10話:インペリアルロイヤルガード
突然だが、ミッドガル帝国は北の異民族、西の異民族、そして南西の異民族、そして東の海に囲われた場所に存在する。
ミッドガル帝国は千年前の建国期に於いて、これらの異民族国家に侵攻。領土を占領する事で絶大な国力を手に入れた。しかしその代償は今現在も帝国を蝕んでおり、異民族国家は国土奪還を狙って度々ミッドガル帝国への侵攻を起こす。
その度にミッドガル帝国は返り討ちにしているが、出兵の度に重なる安くない戦費はミッドガル帝国の国力を少しずつ疲弊させてきているし、何よりも失われる人的資源は何物にも変え難いものだ。
ラスティ大臣はこの現状の改善策、一つの『計画』を打ち出した。
計画名:インペリアルロイヤルガード
シンプルに言えば北、西、南西の国境線から約10キロ離れた全ての交通の要所に強力な要塞線を構築。この要塞線を以って将来的に絶対的な国境線を確立させ、そして戦費の削減と人的資源の喪失を最小限に止める計画だ。更に要塞線には長距離砲撃魔導大弓を設置し、魔導ゴーレム部隊に護衛させる。
異民族が国土奪還を狙う為に国土を狙うならば、ある程度は差し出す。だがそこから先は通しはしない。
これがラスティ大臣良識派が出した、侵攻を諦めない異民族への答えだった。
そもそもミッドガル帝国建国期ならまだしも、千年経った現在では元異民族領土はほぼ完全に帝国に順応しており、帝国式の経済と法律で動いている。そこに今更異民族国家が乗り込んで奪還しても、残された人々は異民族国家に染まり切るには、余りにも長い時間と労力を必要とするだろう。
そしてミッドガル帝国としても、確立させた領土をわざと手放す程あほではない。しかし3つの異民族国家との国境紛争には些か国力の消費が大きい。ならば守る事に全力を挙げ、向こう側を浪費させれば良い。
多額の出費の原因は、異民族の国境紛争のたびに行われる逆侵攻が原因だ。金だけではない、出兵する兵士達を充分に賄う食料、武器などといった物資、そして物資を運ぶ為に用意される輸送部隊、輸送部隊を守る為の護衛部隊、そして護衛部隊を賄う為の物資…こんなものが積み合わさっては無視できない。
だが要塞線が構築出来れば、幾分かはマシになるだろう。要塞線と駐在部隊の維持の為の物資は変わらず必要になるが、戦場が固定されれば輸送部隊の負荷も減少出来る見込みはある。更に要塞線である以上、その防御力は極めて堅牢。それも周辺国家で飛び抜けて高い国力と技術力を未だに保有しているミッドガル帝国が作るとなれば、見合うだけの成果を上げるだろう。
要塞線に守られた帝国軍が、帝国へ侵攻してくる異民族の軍隊を悉く殲滅し、その度に異民族国家の体力は殆ど無意味に削れていく。国家の体力だけではない。戦いに散っていく兵士達人的資源、そして取り残される遺族達。
無論遺族達は死んでいった意味を、戦果を求めるだろう。だが、帝国が作り上げた要塞線は突破させはしない。そうなれば、戦いを重なる度に凄まじい勢いで生み出される遺族達は、やがて国家に怒りや不信感を抱くだろう。そこまで行かずとも、きっかけさえあれば良い。
きっかけさえあれば、ラスティの所有する慈善活動組織アーキバスが動き出せる。
幾ら彼らでも、煙も立たぬ場所に火は付けられない。しかし煙きっかけさえあれば、そこに酸素を送り込み植え付け、火種を作り出せる。後はその火種を育て、国家を包み込む大火に。
これこそが王道。
慈善活動組織アーキバスは、名の通り慈善活動をする組織だ。だからこそ敵味方問わずに援助することが名誉、地位、力、それらを全てを底上げして、巡り巡ってラスティへ還元される。
全てが上手くいくならば。
人道支援をするだけで、大火は国家の全てを燃やし尽くて全てをリセットして都合の良い国家が出来る生まれるかもしれない。
勿論、そこまで上手くいくのは理想論。
本気でそこまでやろうとするならそれ相応の支援と人員、手間と時間が掛かる。それが帝国の成長に繋がるなら兎も角、この話は異民族の内紛の話。そんな事に貴重な帝国の人員と物資を必要以上に浪費させるつもりなど、ラスティには毛頭なかった。
