後継国を、8割以上の領土を残したまま独立させる訳がない。ボロボロになった隙を突いて必ず国家を分割させ、二度と統合出来ないように仕向ける。そして異民族国家達の代理戦争の場にする。そうなれば異民族からしたら、自分達の血は流さずに異民族国家間の問題解決を図れる上、帝国民の『数減らし』が出来て一石二鳥というわけだ」
ラスティの言葉に革命軍の使者は顔をしかめる。
「革命軍は異民族との融和を目指している。しかし異民族は絶対に彼等の手を跳ね除けるだろう。国が変わろうとも、世代が変わろうとも、千年もの間帝国への敵意と殺意が途絶える事はなかった。そんな連中が、今から帝国側からの融和の手を取る? 絶対にあり得ない」
ラスティは強く言う。
「革命軍は現状を甘く見ている。帝国と異民族との確執は千年の時間と戦乱によって昇華しきっている。これは最早唯の国家間紛争に収まっていない。そう見えているのは、双方共に長い間小競り合いを続けているからに過ぎない。何処か一度でも今の均衡が崩れれば大戦争が始まる。」
千年続く戦争だ。どれだけの憎しみがあるか想像できない。そしてそれは負けてきた側が勝ってしまえば、それは虐げてきた者達への報復と民族浄化や虐殺へと移行して多くの人間が死ぬ。
最後のステーキの一切れを食し、ナイフとフォークを置いてコップを手に取り、水を飲んで口内の油を胃へ流し込む。そしてナプキンで口元をきれいに整える。
「私は善良な貴族です。腐敗派の支援を受けて傀儡になりつつも法の整備と執行を担う『善良な貴族』ですが、前提として帝国国民だ。申し訳ないが、帝国そのものを否定する革命軍や異民族とは相容れない」
(今の帝国に3つの国家と同時に殴り合える力は無い。そして時間も大して残されていない。今から果たして間に合うのか? いいや、間に合うかどうかでは無い。間に合わせる。それが私の使命だ)
交渉は決裂した。