最低でも、異民族国家が無駄な体力を浪費すれば良い。帝国だけに革命軍という火種が燻っているハンデを背負っているなら、向こう側にも同じ状況を作ってやる。
ラスティは確かに民を愛している。それは異民族の血を受け継ぐ者達でも、帝国の民の血を受け継がぬ者達でも同じ事。しかし同時に帝国の愛国者でもある。今は傷付いているが、しかし愛する民達が住まう、愛する帝国に害する存在に容赦は出来ない。故に、容赦無い策を立て、実行する。
しかし計画始動の際、この一連の策の問題は少なくなかった。
要塞線建設の為に必要な資材、人手、資金、時間。そして要塞線維持に必要な軍隊。大きな問題はこれ程にあった。
特に前者の問題は凄まじい。どれだけ楽観的でも10年単位で帝国に重い負荷が掛かり続ける。いや、そもそも要塞線構築前に万が一異民族の侵攻が成功してしまえば、この計画の全てが白紙となってしまう。
そもそも、これ程に大規模な計画は一介の官僚如きに発動出来る物では無い。それこそ大臣クラス、それも良識派が主導しなければならない。
この計画を腐敗派が主導するなど、結末は目に見えている。故に良識派が大臣、もしくはそれに近い地位の座に就き、計画の正式な認可を得る事が最低条件だった。
激しい政治闘争と混乱の末、良識派が辛うじて勝利。計画の骨組みの立案者であるラスティが大臣の座に付き、自らが主導してウォール・イージスは始動した。
今現在では、インペリアルロイヤルガードの進捗は全体の7割は完了している。
完全とは言い難いが、最低限要塞線として機能は可能。
完成している要塞には既に駐在部隊が配備され、建設中の要塞には定期的にアドバイザーとして、数々の戦果を挙げてきた将軍が視察。建設中の要塞の改良点や改善点を現場の視線から見て、より強力な要塞の建設に精力的に協力している。
後数年の時を稼げればウォール・イージスは完遂し、帝国の絶対防衛線は確立する。そうなれば、異民族国家も容易に帝国の国土に手出しはできなくなる。
「問題は……『ロイヤルダークソサエティ』か」
例え完遂したとしても、問題は一つあるのだが。
それは『ロイヤルダークソサエティ』の存在だ。ダイモス細胞と、それを持つダークレイスを研究・解明・運用する非合法組織。
ダイモス細胞を持っている『ダークレイス』を捕まえて、非人道的で非合法の実験を繰り返す倫理観がぶっ壊れた者達。
彼らは世界の混沌を望んでいる。その方が動きやすいからだ。つまりラスティが主導しているインペリアルロイヤルガード計画には良い顔はしていない。そして帝国の腐敗を取り除き、帝国を平和にしようとしている現状を快くは思っていないだろう。
ラスティが大臣まで上り詰めたのは、慈善活動組織アーキバスでの人道支援の結果が見込まれて、徴用されたからだ。本来なら学生である身分で大臣などおかしい。しかしそれがまかり通るのは、それくらい腐敗している証拠でもあるのだ。
(『慈善活動組織アーキバス』は自分たちの非合法活動のカモフラージュに使える……だからこそ傀儡の大臣としての役割を与えられた)
しかしそこで終わるつもりはない。
慈善活動組織アーキバスがいる。
創設初期こそは腐敗派の実力部隊としての特色が強かったが、部隊規模が拡大した今現在では対ダイモス戦力ならびに対ロイヤルダークソサエティ戦力としても機能する。無論、相手は帝国の暗部、それも一個人で軍をも壊滅させる程の威力を持った幹部がいる。その下には戦争孤児や移民を薬と手術で教育したインフェリア・ソルジャーがいる。まともにぶつかっては例え勝利したとしても、ラスティ側の壊滅的被害は免れられないだろう。
だから慈善活動組織アーキバスはまともに戦わない。ロイヤルダークソサエティを消す手段は他にもある。其れらが失敗した時、初めて慈善活動組織アーキバスは真正面に立ち塞がり、総力戦へと移行する。
そうなった際は直接被害、二次被害は共に甚大な物となるだろう。しかしロイヤルダークソサエティは侵略寄生型モンスター『歩く地獄:ダイモス』と、その細胞であるダイモス細胞を研究しているのだ。
消さなければならない。
帝国が平和になる時、ロイヤルダークソサエティとの戦争が始まるだろう。
慈善活動組織アーキバスの事実上の最終目標は、『ロイヤルダークソサエティ』の抹殺だ。
ミッドガル帝国は千年前の建国期に於いて、これらの異民族国家に侵攻。領土を占領する事で絶大な国力を手に入れた。しかしその代償は今現在も帝国を蝕んでおり、異民族国家は国土奪還を狙って度々ミッドガル帝国への侵攻を起こす。
その度にミッドガル帝国は返り討ちにしているが、出兵の度に重なる安くない戦費はミッドガル帝国の国力を少しずつ疲弊させてきているし、何よりも失われる人的資源は何物にも変え難いものだ。
ラスティ大臣はこの現状の改善策、一つの『計画』を打ち出した。
計画名:インペリアルロイヤルガード
シンプルに言えば北、西、南西の国境線から約10キロ離れた全ての交通の要所に強力な要塞線を構築。この要塞線を以って将来的に絶対的な国境線を確立させ、そして戦費の削減と人的資源の喪失を最小限に止める計画だ。更に要塞線には長距離砲撃魔導大弓を設置し、魔導ゴーレム部隊に護衛させる。
異民族が国土奪還を狙う為に国土を狙うならば、ある程度は差し出す。だがそこから先は通しはしない。
これがラスティ大臣良識派が出した、侵攻を諦めない異民族への答えだった。
そもそもミッドガル帝国建国期ならまだしも、千年経った現在では元異民族領土はほぼ完全に帝国に順応しており、帝国式の経済と法律で動いている。そこに今更異民族国家が乗り込んで奪還しても、残された人々は異民族国家に染まり切るには、余りにも長い時間と労力を必要とするだろう。
そしてミッドガル帝国としても、確立させた領土をわざと手放す程あほではない。しかし3つの異民族国家との国境紛争には些か国力の消費が大きい。ならば守る事に全力を挙げ、向こう側を浪費させれば良い。
多額の出費の原因は、異民族の国境紛争のたびに行われる逆侵攻が原因だ。金だけではない、出兵する兵士達を充分に賄う食料、武器などといった物資、そして物資を運ぶ為に用意される輸送部隊、輸送部隊を守る為の護衛部隊、そして護衛部隊を賄う為の物資…こんなものが積み合わさっては無視できない。
だが要塞線が構築出来れば、幾分かはマシになるだろう。要塞線と駐在部隊の維持の為の物資は変わらず必要になるが、戦場が固定されれば輸送部隊の負荷も減少出来る見込みはある。更に要塞線である以上、その防御力は極めて堅牢。それも周辺国家で飛び抜けて高い国力と技術力を未だに保有しているミッドガル帝国が作るとなれば、見合うだけの成果を上げるだろう。
要塞線に守られた帝国軍が、帝国へ侵攻してくる異民族の軍隊を悉く殲滅し、その度に異民族国家の体力は殆ど無意味に削れていく。国家の体力だけではない。戦いに散っていく兵士達人的資源、そして取り残される遺族達。
無論遺族達は死んでいった意味を、戦果を求めるだろう。だが、帝国が作り上げた要塞線は突破させはしない。そうなれば、戦いを重なる度に凄まじい勢いで生み出される遺族達は、やがて国家に怒りや不信感を抱くだろう。そこまで行かずとも、きっかけさえあれば良い。
きっかけさえあれば、ラスティの所有する慈善活動組織アーキバスが動き出せる。
幾ら彼らでも、煙も立たぬ場所に火は付けられない。しかし煙きっかけさえあれば、そこに酸素を送り込み植え付け、火種を作り出せる。後はその火種を育て、国家を包み込む大火に。
これこそが王道。
慈善活動組織アーキバスは、名の通り慈善活動をする組織だ。だからこそ敵味方問わずに援助することが名誉、地位、力、それらを全てを底上げして、巡り巡ってラスティへ還元される。
全てが上手くいくならば。
人道支援をするだけで、大火は国家の全てを燃やし尽くて全てをリセットして都合の良い国家が出来る生まれるかもしれない。
勿論、そこまで上手くいくのは理想論。
本気でそこまでやろうとするならそれ相応の支援と人員、手間と時間が掛かる。それが帝国の成長に繋がるなら兎も角、この話は異民族の内紛の話。そんな事に貴重な帝国の人員と物資を必要以上に浪費させるつもりなど、ラスティには毛頭なかった。
最低でも、異民族国家が無駄な体力を浪費すれば良い。帝国だけに革命軍という火種が燻っているハンデを背負っているなら、向こう側にも同じ状況を作ってやる。
ラスティは確かに民を愛している。それは異民族の血を受け継ぐ者達でも、帝国の民の血を受け継がぬ者達でも同じ事。しかし同時に帝国の愛国者でもある。今は傷付いているが、しかし愛する民達が住まう、愛する帝国に害する存在に容赦は出来ない。故に、容赦無い策を立て、実行する。
しかし計画始動の際、この一連の策の問題は少なくなかった。
要塞線建設の為に必要な資材、人手、資金、時間。そして要塞線維持に必要な軍隊。大きな問題はこれ程にあった。
特に前者の問題は凄まじい。どれだけ楽観的でも10年単位で帝国に重い負荷が掛かり続ける。いや、そもそも要塞線構築前に万が一異民族の侵攻が成功してしまえば、この計画の全てが白紙となってしまう。
そもそも、これ程に大規模な計画は一介の官僚如きに発動出来る物では無い。それこそ大臣クラス、それも良識派が主導しなければならない。
この計画を腐敗派が主導するなど、結末は目に見えている。故に良識派が大臣、もしくはそれに近い地位の座に就き、計画の正式な認可を得る事が最低条件だった。
激しい政治闘争と混乱の末、良識派が辛うじて勝利。計画の骨組みの立案者であるラスティが大臣の座に付き、自らが主導してウォール・イージスは始動した。
今現在では、インペリアルロイヤルガードの進捗は全体の7割は完了している。
完全とは言い難いが、最低限要塞線として機能は可能。
完成している要塞には既に駐在部隊が配備され、建設中の要塞には定期的にアドバイザーとして、数々の戦果を挙げてきた将軍が視察。建設中の要塞の改良点や改善点を現場の視線から見て、より強力な要塞の建設に精力的に協力している。
後数年の時を稼げればウォール・イージスは完遂し、帝国の絶対防衛線は確立する。そうなれば、異民族国家も容易に帝国の国土に手出しはできなくなる。
「問題は……『ロイヤルダークソサエティ』か」
例え完遂したとしても、問題は一つあるのだが。
それは『ロイヤルダークソサエティ』の存在だ。ダイモス細胞と、それを持つダークレイスを研究・解明・運用する非合法組織。
ダイモス細胞を持っている『ダークレイス』を捕まえて、非人道的で非合法の実験を繰り返す倫理観がぶっ壊れた者達。
彼らは世界の混沌を望んでいる。その方が動きやすいからだ。つまりラスティが主導しているインペリアルロイヤルガード計画には良い顔はしていない。そして帝国の腐敗を取り除き、帝国を平和にしようとしている現状を快くは思っていないだろう。
ラスティが大臣まで上り詰めたのは、慈善活動組織アーキバスでの人道支援の結果が見込まれて、徴用されたからだ。本来なら学生である身分で大臣などおかしい。しかしそれがまかり通るのは、それくらい腐敗している証拠でもあるのだ。
(『慈善活動組織アーキバス』は自分たちの非合法活動のカモフラージュに使える……だからこそ傀儡の大臣としての役割を与えられた)
しかしそこで終わるつもりはない。
慈善活動組織アーキバスがいる。
創設初期こそは腐敗派の実力部隊としての特色が強かったが、部隊規模が拡大した今現在では対ダイモス戦力ならびに対ロイヤルダークソサエティ戦力としても機能する。無論、相手は帝国の暗部、それも一個人で軍をも壊滅させる程の威力を持った幹部がいる。その下には戦争孤児や移民を薬と手術で教育したインフェリア・ソルジャーがいる。まともにぶつかっては例え勝利したとしても、ラスティ側の壊滅的被害は免れられないだろう。
だから慈善活動組織アーキバスはまともに戦わない。ロイヤルダークソサエティを消す手段は他にもある。其れらが失敗した時、初めて慈善活動組織アーキバスは真正面に立ち塞がり、総力戦へと移行する。
そうなった際は直接被害、二次被害は共に甚大な物となるだろう。しかしロイヤルダークソサエティは侵略寄生型モンスター『歩く地獄:ダイモス』と、その細胞であるダイモス細胞を研究しているのだ。
消さなければならない。
帝国が平和になる時、ロイヤルダークソサエティとの戦争が始まるだろう。
慈善活動組織アーキバスの事実上の最終目標は、『ロイヤルダークソサエティ』の抹殺だ。